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糖尿病3分間ラーニング
ベトナムの糖尿病事情

3. 糖尿病専門医に聞いたベトナムの
糖尿病をめぐる現状と対策

レポーター:Dang Thi Kim Anh さん
GHPトレーディング社(ベトナム)の代表
2007年09月

 今回は国立内分泌内科病院の副病院長のHoang Kim Uoc先生(PhD)にインタビューをお願いしました。また先生はベトナム糖尿病教育者協会(Vietnam Association of Diabetes Educators :VADE)の書記長(General Secretary)としても活躍されています。


Hoang Kim Uoc 先生

質問1 ベトナムの糖尿病の状況をどのようにお考えですか

Uoc先生 私は、ベトナムでの糖尿病が非常に速く増加していると確信しています。この増加傾向は国中にみられます。そして、私たちの報告した研究にもはっきり現れています。

質問2 国による最近の糖尿病に関する調査・研究について教えてください

Uoc先生 このような調査・研究はとても費用がかかるので、5年ごとに全国的な調査を行なう計画で、最初の調査は2002年に行ないました。計画では第2回目の調査2007年でしたが、残念ながらそのための予算を確保できず、まだ未決定の状態です。

質問3 何が糖尿病の増加を引き起こしているとお考えですか

Uoc先生 糖尿病の増加には多くの理由が考えられますが、次の2つも主な理由といえるでしょう。まず、人々の食習慣およびライフスタイルが急速に変化し、ファースト・フードを好み、ビールやアルコールをたくさん消費するようになったことです。

 そしてもう1つ、私たちの糖尿病に対する意識の調査・研究によると、多くの人が糖尿病を知らないことです。特に都市部の貧しいコミュニティーでは参加者の約70%が糖尿病の原因を知りませんでした。当然、糖尿病から身を守る方法も解りません。私は糖尿病に関する正確な知識をもっている人は、患者さんの約10〜20%ではないかと思います。

質問4 地方では、人々はとても勤勉に働きますし、とても貧しい人もいます、しかし、糖尿病有病率はあまり低くありません。この問題についてどう思われますか

Uoc先生 これはベトナムだけでなく世界中で多く見られる問題です。たとえば、アメリカ先住民とオーストラリア先住民の約40%の人が糖尿病ですが、一方、同地域白色人種の人の糖尿病有病率はわずか約7〜8%です。

 これは「節約遺伝子」と呼ばれる理論によって説明されています。貧困に暮らす人々、未開地域に暮らす人々は、胎児の時期から栄養不良の問題に直面します。そして、多くの世代を経た後に自己順応の結果として「節約遺伝子」が形成されるというものです。この遺伝子は、その人々が少ない食糧の供給と欠乏という困難な生活環境で生き続ける間は、それを助けながら長い年月にわたって存続します。

 しかし、ある時、その人々の生活が楽になり、食物も得やすくなる、この状況変化は一般的にとても速い変化として起こります。そこで、かれらの身体は逆転した環境で新たな問題「過剰な栄養負荷」に直面し、それによる障害を引き起こします。重いケースは糖尿病発症につながります。

 貧しさを伴うと多くの人が健康に良い食物を選択することができず、たとえば、ごはんに動物性脂肪を加えただけで食べるようなことも起こります。実際、ベトナムでも貧しい患者さんのなかに、血液中の脂質異常がたくさんみられます。

質問5 今後のベトナムの糖尿病をどのように予測されますか


インタビューに答えるUoc先生(右側)

Uoc先生 WHOは、2025年の途上国の糖尿病について、全般的予測を発表しました。途上国で、糖尿病患者の数は42%増加するでしょう。また、突出したケースでは170%増加するというものです。ベトナムも例外ではありません。

質問6 糖尿病治療上の困難な問題はなんですか

Uoc先生 ベトナムでは、医師は異なるレベル(国立と地方)で、それぞれ異なる困難に直面しています。

 地方レベルでの第1の困難は機器や設備が足りないことでしょう。十分な設備がなく簡単な血糖検査しかできず、コレステロール検査、HbA1cなどより高度な検査ができないということもあります。

 第2の困難は支払能力です。地方の患者のほとんどは貧しく、健康保険に入っている人はわずかです。彼らは、医師の処方した薬すら買うことができません。多くの人々が薬効の低い安い薬で済ませてしまいます。

 第3の困難は患者の糖尿病の知識が不足していることです。地方の患者のほとんどは糖尿病について何も知りません。血糖測定器のような在宅機器があることも知りません。

 彼らは検査のために定期的にヘルスケアセンターに通うことはできません、せいぜい月に1度、あるいは数か月に1度です。そのことがモニタリングを難しくします。

 第4の困難は、地方の医師の多くが、糖尿病について正しい知識や治療方法を習得していないことです。

 現在、内分泌医を養成する内分泌学科を持っているのは、ホーチミン市の国立医科薬科大学(National University of Medicine and Pharmacy)のだけで、大学院課程はまだありません。全国的に地方病院での内分泌専門医の不足は大きな問題です。

 また、地方では患者の収容力が不足しており、とかく地方の患者は中央の病院(ハノイとホーチミン市)に集中し、診療能力オーバーという新たな問題を引き起こします。これは医師の治療の質に大きく影響します。

 ベトナム北部の国立中央病院であるBach Mai病院の内分泌科では、しばしば、1つのベッドに3人の患者を寝かせるほど多くの患者を受け入れなければなりません。患者さん達は国立病院のこのような状況が改善されることを待ち望んでいます。


国立内分泌内科病院の待合室で診察を待っている患者さん

質問7 患者さんに共通する困難な問題とは何でしょうか?

Uoc先生 第1の困難のは、ほとんどの患者さんにとってお金の問題です。患者さん個人の所得ではなかなか治療費をカバーすることはできません。退職した老人や低所得の農民にとって特に深刻です。保険契約をしている人でも、交通費や入院費用の全てを賄うことはできません。

 第2の問題は、多くの人々がヘルスケアサービスを受けにくい状態にあることです。特に、遠隔地や過疎地に住んでいる人には特に難しい状態です。

 たとえば、北部の山岳部にいる患者は、糖尿病の深刻な合併症があって診察を受けるために、ハノイの中央病院まで自動車で2日か3日かかることもあります。

 遠隔による通院の困難は定期的な診察が中断することに直結します。そして、患者さんにとってお金のことも大きい問題です。このようなケースの患者さんもほとんどは治療費を払うことができません。

質問8 糖尿病の予防はとても重要です。専門家や関係機関がどのように活動しているかを教えてください

Uoc先生 糖尿病の予防は社会全体が関わる「長期に及ぶ戦い」です。成功を勝ち得るために、次の目標を掲げています。

1. 新規発症率の低下

 新規発症率を減少させるためにし、正しい情報の普及と自覚を促す教育を促進させます。まず、教育の場で、健康的な生活習慣、健康的な食品、運動などに注目を向ける教育を推進します。

 糖尿病の発症率を減少させるキャンペーンを有効なものにするために、さらに多くの部門の力を結集する必要があります。例えば、ファーストフードの利用を減らしたいと望むのであれば、その情報の普及を図るとともに、こうした食品に高い関税をかけるなどの関税部門の行動も必要となるでしょう。

2. 合併症の発症率の低下

 糖尿病の患者さん自身でケアできるように教育し、医師の糖尿病の知識と治療の向上を図ります。私は後で述べるベトナム糖尿病教育者協会を通じてこの活動を進めています。

3. 医療費の支払いや、通院のしやすさについて改善

 医療費を肩代わりする社会保険の検討が、患者を支援するための良い解決法と考えられます。もちろんこれは社会保険省の関与を必要とします。

 ヘルスケアサービスの利用しやすさを高めるために、ヘルスケアサービスやヘルスケアセンターなどより多くの資源や設備を省、自治体ごとに投入し、医療サービス、社会の医療センターを整備し、患者が長距離移動をしなくても済むように省レベルでの通院のしやすさを改善します。

 今年、私たちは、地域毎の糖尿病教育や情報を普及するために、厚生省(Ministry of Health)と自治省( Ministry of Home Affairs)の認可を受けベトナム糖尿病教育者協会(Vietnam Association of Diabetes Educators :VADE)を設立し国中で活動をはじめました。我々はまず次の1、2を行っていきます。

1. 糖尿病患者を教育し自分でケアできるようにすることです

すなわち、食事の管理、正しい運動、悪い習慣を止めること、喫煙や多量の飲酒を控えることを教えます。

2. 医師の知識や能力を向上を図り、この病気についてよりよく理解し、脂質異常、蛋白尿など、包括的な知識をもたせることです

医師らがベトナムの糖尿病患者の健康状態を診断し、合併症を予知し、適時に適切な治療を行えるようにします。

 私たちは短期のトレーニングコースを通して、この目標を達成できるよう努力しています。公式ガイドラインをつくり、省レベルで医師のための訓練を計画中です。

 我々は地区と自治体のレベルではまだ深く関わってはいませんが、私たちは省レベルの対策を完全なものとすることが、更に下位レベルに拡大することを早め、より達成しやすくするだろうと考えています。

質問9 この「長期に及ぶ戦い」のために、もし、国や国際組織などから支援を得られることがあるとすれば、最も期待することは何ですか?

Uoc先生 長年の糖尿病患者診療を通じ、また、ベトナム糖尿病教育者協会書記長(General Secretary)の立場にある医師として、地域社会と患者さんに糖尿病について正しい情報を普及し教育することがとても重要であると感じています。

 これらの活動ためにいろいろな支援を必要としています。

 まず第1に、私は政府機関や組織のリーダーが糖尿病に関心をもち、配下の職員が糖尿病が引き起こす危険について学び、糖尿病は感染しないなど正しい知識をもつことを奨励してくれることです。そして、我々の教育担当者が機関や組織で活動できるよう支援をしていただきたいです。

 第2に、私たちボランティアの教育者が情報機器と仕事に必要な機器を整えるために支援を望むように、カウンセリングセンターへの同様の支援を望んでいます。

 特に必要なのは指導用マニュアル作成費です。それから血糖測定器、血圧計、腱反射試験のためのハンマーなどの基本的な機器、そして、網膜症などを検診するための機器などが必要です。

 また、糖尿病の情報の普及させるために、画像や動画を利用できるコンピューターやビデオプレーヤなどの視聴覚器材なども、われわれの仕事の成果を大いに増大させるでしょう。

「ベトナムの糖尿病事情」もくじ


ベトナムの糖尿病事情を10回シリーズでお届けいたします。


コーディネーター: Dang Thi Kim Anhさん(写真中央)。
GHPトレーディング社(ベトナム)の代表。スタッフに囲まれて。

  1. ベトナムの糖尿病をめぐる現状
  2. 飲食習慣が劇的に変化した20年 糖尿病も増加
  3. 糖尿病専門医に聞いたベトナムの
    糖尿病をめぐる現状と対策
  4. ベトナムの1型糖尿病患者さん
  5. ベトナムで増加する肥満・糖尿病
  6. ダナン病院の2型糖尿病の患者さん
  7. ベトナムのヘルスケアシステムと糖尿病
  8. 糖尿病患者さんをサポートする体制
  9. インスリンを使用する2型糖尿病の患者さん
  10. ベトナムの糖尿病、この1年を振り返る

国際糖尿病支援基金「わが友、糖尿病」

世界各国の糖尿病療養に携わる医療スタッフや患者さんとの交流録。
世界のさまざまな場所を旅した国際糖尿病支援基金・森田繰織会長のブログです。

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2012年4月からヘモグロビンA1c(HbA1c)は以前の「JDS値」に0.4を足した
「NGSP値」で表わされるようになりました。過去の記事はこの変更に未対応の部分があります。

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