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ベトナムの糖尿病事情

7. ベトナムのヘルスケアシステムと糖尿病

レポーター:Nguyan Lam Hong さん
2006年にハノイ医科大学卒業。研修医。
GHPトレーディング社のメンバー
2008年02月

ベトナムのヘルスケアシステム

 ベトナムのヘルスケアシステムは、国(中央)、省、地区、地域共同体(小規模な自治体で町内会、村なども)の4つの段階に分けられます。そして、地域共同体および地区レベルの施設が、健康上の問題を速やかに見出し最初の対応する、ヘルスケアサービスの要の役割を担っています。

図1 国立中央内分泌病院の待合室

地域共同体のヘルスケアセンターの役割と現状

 国のヘルスケアシステムの中で、地域共同体のヘルスケアセンターは精通した常用の薬剤や技術で対応するプライマリーの施設です。ここの属するヘルスケア従事者がエリアの村々を担当しヘルスケア・サービスをしています。

 現在、1万732の地域共同体のうち1万339の共同体でヘルスケアセンターが利用可能です。しかし、このうち7,976の共同体のヘルスケアセンターがサービス改善のための資金を必要としており、なかでも、1,183のヘルスケアセンターは問題を抱えた状態です。その中で393の共同体はヘルスケア施設を持っておらず、あとの790の共同体は仮の施設でヘルスヘアサービスを行っています。(from the Health care Report of first half 2007 - Ministry of Health(MoH) 16/08/2007による)

 人的な面での問題は、不適切な人数が不適切に配置されていることであり、そのうえ地域共同体施設のヘルスケア従事者に対するトレーニングや再トレーニングが不足していることです。地域共同体施設のヘルスケア従事者の多くは卒業後、長年働いていますが再トレーニングは全く受けていません。学校時代に得た知識は忘れさられ、新しい知識も得られないままです。そのため地域共同体施設のヘルスケアサービスの質低下も見られます。

 ベトナム厚生省の調査によると、行政の基準に適合する地域共同体のヘルスケア施設は全体の9.8%だけです。予算不足のため、使用可能な設備が整っているものは、全体の3分の2だけです。

 また別のベトナムの生活水準に関する研究では、病気になったときに国のヘルスケア・サービスに行くのは総人口の15%のみであることがわかりました。 さらにベトナム厚生省によれば、基準適合の地域共同体施設であっても、疾病構造変化や人々の要求増加に対し、ヘルスケアサービスの対応は遅れていると言えます(ライフおよび健康タイムズ8/2007による)。

地区ヘルスケアセンターの役割と現状

 地区ヘルスケアセンターは、患者に専門治療を行うプライマリーの施設で、地域共同体のヘルスケア施設を直接支援し、一方、研究に集中し高度な専門的なヘルスケア技術を開発する省・中央のヘルスケアセンターの負担を減らしています。

図2 Trung Tu 入院型ヘルスケアセンター、Dong Da地区(ハノイ)

 国家公務員対象の調査(30回目、1999年6月)が、全国の600の地区(地区、地方都市および州の都市)5万8,936人を対象として行われ、対象地区のすべて(100%)にヘルスケアセンターがあり、従事する医師は20%、薬剤師は1%以上が大卒でした(医療政策マガジンより)。これは、地区のヘルスケアセンターの医療従事者の約5分の1しか大卒者レベルの知識を持たないことを意味します。

 このように地区で働くドクターや大卒薬剤師の数がまだ非常に少ないのは明らかです。彼らの資格は十分に生かされているとは言い難く、人員配置も適切とはいえません。このように現状のヘルスケア・サービスには限界もあります。

省、中央のヘルスケアサービスの役割と現状

図3 ベトナムの国立内分泌センター7施設の所在地

 省の、特に中央の大病院には高い資格の持つ医療従事者が多くいます。糖尿病の予防と治療の面からみても、内分泌学の教授、準教授や研究員、糖尿病専門医も多くいます。

 ベトナムの糖尿病治療および予防ネットワークは、通常大きな病院間で構築されています。例えば、中央内分泌病院、Bach Mai病院の内分泌糖尿病科、Thanh Hoa内分泌病院、Nghe An 内分泌センター、ダナン病院内分泌科、ホーチミンの内分泌センターなどです。

図4 Da Nang病院(省の基幹病院)

 現在、内分泌糖尿病センターのネットワークはまだとてもに弱く、内分泌疾患の入院病棟は大都市の大病院のみで利用可能です。山岳地域の省にはまだ内分泌糖尿病の入院病棟はありません。

 国立中央内分泌病院を除き、7つの国立内分泌センター(Lao Cai、Yen Bai、Son La、Hoa Binh、Thanh Hoa、Nghe An、Quang Ngai)があり、その他19 の内分泌病棟が予防医学センターにあり、17の内分泌入院病棟が省の病院にあります。

糖尿病患者さんに見られる深刻な問題

 まず、ベトナムでは初診のときに既に合併症で苦しんでいる糖尿病患者さんの割合が非常に高いことです。合併症のほとんどが最小血管症、末梢神経、足などに関係しています。患者が合併症を持つと治療コストはより高く、治療期間もより長くなり、その一方で回復能力は低下します。

 ドクターは患者さんを速く回復させるための挑戦をしていますが、多くの患者さんは治療を通じて幾多の困難に直面します。なぜなら、糖尿病の治療は結局長期に亘るかあるいは人生のプロセスそのものになってしまい、中途で治療の余裕も失われるケースが多くあります。このことが理由かもしれませんが、

  1. 治療を受けない。
  2. 実際に症状が悪化した場合だけ治療する。
  3. ちょっと良くなったと感じたら治療を途中で中断してしまう。

 というような選択をする患者さんが多く見られます。

 また、糖尿病に関する患者さんたちの意識があまり低く、もう最終段階というときにやっと医学的チェックを受けにくることも多いのです。

 このように患者さん側の問題も、中央の大病院での糖尿病治療すらも困難にする大きな原因になっています。

 内分泌学の専門医と専門の治療施設が少ないゆえの問題もあります。糖尿病治療の専門ヘルスケア・センターから遠い遠隔地の人々の多くは、高額な医療とサービスそして旅費や宿泊費に余裕がないので、なかなか乗り気になれません。

 ベトナム厚生省の統計によると、遠隔地や山岳地方でヘルスケア・サービスを受けない病人の数は、平野部に比べ約4、5倍高いのです。重い病気を患い、より高いレベルの治療を受ける必要があっても、お金がないのでそれが可能な病院に行かないというケースが典型的な例です。

新人医師は都市での滞在を希望(地方医療の抱える問題)

 推定ではありますが、何百人もの大学卒のドクターが都市部に残り、病院での医療補助、ボランティア、外資系の会社勤めなどをしているようです。

 農村地域で働きたくない理由は、ファミリーからはるか遠く離れて生活したくないということや、都市から地方の町へ籍、住所を移動させたくないことが挙げられます。

 彼らは、地方の施設の設備や医療などが十分でなく、大学で達成した知識と技術を生かせないことを恐れています。そして、自立した生活ができそうにない安い給料、研究を続けるチャンスがないことなども関係しているでしょう。

 この事実に対処するために、行政の担当部門は、一方では、より熟練したドクターを地方のヘルスケア施設に引きつけ働いてもらうために、高給、年金、責任年金、社会保険などより多くの刺激的な政策を打ちだしています。また他方ではヘルスケア・サービスの質を改善するために地方の医療従事者の再トレーニングを推進しています。

糖尿病および代謝異常の予防のための戦略研究所を設立

 ベトナムは、まだ糖尿病治療だけでなく、糖尿病予防の国家戦略の推進、そして科学・技術の研究・応用などに多くの課題があります。このような状況に対処するために、ベトナム厚生省は「糖尿病および代謝異常予防の戦略研究所」を設立しました。

 この研究所の最も重要で戦略的な役割は、医学校、単科大学、総合大学を組み合わせ、よいドクターと内分泌・糖尿病の専門家が地方の施設で働けるようにトレーニングすることです。

中央内分泌病院の内分泌糖尿病教育プロジェクト

 地方の隅々まで糖尿病治療のためのヘルスケア・ネットワークを広めるひとつの方法として、毎年、国立中央内分泌病院では、医師、専門技術者、地方の看護師のトレーニング・能力改善研修を受け入れます。

 2001年には同病院が、ハノイ医学校の協力を得て、地方のドクター40人の参加者に一般内分泌学の3カ月のクラスを開きました。

 2002年には同病院は、神経学の2つのクラス、内分泌学および上級内分泌学の2クラス、心臓病、そして同じ参加者のために甲状腺腫および糖尿病予防に関する20項目のトレーニングが、61カ所の地方からきたヘルスケア従事者の参加に対して行われました。

 2003年には、同病院がアメリカ治療回復協会 American Treat and Convalesce Associationの協力のもとに、院内35名の看護婦の参加によって糖尿病患者の自覚を高めるクラスが開かれ、実技講習はアメリカの専門家によって行われました。(the Endocrine and Metabolic Disorder - training news - The central Endocrine Hospitalによる)

ベトナム内分泌糖尿病協会の全国セミナー

 また、ベトナム内分泌糖尿病協会により開催された全国セミナーでは、ベトナムのドクターと外国のドクターや専門家による、糖尿病の診断および治療のための知識と体験の交流会を行いました。このようなセミナーから、ベトナムのドクターおよび専門家は、他の国々の持つ糖尿病治療に関するより多くの情報、診断方法、新薬および新しい機器にアクセスすることができます。

 ベトナムの政府はこのような現状を改善、好転させるために活動を続けており、世界保健機関(WHO)、国際糖尿病連合(IDF)、他の多くの国々の糖尿病に関する団体など、国際的な組織からの支援も受けています。

国が力を入れる農村地域のヘルスケアサービス改善

 ベトナムは67%以上が農村地域という農業国です。したがって、地域共同体のヘルスケアセンターやクリニックの利用者の多くは農民です。

 今日では、貧しい人々にも彼らの支払い能力に見合った低廉なコストのシンプルなヘルスケア・サービスも受けられるようになりました。

 農村地域の地域共同体のヘルスケアセンターやクリニック開発への投資は、貧しいエリアの貧しい人々のために投資を意味し、貧困の排除・ヘルスケア・サービスの平等性へ寄与し、そして社会安定化にも寄与するでしょう。

 2010年までの計画として、厚生省は、クリニックがないあるいは酷く評判を落としてしまった地域共同体施設に対し、より多くの医療施設、設備を作り、医療従事者のためのトレーニングを行う予定です。

 2006年末に、総人口のほぼ80%の人の身近にある地域共同体のクリニックに45,995ベッド、全国の地区クリニックおよび病院に96,700ベッドありました。

 毎年、ヘルスケア・サービスの75〜80%は、国のヘルスケアシステムによって提供されています。予防接種、危険な病気の予防および他の多くの医療サービスは他の事業によって提供されています。
 地方のヘルスケアシステムの発展にともない、糖尿病予防治療ネットワークも国の隅々まで広がり発展するでしょう。(the health care activity report for the first half of 2007 - MoH August, 16th 2007 - Seminar for implementation of Decision No. 950/QD-TTG on clinic investment phase 2008-2010より)

 以上、ベトナム・ヘルスケア・サービスと糖尿病予防治療の一端を紹介しました。とても速い経済発展に伴う疾病構造変化の象徴でもある糖尿病の激しい増加に対して、国をはじめ様々な取り組みが始まっています。

 人々の健康を改善するという目標を完結するために、世界の糖尿病団体の支援も十分に生かし、ベトナムのヘルスケア関係者はさらにより多くの努力を傾け、アドバンテージを掴まなければなりません。

「ベトナムの糖尿病事情」もくじ


ベトナムの糖尿病事情を10回シリーズでお届けいたします。


コーディネーター: Dang Thi Kim Anhさん(写真中央)。
GHPトレーディング社(ベトナム)の代表。スタッフに囲まれて。

  1. ベトナムの糖尿病をめぐる現状
  2. 飲食習慣が劇的に変化した20年 糖尿病も増加
  3. 糖尿病専門医に聞いたベトナムの
    糖尿病をめぐる現状と対策
  4. ベトナムの1型糖尿病患者さん
  5. ベトナムで増加する肥満・糖尿病
  6. ダナン病院の2型糖尿病の患者さん
  7. ベトナムのヘルスケアシステムと糖尿病
  8. 糖尿病患者さんをサポートする体制
  9. インスリンを使用する2型糖尿病の患者さん
  10. ベトナムの糖尿病、この1年を振り返る

国際糖尿病支援基金「わが友、糖尿病」

世界各国の糖尿病療養に携わる医療スタッフや患者さんとの交流録。
世界のさまざまな場所を旅した国際糖尿病支援基金・森田繰織会長のブログです。

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2012年4月からヘモグロビンA1c(HbA1c)は以前の「JDS値」に0.4を足した
「NGSP値」で表わされるようになりました。過去の記事はこの変更に未対応の部分があります。

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