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糖尿病3分間ラーニング
ベトナムの糖尿病事情

8. 糖尿病患者さんをサポートする体制

レポーター:Nguyan Lam Hong さん
2006年にハノイ医科大学卒業。研修医。
GHPトレーディング社のメンバー
2008年03月

 糖尿病には網膜症、腎症、神経障害、動脈硬化性疾患など重大な合併症が多く、糖尿病の高度な治療管理が生涯にわたって必要になることも少なくありません。そのため、検査・診断、治療にかかる治療費の支払いは常に糖尿病患者の大きな関心事です。

 ベトナムでは糖尿病患者の増加を受けて、糖尿病患者を救済する国の政策も動き出していますが、急激な経済成長にともない都市部ではもう既に糖尿病がごくありふれた病気になり、農村地域でも糖尿病の人が急速に増えている実情に対応できてはいません。

図1 ベトナムの糖尿病治療費支払いの実情

ベトナムでは多くの人が糖尿病の医療費を支払うことができません

 そして、治療費の支払いに関する多くの問題が表面化しています。

 特に農村地域では発見の遅れから糖尿病合併症による高額治療費が発生しやすく、そのうえ多くの場合、都市部にある高度治療病院に通院・入院のための宿泊費や交通費が加わります。そして、多くの人が治療代を支払えないという大きな問題が生じています。

 ベトナムでは糖尿病の人が加入できる民間の保険は皆無といってよく、ほとんどの患者さんは医療費を補填する国の健康保険と特定医療についての医療費減額政策だけに支えられているのが実情です。

国の健康保険

 ベトナムの糖尿病患者さんは基本的に国の健康保険でサポートされており、財源は国家予算、病院の予算、健康保険の基金です。そして現在のところ、国家予算だけでは十分なヘルスケアサービスはできません。その結果、健康保険基金や病院予算にもくい込んでいます。

 国の健康保険は保険料が1人あたり13万ドン(790円*)/年と低く設定されているにもかかわらず、実際には多くの糖尿病患者さんが健康保険に加入していません。

 1993年には、健康保険証保持者は人口の約5.8%で、2002年には強制保険と任意保険を合わせて16%に達しました(国の医療調査2001-2002)。しかし、その後の増加は鈍化しています。

 その理由として、人々に健康保険に加入するだけの経済的余裕がないこと、今健康だから健康保険は必要ないだろういう意識の人が多いことがまず考えられます。

 また、入退出時の事務手続きなどにとても時間がかかることもあります。

 ベトナムでは患者さんは治療を受けるときには、まず必要と予想される自己負担分(医療費の2割)の料金を会計口座に支払い、退院時に清算します。

 利用料金がデポジット金額より少なければ、お釣りが戻ってきます。逆に多ければ、追加で支払うことになります。

 それから、健康保険適用の場合、医療内容が基本レベルに限定されること、サービス低下が目立つことなども理由の一端と考えられます。

* 1円=164ドン(2008年3月現在)

貧しい人々のためのヘルスケア基金制度

 2002年10月15日の総理大臣令139号で、貧しい人々が無料で医療が受けられるためのヘルスケア基金制度が公布されました。貧しい人の治療費支払いをこのヘルスケア基金が肩代わりするものです。

 この基金は省などの自治体毎に設置され、貧困層人口1人あたり7万ドン(427円)/年が自治体(省など)予算に組まれます。基準以下の貧しい人々は1人あたり5万ドン(305円)をこの基金に支払うことで1年間無料で医療を受けることができます。

 この基金を充実させるためいろいろなメディアを通じて数多くのキャンペーンが行われています。

 以上述べたように、糖尿病の患者さんの多くについて最初のサポートは健康保険などを通じ国が行っているのは紛れもない事実です。糖尿病は長期にわたる治療を必要とし、その他の生活面についても、国の健康保険は患者さんの治療費を減らすことに重要な役割を果たしています。

 しかし、現実には糖尿病はじめ慢性疾患に罹ると長期の継続治療・管理が必要になること、その場合健康保険の役割が欠かせないことを多くの人が理解していません。

国の医療費の無料・減額制度

以下5つに該当する場合に医療が無料になります。

  • 6歳未満の子ども
  • 精神障害者、精神病、ハンセン病、結核のひと
  • 特に危険とされる伝染病罹患者
  • 災害の罹災者
  • 深刻な身体障害で働けないひと、両親を亡くした子ども、子どものいない高齢者

以下2つに該当すると医療費の減額があります。

  • 6歳から16歳までの子どもが、深刻な病気で高度医療を受け、家族が医療費の全額を支払えないとき
  • 深刻な病気を持つ人が高度医療を受け、貧しい人のためのヘルスケア基金からサポートを受けても、なお危機的な生活状態に十分でないとされたとき

写真 中央内分泌病院で保険適用の薬配布を待つ被保険者の人々

国が1998年に公布した健康保険の規定によると、
治療費の80%が保険者によってカバーされ、
残りの20%を患者が支払う
(優遇政策や年金などの社会保障を受けている人を除く)

民間の様々な支援活動

国際組織や支援団体による活動

 ベトナムの糖尿病患者は、多数の外国の支援団体による医療費や医薬品の支援を受けています。また、糖尿病に関する国際的な会議での外国専門家による講演は、最新情報が糖尿病治療などに生かされるだけでなく、ベトナムでの長期的な糖尿病の管理・予防戦略立案にも大いに役だっています。

 たとえば、世界保健機関(WHO)は米国糖尿病協会(ADA)、世界糖尿病基金などとともに、国際的に糖尿病をコントロールするプログラムを2001 年に開始しました。これは、世界の各地域に於いて糖尿病への意識を高め、診断と治療のレベルを向上させようとするものです。ここでは、ベトナムについて、糖尿病患者増加の経済的な面ばかりでなく、糖尿病患者の生活の質を上げる目標においても懸念が表明されています。

糖尿病関連企業による活動

 ベトナム企業による糖尿病患者の支援はまだ多いとはいえませんが、企業の戦略的事業キャンペーンの一環としてしばしば行われるようになりました。

 昨今、ベトナムでは企業統合が進み、広告成果が企業活動に与える影響はとても大きく、企業活動としてPR活動は一般的なものになっています。

 医薬品、医療関連食品、医療機器など糖尿病に係わる企業による糖尿病に支援活動も目立つようになっています。  たとえば、糖尿病関係企業は入院型糖尿病病院、糖尿病関連の団体・研究会などと共同でしばしばセミナーを開催しています。

 専門家セミナーには主役の講演者として専門家を招かれ、同時に患者さん自身や関係者がヘルスケアを習得するのを助ける書籍、小冊子、ガイドブックなどの特別セールやキャンペーンなどが行われます。

最近行われたいくつかの企業活動から

  • ロシュ社(スイス)は、2007年11月14日の「世界糖尿病デイ」に、Cho Ray病院とGia Dinh人民病院と共同で糖尿病早期発見のキャンペーンを行い、無料の血糖測定と40歳以上の方を対象に無料健康相談を行いました。
  • ベトナム栄養協会(VINUTAS,2005年6月設立)とDutch Lady社(オランダ)が、医療専門職、栄養士のための栄養と肥満にかんするセミナーを開催し、具体的で有益な情報の提供と参加者を交え栄養と肥満について患者がなにを知りたいかなどの討論が行われました。
  • ベトナム内分泌・糖尿病協会とアボット社(米国)は2007年8月9日に「糖尿病治療に向けた新しい栄養学」と題する会議を開催しました。アボット社はベトナム代表事務所を設立して以来、栄養問題についての意識を高める数多くの会議を開催し、新しい正しい知識を普及することで社会全体のヘルスヘアを改善し、長期にわたりベトナムの発展に寄与したいとしています。

 この他にも糖尿病関連の企業による多くのプログラムが展開されています。しかし、糖尿病に関する全国規模のものはまだなく、主にハノイやホーチミン市のような大都市で行われます。そして、これらの都市でも、これらの催しは一般の人やヘルスケアに従事する人たちに広く知られてはいません。

ベトナム糖尿病教育協会の活動

 2007年5月6日に糖尿病教育協会が設立されましたが、これも糖尿病患者にとって喜ばしい出来事です。この協会は、糖尿病患者が必要な知識を糖尿病を自己管理できるように、糖尿病に関する最新情報を網羅し、一貫した治療・管理を行うためのマニュアルを作製中です。

 また、この協会は、患者さんのニーズを理解し、最良のサポートを行うよう心がけながら、患者、病院、内分泌センター、ベトナム内分泌糖尿病協会、その他の関係団体間の橋渡しをする役割も果たしています。

 同協会は今「糖尿病患者が人生で失ったものへの思い」という作文コンテストを行っていますが、糖尿病患者が直面する厳しさや喪失感を通じて、糖尿病が恐ろしい病気であることを一般の多くの人々に理解していただく上でとても有益だと思います。

インターネットによる糖尿病情報

 昨今、患者さんやその他糖尿病に興味のある人たちは、インターネットを通じ糖尿病に関する豊富な情報にアクセスできます。代表的なサイトに

 などがあり、糖尿病のことや糖尿病がどうして怖い病気なのかなどを知ることができます、そして、この人達は糖尿病の患者さんのことを正しく理解し、自分は糖尿病にならない注意をするようになるでしょう。

 現在、糖尿病の患者さんの多くはインターネットを利用していませんが、経済成長が更に進めば、より多くの人が利用するようになるでしょう。インターネットによって得られる情報は糖尿病の患者さんにとって特に利用価値が高いと思います。

 2007年11月に国連決議による初の世界糖尿病デイが行われ、糖尿病への全世界的な取り組みが進められています。その中で発展途上国での糖尿病の発症増加がもっとも多いことが指摘され、ベトナムもそのグループの一員とされています。

 ベトナムはこれまで多くの苦難を乗り越えてきたように、この糖尿病の問題に国際的な最新の見解なども取り入れながら、舵を取っていくでしょう。

 ベトナムの糖尿病事情を改善するためには行うべきことはたくさんありますが、当面の患者さんの生活を支えるうえで、国際組織・団体による援助が重要な役割を果たしていることは見過ごせません。

 ベトナムの国、各種機関・団体、企業などが行う糖尿病への計画と努力が、国際的にも理解されるようになり、国際組織などのより多くの理解と支援が寄せられることも願わずにはいられません。

「ベトナムの糖尿病事情」もくじ


ベトナムの糖尿病事情を10回シリーズでお届けいたします。


コーディネーター: Dang Thi Kim Anhさん(写真中央)。
GHPトレーディング社(ベトナム)の代表。スタッフに囲まれて。

  1. ベトナムの糖尿病をめぐる現状
  2. 飲食習慣が劇的に変化した20年 糖尿病も増加
  3. 糖尿病専門医に聞いたベトナムの
    糖尿病をめぐる現状と対策
  4. ベトナムの1型糖尿病患者さん
  5. ベトナムで増加する肥満・糖尿病
  6. ダナン病院の2型糖尿病の患者さん
  7. ベトナムのヘルスケアシステムと糖尿病
  8. 糖尿病患者さんをサポートする体制
  9. インスリンを使用する2型糖尿病の患者さん
  10. ベトナムの糖尿病、この1年を振り返る

国際糖尿病支援基金「わが友、糖尿病」

世界各国の糖尿病療養に携わる医療スタッフや患者さんとの交流録。
世界のさまざまな場所を旅した国際糖尿病支援基金・森田繰織会長のブログです。

国際糖尿病支援基金「わが友、糖尿病」 ▶

2012年4月からヘモグロビンA1c(HbA1c)は以前の「JDS値」に0.4を足した
「NGSP値」で表わされるようになりました。過去の記事はこの変更に未対応の部分があります。

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