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2010年02月17日

糖尿病腎症の発症しやすさに関わる遺伝子を特定 腎症発症が1.6倍に

 糖尿病腎症のなりやすさに関与する遺伝子を、理研ゲノム医科学研究センターの前田士郎チームリーダー(内分泌・代謝疾患)らがつきとめ、米科学誌に発表した。これまで糖尿病腎症の発症に遺伝的な要素が関わっていることが知られていたが、発症にかかわる遺伝子については、ほとんど分かっていなかった。遺伝子の配列によっては、発症リスクが1.6倍高くなるという。

糖尿病腎症の腎臓
 腎臓は、糸球体とよばれる細小血管塊が集まった組織で、この糸球体は毛細血管が糸球のように丸く束ねられた構造をしている。糸球体の1つひとつで、血液中の老廃物がろ過され、尿の元(現尿)がつくられる。
 糖尿病腎症では、高血糖が原因となり糸球体の細小血管が障害を受け、蛋白質がもれたり(蛋白尿)、老廃物を十分にろ過できなくなり、進行すると老廃物(尿毒性物質)が血液中にたまるようになる(腎不全)。
 研究チームは、1312人の2型糖尿病患者の血液を使い、遺伝子の塩基配列が1ヵ所だけ違う「一塩基多型(SNP)」を調べた。ヒトの遺伝情報はほとんどが共通しているが、0.1%程度の個人差(遺伝子多型)があり、その一部が病気のなりやすさに関係していると考えられている。例えば、2型糖尿病と関連の強いSNPとしては「KCNQ1」が注目されている。

 研究では7万6767ヵ所のSNPを解析し、腎症を発症している人と発症していない人とで遺伝子多型の頻度に差があるかを統計的に調べた。その結果、脂肪の代謝に関わる酵素をつくる遺伝子である「ACACB」が糖尿病腎症と関係していることが初めて分かった。発症リスクを高めるタイプの遺伝子多型があると、糖尿病腎症の発症リスクは約1.6倍に高まるという。この配列を日本人の約15%がもっている。

 さらに、海外の大学や研究施設と共同研究を行い、2型糖尿病の別の日本人の2集団(合計464人)、シンガポール人の集団(411人)、欧米人の2集団(合計1065人)でも検証したところ、すべての集団で同じ結果となった。ACACB遺伝子は日本人だけでなく、人種を超えて2型糖尿病患者の腎症発症に大きく関わっていることが分かった。

 また、ヒトの腎臓の培養細胞を用いた実験で、ACACB遺伝子内のSNPが発症リスクを高めるタイプであると、そうでない場合に比べACACBの発現が高まることが分かった。ACACBは脂肪の代謝に関わる「アセチルCo-Aカルボキシラーゼベータ」という酵素をつくる遺伝子。この酵素の働きが強くなると脂肪酸の取込みや燃焼が低下する。その作用を阻害する薬剤を開発できれば、新たな治療薬となる可能性がある。

 糖尿病腎症の発症に関連する遺伝子をもつ発症リスクの高い人を検査でみつけることができれば、より効果的な予防や治療ができるようになる。研究者らは今回の研究を「糖尿病腎症の発症メカニズムを解明し、新たな治療法や治療薬の開発につながる成果」としている。

 この研究は米国の科学誌『PLoS Genetics』オンライン版(2月12日付)に発表された。

糖尿病腎症に関連する遺伝子「ACACB」を発見−2型糖尿病患者の腎症発症リスクが1.6倍に高まる−(理化学研究所)

関連情報
日本人の2型糖尿病に関わる遺伝子多型を特定 発症リスクは2.5倍に(糖尿病NET)
2型糖尿病の発症しやすさを遺伝子で解明(糖尿病NET)

[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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