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2010年12月01日
糖尿病発症に関わるタンパク質を特定 2型糖尿病を改善 京大研究チーム
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京都大学の研究チームが、高血糖を引き起こし2型糖尿病の発症に関わる蛋白質をつきとめた。増谷弘 ウイルス研究所准教授らのグループが藤本新平 医学研究科糖尿病・栄養内科学准教授、稲垣暢也 同教授らと共同で行った研究の成果。
内臓脂肪を減らすとインスリン抵抗性が改善するのは
生理活性物質“アディポネクチン”が増えるから
ヒトの体には本来、体の状態を一定に保とうとする生体の性質(ホメオスタシス)が備わっている。血糖変動には、膵臓のβ細胞からのインスリン分泌や、肝臓や脂肪組織、筋肉などでのグルコース(糖)の取り込み、消費がそれぞれ密接に関わっている。どれかがうまく機能しなくなると血糖コントロールは乱れる。
食べすぎや運動不足が続くと内臓脂肪がたまり、脂肪が肥大化することが多い。特に、内臓脂肪が増えすぎる内臓脂肪型肥満が、メタボや糖尿病に悪いと考えられているのは、脂肪細胞から生理活性物質(アディポサイトカイン)が分泌されているからだ。
アディポサイトカインは、脂肪組織そのものの代謝において重要な働きをし、体全体にも影響している。その一種がアディポネクチンで、動脈硬化を防ぐ善玉物質として近年の研究で注目されている。アディポサイトカインの多くは肥満にともない脂肪細胞からの分泌が増えるが、アディポネクチンは逆に内臓脂肪が増えるほど、その分泌が低下していく。
インスリン抵抗性は、インスリンの作用を受ける細胞の感受性が悪くなり、血液中のインスリン濃度に見合った作用を得られず高血糖になりやすくなった状態をさす。アディポネクチンが低下すると、細胞組織でのインスリン感受性が悪化し、2型糖尿病を発症・悪化しやすくなり、動脈硬化も促される。逆に食事や運動習慣を改善し内臓脂肪を減らすことで、アディポネクチンの分泌を正常化できると考えられている。
ヒトの体のこうしたホメオスタシスの仕組みは、人類の歴史で食料を十分に得られずに飢餓の状態にある時期が長く続いた影響によると考えられている。生き延びるために長い時間をかけて、エネルギーを節約できる体質に変わっていき、食料難の環境に適応できるようになった。
現在の日本のような食生活の豊かな環境が実現したのは、長い人類史からみるとつい最近のことで、本来の体質に適合していないという人も多い。そのため少し食べすぎたり運動不足が続いただけでも、エネルギーの過剰摂取から肥満をまねきやすい。
生理活性物質“アディポネクチン”が増えるから
インスリンの感受性と分泌の悪化に関与する蛋白質
体のホメオスタシスを制御する体内物質をさがす研究が行われている。京都大学ウイルス研究所の増谷弘准教授(分子生命学)らの研究チームは、蛋白質の一種の「チオレドキシン結合蛋白-2」(TBP-2)が体内の血糖値を調整するインスリンの分泌を妨げ、インスリン抵抗性にも関わることをつきとめた。
チオレドキシンはあらゆる生物に存在する、生命活動において重大な働きをする蛋白質で、酸化ストレスを引き起こす活性酸素を消去したり妨げる作用がある。
研究チームは、TBP-2がインスリン分泌にも影響を及ぼすと考え、TBP-2をもたないマウスとTBP-2をもつマウスを使い実験した。マウスにブドウ糖を投与して肥満にし、インスリンの増加量を比較した。
その結果、TBP-2をもたないマウスでは、脂肪細胞から生理活性物質が多く分泌されているにもかかわらず、インスリン抵抗性が通常のマウスとほぼ同じレベルで、高血糖にともなうインスリン分泌量も改善しており糖尿病を発症しなかった。
TBP-2の働きを抑えることで、肥満であっても糖尿病を発症しないことがあきらかになった。この蛋白質は外因性ストレスによって活性化し、骨格筋でのブドウ糖の取り込みや消費にも関わっているという。研究者らは「TBP-2がインスリンの分泌反応と感受性の両方の制御に関与しており、2型糖尿病の発症や悪化にも関与しているのではないか」と述べている。
今後、TBP-2の解明が進めば、これを標的とした新たな糖尿病治療薬の開発にもつなげられると期待されている。研究成果は英科学誌「Nature Communications」に発表された。
TBP-2/Txnipによるグルコースメタボリズムの制御と糖尿病発症機構
Disruption of TBP-2 ameliorates insulin sensitivity and secretion without affecting obesity
Nature Communications, Volume 1, Article number 127, doi:10.1038/ncomms1127
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所
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