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2011年12月01日

糖応答性の遺伝暗号を発見 糖尿病の病態や発症に関連 東大

 東京大学は、糖尿病の病態や発症リスクとも密接な関連がある新しい遺伝暗号を発見したと発表した。研究は東京大学分子細胞生物学研究所の加藤茂明教授と藤木亮次助教によるもので、成果は英科学誌「Nature」の11月27日オンライン版に掲載された。

 ゲノムの外側にある化学修飾(エピゲノム)は、遺伝子発現の多様性に関わる第二の遺伝暗号として注目されている。以前から「ヒトの個性はゲノムのみによって決定されるのか?」という問いがされていたが、ヒトゲノムが解読されると、ヒトの遺伝子は極端に少ないことが分かってきた。「このことは、生活習慣の違いからさまざまな病気を発症することからも想像できる。今後は後天的に遺伝子の発現を多様化させる要因が何であるのかを解明することが課題となる。エピゲノムは重要な手掛かりになる」と研究者らは述べている。

 ヒストンは、真核生物の核内DNAと結合して、複合体を形成している塩基性蛋白質。研究では、それまで主に細胞表面で機能すると思われていた蛋白質の糖(N-アセチルグルコサミン、GlcNAc)修飾が、染色体上のヒストン蛋白質にも存在していることがあきらかになった。

 染色体の構成分子(核酸やヒストン蛋白質)の化学修飾であるエピゲノムでは、メチル化やアセチル化、リン酸化など大きく9種類が知られている。ヒストン修飾では、アミノ酸残基の違いも合わせて既に100種をこえる修飾が発見されている。

 真核生物の核内の転移酵素(OGT)は細胞外のグルコース濃度と連動することから、細胞内の栄養状態と密接な関係があるとみられている。最近の研究では、OGTを介するアミノ糖の一種であるN-アセチルグルコサミン修飾の制御が、2型糖尿病の発症と密接な関係にあることが示されている。

 この新しいエピゲノムは、細胞外のブドウ糖濃度と連動しており、標的遺伝子の発現を正に調節している。研究者らは、標的には糖尿病の関連遺伝子も多く含まれていたことから、その病態や発症リスクに密接な関連があるものと予想している。今回の発見は、細胞が栄養を感知して遺伝子発現を誘導するしくみについて基礎的な理解を助けるものでもある。

 研究者らは、N-アセチルグルコサミンOGTが転写促進と血球分化に重要であるという研究報告をきっかけに、ヒストン蛋白質自身もまたその基質となることを見出した。「このエピゲノム修飾は、細胞内の代謝プロセスに関係するものが多く、糖尿病の発症リスクや病態に関係する遺伝子も多く含まれている。インスリンの働きに不可欠なGSK3βをコードする遺伝子は、ヒストンN-アセチルグルコサミン修飾によって発現調節を受けていることも確認されている」と述べている。

 ヒストンN-アセチルグルコサミン修飾が、細胞外のブドウ糖濃度によって調節され、転写促進にはたらくエピゲノム修飾であることをあきらかにしたことで、細胞が栄養状態を感知して遺伝子発現を調節するという重要な環境適応の仕組みについて、新しいモデルをひとつ加えることができるという。

 「エピゲノム修飾の破綻はまた細胞に大きな障害をもたらす。最近では、エピゲノム研究に基づく診断、創薬、治療などさまざまな試みがなされており、アセチル化など一部の修飾を標的とした薬の開発も成果を上げている。今回の研究成果は、メタボリックシンドロームを標的としたエピゲノム診断、医療などに役立てられる」と研究者らは述べている。

糖応答性の新しい遺伝暗号の発見(東京大学 平成23年11月28日)

[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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