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2011年12月05日

糖尿病と歯周病 歯を失い噛めなくなると血糖値が上昇

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糖尿病合併症
 歯周病と糖尿病などの慢性疾患との関連への関心が高まっている。東京保険医協会、東京歯科保険医協会、千葉県保険医協会の3協会は共催で11月23日、東京で医科歯科連携研究会を開催した。糖尿病と動脈硬化性疾患を中心とした心血管病変と歯周病の最近の臨床研究を総括し、歯周治療を含めた生活習慣病のコントロールを医科歯科の双方が行うことが、患者の健康寿命の延長を実現させるとの見解をまとめた。

歯周病は糖尿病の第6の合併症
 歯周病と冠動脈疾患、糖尿病腎症、肥満、メタボリックシンドロームなど全身疾患との関連は注目されている。また、歯周病は「糖尿病の第6の合併症」といわれるように、糖尿病患者には歯周病が多いことも知られている。その発症頻度や重症度は、血糖コントロール状態や糖尿病罹病年数とも関連が深い。

 厚労省の歯科疾患実態調査によると、40〜70歳の約半数は歯肉に歯周ポケットをもっており、日本の歯周病患者数は約5000万人、罹患率は8割以上に上るともいわれている。歯周病は、国民の健康にとって大きな脅威となっている。

 歯周病は歯周組織にみられる疾患群の総称で、一般的にデンタルプラーク(バイオフィルム)に起因する歯周病原細菌の感染により引き起こされる歯肉炎、歯周炎をさすことが多い。歯周ポケットの形成と不十分な口腔ケアによるプラーク量が増加にともない、グラム陰性嫌気性細菌が増加し、歯肉の炎症や歯周病を発症する。細菌感染はさまざまな免疫応答を引き起こし、歯周炎を進展させる。

糖尿病内科と歯科との連携によるコンセンサスが必要
 全国臨床糖尿病医会会長で伊藤内科クリニック院長の伊藤眞一氏は「歯周病が糖尿病の第6の合併症といわれており、罹患数の多い両疾患の合併は多い。しかし、海外では8割の糖尿病患者は糖尿病と口腔疾患の関係について内科主治医から説明を受けておらず、また歯科医、歯科衛生士の半数は通院中の患者が糖尿病であることを知らないとの報告がある」と指摘した。

 歯周病がある糖尿病患者では、歯周組織の微小血管障害、歯周結合組織の代謝の異常、免疫機能の低下や唾液の減少・口腔乾燥を発症する場合もあり、歯周病の治療により糖尿病が改善することを示した報告は多い。一方、歯周病の治療を行っても、高血糖の状態が続くと治りが悪く、再発が起きやすくなる。

 日本歯周病学会が2008年に『糖尿病患者における歯周病治療のガイドライン』を示し、糖尿病連携手帳にも歯周病について記述できるようになっており、また日本糖尿病協会は歯科医師登録医を認定する制度を行っている。東京保険医協会も歯周病医科歯科連携カードを準備している。

 伊藤氏は「糖尿病の医科と歯科の連携は多様に進められているが、まだ十分に効果をあげているとはいいがたい。血糖コントロールがどれくらいであれば歯科治療してよいのかなど、分かっていないことは多い。抜歯などの術後に糖尿病の治療が難しくなる場合もある」と指摘した。

 伊藤氏が診療している糖尿病患者では、5分の1が抗血小板療法あるいは抗凝固療法を受けているという。伊藤氏は「歯科との連携によりコンセンサスを得る必要がある。糖尿病の治療を受ける患者に、口腔の状態について問診を行い、必要があれば歯科受診を促すことも重要だ」と強調した。

歯を喪失し噛めなくなると血糖値が上昇
 三咲内科クリニック院長の栗林伸一氏は、歯周病が慢性の細菌感染症であり、脂肪細胞が炎症性サイトカインを産生してインスリン抵抗性を惹起する機序と、産生されたサイトカインによる歯周病の炎症症状の進展が相乗的に疾患を悪化させることを指摘。

 これらは、食事・身体活動・睡眠・休養・ストレス管理・生活リズム・喫煙習慣・飲酒習慣とも関連が深い。栗林氏はこれらを「生活療法」と称し「薬物療法」との両輪として患者の理解を促す指導を行っているという。

 さらに、「歯周病が進行し歯を喪失することが咀嚼力を低下させ、軟らかい食品に偏り栄養摂取バランスの悪化へとつながり、結果として食後高血糖を起こしやすくなる。口腔内の管理は重要であり、生活療法は療養の主役である患者の理解と実践が欠かせない。そのために歯科との連携とサポート役としてのコメディカルの役割は大きい」と指摘した。

 鶴見大学歯学部探索歯学講座の花田信弘教授は、「2型糖尿病や肥満などの生活習慣病の発生をさかのぼると、栄養摂取に関わる咀嚼や咬合機能、重要な口腔内細菌の影響へとたどりつく。健康のドミノ倒しは歯から始まるので、保健指導の段階から食べる、話す、運動するなどの生活習慣を見直し、できるだけ上流で止め生活習慣病を予防することが重要」との見解を示した。

 花田氏は「口腔内の管理が良好でしっかりと噛める人では咀嚼回数が増え、食欲のコントロールも行いやすくなる。咀嚼回数を増やすことで、食べる速度が遅くなり肥満を抑えられたという報告もある。歯科医療はこれまで咀嚼機能の維持、回復などが中心だったが、今後は口腔内だけではなく歯科を予防医学として位置づけ日常医療を提供していくことが必要になる」と述べた。

東京保険医協会
東京歯科保険医協会
千葉県保険医協会

[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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