ニュース

2012年06月04日

食事時間の乱れで体内時計に狂い 肝臓時計をインスリンが調整

キーワード
 不規則な食生活が肥満や2型糖尿病など生活習慣病につながる仕組みを、体内の時計遺伝子とインスリンの作用から解明する研究を、名古屋大学大学院生命農学研究科の小田裕昭准教授らのグループが発表した。

 日本人のエネルギー摂取量は増加していないにもかかわらず、肥満・糖尿病は急速に増加している。食事など生活スタイルの変化が大きな影響を与えており、特に朝食の欠食など食事のタイミングが重要な役割を果たしているのではないかと考えられている。小田准教授は「不規則な食生活に原因があるかもしれない」と指摘している。
不規則な食事は肝臓時計を乱し、代謝異常を引き起こす
 今回の研究は、不規則な食生活により生じる代謝異常のメカニズムを、バイオイメージング技術を用い遺伝子レベルであきらかにしたもの。最近の研究で、時計遺伝子が発見され、身体の概日時計が重要な生理作用をもつことがあきらかになっている。概日時計(概日リズム)は、生物がもっている遺伝子レベルで制御される時計で、少しずつずれると臓器全体や体全体で時計が機能するように、同調因子が微調節を行っている。

 体全体の概日時計は脳の視交差上核にあり、日の光を浴びて24時間周期に調整される。脳以外の細胞にもそれぞれ体内時計が備わっているが、何が調整に関わっているのかはわかっていない。

 そこで研究チームは、栄養の取り込みに影響する肝細胞にはインスリンが働くと推測し、マウスを使った実験を行った。これまでの研究で、時計遺伝子が壊れたマウスでは代謝異常が生じメタボリックシンドロームを発症し、正常なマウスでも食事のタイミングが乱れると血中コレステロールが増加することがわかっていた。

 代謝の中枢をになう肝臓の概日時計の働きに食事が大きく影響し、不規則な食事のタイミングは肝臓時計を乱し、代謝異常を引き起こす。研究チームは、ラットの食事に適した夜間の「活動期」、日中の「休息期」のそれぞれの時間帯にインスリンを与え、肝臓への影響を調べた。

 肝細胞の時計が、3次元培養することで長く維持される。そこで、肝細胞時計をバイオイメージング技術を用いて観察することで、インスリンが同調因子として働いていることを突き止めた。バイオイメージング技術は、細胞内のタンパク質などを光るような工夫をすることにより、細胞内で起きる現象を可視化させ、細胞をリアルタイムに観察する方法。今回の研究では、ラットから取り出した時計遺伝子にホタルの発光を担う酵素をつないで、肝細胞の光がどう発現するかリアルタイムで追った。

 その結果、活動期にインスリンを与えると時計遺伝子は正常な動きを示したが、休息期では異常な状態になり、時計のリズムが狂ったことがわかった。一方、活発に活動を始める「活動期」にインスリンを与えると、肝細胞の体内時計が24時間周期に調整されることを確認した。

 「規則正しい生活と食生活が健康の秘訣であることが、代謝異常のメカニズムを遺伝子レベルで解明することであきらかになった。インスリンは、肝臓だけでなく脂肪組織などのメタボリックシンドロームに重要な臓器の時計を同調させる因子として働いている。現在、日本人においてエネルギー摂取が増えていないにもかかわらず、肥満・糖尿病が増えていることは、不規則な食生活のためであるかもしれない」と小田氏らは話す。

不規則な食生活で不健康になる分子メカニズムを解明(名古屋大学 2012年5月28日)

[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

play_circle_filled 記事の二次利用について

このページの
TOPへ ▲