ニュース

2015年05月19日

熱中症の予防や治療、効果的な方法は? 救急医学会のガイドライン

キーワード
運動療法
 日本救急医学会の熱中症に関する委員会(委員長:三宅康史・昭和大医学部教授)は、熱中症の診断や治療などのガイドラインを公表した。熱中症を重症度による3段階に分類し、「発症したら適切な対処が必要」と注意を呼びかけている。
暑さへの順化が十分でないと発症しやすい
 熱中症は、体内での熱の産出と熱の放散のバランスが崩れて、体温が著しく上昇すると発症しやすくなる。気温が高い、湿度が高い、風が弱い、日射が強いという条件が揃うと、体からの熱放散を妨げられるので注意が必要だ。

 熱中症の発症数は、梅雨明け後の7月中旬から8月上旬にかけてピークを迎え、発症時刻は12時および15時前後の日中がもっとも多い。しかし、気温が低くても湿度が高かったり、日射が強い、暑さへの体の順化が十分でない場合に発症しやすいという。

 ガイドラインによると、2013年6〜9月の4ヵ月間に全国の医療機関を受診し、熱中症関連の診断を受けた症例数は約40万8,000人。うち3万5,000人超が入院し、550人が死亡したという。

 熱中症の発症例の半数近くは65歳以上が占めるが、スポーツを行っている若年や中年の男性にも起こりうると注意を呼びかけている。

 スポーツなどによる熱中症は症状は軽いものが多いが、陸上競技などグラウンドでのスポーツは重症率が高い。運動選手を対象とした調査では、熱中症の約3割は2時間を超える運動で発症するという。

 10〜60代では男性のほうが熱中症で亡くなる割合が高くなる。男性の方がスポーツをする時の運動強度が高く、中年期にかけて仕事による身体のへの負担が大きいからだ。

熱中症の重症度を3分類
 熱中症は、高齢者や、高血圧、糖尿病、認知症などの持病があると重症化しやすい。ガイドラインでは、重症度の判定や水分の補給といった具体的な治療方法などを記載。医療や介護の現場に加え、学校や職場などでの活用を呼びかけている。

 熱中症の診断については、「暑熱環境における体調不良では常に熱中症を疑う」とし、応急処置や入院加療といった3段階の重症度分類などを提示。「早期認識、早期治療で重症化を防げれば、死に至ることを回避できる」と指摘している。

 重症度の分類は、周囲にいる人が早く異常に気付いて治療につなげる目的でつくられた。体温などにかかわらず、めまいや立ちくらみがある状態を「I度」、頭痛や嘔吐があれば「II度」、意識障害や痙攣発作などがあれば「III度」とした。

 I度は涼しい場所へ移動し、服をゆるめて体の表面を冷やしたり、水分・塩分の補給など応急手当てをすることで回復する。誰かが付いて見守ることが必要だ。

 (1)意識がはっきりしない、(2)自分で水分補給ができない、(3)応急処置によっても症状が改善しない場合は、II度以上と判断しすぐに医療機関へ搬送する必要がある。

熱中症の治療 水分とナトリウムの補給が基本
 熱中症を起こした人の体では、水分とともにナトリウムなどの電解質が失われていることが多い。こうした「ナトリウム欠乏性脱水」のケースでは、水分に加えて適切な電解質の補給が重要となる。

 そのため、熱中症の徴候がみられたときは、塩分と水分が適切に配合された「経口補水液」を飲むと良いという。

 予防や治療では、0.1〜0.2%の食塩と4〜8%の糖質を含んだ飲料を飲むことを推奨。1Lの水に1〜2gの食塩と大さじ2〜4杯の砂糖加えて飲むと、効率よく水分を吸収できるという。

 市販されているスポーツドリンクでも効果はあるが、塩分量が少なく、糖分が多いものが多いことに注意が必要だ。また、梅昆布茶や味噌汁などもミネラル、塩分が豊富に含まれており熱中症の予防に効果的だという。

高齢者は"熱中症弱者"
 高齢者については、日常生活の中で起こる非労作性熱中症が多く、屋内での発症頻度が増えていることや、高齢者がエアコンの使用を控える傾向があることなどを挙げ、"熱中症弱者"の高齢者に対する効果的な予防策が必要としている。

 夏場は特に高齢者で脱水症が生じやすく、また脱水に自分では気づきにくいことも多い。さらにお茶などの塩分が少ない飲み物を好み、水分補給をしているつもりでも結果的に電解質が補給されていない場合もあるので注意が必要だ。

 「このガイドラインは医師や看護師など日常診療の中で熱中症を治療、看護する際に有用であるばかりでなく、熱中症に遭遇する可能性がある学校、職場、介護の現場でも役立つものと考えている」と、同委員会の横田裕行・日本医科大大学院教授は話している。

熱中症診療ガイドライン2015について(日本救急医学会)

[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

play_circle_filled 記事の二次利用について

このページの
TOPへ ▲