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2016年02月01日

β細胞の移植に成功 免疫反応を起こさずインスリンを分泌

 ハーバード幹細胞研究所とマサチューセッツ工科大学の研究チームが、ヒトの幹細胞から生成したβ細胞を糖尿病マウスに移植し、免疫反応を引き起こさずに6ヵ月以上にわたりインスリン分泌を保護する実験を成功させた。
再生医療を実現 1型糖尿病の根治に道

 1型糖尿病は、おもに自己免疫により膵臓のβ細胞が破壊され、インスリンが絶対的に欠乏し、生命を維持するためにインスリン治療が不可欠となる病気だ。根治するために膵臓や膵島を移植する治療法がある。

 1920年代にインスリンが発見されて以来、インスリン製剤の開発はめざましい。しかし、インスリン強化療法でどれだけ精密にコントロールしても、β細胞によるインスリン分泌を完全には再現できない。

 そして、膵島移植ではドナーからの臓器提供が必要で、ドナーが不足しており移植件数は伸び悩んでいる。また、臓器移植では移植後の拒絶を抑制するために免疫抑制剤を使用する必要がある。そのため免疫をコントロールする免疫抑制療法の開発も課題になっている。

 患者自身の幹細胞からβ細胞をつくることができれば、細胞に患者のDNAが含まれているため、体は自身の細胞として拒絶反応を起こすことなく受け入れる。究極のオーダーメイド医療となる可能性がある。

免疫を抑える治療法の開発に成功

 ハーバード大幹細胞研究所のダグラス メルトン教授ら研究チームは2014年に、iPS細胞やES細胞からβ細胞を作成し、大量に培養するのに成功した。

 糖尿病のマウスに移植し、再生したβ細胞が数ヵ月にわたりインスリンを分泌することを確認。膵臓のβ細胞と遺伝子の働きが変わらず、高血糖の症状が改善したという。

 ヒトでも有効性や安全性が確認できれば、β細胞の膵臓への移植が、1型糖尿病の完治につながる可能性がある。

 しかし、移植治療を開始する前に解決しなければならない課題がある。移植する1億5,000万のβ細胞を免疫作用から守ることだ。研究チームは今回の研究で、免疫を抑える治療法の開発に成功した。

β細胞をカプセルに入れ免疫作用から保護

 「幹細胞からβ細胞をつくりだすのに成功し、生成した細胞を自己免疫の攻撃から守る方法の開発が必要となりました。新たに開発した技術には、1型糖尿病の治療を根本から変える可能性があります」と、マサチューセッツ工科大学デイビッド H コッホ研究所のサミュエル ゴールドブリス教授(応用生物学)は言う。

 バイオ自然工学を応用し開発された新たな方法では、アルギン酸塩を材料に作った微小なカプセルにβ細胞を入れる方法が採用された。アルギン酸塩は褐色の藻類である褐藻類に豊富に含まれる。このカプセルが、β細胞のインスリン分泌のような生体反応を妨害することなく、免疫作用の攻撃からβ細胞を守る。

 研究チームはマサチューセッツ工科大学の化学ライブラリーからおよそ800種類のアルギン酸塩誘導体を実験し、トリアゾール-チオモルホリン二酸化物(TMTD)と呼ばれる物質が有効であることを突き止めた。β細胞を移植すると瘢痕反応(修復反応)が引き起こされるが、TMTDのカプセルはこれを防ぐ作用をする。

 研究チームは、メルトン教授らがヒトの幹細胞から生成したβ細胞をTMTDのカプセルに入れ、糖尿病のマウスに移植する実験を行った。その結果、移植したβ細胞はすぐにインスリン分泌を開始し、その後174日にわたり機能し、糖尿病マウスの血糖値を正常範囲に維持することができた。

 「まだ動物実験の段階ですが、1型糖尿病を再生医療で根治する上で、最大の障害を克服する方法がみつかりました」と、ハーバード幹細胞研究所とハーバードXander大学のダグラス メルトン教授は言う。

 ヒトに対する試験も2〜3年以内に開始できる見込みで、霊長類を対象とした実験は進行中だという。

「インスリン療法からの離脱」が視野に入ってきた

 新しい治療法では2~3年に1度、再生したβ細胞を注入する方法が考えられている。実現すれば、インスリン注射からの離脱できるか、注射するインスリン量が少なくて済むようになる。移植療法で必要とされる免疫抑制剤の服用も、この治療法であれば必要ないという。

 「新たに開発している治療法は、1型糖尿病患者をインスリン療法から離脱する可能性があります。移植されたβ細胞は免疫反応を引き起こすことなく、およそ半年にわたりインスリンを分泌しました。研究が進めば1回の移植で数年にわたりβ細胞を保護できるようになる可能性があります」と、研究費の一部を提供した小児糖尿病研究財団(JDRF)のジュリア グリーンスタイン氏は言う。

 1型糖尿病患者は血糖値を正常に維持するために、1日数回の注射やインスリンポンプによりインスリンを補い、血糖自己測定を行う必要があり、細心の注意をもって血糖コントロールを毎日欠かさず行っている。

 JDRFは1型糖尿病の再生治療を支援するコンソーシアムを2013年に開設し、移植したβ細胞を免疫作用から保護する治療法の研究に資金提供を行っている。

 「1型糖尿病は、生命にかかわる慢性の自己免疫疾患であり、小児だけでなくすべての年齢の人が発症する可能性があります。今回の発表について、とても感激しています」と、グリーンスタイン氏は言う。

Potential diabetes treatment advances(ハーバード大学 2016年1月25日)
Researchers Show Novel Material Encapsulated Human Islet Cells Can Halt Type 1 Diabetes for Six Months(小児糖尿病研究財団 2016年1月25日)
Long-term glycemic control using polymer-encapsulated human stem cell–derived beta cells in immune-competent mice(Nature Medicine 2016年1月25日)
Combinatorial hydrogel library enables identification of materials that mitigate the foreign body response in primates(Nature Biotechnology 2016年1月25日)

[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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