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2016年01月28日
膵臓のβ細胞の移植療法を成功させる方法 免疫反応から保護
1型糖尿病はインスリンを分泌するβ細胞が免疫作用により破壊されることで発症する。膵臓にある膵島(ランゲルハンス島)を移植すれば、血糖値に反応してインスリンを分泌するようになる。その結果、インスリン注射からの離脱できたり、注射するインスリン量が少なく済むようになり、血糖値が安定し低血糖の発症もなくなる。
膵島の移植医療は改善されているが、β細胞を安全に採取し保存、輸送する上で多くの課題が伴う。沖縄科学技術大学院大学などの研究チームは、移植医療をより安全・確実に行える方法を開発したと発表した。
インスリンを分泌するβ細胞は膵島と呼ばれる内分泌腺に集中しており、その大きさは膵臓全体のわずか数パーセントでしかない。移植するには大規模な外科手術を必要とせず、安価で安全な手術で行える。しかし現状は、必要な膵島を十分に集められないという課題がある。
ランゲルハンス島の保存・輸送の際には超低温凍結法が一般的に用いられるが、極低温の保存温度が細胞にとって危険な状態だと指摘されている。細胞には温度に適応する耐性が備わっているが、マイナス15~60度の温度で凍結すると、細胞内部や細胞と細胞のあいだにある水が結晶をつくり、これが細胞膜を貫通し細胞を破壊してしまうおそれがある。結晶を解凍する際にも同様の問題が生じる。
沖縄科学技術大学院大学の研究チームは、凍結時の危険からランゲルハンス島を保護し、リアルタイムで細胞の生存状態まで確認できる超低温の凍結保存法を開発した。この方法を用いれば、移植による拒絶反応を軽減し、患者の健康に有害な影響を及ぼす免疫抑制剤の使用を減らせる可能性がある。
研究チームが開発した手法は、微小液滴を生成するマイクロ流体装置を用いて、ランゲルハンス島をハイドロゲルで包み込むというもの。海藻から抽出した天然高分子であるアルギン酸塩を用いハイドロゲルカプセルをつくった。
このカプセルは凍らない水を大量に含む多孔質の微小構造になっており、内部には通常の水、凍結結合水、不凍水といった3種類の水が含まれている。凍結結合水は凍ると結晶化するが、通常の水より低い温度で凍結し、不凍水を多く含んだハイドロゲルカプセルは細胞を結晶によるダメージから守る。この手法により、凍結防止剤の使用を減らすことができるという。
研究チームは、酸素感受性蛍光色素をハイドロゲルカプセルの中に加える方法も開発した。カプセルに付加された蛍光色素は、ランゲルハンス島の酸素量をリアルタイムで測定するセンサーの役割を果たす。酸素の摂取量をみれば、細胞が生きて健康な状態であることを確認できる。シンプルで時間効率にも優れており、価格も安価であり、細胞の生存状態を個別あるいは細胞群としてもまとめて調べることができる。
ハイドロゲルカプセルは、栄養素や膵臓からの分泌物といった小さな分子を容易に通過させるが、移植細胞と宿主細胞が直接接触するのを防ぐ。この働きにより移植細胞に対する患者の拒絶反応のリスクを軽減することができる。また、カプセル化することで、ランゲルハンス島を破壊したそもそもの原因である自己免疫反応から移植細胞を保護できる可能性がある。
開発した方法を実用化すれば、移植に必要な臓器不足を解消し、細胞の生存状態を個別に確認できるようになり、移植にともなう課題を解消できる可能性がある。1型糖尿病患者をインスリン注射から解放できるようになるという。
今回の研究は、沖縄科学技術大学院大学のエイミー・シェン教授が、ワシントン大学、武漢理工大学が共同でおこなったもので、科学誌「Advanced Healthcare Materials」に発表された。
沖縄科学技術大学院大学
Sensing and Sensibility: Single-Islet-based Quality Control Assay of Cryopreserved Pancreatic Islets with Functionalized Hydrogel Microcapsules(Advanced Healthcare Materials 2015年12月25日)
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