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2016年03月25日

肌に貼り付けるだけでインスリン投与 「インスリン パッチ」実用化へ

 血糖値が高いときのみにインスリンを自動的に投与する「スマート インスリン パッチ」の開発が実用段階に入ってきたと、米国のノースカロライナ大学などが発表した。肌に貼り付けるだけで長時間作用するインスリン パッチは、インスリン注射に代わる新たな治療法になる可能性がある。
痛みを伴わず自動的に適量のインスリンを持続投与
走査型電子顕微鏡で拡大した「インスリン パッチ」のマイクロニードル
 米国のノースカロライナ大学とノースカロライナ州立大学の研究チームが開発を進めている「スマート インスリン パッチ」は、肌に貼り付けておくだけで、血糖値の上昇を感知し、自動的に適量のインスリンを投与する世界初のデバイスだ。

 「米国では数百万もの糖尿病患者がインスリン注射を毎日行っています。スマート パッチを実用化できれば、肌に貼り付けるだけで持続的にインスリンを投与でき、頻回のインスリン注射から解放されます」と、ノースカロライナ大学バイオメディカル工学部のゼン グー(Zhen Gu)氏は言う。

 スマート パッチは、ペニー硬貨ほどの大きさの正方形で、髪の毛の100分の1の精度のナノテクノロジーを応用して設計されたマイクロニードルが100本以上埋め込まれている。パッチは痛みを伴わず、体のどの部位にも貼り付けることができる。
生理的なインスリン分泌により近い治療を可能に
 生理的なインスリン分泌により近く、より簡便なインスリン投与の方法を探っていた研究チームは、血糖値の上昇に応じて投与するインスリン量を自動的に調節するシステムの開発に着手した。

 スマート パッチによる血糖コントロールは、血糖値の変動を追跡して適量のインスリンを投与し続ける「クローズド ループ システム」になっており、膵臓のβ細胞からの生理的なインスリン分泌に近いインスリン治療を可能にするという。

 1型糖尿病の根治治療として膵臓や膵島の移植療法が行われているが、臓器提供者(ドナー)が不足しており治療を受けられる患者は限られている。移植細胞を拒絶反応や自己免疫反応から保護するため免疫抑制剤の投与が必要となるなど課題がある。

 「膵臓や膵島の移植療法に代わる、新たな画期的な糖尿病の治療法となる可能性があります」と、グー氏は言う。
作用時間を20時間に延長するのに成功
膵臓のβ細胞を模倣したカプセルにセンサー「グルコース-シグナル増幅器」が組み込まれてある
 開発したインスリン パッチには、睫毛ほどの細さの100本以上のマイクロニードルが並べており、β細胞を模倣したマイクロカプセルにつなげられている。化粧品や診断薬に使われている生体適合性のある天然素材であるアルギン酸塩が使用されている。

 研究チームは、β細胞と同じように血糖値の上昇に併せてインスリンを放出するセンサーである「グルコース-シグナル増幅器」を3種類の素材を組み合わせて作成し、マイクロカプセルに組み込んだ。

 インスリン パッチを皮膚に貼り付けると、血糖値が上昇したときに、カプセルに入れられたインスリンがマイクロニードルを通じて皮下に注入され、毛細管を通じて血液に流入する仕組みになっている。

 昨年行った1型糖尿病マウスを使った実験では、スマート パッチを貼付すると30分以内に血糖値が低下し、その効果は9時間持続することが確認された。最新の実験では作用時間を20時間に引き延ばすことに成功した。

 パッチによるインスリンの連続投与は、インスリンの過剰投与を起こさず、低血糖の危険性も低いことも確認された。
ヒトを対象とした臨床試験も準備段階に
 インスリン パッチは改良が加えられ、ヒトを対象とした臨床試験の準備も進められている。近い将来に糖尿病患者が選択できる治療法となる可能性がある。

 研究開発費として5.2億円(460万ドル)が必要だが、その一部を、1型糖尿病の新規治療法の開発を支援するNPO活動を展開している「国際若年性糖尿病研究財団」(JDRF)と、グローバルな製薬企業であるサノフィが提供している。

 「糖尿病の治療を続けるこということは、患者が生涯を通じて、1日24時間、週に7日、糖尿病について頭を悩まされることを意味します。これは患者にとって大変な負担となります」と、ノースカロライナ大学糖尿病ケアセンターのジョン ビュゼ(John Buse)氏は言う。

 「長時間作用するスマート パッチが実用化すれば、糖尿病患者は自己管理がしやすくなり、余裕をもって治療を続けられるようになります。糖尿病を根治できるわけではありませんが、糖尿病治療を大きく変えられると期待しています」(ビュゼ氏)。

[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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