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2016年07月15日

糖尿病医療にビッグデータを導入 経済産業省が「IoT」事業を開始

 インターネットを活用した最新の技術である「ビッグデータ」や「IoT」を活用して、糖尿病の合併症を予防する効果的な治療を広げる試みが、国のプロジェクトとして開始される。新たな糖尿病医療を確立し、全国に広げることを目指している。
糖尿病医療にビッグデータを導入 糖尿病の症状の進行や薬の効果を予測
 多数の糖尿病患者の治療の記録を集積したビッグデータを使い、糖尿病の症状の進行や薬の効果を予測するシステムを、国立病院機構長崎川棚医療センター(長崎県)と富士通などが開発した。

 より効果的な治療法を適切に選べるようにし、糖尿病合併症の予防につなげるのが狙い。7月から試験的に導入し、有用性が確認されれば、2年後には実用化し全国に広げたいとしている。

 富士通が2014年度に開発した「糖尿病版 疾病管理マップ」は、糖尿病やその予備群の、治療内容、病態、経過などの情報を集積して表示するデータベース基盤。

 進行しているプロジェクトでは、参加医療機関で治療を受けている糖尿病患者本人の同意を得た上で、治療内容や病態・経過などの情報を、糖尿病版 疾病管理マップに集積する。

 システムでは、糖尿病性腎症の発症率を「カプランマイヤー曲線」でグラフ化している。発症までの日数、糖尿病性腎症の無発症率などをデータ化し、どのような治療をすると糖尿病性腎症を予防できるかを可視化している。

 ある患者が重症化する確率を、検査値や治療法が似た患者のデータをもとにグラフで示すことで、もっとも効果的な治療法を迅速に判定できるようになる。

 「開発したシステムに地域の患者の情報を集積することで、一元的に確認できるため、重症化予防に向けた取組みを地域全体で効果的に進められる」と、国立病院機構長崎川棚医療センター内科系診療部長の木村博典氏らは言う。
新たな時代を迎える糖尿病医療 3つのパラダイムシフト
 世の中のあらゆるモノ、コト、状態をIP(インターネットプロトコル)につなぐことでさまざまなデータを収集し、そしてそのデータを業務効率化や日常における快適性向上のための情報として活用する「IoT」(インターネット オブ シングス)が、世界中で医療の分野でも活用されはじめている。

 「IoT」を医療に活用するために目指されているのは、患者や生活者が一人ひとり自分らしく生きるための環境整備だ。超高齢化時代を迎えて、糖尿病医療にも3つのパラダイムシフトが起きている。

 1つは、医療提供者と患者が境目を越えて共同作業をすること。糖尿病の治療や予防の中心となるのは患者による自己管理であり、「最良の主治医は患者自身」とされている。自助努力が患者の健康状態を改善するたの最良の手段となる。

 2つめは、医療と専門分野の垣根を越えた連携。他業種が職種を越えてコラボレーションすることが糖尿病医療を進歩させる。

 3つめは、ヘルスケア産業の裾野の広がり。医療・健康産業はいまもっとも期待されている国の成長戦略のひとつだ。厚生労働省だけでなく、経済産業省、国土交通省、農林水産省など省庁横断でヘルスケアへの注力が始まっている。
経済産業省が「ヘルスケア・データ・コミュニティ」を設立
 経済産業省が今月から、糖尿病予備群と判定された人らの運動量をウェアラブル(身につけられる)端末で記録し、重症化を防ぐ実験を始める。

 経済産業省は、継続的に「IoT」機器や健康情報を活用した健康改善の取組みの普及をはかるため、「ヘルスケア・データ・コミュニティ」を設立した。

 同省が進める「企業保険者等が有する個人の健康・医療情報を活用した行動変容促進事業」で採択されたのは、愛知県健康づくり振興事業団、野村総合研究所、名古屋大学、イーウェル、エヌ・ティ・ティ・データ経営研究所、エス・エム・エス、ミナケア、淳風会の8事業団体。

 事業に参加する医療機関や企業の健康診断で、糖尿病や予備群と判定された従業員を対象に、活動量計などのデバイスで歩数や消費カロリーを記録し、職場でも体重や血圧を毎日測ってもらう。集めた情報は産業医などによる健康指導に使うほか、匿名化したデータベースに蓄えて指導の効率化にもつなげる。

 事業が成功すれば、対象企業を増やし、生活習慣病全般に拡大する予定。糖尿病の重症化を予防でぎれは、医療費も削減できる。経産省は早めの生活習慣病対策で医療費を1兆円削れると試算。厚生労働省もオブザーバー参加し協力する。

IoT・健康情報を活用して糖尿病の改善を目指す実証事業を開始し、「ヘルスケア・データ・コミュニティ」を設立します(経済産業省 2016年7月8日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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