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2017年02月28日

NHK「ガッテン!」に睡眠学会が反論 糖尿病治療に使うのは適応外

 NHKの番組「ガッテン!」の「最新報告!血糖値を下げるデルタパワーの謎」の放送について、日本睡眠学会などは「糖尿病患者に過大な期待をもたせ、医療現場で混乱を招くおそれがある」などと批判しており、これを受けてNHKは謝罪した。

 糖尿病と睡眠障害は密接に関連しており、両方を治療することが重要であることは多くの研究で確かめられているが、睡眠障害の治療は医師の診断を受けて適切に行う必要がある。
睡眠薬の不適切な使用を助長しかねない
 NHKは、2月22日に放送した生活情報番組「ガッテン!」の「最新報告!血糖値を下げるデルタパワーの謎」と題した放送で、睡眠薬を使って睡眠障害を改善したところ、血糖値も改善したというデータを紹介し、「睡眠薬で糖尿病の治療や予防ができる」と報道した。

 すると放送後に「睡眠薬の不適切な使用を助長しかねない」「副作用を軽視している」などの批判が寄せられ、NHKは番組ホームページに謝罪文を載せた。3月1日の番組内でも、おわびの内容を放送する予定という。

 番組内に「睡眠薬で糖尿病の治療や予防ができる」などの表現や短絡的な表記があり、あたかも睡眠薬を糖尿病の治療や予防に、睡眠薬を直接使えるかのような誤解を与えているという。実際には睡眠薬のよる治療は、あくまでも睡眠障害と診断された患者が、医師が睡眠薬の処方が必要であると判断したときにしか行えない。
「良好な血糖コントロールに睡眠の改善が効果的」なのは確か
 番組の根拠のひとつとなったのは、大阪市立大学の研究グループが2015年に発表した、糖尿病と睡眠障害に関する研究。研究では、糖尿病と睡眠障害は密接に関連しており、両方を治療することが重要であることが示された。

 睡眠障害のある糖尿病患者に、睡眠の治療を積極的に行うと、不眠によりQOL(生活の質)が低下するのを防げ、交感神経活動の上昇を抑え、夜間・早朝の血圧を改善できる可能性がある。血糖コントロールの改善や、動脈硬化の進展を予防するために、睡眠を改善するのが効果的であることが示された。

 研究グループは「現在は睡眠導入薬が進歩しており、睡眠障害の治療は安全・効果的に行えるようになっている」とも指摘している。
かかりつけの医師などの診断が不可欠
 最近の睡眠薬には以前に比べ運動障害などの副作用が少なくなっているとはいえ、悪夢や頭痛などの別の副作用が起こることがある。しかし、番組では「副作用の心配がなくなっている」と表現していた。

 NHKの謝罪文では、「睡眠薬は、医師による診断があってはじめて処方されるものです」とした上で、「睡眠障害の治療には、生活習慣の改善などさまざまな選択があり、睡眠薬を使用するかどうか、どの種類の睡眠薬を選ぶかなどは、かかりつけの医師や睡眠専門の医師の判断に従ってください」と注意を促している。

 NHKの番組に対して日本睡眠学会は、「睡眠科学、睡眠医療に関わる学術団体として看過できない問題点が確認された」として、日本神経精神薬理学会と連携して、NHKに対して異議を申し立て、提供した情報に誤りがあった場合には速やかに訂正し、その内容を広く視聴者に公開するよう希望している。
日本睡眠学会が「睡眠薬」について見解を公表
 以下は、日本睡眠学会が放送内容に対する懸念と疑義として公開している見解の、日本睡眠学会ホームページからの抜粋――

1. 番組で取り上げられた睡眠薬については国で承認された効能または効果は「不眠症」に限定されており、糖尿病に対して処方することは認められていません。番組内ではそのような睡眠薬を取り上げ、血糖低下を目的として用いることを推奨しているかのような印象を与えています。これは適応外処方(承認されている効能効果以外の目的で使用すること、健康保険が適応されない)を推奨していることに他ならず、テロップで医師の指示に従うよう流すことで正当化されるものではありません。

2. 番組で取り上げられた睡眠薬については、既存の臨床試験データにおいても血糖降下作用は確認されていません。一部の研究者の限られた研究データを根拠として糖尿病治療に用いることは倫理的にも医学的にも許容されません。本番組ではそのような根拠に乏しい効能効果を視聴者に向けて強くアピールしており、糖尿病患者に過大な期待を持たせたばかりか、医療現場での混乱を招いています。

3. 向精神薬に分類される睡眠薬は適正処方が求められており、臨床的に不眠症と診断された患者にのみ処方されるべきです。しかしながら放送で登場した患者の方は自覚的に不眠症状がなく、睡眠状態に起因する心身の不調も訴えていませんでした。したがって不眠症の診断基準に該当しているとは考えにくく、睡眠薬の処方自体が不適切です。

4. 番組内では当該睡眠薬についてその安全性を過剰に強調していますが、どのような基準をもって安全であると主張しているのかその根拠が明らかでありません。睡眠薬に限らず、全ての医薬品には副作用があります。したがって、投薬の際には絶えずベネフィット(症状の改善など投薬によって受ける恩恵)がリスク(副作用による健康被害など)を上回っているか確認する必要があります。本件の場合、不眠症状がないにもかかわらず、また血糖降下作用が確立・承認されていないにもかかわらず睡眠薬を投与したことのベネフィットがリスクを十分に上回っているとは到底認められません。

一般社団法人 日本睡眠学会
一般社団法人 日本神経精神薬理学会
ガッテン!(NHK総合テレビ)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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