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2017年07月14日

インスリンの働きを高める脳の神経細胞 食欲を抑え、糖利用を促進

 生理学研究所などの研究グループは、食欲を抑え、熱産生を高めて、末梢組織の糖利用を促進する神経細胞を発見したと発表した。
 肥満や2型糖尿病の原因となるインスリン抵抗性の新しい治療法の開発につながる成果だ。
神経細胞がインスリンと協同して糖の利用を促進
 骨格筋など末梢組織での糖の利用は、インスリンによって促進される。しかし、近年の研究により、脳、とくに視床下部の神経細胞が、単独あるいはインスリンと協同して、末梢組織の糖の利用を促進することが分かってきた。

 しかし、どの神経細胞が末梢組織の糖利用を促進するかは不明なままだった。

 脂肪細胞で産生されるホルモン「レプチン」は、主に視床下部の神経細胞(ニューロン)に作用して、食欲を抑え、熱産生を高める。

 研究グループは、レプチンにはこれらの作用に加え、視床下部、中でも視床下部腹内側核の神経細胞に直接働き、骨格筋などの末梢組織においてインスリンの働きを高め、糖の利用を促進することを報告してきた。

 レプチンはニューロンに作用することで効果を発揮するが、その中にはさまざまな機能をもつ神経細胞があり、糖尿病のように血糖を逆に上昇させる神経細胞もある。

 そのため、血糖を上昇させず、糖利用を促進するニューロンを明らかにすることが必要となっていた。
食欲を抑え、熱産生を高め、糖利用を促す神経細胞を発見
 研究グループは、インスリンの働きを高める神経細胞を明らかにすることを目的に、「視床下部腹内側核SF1/Ad4BPニューロン」(SF1ニューロン)に着目した。

 このニューロンを選択的に活性化させた時の、マウスの摂食量、熱産生量、全身の糖利用、末梢組織への糖の取り込み量を調べた。

 その結果、マウスSF1ニューロンを選択的に活性化すると、摂食量が低下し、熱産生量が増加するとともに、骨格筋、心臓、褐色脂肪組織で選択的に糖の取り込みが増加。

 さらに、このマウスにインスリンを投与すると、上記組織での糖の取り込みがさらに亢進した。脂肪を貯蔵する白色脂肪組織では糖の取り込みに変化はなかった。

 また、インスリンの働きを細胞内に伝達するインスリン受容体と、細胞内タンパク質Aktの活性化状態を調べた結果、SF1ニューロンを選択的に活性化すると、骨格筋でこれらのタンパク質が活性化することが分かった。

 今回の結果は、肥満や糖尿病の病因解明、新しい治療法の確立に繋がることが期待される、と研究グループは述べている。

 この研究は、生理学研究所の箕越靖彦教授ら、星薬科大学の塩田清二特任教授、九州大学大学院医学研究院および東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科の小川佳宏教授らの共同研究グループによるもの。研究結果は、米糖尿病学会学会が発行する医学誌「diabetes」オンライン版に発表された。
生理学研究所
Activation of SF1 Neurons in the Ventromedial Hypothalamus by DREADD Technology Increases Insulin Sensitivity in Peripheral Tissues(diabetes 2017年 7月3日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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