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2018年07月13日

世界の8.5億人が「腎臓病」 糖尿病の2倍の「隠れた流行病」に

 腎臓病の有病者数は世界で8億5,000万人に増えていると、国際腎臓学会(ISN)が発表した。有病者数は糖尿病の2倍、がんの20倍以上に上るという。
 腎臓病の脅威は世界中で拡大しているが、多くの人がその恐ろしさを理解していない。
腎臓病は「隠れた流行病」
 国際腎臓学会(ISN)は、世界の腎臓病の有病者数は8億5,000万人に上るという推計値を発表した。

 有病者数を比較すると、糖尿病(4億2,200万人)の2倍で、がん(4,200万人)やHIV/AIDS(3,670万人)の20倍以上に相当する。

 腎臓病はこれまで、健康問題としてクローズアップされることが少なく、過小評価されてきた傾向がある。しかし、腎臓病いまや世界中で「隠れた流行病」とも言える状態になっている。

 腎臓病は進行すると、腎不全、透析療法、血管疾患、感染症を引き起こし、入院治療を要することの多い疾患だ。

 しかも、事態をより深刻なものにしているのは、腎臓病の恐ろしさに多くの人が気付いていないことだ。

関連情報
CKDの有病率は男性10.4%、女性11.8%
 「腎臓病は世界中に蔓延しており、いまや"サイレントディジーズ"(静かな病気)とも言える状況になっています」と、国際腎臓学会のディヴィッド ハリス教授とアディーラ レヴィン教授は言う。

 「慢性腎臓病」(CKD)は、(1)尿検査や血液検査などで腎臓の障害がみつかる、(2)腎臓の働きが低下している、という状態が3ヵ月以上持続していると診断される。

 CKDの世界の成人の有病率は、男性で10.4%、女性で11.8%だ。CKDは腎臓の障害だけでなく、心疾患も引き起こす。2013年には腎疾患が原因となった心血管疾患により120万人が死亡したとみられている。

 CKDは、初期には自覚症状がないが、病気が進行すると、貧血、倦怠感、むくみ(浮腫)、息切れなどの症状があらわれてくる。これらの症状が自覚されるときには、すでにCKDがかなり進行している場合が多い。

 CKDが進行した結果、透析療法や腎臓移植が必要となった患者は530〜1,050万人とみられているが、透析の医療費は高額なため、必要な治療を受けられる患者は一部の先進国に限られる。

 また、数時間から数日という短期間で急激に腎機能が低下する「急性腎障害」(AKI)の有病者数は毎年1,330万人と推計されている。
自分の腎臓病に気付いていない人が多い
 問題をより深刻なものにしているのは、腎臓病の有病者数が急増していることだけではない。腎機能に障害が起きていても、そのことに気付いていない人が多いことが、重大な健康問題になっている。

 「腎臓病の多くは早期発見して治療を開始すれば、進行を抑えられ改善できます。しかし、初期には自覚症状が乏しく、検査を受けなければ発見できないことが多いのです」と、欧州腎臓協会(ERA)のカーミン ゾォカリ教授は言う。

 慢性の腎臓病は、ゆっくり静かに進行する。腎臓の機能はいちど失われると、多くの場合で回復することがなく、進行すると腎不全という病態に陥る。

 腎臓の重要な働きは、血液から老廃物をろ過し、尿として体外に排出することだ。腎臓を通過した血液はきれいになった状態で全身に戻っていく。

 また、腎臓は尿の排出をコントロールすることで、体内の水分量を一定に保つ働きもする。ナトリウムなどの電解質の調節をしており、血液の酸性・アルカリ性の調整もする。

 腎臓には、血圧を調整するホルモンや、赤血球をつくるホルモンを分泌したり、ビタミンDを活性化させたりする働きもある。
腎臓病を放置すとる重大な健康障害が
 糸球体濾過量(GFR)の低下による年齢調整死亡率は、10万人当たり21人だ。慢性腎臓病からの心血管疾患による死亡数は2013年には120万人に上った。

 「腎臓病の死亡率は驚くほど高く、たとえばHIVの11倍に相当します。しかし、腎臓病の恐ろしさを社会に啓発するキャンペーンは行われてきませんでした」と、ゾォカリ教授は指摘する。

 腎臓病が進行し腎不全に陥いると、高額な人工透析が必要になり、重い経済的負担となる。患者1人当たりの年間の人工透析の費用は、米国で980万円(8万8,195ドル)、ドイツで653万円(5万8,812ドル)、ベルギーで928万円(8万3,616ドル)、フランスで787万円(7万928ドル)に上る。

 「腎臓病について知らなくとも、腎臓病を放置し、適切な治療を行わないと、健康障害が確実に起こります。透析療法の負担は大きく、患者さんの生活の質を大きく低下するだげでなく、国の医療財政にとっても巨大な損失になるのです」と、ゾォカリ教授は言う。

 国際腎臓学会では「早期に発見して、治療を開始すれば、腎臓の機能低下を防いだり、遅らせたりすることができる」と強調している。

 腎臓病に対する認知を世界的に引き上げて、腎臓病の予防を呼びかけること、腎臓病の負担を減らすことを呼びかけている。腎臓病の負担が現在どれほど拡大しているかを知ることが、その第一歩になる。

International Society of Nephrology(ISN)
The hidden epidemic: Worldwide, over 850 million people suffer from kidney diseases(国際腎臓学会 2018年6月27日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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