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2018年07月17日

1回の注射で糖尿病と肥満の両方を治療 FGF21治療の開発に成功

 たった1回のホルモン製剤の注入により、体重減少とインスリン感受性の改善を実現し、副作用もない。
 2型糖尿病や肥満の新たな治療薬として期待されている「FGF21」を使った実験に成功したと、スペインのバロセロナ大学が発表した。まだ動物実験の段階だが、開発が進めば2型糖尿病と肥満を同時に改善できる新たな治療法となる可能性がある。
1回の注射で2型糖尿病と肥満の両方を治療
 たった1回の注射で、副作用もなく、2型糖尿病と肥満の両方を治療できる方法を開発したと、スペインのバロセロナ大学が発表した。

 「FGF21」と呼ばれるホルモン製剤を肥満マウスに投与した結果、1年以上にわたり体重減少とインスリン感受性の改善の効果を得られたという。

 世界の糖尿病人口は4億2,200万人で、その90%以上が2型糖尿病だ。2型糖尿病の原因のひとつは肥満と過体重だ。世界保健機関(WHO)によると、世界の成人の13%が肥満で、39%が過体重だ。

 インスリン抵抗性は、血糖値を下げる唯一のホルモンであるインスリンは十分に分泌されているが、その効果を発揮できない状態。食べ過ぎや運動不足が原因の肥満によって、インスリンが働きにくくなる。

関連情報
抗糖尿病・抗肥満作用のある「FGF21」
 「FGF21」はホルモンに近い働きをするホルモン様作用物質で、細胞を増殖させる繊維芽細胞増殖因子のひとつ。

 「FGF21」には、膵臓β細胞や脂肪細胞に働きかける抗糖尿病・抗肥満作用がある。▼インスリン感受性の改善、▼糖代謝の改善、▼脂質代謝の改善、▼エネルギー産生能の向上といった作用をする。

 高血糖の時だけに摂食を抑制する作用があり、血糖が低下している時には作用しない。こうした特徴をいかした、低血糖の発症のおそれのない画期的な治療薬の開発が目指されている。

 「たった1回の注射で、2型糖尿病のモデル動物の肥満とインスリン抵抗性を長期にわたり解消した、はじめての例です。この治療法は効果的で安全であることが示されました」と、バロセロナ大学動物バイオテクノロジー・遺伝子治療センターのファティマ ボッシュ教授は言う。
「FGF21」が長期にわたり持続する遺伝子治療
 「FGF21」は半減期が短く、ヒトの「FGF21」は体内で1〜2時間で分解されてしまう。そこで、「FGF21」の構造を分解されにくいようにつくり変えた「FGF21アナログ製剤」が開発された。

 「FGF21」を投与しただけでは、外因性タンパク質に対する免疫作用が起こり作用が失われてしまう。そこでボッシュ教授らは、「FGF21」の作用が長期にわたり持続する遺伝子治療を試した。そして、1回の注射で副作用を起こさず、自然の「FGF21」と同じように働き、作用が損なわれない治療法の開発に成功した。

 このアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター遺伝子治療は、欧州と米国で有効性と安全性のプロファイルに関する承認を受けており、肝臓や骨格筋などの治療での臨床例もある。
マウスを使った実験は成功 ヒト対象の臨床試験を目指す
 研究チームは、マウスに高脂肪食と標準食を10週間与える実験を行った。高脂肪食を与えたマウスは72%が肥満になり、標準食を与えたマウスは肥満は27%にとどまった。

 肥満のマウスにFGF21を投与し、標準体重のマウスにはプラセボを投与し、その後1年にわたり体重をモニタリングした。

 その結果、FGF21を投与したマウスは数週間以内に体重が正常化し、インスリン抵抗性が改善された。骨量や骨密度の低下といった副作用はみられなかった。対して、プラセボを投与したマウスは体重が変わらなかった。

 「今回の動物実験の成功により、次のステップに進むことができます。目指しているのは、ヒトを対象とした臨床試験の開始です。近い将来に、FGF21を使った2型糖尿病や肥満、関連する疾患の新たな治療法を開発できる可能性があります」と、ボッシュ教授は言う。
インスリン注射に代わる治療法が開発される可能性
 こうした研究が進めば、近い将来に毎日のインスリン注射に代わる治療法が開発される可能性がある。

 経口インスリンの開発に成功したという研究も発表された。ハーバード大学は先日、インスリン経口投与法を開発し、ラットで有用性を確認したと発表した。

 「世界では2型糖尿病と肥満の有病者は驚くべき速度で増えています。しかし、治療法も進歩しています」と、ボッシュ教授は述べている。

UAB researchers cure type 2 diabetes and obesity in mice using gene therapy(バロセロナ大学 2018年7月9日)
FGF21 gene therapy as treatment for obesity and insulin resistance(EMBO Molecular Medicine 2018年7月9日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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