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2018年10月11日

糖尿病と「うつ病対策」 職場でのメンタルヘルスケアが鍵に 日本は最下位

 糖尿病とともに生きる人は、何らかのうつ症状をもつ割合が約2倍に上昇するという報告がある。
 心の不調について職場の上司に相談できると、そうでない場合に比べ、職場の状態が良くなることが、日本を含む15ヵ国の1万6,000人を対象とした研究で明らかになった。職場で従業員のうつ病に対応している比率は、日本は最下位の16%だった。
話すのは良いこと!
うつ病からの開放が職場の生産性を上げる
 日本を含む15ヵ国の1万6,018人を対象とした横断調査で、「うつ病の労働者が仕事を休む頻度を減らすために、上司の理解と支援が必要」であることが明らかになった。

 うつ病を含む精神疾患は、個人および社会に大きな打撃を与える。働き続けていれば、どこかの時点でうつ病を経験することは珍しいことではない。職場でのメンタルヘルスの不調を経験している労働者は6.8人に1人(14.7%)に上るという。

 研究は、ロンドン スクール オブ エコノミクス(LSE)の個人社会サービス研究ユニットのサラ エヴァン ラツコ氏らによるもので、医学雑誌「BMJ Open」に発表された。

 「雇用者がうつ病について話し合う機会を設けるのを避けていると、労働者は仕事を拒むようになり、仕事を続けている場合でも生産的が低下することが示されました。従業員がメンタルな問題に対処するのを、管理職が積極的に支援することで、職場は変われる可能性があります」と、エヴァン ラツコ氏は言う。

関連情報
従業員のうつ病に対応している比率 日本は最下位の16%
 研究の対象となったのは、欧州の7ヵ国(デンマーク、フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、英国、トルコ)、および南米やアジアなどの8ヵ国(ブラジル、カナダ、中国、日本、韓国、メキシコ、南アフリカ、米国)の、計1万6,018人の従業員および管理職。

 15ヵ国中で上司が従業員のうつ病に対応していた比率が高かった上位3ヵ国は、(1)メキシコ(67.3%)、(2)南アフリカ(56.3%)、(3)スペイン(56.0%)。逆にもっとも低かった国は(15)日本(16.0%)、(14)韓国(28.7%)、ドイツ(39.0%)。日本は最下位だった。

 上司が従業員のうつ病に対応するのを避けた比率が高かった上位3ヵ国は、(1)韓国(30.2%)、(2)中国(27.0%)、(3)イタリア(13.0%)。日本は5位の9.0%だった。

 うつ病の発症に休暇のとり方も大きく関わっている。世界的に教育水準の高い人ほど休暇をとりやすく、企業の規模は小さい方が休暇をとりやすい傾向がみられた。
糖尿病の人はうつ病になりやすい?
 うつ病は、誰がいつなってもおかしくない身近な病気だ。日本人の15人に1人が、一生のうちに1回はうつ病になると言われているが、糖尿病とともに生きる人は糖尿病でない人に比べ、何らかのうつ症状をもつ割合が約2倍に上昇する。うつ病のある人でも、ストレス症状が強く、糖尿病のリスクが上昇するという。

 うつ病になると、心だけでなく体にも影響が出てきくる。自律神経やホルモンの分泌など、体の働きを調節するさまざまな機能に不具合が出てくる。糖尿病のある人がうつ病になると、インスリンの作用が弱くなるなどの悪影響が出て、血糖コントロールを良好に維持するのが難しくなるという報告がある。

 さらに、うつ病になり意欲や集中力が低下し、予約どおりに通院したり、定められた通りに服用するのが困難になり、また健康的な食生活や習慣的な運動を続けるのが難しくなるおそれがある。

 一方で、うつ病は医療的介入がしやすい病気ともされている。産業医・看護職・心理職などの産業保健スタッフが、うつ病についての十分な知識を持ち、早期発見につとめ、職場の管理職と連携を取り、適切な対応をとることで改善できる。職場での業務上や勤務面での配慮が必要な場合や、職場への理解を求める必要がある場合など、職場の理解を得ることも必要だ。

 糖尿病とともに生きる人は、体の健康だけでなく、心の健康にも配慮することが大切だ。しかし、実際には「職場や家族に心配をかけたくない」という思いから、自分自身で悩みを抱え込み、誰にも相談できずにいるケースも多い。
うつ病について知ることが負のコストを減らす
 「うつ病は目では見えない病気です。うつ病を発症した人は、ある時点までそれを隠す傾向があります。職場で従業員がうつ病について公然と話せない雰囲気があると、その傾向は強まります。業績が落ち込んでもその理由が分からない場合には、背後にうつ病が隠れているおそれがあります」と、エヴァン ラツコ氏は言う。

 これまでの研究では、うつ病を含む精神疾患を抱える労働者の約70%がそのことを隠していることが判明している。うつ病に対して恐れやスティグマ(負の烙印)を感じ、仕事を失ったり、続けるのが難しくなるのを恐れているからだと考えられる。

 「管理職は良い職場を維持するために、従業員の病状の変化を早期に認識し、サポートを提供し、良い職場を作るようトレーニングを受けるべきです。そのことが結果として、従業員を助け、職場の負のコストを減らすことにつながります」と、エヴァン ラツコ氏は指摘している。

It's good to talk! Openness about depression in workplace increases productivity(ロンドン スクール オブ エコノミクス 2018年7月24日)
Is manager support related to workplace productivity for people with depression: a secondary analysis of a cross-sectional survey from 15 countries(BMJ open 2018年7月26日)
The prevalence of comorbid depression in adults with diabetes: a meta-analysis(Diabetes Care 2001年6月)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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