ニュース
2018年11月08日
糖尿病の治療薬が「アルツハイマー病」のリスクを減らす 脳の血管を保護
糖尿病の治療薬により、アルツハイマーの進行を抑えられる可能性があることが、米国の研究で明らかになった。メトホルミンやインスリンが、脳の血管がダメージを受けるのを防ぎ、認知障害が進行するのを抑えるという。
糖尿病のある人ではアルツハイマー病のリスクが上昇
糖尿病治療薬で治療を受けているアルツハイマー病患者は、糖尿病の治療を受けていないアルツハイマー病患者に比べ、脳の微小血管および遺伝子発現の異常が抑えられていることが、米国のマウントシナイ医科大学の研究で明らかになった。
メトホルミンやインスリンなどの糖尿病治療薬が、脳組織と脳の血管を覆う内皮細胞の両方を保護して、アルツハイマー病により脳の毛細血管がダメージを受けるのを抑えている可能性がある。
アルツハイマー病は、記憶を司る脳の海馬の周辺から萎縮が始まる病気で、最初に物忘れが起こるのが特徴だ。進行するにつれて脳全体が萎縮して、認知機能全体が徐々に低下していく。
アルツハイマー病は進行性の病気で、現在はまだ治療によって根本的に治すことができない。アルツハイマー病の初期段階は軽度認知障害といい、この段階では日常生活にほぼ支障はないが、進行すると記憶や思考能力が障害され、日常生活に支障が出る認知症になる。
糖尿病はアルツハイマー病の危険因子だ。糖尿病のある人ではそうでない人に比べ、アルツハイマー病や血管性認知症の発症リスクが2〜4倍に上昇することが、日本人を対象とした調査でも示されている。
関連情報
糖尿病の治療を続ければアルツハイマー病のリスクは低下
研究チームは、アルツハイマー病と糖尿病を併発して、療法の治療を受けている患者34人と、アルツハイマー病を発症したが糖尿病ではない患者19人の脳を調べた。
2型糖尿病の治療を受けている患者の大部分は、メトホルミンあるいはインスリンで血糖値をコントロールしていた。
その結果、糖尿病の治療薬で治療を受けている患者では、そうでない患者に比べ、脳の細小血管の状態が良好であることが分かった。
「アルツハイマー病を発症した患者の多くで、脳の毛細血管の内皮細胞に遺伝子発現の異常がみられます。メトホルミンやインスリンで治療を受けている患者では、これらの異常の数がはるかに少ないか、その規模が縮小していることが分かりました」と、ヴァラム ハルチュニアン教授(精神科・神経科学科)は言う。
アルツハイマー病の病因について分かっていないことも多いが、神経細胞毒性の強いタンパク質が神経細胞に沈着し、細胞にダメージを与えるこで引き起こされると考えられている。
毒性の強いタンパク質が凝集してアミロイド斑として沈着することで、神経細胞がダメージを受ける。このアミロイド斑の抗原や抗体をつくる治療の開発が進められているが、ほとんどが成功していない。
研究チームは、血管と脳組織を別々に検査して、アルツハイマー病が脳の毛細血管細胞およびインスリンシグナル伝達にどのような変化をもたらすかを調べるために、脳の分子RNAマーカーの変化を調べた。
その結果、糖尿病治療薬を用いていたアルツハイマー病患者では、脳組織と脳血管のマーカーの半分が減少し、RNAの変化がほとんどみられないことが判明した。
糖尿病治療薬に脳の血管を保護する作用が
「糖尿病の治療薬を用いていたアルツハイマー患者では脳の病変が少ないことが分かりました。糖尿病治療薬に脳の血管を保護する作用があり、脳への血液の供給を助けている可能性があります。糖尿病だけでなく、アルツハイマー病の新たな治療法につながる発見です」と、ハルチュニアン教授は言う。
ハルチュニアン教授によると、糖尿病患者は適切な糖尿病の治療を受けないでいると、アルツハイマー病を発症する危険性が上昇する。またアルツハイマー病の多くが2型糖尿病を併発しているという。
世界の約5,000万人が認知症で、約1,000万が毎年認知症を発症している。認知症でもっとも多くみられる病型がアルツハイマー病で、60〜70%がアルツハイマー病だとみられている。
アルツハイマー病の原因のひとつは、脳でインスリン抵抗性が起こることだと考えられている。アルツハイマー病による認知能力の低下を遅らせるために、インスリン療法を積極的に行う治療法も試されている。アメリカ国立老化研究所は、鼻スプレーでインスリンを投与する治療の臨床試験を行っている。
「今回の研究は、2型糖尿病を発症していないアルツハイマー病患者が糖尿病の治療薬を服用をするべきであることを意味しているわけではありません。しかし、糖尿病患者だけでなく、アルツハイマー病患者にも新たな希望を抱かせるものです」と、ハルチュニアン教授は指摘している。
Diabetes Medications May Reduce Alzheimer’s Disease Severity(マウントサイナイ医科大学 2018年11月1日)Parahippocampal gyrus expression of endothelial and insulin receptor signaling pathway genes is modulated by Alzheimer’s disease and normalized by treatment with anti-diabetic agents(PLOS One 2018年11月1日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所
メンタルヘルスの関連記事
- うつ病は糖尿病の危険因子 うつ病を治療すると血糖管理も改善 両方を良くする「マインドフルネス」とは?
- ヨーグルトやチーズなどが糖尿病リスクを減少 ジャンクフードから置き換えると効果 認知機能も上昇
- 植物性食品が腸内細菌を健康に 食欲を抑えられ糖尿病も改善 腸内の善玉菌を増やすのはこんな食品
- 糖尿病の人のメンタル不調を「7つの生活スタイル」で低減 ソーシャルメディアの有効活用もうつ病を軽減
- 糖尿病の男性は「ED(勃起障害)」のリスクが高い 性の悩みは恥ずべきことではない 深刻な病気が隠れていることも
- ジャンクフードの「間食」は糖尿病や認知症のリスクを高める 食べると良いのはどんな食品?
- 睡眠で糖尿病を改善 良い睡眠はメンタルヘルスも高める 快眠に必要な2つのこととは?
- 「夜型」の生活スタイルの人は糖尿病リスクが上昇 食事・運動・仕事などを整えると改善
- 認知症を予防するための[食事・運動・睡眠]は糖尿病の治療と共通 9月は「世界アルツハイマー月間」
- 糖尿病の人は認知症リスクが高い ホウレンソウやブロッコリーで認知症を予防