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2019年03月06日

太っていなくても糖尿病に 日本人は少しの体脂肪増加や運動不足で異常が

 日本をはじめアジア人では、太っていなくても生活習慣病(代謝異常)になる人がきわめて多い。順天堂大学大学の研究グループは、肥満ではない男性50人以上を対象に、世界でも前例のない規模で調査を実施した。
 正常体重で健康な日本人男性の中にも、脂肪組織の貯蔵能力が低下していて、軽度の代謝異常になる人がいることをはじめて明らかにした。「肥満でない人でも、脂肪の貯蔵能力に着目した新たな取り組みが必要」と指摘している。
体重は正常でも脂肪組織の貯蔵能力が低下している場合が
 肥満状態になると、2型糖尿病やメタボリックシンドロームといった生活習慣病(代謝異常)になりやすい。肥満者では脂質を貯蔵する脂肪細胞が容量オーバーとなり、遊離脂肪酸としてあふれだす。これを「リピッドスピルオーバー」と呼ぶ。

 脂肪は主に中性脂肪として皮下脂肪や内臓脂肪といった脂肪組織に蓄えられる。空腹時には脂肪をエネルギーとして利用するために脂肪組織に蓄えられた中性脂肪が分解され、遊離脂肪酸となって放出される。この放出や貯蔵をコントロールしているホルモンがインスリンだ。

 肝臓や筋肉にも蓄えられる脂肪を「異所性脂肪」という。臓器に異所性脂肪が蓄積すると(脂肪肝、脂肪筋)、溜まった脂肪が毒性をもたらし、肝臓や骨格筋に作用して血糖値を低下させるインスリンが効きにくくなる、つまり「インスリン抵抗性」が生じる。

 一方で、アジア人では、2型糖尿病や脂質異常症などを発症する人の多くは、体格指数(BMI)が25未満の非肥満者だ。その原因として、欧米人などに比べアジア人では皮下脂肪に脂肪を十分に貯蔵できず、リピッドスピルオーバーを生じやすいからだと考えられるという。

 研究は、順天堂大学大学院医学研究科代謝内分泌内科学・スポートロジーセンターの田村好史准教授、河盛隆造特任教授、綿田裕孝教授らの研究グループによるもの。その成果は米国内分泌学会雑誌「Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism」オンライン版に発表された。
脂肪組織でインスリン感受性が低下
 研究グループは、肥満ではない日本人を対象に、脂肪組織にどのような変化が起きているかを調べた。

 BMIが正常範囲内(21〜25)で、心血管代謝リスク因子(高血糖、脂質異常症、高血圧のいずれか)をもっていない健康な男性52人を対象に、全身の代謝状態や脂肪分布を調べる調査を行った。

 具体的には脂肪および肝臓、骨格筋のインスリン抵抗性を、「2-ステップ高インスリン正常血糖クランプ法」で測定した。

 この検査は、肝臓、骨格筋のインスリン抵抗性を精密に調べるためのもので、1人の計測に10時間程度を要する。大変な検査のため、今回のように健康な人を対象に50人を超える規模で行ったのは世界でも前例がない。

 リピッドスピルオーバーの指標として、インスリンにより血液中の遊離脂肪酸濃度がどれくらい低下するかを調べた。

 その結果、非肥満で健康な人の中でも、肥満者と同様に、血中遊離脂肪酸が低下しにくい(脂肪組織インスリン感受性が低下している)人がいることが明らかになった。
インスリン抵抗性が脂肪増加や体力低下などの原因に
 一般的に健康な人ではインスリンにより血液中の遊離脂肪酸の濃度は急激に低下する。しかし、リピッドスピルオーバーを起こしている肥満者では、脂肪酸放出の抑制が効かず、血中の遊離脂肪酸の濃度があまり低下しない。

 そこで研究グループは、どのような人が脂肪組織インスリン感受性が低下しているかを調べるため、感受性が高い人と低い人の2群に分けその比較した。

 すると、脂肪組織インスリン感受性の低い群では、体脂肪率が高い、皮下脂肪が多い、肝脂肪が多い、など全身の脂肪量が多いことに加え、体力レベル・日常生活活動量が低い、中性脂肪が高い、善玉コレステロール(HDLコレステロール)が低い、筋肉のインスリン抵抗性がある、という特徴が明らかになった。

 なお、持久的な運動能力はジョギングなど、ある程度の強度の運動で高められるのに対し、日常生活活動量はふだん歩いている量を指している。普通に歩くだけでは体力の向上はそれほど期待できない。

 身体活動のガイドラインでは、歩く量を増やすことと、ジョギングなどのある程度の強度の運動の両方に取り組むことが推奨されている。
軽度の肝脂肪蓄積・中性脂肪の上昇が脂肪組織インスリン抵抗性のマーカーに
 脂肪組織インスリン感受性が低下した人の特徴のひとつに体脂肪率の軽度増加(22.1%)があり、正常体重の健康な男性でも軽度の体脂肪の増加により脂肪貯蔵能力を越えてしまう可能性があるという。

 それ以外にも、運動不足や体力レベルの低下が脂肪組織インスリン感受性低下と関連している。

 これらのことから、「体重が正常であっても体脂肪率に注意して健康管理にあたるとともに、ガイドラインでも示されている通り、ふだんの歩く量(生活活動量)を増やしたり、ジョギングなど体力が向上するような活動にも取り組むことが有用と考えられます」と、研究者は説明している。

 また、体脂肪率増加に加えて、これまで考慮されてこなかった軽度の中性脂肪の増加やHDLコレステロールの低下は、脂肪組織インスリン抵抗性を知る簡便なマーカーとして有用と考えられ、今後は健康診断をはじめとした予防医学での活用が期待されるという。

順天堂大学大学院 医学研究科 代謝内分泌内科学
順天堂大学大学院 スポートロジーセンター
Clinical Features of Non-obese, Apparently Healthy Japanese Men with Reduced Adipose Tissue Insulin Sensitivity(Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism 2019年1月23日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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