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26. 雑感『生活エンジョイ物語』
2002年08月
 このホームページ『糖尿病ネットワーク』には、『生活エンジョイ物語』という副題がついています。この生活エンジョイ物語というのがなんのことだかわからない方も多いと思いますので、その話を書きます。

 生活エンジョイ物語というのは、当社が十数年前から数年前まで年2回発行していた糖尿病の生活情報冊子の名称です(現在は休刊中です)。生活エンジョイ物語を印刷からインターネットに移行するかたちで、糖尿病ネットワークが始まりました。ホームページの副題は、その名残です。

 私が初めて生活エンジョイ物語という冊子名を聞いたとき、生活をエンジョイする(楽しむ、享受する)ことと糖尿病がどう関係あるのか、ピンときませんでした。その後、今日まで何度かこの名称のことを考える機会があり、今では図のように考えています。意味不明瞭な図だと思いますので、言葉で補います。余計わかりにくくなるかもしれませんが…

■いろいろな立場での糖尿病の治療目的

 図の縦軸は、糖尿病の治療目的の幅を示しています。
 糖尿病の解説書には、糖尿病の治療目的(なぜ糖尿病を治療するのか)は「血糖値をコントロールして合併症を発症・進行させず、糖尿病でない人と変わらない一生を送ること」と書いてあります。

 もう少し詳しい本には糖尿病の歴史などが載っていて、インスリンが見つかるまで(80年ほど前まで)糖尿病の多くは死の病であったことや、その後もしばらくは、高血糖による差し迫った死は避けられるようになったものの合併症は避けられなかったこと、現在は合併症を抑えるためにはどうすればよいかがわかっていて、患者さんの自己管理と適切な医療によりそれが実現可能であること、さらにこれからは糖尿病特有の合併症(三大合併症)予防だけでなく、動脈硬化の予防のためより積極的な治療が大切になる、といったことが書かれています。

 これらからわかることは、糖尿病という病気は、病気の性質や治療の目的が、医学の進歩とともに移り変わるということです。しかし、医学の進歩以外にも、糖尿病の治療目的に影響を与える要素はいくつかあげられます。それを図の横軸に表現してみました。

 例えば糖尿病のタイプ。横軸の右端は1型でも2型でも同じで、合併症を起こさず健康に生涯を送るというラインで一致します。しかし横軸の左端は、1型の場合、生命を支えるために治療をするというラインまで伸び、2型の場合より治療目的の幅は広くなります。

 患者さんの糖尿病に対する理解度や人生観によっても、治療目的の幅に差が生じます。「糖尿病の治療で好きなことができなくなるくらいなら、やりたいことをして早死にしたほうがまし」という人もなかにはいるでしょう。この場合、横軸の右端を患者さん自らが左にずらしているといえます。ただしそのようなケースでは、その患者さんの糖尿病のとらえ方が変わったり、実際に合併症が起きた場合などに、横軸が右に伸びることがあります。

 国や社会の豊かさ、供給可能な医療技術のレベル、医療へのアクセスのしやすさなどによっても、治療目的の幅が生じます。以前にこのコーナーでも紹介したことがありますが、糖尿病の治療を受けられないために命を脅かされている人も、世界にはたくさんいるようです。さいわい日本は医療へのアクセスのよさが世界一といわれていて、誰にでも「合併症を起こさずに健康な一生を送る」という治療目的をめざす機会が用意されているといってよいでしょう。

 糖尿病のとらえ方は、その人の生活環境、その人のその時点での人生観などによって一人ひとり異なります。医学の進歩に伴って実現可能になった治療レベルを、すべての患者さんの治療目的として杓子定規に当てはめるのは、医学の面からみたとらえ方で、治療の主要な部分を占める患者さんの自己管理継続のためには、医学以外の要素も必要になります。そのあたりに生活エンジョイ物語という言葉が関係しているように思います。

■治療目的の達成を支える要素

 糖尿病の治療目的が生命を守るためであった時代(社会)であれば、患者さん自身が治療の目的を考える必要はなく、医師に自分をゆだねるしかありません。しかし、今の日本においての糖尿病治療は医師まかせではだめで、患者さんの自己管理が大切です。適切な医療と患者さんの自己管理がピッタリとマッチしたとき、よりよい治療の継続が可能になります。そして、糖尿病の治療目的を高くおくほど患者さんの自己管理の重要性が増し、病院での医師の処置や処方でできることは相対的に少なくなるといえます。

 自己管理の継続には、それを可能にする環境の整備とともに、治療の動機付けが必要です。環境の整備には、周囲の人(ご家族や患者さん同士)の協力が欠かせないケースもあります。動機付けとは、患者さんが「なんのために糖尿病を治療するのか」を考えることです。豊かな人生を送ろうとすること、生活をエンジョイすることが、いろいろな意味でよりよい糖尿病の治療につながるのではないかと思います。

 と、ここまで書いて、あたり前のことをまわりくどく表現しているだけのような気がしてきました。

■生活エンジョイ物語の登場人物

 生活エンジョイ物語ツアークラブ会長の、真田さんのことを書こうと思います。

 真田さんは、ご本人の胸の内はわかりませんが、はたから見ているととても幸せそうです。生活エンジョイ物語の第1回海外旅行に参加され、以来、数々の国内外の旅行やイベントを企画され、その度に多くの患者さん仲間を集めてきて、ご夫婦で楽しまれています。おん年75歳。昔話の絵本に出てくる翁のようなお顔をした、一期一会という言葉が大好きな2型糖尿病の男性です。

 糖尿病とともに生きることを“一病息災”と表現しますが、真田さんは糖尿病のほかに、心臓の大動脈弁を人工弁に置換する手術をしていたり、がんで胃を切除をしたり、胆のうも切除していたりと、合計五つの病気をもっていています。本人は「五病息災です」などと呑気に、そして少し得意気に言っています。

 もちろん、そうしていられる背景には、糖尿病手帳はもとより、食事のカロリー、歩数計の歩数、便の回数・状態、体温、体重、その他を毎日記録して、病気を管理し続けている姿があります。自己管理を楽しんでいるふうさえ伺えます。海外ツアーでの、現地の患者さんや医療スタッフとの交流パーティーでは、これらの記録ノートを取り出して、いつも得意げに話をしています。

 真田さんが原稿を作られている友の会の会報に、ときおりこのような記事が載ります。「友の会はなぜ必要なのか! 患者の会を通じて健康な生活を送るよう努めることは社会や家族等に対する義務でもあり長生きのための手段でもあります」。

 糖尿病の自己管理に必要な知識や技術、考え方には、糖尿病の患者さんだからこそわかるという部分が少なくありません。患者さん同士の触れ合いを通じて互いによりよい自己管理をめざすこと、健康な人と同じように長生しようとすることは、その目的をもつ条件が整っている今の日本において、社会や家族に対する義務でもあるのかもしれません。

 生活エンジョイ物語の一つの理想的なかたちが真田さんではないかと思います。楽しむことが糖尿病治療の動機付けになり、その成果によって、さらによい治療につながる。そのサイクルを繰り返しつつ周囲の人も巻き込んで、ともに人生を享受する。真田さんが一期一会を大切にしたいわけは、このあたりにあるようです。

 かといって、だれもが真田さんと同じように行動できるわけではなく、またそうしなければならない理由もありません。楽しんだり人生を享受する方法は、人それぞれ別々です。よりよい血糖コントロールを目指すことだけを目的に生きるという時期も、ときにはあるでしょうし、大切なことだと思います。

 糖尿病のある人生を舞台に、個性あるいろいろな人物が登場し演じあえば、生活エンジョイ物語のストーリーはますます楽しく展開していくことでしょう。

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INDEX
  1. 厚生白書に見る糖尿病
  2. 糖尿病の患者数と医療費の推移
  3. 目で見る病型、病気のかたち
  4. 糖尿病食と減塩食
  5. 5分でわかる糖尿病
  6. インスリンを打つということ、食事を摂るということ
  7. 足がビリビリ? 神経障害
  8. 糖尿病ネットワークを担当して
  9. 『糖尿病からの帰還』を読んで
  10. 眼鏡をかけるとよく見える?
  11. 糖尿病の方が加入できる保険
  12. 糖尿病と人工透析(1999)
  13. 長時間、飛行機に乗る際に
  14. 高血糖は高血圧や高脂血症より、健康上の問題として認識されにくい
  15. インスリン誕生の地
  16. GOLD・たばこ・糖尿病
  17. 「糖尿病ネットワーク」開設5周年
  18. 食後3時間以上経過して血糖値200以上の人の頻度、ほか
  19. 超速効型インスリンは、山を削って谷を埋める
  20. 尿糖を調べてみよう
  21. 生活習慣病の一次予防に向けて
  22. “インスリンに頼る”という表現
  23. 民間療法
  24. 「日臨内研究2000」にみる、糖尿病性神経障害とわが国の糖尿病の実態
  25. 糖尿病の食事療法
  26. 雑感『生活エンジョイ物語』
  27. 血糖値の情報量
  28. 女性糖尿病患者はどこに?〜性差と病名について〜
  29. 気になったセールストーク
  30. インスリン療法を続けて50年 第1回「リリー インスリン50年賞」表彰式
  31. 糖尿病患者として世界で初めて南極点へ到達 ウイル・クロスさん
  32. 糖尿病とたばこ
  33. 旅行者血栓症
  34. インスリン療法を続けて50年
  35. 糖尿病患者さんの年末・年始の過ごし方