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28. 女性糖尿病患者はどこに?〜性差と病名について〜
2003年07月
 ある調べ物をしていて厚生労働省の『人口動態統計(平成13年、確定数)』を見ていたとき、ちょっと不思議なことに気付きました。『性別にみる死因順位(第10位まで)』という表の男性の欄の第10位、女性の欄の第9位に糖尿病が入っているのですが、男女合計(総数)の表には糖尿病が入っていないのです(表1)。「なんでだろう?」という疑問にまず思い浮かんだのは、「きっと糖尿病はほかの疾患に比べると性別による患者数の差が少ないから、合計数では10位以内に入らないんだな」という答えでした。
 この答えが正しいのかどうかを確かめるために、おもな死因を性別に比率すべく計算してみました。計算結果は表2のとおりで、死因としての糖尿病の男女比は肺炎に次いで1に近く、性差が少ないことがわかりました。
 
 表1 性別にみた日本人の死因順位
順位男女合計の順位男性の順位女性の順位
1位悪性新生物悪性新生物悪性新生物
2位心疾患心疾患心疾患
3位脳血管疾患脳血管疾患脳血管疾患
4位肺炎肺炎肺炎
5位不慮の事故不慮の事故老衰
6位自殺自殺不慮の事故
7位老衰肝疾患腎不全
8位腎不全慢性閉塞性肺疾患自殺
9位肝疾患腎不全糖尿病
10位慢性閉塞性肺疾患糖尿病肝疾患

 表2 性別にみた死亡数とその男女比
死因死亡数男女比※1
男性
(A)
女性
(B)
A÷B
(C)
C÷1.197※2
1位悪性新生物181,393119,2651.521.27
2位心疾患72,72775,5650.960.80
3位脳血管疾患63,14668,7100.920.77
4位肺炎45,75639,5491.160.97
5位不慮の事故24,99314,5031.721.44
6位自殺21,0858,2902.542.12
7位老衰6,09416,0510.380.32
8位腎不全8,2029,4880.860.72
9位肝疾患10,9114,9372.211.85
10位慢性閉塞性肺疾患9,6673,4022.842.37
糖尿病6,3685,7791.100.92
全 死 因 の 合 計528,768441,5631.197
※1:女性の死亡数を1とした場合の男性の死亡数を表しました。
※2:男性の死亡数の合計(528,768)は女性の死亡数の合計(441,563)の1.197倍なので、1.197で割って調整しました。
 
 話がここまでなら、たぶんこの文章を書こうとは思い立たず、このコーナーは名実ともに“年刊DM−NET”になるはずでした。ところがこの調べ物をした数日後に、今度は『国民生活基礎調査(平成13年)』というのをみていたところ、また意外なことに気付いたのです。
『国民生活基礎調査』のなかに、傷病で通院している人が人口千人あたり何人いるかを表した‘通院者率’という項目があって、男女別に上位5位までの通院の理由があげられていました。その第1位は男女ともに高血圧症です。高血圧は日本の国民病ですから、当然ですね。それで、男性の第2位以下は、ムシ歯、腰痛症、糖尿病、高脂血症と続いていて、糖尿病が4位に入っていました。かたや女性は、腰痛症、ムシ歯、肩こり症、白内障で、糖尿病が入っていません。「なんでだろう。女性は糖尿病になってもあまり通院しないっていうことなのだろうか?」。
 というわけで、6位以下の通院の理由を図書館に行って調べてみたところ、女性の糖尿病の通院率は10番目でした(表3)。糖尿病の通院者率は男性 28.8、女性は 20.8です。通院者率の性別による偏りを病気別にみるため、男性の通院者率を女性のそれで割ってみました(表4)。通院者率上位10位に入っている傷病のなかでは、糖尿病だけ計算結果が1以上になり、糖尿病以外の傷病は女性の通院者率が男性を上回っています。
 
 表3 性別にみた通院率上位10位の傷病
順位男女合計の順位男性の順位女性の順位
1位高血圧症高血圧症高血圧症
2位腰痛症ムシ歯腰痛症
3位ムシ歯腰痛症ムシ歯
4位高脂血症糖尿病肩こり症
5位肩こり症高脂血症白内障
6位白内障歯肉炎・歯周疾患高脂血症
7位糖尿病白内障関節症
8位歯肉炎・歯周疾患狭心症・心筋梗塞その他
9位その他その他歯肉炎・歯周疾患
10位関節症肩こり症糖尿病
 
 表4 性別にみた通院者率とその男女比
傷病通院者率男女比※3
男性
(A)
女性
(B)
A÷B
1位高血圧症64.978.20.83
2位腰痛症32.747.10.69
3位ムシ歯34.240.70.84
4位高脂血症20.033.40.60
5位肩こり症14.737.20.40
6位白内障16.534.20.48
7位糖尿病28.820.81.38
8位歯肉炎・歯周疾患19.623.20.84
9位その他16.025.10.64
10位関節症11.125.30.44
全 傷 病287.4338.60.849
※3:女性の通院者率を1とした場合の男性の通院者率を表しました。
 
 糖尿病の患者数は、患者調査その他の統計をみると、実際に女性よりも男性のほうがやや多いようですから、この結果は不思議なことではないのかもしれません。でもそれでは、数日前に見た死因の統計から当て推量した「糖尿病はほかの病気よりも性差が少ないのでは」という点との整合性は一体どうなってしまうのでしょうか。それに、糖尿病以外の病気は女性の通院率のほうが高いのに、なぜ糖尿病だけ男性の通院率が高いのでしょうか。
 当て推量を続けますと、調査方法の違いに答えがあるように思えてきました。
 通院率の調査方法は、「あらかじめ調査員が配布した調査票に世帯員が自ら記入し、後日、調査員が回収する」となっています。つまり、死因や患者調査などの医療機関経由の調査と違って、患者さんの自己申告で調べられているということです。

 なにを書きたいのかといいますと、「女性はひょっとすると、自分から『糖尿病です』というのに、ためらいがあるのではないか」ということです。もちろん、女性に限らず男性でも(また、糖尿病に限らずほかの病気でも)、自分の病気のことを必要もないのに積極的に他人に伝えようとはしないでしょう。ただ、糖尿病という病名は、女性にとって、とくに糖尿病をもっていることの多い中高年女性にとって、高血圧や腰痛、肩凝り、白内障などよりも、書きずらい(口にしずらい)ということはないでしょうか。「尿」という文字が災いしているのかもしれません。
「糖尿病だって、参ったな」などと言う中高年男性の姿や、「白内障で物が見にくくて。そろそろ手術してもらったほうがいいのかしら」という中高年女性の姿は割と思い描きやすいのですが、糖尿病について話している女性の姿を思い描こうとすると、どうしても少し恥じらいを持ちつつ話している姿が浮かんでしまうのですが、単なる思い込みでしょうか?
補足(2003年8月29日追加)】
 このページをUPしたあと、しばらくして、厚生労働省から『平成14年 労働者健康状況調査の概要』が公表されました。そのなかに‘持病の状況’という調査項目があり、医師から診断された持病があると答えた人の割合がわかります。それによると、男性の30.6パーセント、女性の25.9パーセントが‘持病あり’と答えていますが(表5)、糖尿病は男性12.6パーセントに対し女性は1.8パーセントのみで7倍の開きがあり、ほかの持病に比べて男女間の較差が際だっています。
 この調査の調査方法も「統計調査員が調査対象事業所を訪問し、実地自計の方法により調査を実施」となっていて、やはり医療機関経由の調査ではありません。

表5 性別にみた持病があると答えた労働者の割合
複数回答(単位:%)
持病の種類腰痛高血圧高脂血症胃腸病糖尿病歯周病ぜん息肝臓病痛風心臓病神経痛、リウマチ頸肩腕症候群腎臓病神経症その他不明
男女合計25.922.313.413.18.98.16.26.05.03.82.31.51.20.822.50.2
男性27.022.912.415.912.68.55.07.97.43.92.41.01.60.917.60.1
女性23.721.015.47.81.87.38.42.40.63.72.02.30.40.532.10.3

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INDEX
  1. 厚生白書に見る糖尿病
  2. 糖尿病の患者数と医療費の推移
  3. 目で見る病型、病気のかたち
  4. 糖尿病食と減塩食
  5. 5分でわかる糖尿病
  6. インスリンを打つということ、食事を摂るということ
  7. 足がビリビリ? 神経障害
  8. 糖尿病ネットワークを担当して
  9. 『糖尿病からの帰還』を読んで
  10. 眼鏡をかけるとよく見える?
  11. 糖尿病の方が加入できる保険
  12. 糖尿病と人工透析(1999)
  13. 長時間、飛行機に乗る際に
  14. 高血糖は高血圧や高脂血症より、健康上の問題として認識されにくい
  15. インスリン誕生の地
  16. GOLD・たばこ・糖尿病
  17. 「糖尿病ネットワーク」開設5周年
  18. 食後3時間以上経過して血糖値200以上の人の頻度、ほか
  19. 超速効型インスリンは、山を削って谷を埋める
  20. 尿糖を調べてみよう
  21. 生活習慣病の一次予防に向けて
  22. “インスリンに頼る”という表現
  23. 民間療法
  24. 「日臨内研究2000」にみる、糖尿病性神経障害とわが国の糖尿病の実態
  25. 糖尿病の食事療法
  26. 雑感『生活エンジョイ物語』
  27. 血糖値の情報量
  28. 女性糖尿病患者はどこに?〜性差と病名について〜
  29. 気になったセールストーク
  30. インスリン療法を続けて50年 第1回「リリー インスリン50年賞」表彰式
  31. 糖尿病患者として世界で初めて南極点へ到達 ウイル・クロスさん
  32. 糖尿病とたばこ
  33. 旅行者血栓症
  34. インスリン療法を続けて50年
  35. 糖尿病患者さんの年末・年始の過ごし方