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9. 『糖尿病からの帰還』を読んで
2000年11月

 つい先日、文藝春秋より、糖尿病ネットワークで紹介してほしいという手紙とともに、一冊の本が送られてきました。「へえ〜。文藝春秋の人もこのホームページを知っているのかぁ。メジャーになったなぁー」と、少し得意になって包みを開くと、送られてきた本の書名は『糖尿病からの帰還 インスリン注射と訣別した女性』でした。

 「なんだ。民間療法のPRか」と思ってパラパラとページをめくると、すぐにそんな思い込みが間違いだと気づきました。

 著者はアメリカの人で、10歳のときに1型糖尿病を発病し、膵腎臓同時移植を受けた女性です。現在は、糖尿病であったかつての自分を客観的にみることができる状況にいます。その視点に立った糖尿病の治療・医療に関しての社会へのメッセージは、さまざまな問題提起を含んだ記述になっています。文字数が結構あって、私の頭は少しオーバーヒート気味ですが、どうやら著者の言いたいこの一部は理解できたと思います。

 今から約80年前にインスリンが発見されたことによって、糖尿病は死を待つしかない病ではなく、治療可能な病気のひとつになりました。その後、インスリン製剤の改良やデリバリーシステムの工夫により、どんどん血糖コントロールはしやすくなってきています。今では糖尿病は、一般的に、「患者自身の自覚と努力によって、全く健康な人と同じようにコントロールできるもの」とされています。

 著者は、こうした情報、社会の雰囲気に対し、「果たして本当にそうなのか? 合併症を抑えるのに十分な血糖値のコントロールは、健康な人と同じような生活の中でも可能なのか」ということを問いかけます。そして、「糖尿病のコントロールの難しさ、迫ってくる合併症の恐怖、それらを社会や医療提供者は理解しているのか。インスリンにより血糖値が下がることを、糖尿病を治療できることと同一に扱っているのではないか」と迫ります。また、膵臓移植に関する情報の少なさ、合併症が進行した人にとって膵臓移植を受けることが、それまでどおり強化インスリン療法を続けることよりどれだけ有用かを、認識している人が少なすぎる現状を訴えます。

 このような意見に、「現在の社会システムは、糖尿病患者にもできるかぎりの保障をしているのではないか。実際に、糖尿病であっても健康な人と全く同じように生活している人はいくらでもいるではないか。臓器移植を広めようといっても、それは無いものねだりではないのか?」と応じることは簡単です。しかし本書には、安易にそう答えることは、より大きな問題から目をそらす行為だと書かれているようです。

 このように紹介すると、本書には批判めいたことばかり書かれているように思われるかもしれませんが、そうでもありません。著者の闘病の記録と、新しい治療法、膵臓移植や膵島移植、膵島細胞の再生ほか、最先端の治療法の研究がわかりやすく解説されています。一度お読みになってみてはいかがでしょうか。  本書がなぜ『糖尿病からの帰還』という書名で、『インスリン注射と訣別した女性』という副題がついたのか。その理由を考えるのも、意味あることのように思います

『糖尿病からの帰還 インスリン注射と訣別した女性』
デボラ・バタフィールド著/西俣総平訳/岩本安彦監修
文藝春秋発行
2,381円
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INDEX
  1. 厚生白書に見る糖尿病
  2. 糖尿病の患者数と医療費の推移
  3. 目で見る病型、病気のかたち
  4. 糖尿病食と減塩食
  5. 5分でわかる糖尿病
  6. インスリンを打つということ、食事を摂るということ
  7. 足がビリビリ? 神経障害
  8. 糖尿病ネットワークを担当して
  9. 『糖尿病からの帰還』を読んで
  10. 眼鏡をかけるとよく見える?
  11. 糖尿病の方が加入できる保険
  12. 糖尿病と人工透析(1999)
  13. 長時間、飛行機に乗る際に
  14. 高血糖は高血圧や高脂血症より、健康上の問題として認識されにくい
  15. インスリン誕生の地
  16. GOLD・たばこ・糖尿病
  17. 「糖尿病ネットワーク」開設5周年
  18. 食後3時間以上経過して血糖値200以上の人の頻度、ほか
  19. 超速効型インスリンは、山を削って谷を埋める
  20. 尿糖を調べてみよう
  21. 生活習慣病の一次予防に向けて
  22. “インスリンに頼る”という表現
  23. 民間療法
  24. 「日臨内研究2000」にみる、糖尿病性神経障害とわが国の糖尿病の実態
  25. 糖尿病の食事療法
  26. 雑感『生活エンジョイ物語』
  27. 血糖値の情報量
  28. 女性糖尿病患者はどこに?〜性差と病名について〜
  29. 気になったセールストーク
  30. インスリン療法を続けて50年 第1回「リリー インスリン50年賞」表彰式
  31. 糖尿病患者として世界で初めて南極点へ到達 ウイル・クロスさん
  32. 糖尿病とたばこ
  33. 旅行者血栓症
  34. インスリン療法を続けて50年
  35. 糖尿病患者さんの年末・年始の過ごし方