第1章 基礎講座編
1. 糖尿病と女性のからだ
(2)月経と血糖のふか〜い関係って?

糖尿病と女性のライフサポートネットワーク
代表 田中 佳代
(久留米大学医学部看護学科 母性看護学・助産学 教授)

女性ホルモンはどのような作用があるのですか?
 月経が毎月のように周期的におこるのは、エストロゲンとプロゲステロンという二つの女性ホルモンが主に関係しています。エストロゲンの作用は、主に思春期での乳房の発育、子宮の内膜(子宮の内側にある膜。受精卵が落ち着く場)を厚くする、LDLコレステロール(一般的には悪玉コレステロールと言われています)の低下、骨量(あるいは骨密度)の維持などです。プロゲステロンの作用は、乳腺の発育、子宮内膜を柔らかくする、基礎体温の上昇などです。 女性のからだは、このようにホルモンの影響を受けています。

女性ホルモンとインスリンってどんな関係があるのですか?
 女性ホルモンは、インスリンの作用効果にも影響を与えています。エストロゲンはインスリンの効きを良くし、プロゲステロンは効きを悪くすると考えられています1)。 月経周期によって血糖はどのように変動するのか図にしてみました。(図1参照)

図1 女性ホルモンとインスリンの関係
図1 女性ホルモンとインスリンの関係

 つまり、いつもと変わらない生活をおくっていれば、月経が終了してしばらく(エストロゲンが上昇する「卵胞期」)は、血糖値は低めになりますが、月経前の2週間程度(プロゲステロンが上昇する「黄体期」)は血糖値が上昇しやすくなります。しかし、このような月経に伴う血糖の変動があるとすれば、それは女性ホルモンの影響だけではなく月経に関連する症状の影響も考えられます。

月経に関連する症状が、血糖にどう影響してくるのですか?
 月経に関連した症状はその時期によって異なり、月経前症候群(PMS)や月経困難症 といった症状を強く感じる方もおられます。

    ★月経前症候群(PMS):月経の3〜10日前の黄体期に出現する
                症状で、月経の開始と共に消失する。
  • ・からだの症状―乳房の張り・痛み、腹部膨満感、頭痛、むくみ、
            食欲亢進 など
  • ・こころの症状―いらいらする、不安感、憂うつ、情緒不安定 など

  • ★月経困難症:月経直前または開始とともに症状が出現する。
  • ・からだの症状―下腹痛、腰痛、吐き気、頭痛 など

 以上のような月経に関連した症状の有無や程度には個人差がありますが、こうした症状によって強いストレスを感じ、食ベ物の好みが変化したり、食べる量が増えたりすることや、運動量が少なくなるなどの変化が起きることがあります。糖尿病と共にある女性は、女性ホルモンだけではなく、このような身体症状から影響を受ける食生活や活動量の変化、精神的なストレスなどが血糖値の変動に影響を及ぼしている1)ことも理解しておいてほしいと思います。

実際に、どのくらいの方が月経周期によって血糖が変動しているのですか?
 月経周期による血糖値の変動は個人差があります。必ずしも全ての女性に当て はまるわけではありません。実際には、どのくらいの方が月経周期によって血糖 が変動しているのでしょうか? 1型糖尿病女性を対象に調査した結果では、70%の方が月経前に血糖が上がり、約半数の 方が月経初日に血糖が下がったとの報告があります2)。田中他の調査でも1型糖尿病女性の64.9%の方が月経周期に応じて血糖が変動したと答えました3)。2型糖尿病の方については、個人のインスリン分泌能(インスリンを出すタイミングや量を調節する機能)や食欲の増え方によって異なり、理論的には黄体期の血糖値は上昇する方向に向かうが、まだ十分なインスリン分泌能があれば、必要なインスリンが分泌されるので血糖は上昇しないとされます4)。その方のインスリンの分泌能によって、黄体期の血糖値の状況は異なると考えられています。

 糖尿病と共にある女性は、今、自分が月経周期のどの時期にあるのか、どんな症状があるのか等、自分の女性としてのからだにも目を向けていくことで、より良い血糖コントロールも繋がるのではないかと思います。

引用・参考文献
  • 1) 住田安弘:月経周期によって血糖コントロールが悪くなるような気がするのですが、本当ですか?.豊田長康編,「女性の糖尿病 診療ガイダンス」.メジカルビュー社,東京,p 12−13,2004.
  • 2) 内潟安子:月経周期とインスリン治療.Diabetes Journal,27(1):34−37,1999.
  • 3) 田中佳代,中嶋カツヱ,堀大蔵,林秀樹,和陽子,1型糖尿病を持つ女性のリプロダクティブヘルスに関する問題の構造化―1型糖尿病を持つ女性の月経・性生活・妊娠―. 糖尿病と妊娠,6(1),112-118.2006.
  • 4) 内潟安子:2型糖尿病女性の月経時の血糖上昇,日本医事新報,4449号,p79,2009.
  • 5) 宮尾益理子:生理によって血糖コントロールが乱れる女性患者と経口血糖降下薬の適正使用,薬局,57(9),49−53,2006.
  • 6) 松本清一監修:PMSの研究〜月経・こころ・からだ〜,文光堂,東京,1995.
(2015年03月 公開)
目 次
第1章 基礎講座編
1. 糖尿病と女性のからだ
2. あなたと私のための糖尿病基礎講座
第2章 子どもたちのこころとからだと糖尿病のある生活
1.糖尿病とともにある子どもたち―幼児―
2.糖尿病とともにある子どもたち―学童―
3.糖尿病とともに大人の女性への階段を登る―思春期―
第3章 大人の女性として(青年期)“女性が知っておいた方がいいことって?”
第4章 女性が生命を繋ぐその瞬間(とき)に〜妊娠・出産編
第5章 大変だけど、楽しい。子育てまっ最中の時に
第6章 次の世代を見守りながら育む時を(どう)過ごすか
第7章 看護職の方々へ
1. さあ、看護職者の出番です!
番外編 明日からの糖代謝異常妊婦のケアを考えよう

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