糖尿病患者さんの"甘い生活"を考える
 みなさま、"甘い生活"と聞いて、思い浮かべられることはなんでしょう? フェデリコ・フェリーニ監督のイタリア映画『 La dolce vita 』(1960年)、それとも、70年代の野口五郎のヒット曲でしょうか。最近では同名の韓流ドラマも流行りとか。

 さて、糖尿病をはじめとした生活習慣病の方にとって 文字通りの"甘い生活"、つまりお菓子などのスイーツはどのように捉えられているのでしょうか。糖尿病になったのは甘いもの食べたからでしょ?とか、糖尿病と言われてから好きだった和菓子もいっさい、口にしていませんという方のお話もよく聞きます。一方では、どうしても甘いものがやめられず、結果としてコントロールが思うようにならない方も少なからずいらっしゃいます。今回行った「間食指導に関するアンケート調査」で、糖尿病患者さんにとってこの"甘い生活"が、実際とても大きな悩みであることがわかりました。

 また、医療スタッフにとって、患者さんの "甘い生活"についての認識は実際どうだったのでしょうか。食事療法が糖尿病治療の基本であることは言うまでもありませんが、実生活において患者さんが直面される"甘い生活"についての指針は、実はあまり明確ではありません。型にはまった「間食の指導」は、忙しい現代生活のなかにあって、多くの人にとって現実的でない場合が多いようにも感じられます。また、厳しい制限を指導したがために、患者さんがこっそりお菓子を食べて"罪悪感"にとらわれてしまうのでは、真に患者さんに寄り添った指導とはいえないでしょう。逆にお菓子の(おそらく条件付)許可をしたために、"病院でよいといわれた"との間違った認識が一人歩きした結果、患者さんの健康を害してしまう事態も避けなければなりません。今回のアンケート調査を見て、糖尿病患者さんに対する間食指導に関して、臨床の現場での医療スタッフの戸惑いや解決への切実な思いが感じられました。

 根をつめた仕事が一段落したひととき、久しぶりに会った友人と語らうとき、お茶と甘いお菓子をいただくことはほっと心の和む瞬間であり、豊かな生活を送るうえで潤滑油として必要なことと思います。糖尿病は世界的な脅威であり、日本においても糖尿病や予備群、あるいはメタボリック症候群の方たちが成人国民のメジャーともなっていますが、このような多くの方が“甘い生活”から疎外されたままで治療を続けていくことは不自然でしょう。私たちは、今後 "甘い生活" にもきちんとした市民権を与えて、患者さん、医療者ともに科学的かつ納得のいく指針を築く必要があると考えます。そうしたことを通じて本当に心豊かで健康的な生活を送ることが可能になり、糖尿病患者さんが "甘い生活=充実した生活"をエンジョイできるようになることを期待したいと思います。

2009年05月更新