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糖尿病患者さんに、なぜ運動が必要か(後半)
■糖尿病患者さんにおける運動の効果
①運動の短期効果(急性代謝効果)
 患者さんが行う運動の効果でよく知られているのが、先に述べたような筋肉によるエネルギー消費の増大に基づく、血糖の降下作用があります。
 運動時には大量のエネルギーが筋肉で必要とされるため、そのもとになる血中のブドウ糖が大量に消費され、血糖値を抑制するように働きます。特に、食後30分から2時間の間に運動をすることにより、患者さんに現れやすい食事による急激な血糖の上昇(食後高血糖)を抑える効果があります。この食後高血糖は、近年、動脈硬化を促進する原因のひとつとしてその対策が求められており、この面からも運動の有効性が認められています。

食後高血糖と運動による抑制効果の曲線イメージ
食後高血糖と運動による血糖値抑制効果の曲線イメージ

②運動の慢性効果(中・長期的効果)
A.インスリン抵抗性の改善効果
 インスリン抵抗性とは、2型糖尿病の患者さんにみられ、糖代謝におけるインスリンの作用不全を示す病態です。このインスリン抵抗性があると血中のインスリンが細胞にブドウ糖を取り込む本来の役割を十分果たさないため、血液中のブドウ糖すなわち血糖値とインスリンの量(濃度)が上昇することになります。
 筋肉は、食事由来のブドウ糖を取り込み、血糖をコントロールするとともにグリコーゲンとして貯蔵するという重要な役割を果たしていますが、活動量の低下や運動不足が続くと、ブドウ糖取り込み能力の低下を招きインスリン抵抗性の原因になるとともに、体力や基礎代謝の低下も引き起こします。その結果、更に日常の活動量が低下し消費エネルギーが減ることで血糖値が上昇するうえ、体脂肪、特に内臓脂肪が増え、このことがインスリン抵抗性を一層促進することにつながります。

 運動不足とインスリン抵抗性の関連を示すデータとして、健常者を3つのグループに分けてブドウ糖負荷試験を行った研究があります。

 健常者を①35日間ベッド上で絶対安静にさせたグループ、②ベッド上で1日60分間足運動をさせたグループ、③コントロール群に分け、ブドウ糖負荷試験を行った結果、②のベッド上で運動したグループでは、血糖値と血中インスリン濃度の上昇が抑えられているのに対し、①のベッド上で安静にしていたグループでは血糖値と血中インスリン濃度が③のコントロール群」と比較して、かなり高い値を示しております。

 この結果から、ベッド上で運動をすることにより、インスリン抵抗性の進展が抑制されたと考えられ、運動しないグループでは、インスリンが十分にあるにもかかわらず、血糖が上昇するというインスリン感受性の低下、すなわちインスリン抵抗性の増加がみられることがわかります。

安静時および運動時の健常者における血糖と血中インスリンの変化
安静時および運動時の健常者における血糖と血中インスリンの変化
Lipman, R.L. et al.:Glucose intolerance during decreased physical activity in man.Diabetes,21:101,1972.

 更に、運動による慢性効果が、2型糖尿病の主な原因のひとつであるインスリン抵抗性を改善させることを裏付けるデータとして、健常者が有酸素運動を中心とする身体トレーニングを継続的に行い、その前後でブドウ糖負荷試験を実施した研究があります。
 この中で、身体トレーニングを継続的に行った場合、ブドウ糖負荷後のインスリン濃度は低いのに、血糖値も低く抑えられていることがわかります。このことから、運動の慢性効果としてインスリン感受性が増加し、インスリン抵抗性が改善したことがわかります。

トレーニング前後の血糖とインスリン濃度
トレーニング前後の血糖とインスリン濃度
Björntorp, P. et al.:Physical training in obesity Ⅱ,Effects on plasma insulin in glucose intolerant subjects without marked hyperinsulinemia. Scand. J. Clin. Lab.Invest,32:41, 1973

 ただし、トレーニングによるインスリン抵抗性の改善効果は、3日で低下し、1週間でほとんど消失するといわれていますので、インスリン抵抗性の長期的な低下防止には、継続的な運動習慣が大切になってきます。

運動によるインスリン抵抗性の改善効果
運動によるインスリン抵抗性の改善効果

B.インクレチン様効果
 最近、2型糖尿病の治療薬としてインクレチン関連薬が注目されていますが、運動と糖代謝についても、インクレチン(膵β細胞からのインスリン分泌を促進するホルモンでGLP-1とGIPがある)との関連からも研究が進められています。

 肥満がある耐糖能正常者と2型糖尿病患者さんについて、3カ月間の軽度の食事制限と有酸素運動を実施し、GIPの変動を調べた結果、2型糖尿病患者さんにおいては生活習慣の改善(食事制限と有酸素運動の実施)介入によって、腸管のK細胞からのGIP(glucose-dependent insulinotropic polypeptide)の分泌が誘発され、β細胞機能が回復し、インスリン分泌能が改善することがわかりました。

生活習慣介入(3カ月)前後の血漿GIP分泌の変動
生活習慣介入(3カ月)前後の血漿GIP分泌の変動
Solomon TPJ,Rocco M,Haus JM,et al.Improved pancreatic β-cell function in type 2 diabetic patients after lifestyle-induced weight loss is related to glucose-dependent insulinotropic polypeptide.Diabetes Care 2010;33:1561.
※肥満2型糖尿病患者では、生活習慣介入後、有意に(P<0.05)GIP分泌が増加。

GIP分泌変動とインスリン分泌変動との相関関係
GIP分泌変動とインスリン分泌変動との相関関係
Solomon TPJ,Rocco M,Haus JM,et al.Improved pancreatic β-cell function in type2 diabetic patients after lifestyle-induced weight loss is related to glucose-dependent insulinotropic polypeptide.Diabetes Care 2010;33:1561.
 GIP分泌の増加に応じて、グルコースに対するインスリン分泌も増加する。

 このように、患者さんにとっては、トレーニングがインクレチンと同様の働きをし、インスリン分泌を促すことで血糖コントロールを改善し、ひいてはインクレチン関連薬の量を減らしたり、その使用を無くすような効果が得られる可能性も期待されています。

C.筋肉量の増加による基礎代謝の向上
 運動がもたらす筋肉量の増加は、エネルギー消費の増大につながる基礎代謝を増やすこととで血糖コントロールの改善に役立ちますが、先の述べたインスリン感受性を高める面でも有効です。
 筋肉量を増やす運動としては、おもりやダンベルなどを使用し負荷をかけたレジスタンス運動が推奨されますが、その具体的な方法は、当連載の「第3回:運動処方:どんな運動をどのくらい」のコーナーで詳しく述べることにいたします。

③心理的効果、その他の効果
 これまで述べてきたことのほかに、患者さんが日常生活の中で運動を行うことにより、気分転換やストレス発散による心理面での効果が得られるとともに、下記にあるような幅広い効果が期待できます。
  • 食事療法と併用することで、エネルギー摂取量と消費量のバランスが改善され、減量効果、肥満の改善が期待できる。
  • 加齢や運動不足によって生じる筋肉量の減少や萎縮、骨粗鬆症を予防する。
  • 高血圧や脂質異常症の改善効果。
  • 心肺機能や、運動能力、体力の向上。
  • 爽快感や充実感を得られ、ストレス解消になる。

まとめ
 患者さんにとって、運動療法は食事療法とともに継続的に行うことで様々なメリットがあることがお分かりいただけたことと思います。
 糖尿病ネットワークの調査では、運動を長期にわたり継続することの難しさが、指導する上での課題のひとつとなっていますが、運動の効果を具体的に説明することで、日常生活の中に運動習慣を取り込み、継続的に行っていけるよう指導することが大切です。

2012年05月 

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