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「下肢末梢動脈疾患指導管理加算」(下肢救済加算)の基礎知識と実践 ▶

Part3. 下肢救済を行う病院へ「紹介」すると
どんな治療が行われるのか

重症下肢虚血の治療

重症下肢虚血治療のゴール設定

CLIにおいてゴール設定は重要です。これは「がん」の治療と似ています。末期がんの患者には治癒をめざした治療を行わないのと同様に、例えば、長期臥床で寝たきりで、事も経腸栄養剤をチューブで投与されているような患者では(そもそも透析クリニックにはそのような患者はいないでしょうけれども)、積極的なCLI治療は推奨されません。

CLI治療には2カ月から3カ月という時間がかかることと、現行の医療制度では転院を数回必要とすることから、はっきりとした指針や決まりごとはありませんが、一般的に表2のような条件の患者は、CLIの治療対象にはなりません。

表3 重症下肢虚血の積極的治療が適応とならない条件
  1. 長期臥床、歩行困難
  2. 高度の低栄養、高度のサルコペニア
  3. 膝関節の高度の屈曲拘縮
  4. 高度の認知症
  5. 心機能低下(昇圧剤の使用など)
  6. 脳血管疾患などによって麻痺を認める(歩行可能であれば積極的に治療することもある)

´△亙盥圓硫椎柔がない、長期臥床で低栄養、透析の患者は、CLI治療において、治療が上手くいかないというエビデンスがあります。い蓮血行再建時に局所麻酔で血管内治療が行えないからです。は膝が屈曲していると、末梢に向けて鼠径部よりカテーテルを物理的に通しづらいなど、血管内治療(EVT)の手技が困難になります。い篭表衙秧譴世醗太鼎保てず、これもと同様にEVTが困難であるからです。イ蓮⇔磴┐估析患者に比較的多い石灰化による大動脈弁狭窄症の患者では、末梢動脈の狭窄や閉塞を治療しても、心臓の機能が低下していると末梢組織まで勢いよく血流が到達しません。

さらにCLIを認めても、積極的な治療が適応とならない場合は、大腿部または下腿部での切断が適応となります。´↓イあれば、大腿部切断といえども感染や創離開のリスクを伴います。さらに全身麻酔を行うことや大腿部での切断手術すらもリスクがある場合には、担がん患者の緩和ケアと同様に、長期予後は見込めませんので、本人と家族に病状を説明し納得していただいて疼痛ケアと可及的な創傷処置:壊死部を乾燥させ(ミイラ化させ)、抗菌薬で管理しながら壊死部の自然脱落(auto-amputation)をめざします(図4)。

図4 ミイラ化(乾燥壊死)した足部の状態


第1趾の足部先端がミイラ化している。


前足部。第1-5趾までが乾燥壊死している。感染は起こっていない。

早期に治療を終了させることや積極的な治療を行わないことが患者のQOLの向上につながります。すなわち治癒ではなく、乾燥壊死との共存(ミイラ化)が治療のゴールとなります。実はこのために、透析をしながら入院をさせてくれる病院が日本には少ないのが現状です。このような患者は、がんと同様に在宅での看取りが今後必要になってくるでしょう。

一方で、積極的なCLI治療のゴールは、「血流が改善し、創傷治癒が得られ、リハビリテーションを行って歩行できるようになること」または、「車いすへ移乗が一人でできるようになること」です。

CLI治療を積極的に行う条件は4つあります。最終的には、歩行とADL向上によって生命予後の改善をめざします。簡単に言えば、「透析クリニックへの通院が継続できること(車いすでの通院も含む)」がゴールとなります。

血行再建術と創傷治療

CLIは、虚血と壊死(感染)の2つの病態が複雑に関与しています。CLIを積極的に治療する場合、基本的には局所治療の前に早期に血行再建を行う必要があります(表4)。血流が改善しないといかなる創傷治癒過程も始まりません。つまりいかなる創傷治療薬を使っても効果がないのです。

表4 重症下肢虚血の治療を積極的に行う条件
  1. CLIを発症する少し前まで、歩行が可能であった
  2. 栄養状態が比較的保たれている
  3. 積極的にリハビリテーションをする意志がある
  4. 創傷治療の内容と負荷装置の必要性やリハビリテーションの内容を理解できる(自分で足について管理できる)

今回の診療報酬改定で重視されたのは血流評価ですが、CLI治療においては、感染の評価も重要です。高度の滲出液を認めたり、程度の強い創感染の場合には、血行再建が行えない場合もあります。感染創に対して血流量が増加すると血流にのって敗血症となり、全身に細菌が拡大することがあります。高度の感染を認める場合には、血行再建よりもデブリードマンが優先されることがあります。

血行再建術。主に循環器内科、血管外科

血行再建術には、冠動脈疾患においての血行再建術と同様にバイパス術と血管内治療(EVT)(図5)の2つの方法があります。

図5 バイパス術と血管内治療(EVT)


EVT前。SFAに狭窄あり

EVT施行した
EVT後。狭窄部が拡張している


バイパス術。大伏在静脈を採取した


膝窩動脈を露出してそこに、大伏在静脈を端側吻合した


足背動脈に吻合した。血流は良好である

それぞれ長所短所があり(表5)、長期開存が得られるのがバイパス術で、低侵襲のEVTです。

表5 血管内治療とバイパス術のメリット・デメリット
血管内治療 バイパス術
  • 手術侵襲が少ない
  • 適応患者が多い(高齢、新機能低下)
  • × 創傷治療に時間を要する(血流が不十分で、治癒しないこともある
  • 長期開存が得られる
  • 血流が多い
  • × 全身麻酔が必要
  • × 適応患者が少ない
内膜摘除術とバイパス術
内膜摘除術

大腿部や鼠径部などの大きな血管の石灰化や狭窄症例で、外科的に血管を切り開き、血管の狭窄・石灰化した内膜を丁寧に切除し(外膜はそのまま温存する)、その後、再縫合、静脈を採取してパッチとして縫合する方法です。太い血管で適応があります。

バイパス術

狭窄部位が長いか、EVTが困難である症例において、大腿部から膝窩部、膝窩部から下腿部の3つの動脈に、大伏在静脈などの自家静脈を吻合植する方法です。EVTと比較してflow rate(血流速)が速く、血流量も多いことが特徴です。EVTよりも長期開存が得られます。しかし、EVTよりも侵襲が大きく、一般に全身麻酔下で行われるため、リスクが高い患者は、適応になりません。

血管内治療(EVT)

EVTは、低侵襲で、全身麻酔のリスクが高い患者でも、行うことができます。大腿部の狭窄症例では、比較的多くの病院で治療が可能です。しかし、下腿の完全閉塞症例などでは、高度の技術を要するため、どこの病院でも可能なわけではなく、EVTができる病院が限られます。

また、たとえ下腿の完全閉塞症例をEVTで開存できたとしても、flow rateが遅く、血流量が少なく、再狭窄率も高く、長期開存は得られません。創傷を治癒させる力もバイパス術と比較すると劣ります。したがって、EVT後に注意深い観察が必要です。現在は、ハイリスク患者ではEVT、全身麻酔が可能で、創傷が大きい症例は、バイパス術が選択されることが多いようです。

バイパス術とEVTのどちらを選択するかは、冠動脈疾患のようにガイドライン等で決めることができず、カテーテルデバイスと技術の進歩などでEVTもより良くなる可能性があり、今後の多くの研究課題が残されています。

血行再建後に注意すべき点

バイパス術やEVTなどの血行再建術の効果は永久的に維持できるわけではなく、バイパス術では閉塞したり、EVTでは再狭窄したりすることが高率で起こります。例えば、下腿におけるEVT後の再狭窄率は、3カ月間で70%以上もあります。すなわち3カ月に以内に7割の患者において、血流量が低下するのです。

回復した血流が維持できているか、定期的に血流を評価し、虚血に対して常に留意する必要があるのです。もし再狭窄が起こってしまったときには、再度血行再建をしなければ壊死が進行します。つまりCLI患者にとって継続的な経過観察は必須なのです。長期的開存を維持するために、1〜2剤の抗血小板薬の投与が推奨されています。

創傷治療 主に形成外科

血行再建後は、足部への血流量が増加するため、感染が起こりやすくなります。このことは理解し難いかもしれませんが、CLIでは、感染が起こるための炎症性の細胞が創部に動員されることがないために、腫脹や滲出液の増加も起こらないのです。血流が改善すると、通常の壊死組織がある創傷と同様の状態となり、感染が起こる可能性が高くなるのです。

デブリードマン

血流が改善する前に積極的なデブリードマンを行うとCLIでは壊死が進行します。つまり壊死組織を切除したにもかかわらず、断端が再び壊死に陥ります。CLIにおいては、褥瘡などの治療と異なり、血流を評価してからデブリードマンを行う必要があります。例えばSPPで40mmHg以下では、デブリードマンは推奨されません。血行再建を行ってSPPで40mmHgより高い値にしてからデブリードマンを行う必要があるのです。

図6 デブリードマン


40mmHgない状態でデブリードマンすると、壊死が進行する。血行再建を最優先する必要がある


血流が保たれていることを確認して踵部をデブリードマンした


壊死組織がある程度除去できたら、肉芽形成を促進する治療を行う

創傷治癒を促進する治療

壊死組織を除去した後で、bFGF製剤と陰圧閉鎖療法(negative pressure wound therapy:NPWT)等を行って肉芽形成の促進を図ります(図7)。

図7 陰圧閉鎖療法(NPWT)の例


NPWT施行した


良好な肉芽形成が獲得できた

歩行のために必要なこと

血行再建され虚血が改善された後、創傷が治癒する過程で、免荷用の装具を使用して歩行を開始します(図8動画)。

図8 医療用サンダル


趾のCLI、EVT後に免荷用のサンダルで通院する

動画 サンダルはソールが硬いものが良い

歩行によって創傷が増悪する場合には外来での通院は困難であり、入院が必要です。歩行を開始する前に、ベッド上で大殿筋や中殿筋や前脛骨筋の筋力強化をすることは重要です。特に創傷治療に時間がかかる場合には、尖足位となることが多く、ハムストリングが硬化して、起立時に前足部に高い圧が負荷されるようになります。創傷治療中は尖足にならないよう、前脛骨筋を常に動かすように指導する必要があります。

創傷治療に時間を要しすぎると、治療中にEVTした血管が再狭窄をし、虚血が再度進行して、創傷治療をデブリードマンからやり直すことになったり、筋力が低下して廃用症候群が進行し、創傷は治癒したが、歩行できなくなるといった問題も発生します。

また、低栄養状態のままリハビリテーションを開始すると、筋肉が基礎代謝維持に使用されサルコペニアが進行します(つまり、筋肉が栄養源として消費されてしまう)。そのため、リハビリテーションを開始する前に栄養状態を改善させる必要があります。創傷治癒と栄養は関係が深いので、CLIになる前、予防の段階から常に留意します。足を守るためには、透析クリニックでも在宅の管理栄養士と連携をするなど早期から栄養介入が必要なのです。

引用文献

  1. Bhatt DL, et al: International prevalence, recognition, and treatment of cardiovascular risk factors in outpatients with atherothrombosis. JAMA. 2006; 295: 180-9.
  2. TASC Working Group /日本脈管学会 訳:末梢動脈疾患の疫学.下肢閉塞性動脈硬化症の診断・治療方針供ゥ瓮妊カルトリビューン,2007,

(2016年05月)

Act Against Amputation
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