糖尿病ネットワーク
「足病変と闘う現場から」
足病変との闘い——。そこには患者さんのパートナーとなる足病変治療や療養指導の達人たちの熱いサポートが欠かせません。彼らはなぜ“救肢”を志したのでしょうか。このコーナーでは、それぞれの専門分野から足に挑んでいるエキスパート達によるコラムを紹介します。
足病変とフットケアの情報ファイル

「足病変と闘う現場から」 ▶

1. なんでこんなになるまで受診しなかったの?

東京労災病院 循環器内科副部長/難治性創傷治療センター
宇都宮 誠

 重症下肢虚血で受診される患者さんのなかには「なんでこんなに悪化するまで受診しなかったの?」と思わず言ってしまいたくなるような方が多い気がします。特に糖尿病の方は発症前の症状が乏しいことから指先が黒くなっても自分からは受診せず家族に促されてやっと受診するという方も少なくありません。 数年前になりますが、今まで経験した中で最も危険な状態になるまで受診するのを我慢してしまった患者さんを紹介します。

 50歳代の男性、30歳代で糖尿病、40歳代で腎不全のため血液透析を導入された方です。数か月前から足先の色がおかしかったことには気付いていましたが、仕事が忙しくて受診はされませんでした。徐々に指の色は変色し、それどころか悪臭を伴う浸出液を伴うようになってきました。さらに膝くらいまで腫れて真っ赤になって39度の発熱も見られるようになってきました。透析施設の先生にこれはまずいと説得されてやっと当院を受診された時にはすでに敗血症性ショックの状態でした。緊急入院し全身の検査を進めていくと、驚くべきことに心機能は極めて低下しており、不整脈も併発し心源性ショック・心不全も併発しておりました。もともと心臓と腎臓の機能が低下している方に下肢壊疽から細菌が感染し蜂窩織炎という状態になり全身に細菌が回ってしまったのです。

 治療方針に関してカンファレンスが行われました。大半の意見は救命のためにはすぐに切断しなければならないというものでした。しかし、この全身状態では全身麻酔で下肢切断術をするのも危険が大きすぎるという意見もありました。心臓がこんなに悪いと全身麻酔も危険という意見もありましたし、感染がこれほどひどい状況では心臓の治療も難しいという意見もありました。つまりどこから手を付けたらいいのか分からないほど難しい病態だったのです。

 そんな状況でも本人はケロッとしており「切断はしたくない、早く退院して仕事に行かなければ」と言っていました。

 本人の同意が得られなければ切断ができるわけではありませんので、本人に危険性を話したうえでまずは抗生物質による治療と心臓カテーテルを行うことにしました。抗生物質による治療は幸い効果があり全身の細菌は徐々に勢いを失っていく感じでした。心臓カテーテル検査を行うと心臓の血管は3本とも詰まっているか詰まりかかっている状態であり、そこにはバルーン拡張を行って血流を再開させることに成功しました。全身の細菌がほぼいなくなったタイミングを見計らって足の血管をカテーテル治療で拡げ、足先へも血流を再開させることに成功しました。足先には血流が乏しいために抗生物質が十分に届かず細菌がそのまま潜んでいて、血流再開とともに全身へ再び流れ出すという可能性もありましたので、血流を再開させた直後に腐っている部分を外科的に切除しました。

 あとはちょっとずつ傷が良くなっていくのを見守りながら適切な軟膏処置や植皮を行って入院から3か月ほどで傷はよくなり、何とか松葉杖で退院していかれました。こちらとしては心臓も全身の感染症も足の壊疽もすっかり良くなって、命の危険も足切断も回避できたので本当に良かったと思ったのですが、本人はもっと早く退院したいと不満たらたらでした。「もう少しでも早く来てくれていればここまで危険な状態に陥ることはなかったのにな・・・」と心から思っていました。

 この患者さんは1年後に結局再発し、両下肢切断になってしまいました。再発の多い病気ではありますが、せっかく必死で残した足なのでもう少し丁寧に使ってもらえたらと外来で会うたびに説得していたのですが1年しか持たなかったですね。自分の足や身体を大切にするという気持ちまでは治療できなかったようです。

入院時の足の画像

入院時の足

足のカテーテル治療

足のカテーテル治療

退院時の足

退院時の足

(2014年12月)

Act Against Amputation
-なくそう、下肢切断-

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