糖尿病ネットワーク
「足病変と闘う現場から」
足病変との闘い——。そこには患者さんのパートナーとなる足病変治療や療養指導の達人たちの熱いサポートが欠かせません。彼らはなぜ“救肢”を志したのでしょうか。このコーナーでは、それぞれの専門分野から足に挑んでいるエキスパート達によるコラムを紹介します。
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「足病変と闘う現場から」 ▶

2. どうしてもっと早く受診しなかったの?
Part 2

東京労災病院 循環器内科副部長/難治性創傷治療センター
宇都宮 誠

 下肢壊疽で受診される患者さんの中には「なんでこんなに悪化するまで受診しなかったの?」と言いたくなる方がいらっしゃいます。今回もそんな方のお話です。

 下肢壊疽に至るもっとも大きな原因は糖尿病と虚血です。虚血とは動脈が詰まってしまうことですが、多くは閉塞性動脈硬化症という足の血管に生じる動脈硬化が原因です。閉塞性動脈硬化症はゆっくりゆっくり進行しますので、側副血行といって周りの血管からバイパスのように血管が生まれて多少なりとも補ってくれますので急激に足が黒くなったりはしません。

 多くの方は血管が詰まっていても無症状です。しかし急性動脈閉塞症は全く別です。血栓やその他の塞栓物質が別のところから飛んできて足の血管が急に(ズボッと)詰まった場合には、足には急激な変化が起こります。まず冷たくなり、色は青白くなり生気を失います。激しい痛みを伴い、自由に動かすこともできなくなります。(正座して足がしびれている状態の何十倍もひどい状態を想像してください。)

 下肢を切断しなければならない確率もかなり高く、また命を落とす危険性も非常に高い病態です。通常は緊急で血栓除去を行います。外科の先生が外科的に血栓除去を行うのが一般的ですが、最近ではカテーテル治療でもある程度は血栓除去を行うこともできます。(場所や血栓の量によります。)タイミングが遅くなってしまうと血流を再開させることで壊死した筋肉から危険な物質が全身を巡り腎不全や不整脈を引き起こす場合がありますので、血栓除去を行う時には血液透析を併用することもありますし、危険性が高いと判断される場合にはあえて血流を再開させずに切断しなければならない場合もあります。

 今年当院を受診された患者さんの中で、この急性動脈閉塞症を発症してから1か月間我慢してから受診された方がいました。足はずっと痛かったですが感覚がマヒしてきたため受診しないで我慢していたそうです。かかりつけ医の先生に説得されて当院を受診された時にはすでに指先は黒くなっており、脛のあたりまで紫色に変色していました。神経はすでに麻痺しており動かすことはできず、感覚もほぼ消失しておりました。造影CTを施行すると腸骨動脈で完全閉塞となっている状態でした。

 治療方針を話し合いましたが、膝上で大切断することで意見は一致しました。血栓除去はいまさら意味がなく、むしろ壊死物質が全身を巡る危険性しかないため施行しないこととしました。

 しかし問題は膝上で切断したときに切断した傷が治癒するかどうかでした。血管は脇腹のあたりで詰まってしまっており大腿部にも血流はほとんど行っていなかったからです。切断するには血流があるところで切らなければならない。でも血流を再開すると壊死物質が全身に回ってしまうかもしれない。なかなか難しい状況でしたが私たちはしばらくこのまま様子を見ることにしました。(放置したわけではないですよ。)

 2週間くらいすると膝から下はほぼ真っ黒な状態になってきました。そうすると血管の中を埋め尽くしていた血栓はある程度固まってくれたのではないかと予想しました。そして思い切ってカテーテル治療で部分的に血流を再開することにしました。具体的には腸骨動脈から深大腿動脈に向かって血流を流したのです。

 大腿動脈には深大腿動脈と浅大腿動脈の2本があります。浅大腿動脈は太くて長い動脈で膝窩動脈から膝下までつながっていく重要な動脈です。対して深大腿動脈は太ももの裏側を還流して膝までは行きません。この方の場合には浅大腿動脈は閉塞したままにしておいて、深大腿動脈だけ開通させたのです。

 こうすることで壊死物質が全身を巡る状態を最小限に食い止めて切断する部位には血流を送ることに成功しました。カテーテル治療の直後から太もものあたりはあったかくなりました。そしてカテーテル治療翌日に太ももの部分で切断し、後日切断した傷はちゃんとくっつきました。

 結果的には太ももで切断になりましたが、なんとか無事にその手術に成功してよかったと思っています。太ももで切断した傷がつかないと足の付け根で切断することになります。その手術はすごく大変な手術です。さらにその傷がつかなかったらどうなるのか、私は見たことがありません。想像しただけで恐ろしいです。 発症してすぐに受診してくれればここまでひどくなることもなかったと思うのですが……。

来院時の足の画像

来院時の足

造影CT

造影CT。右総腸骨動脈で完全閉塞となっている

切断前の足

切断前の足

(2014年12月)

Act Against Amputation
-なくそう、下肢切断-

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