糖尿病ネットワーク
「足病変と闘う現場から」
足病変との闘い——。そこには患者さんのパートナーとなる足病変治療や療養指導の達人たちの熱いサポートが欠かせません。彼らはなぜ“救肢”を志したのでしょうか。このコーナーでは、それぞれの専門分野から足に挑んでいるエキスパート達によるコラムを紹介します。
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「足病変と闘う現場から」 ▶

3. 切るべきか切らざるべきか

東京労災病院 循環器内科副部長/難治性創傷治療センター
宇都宮 誠

 カテーテル技術が進歩して、創傷治療の技術も進歩して、症例を重ねてコンビネーションが良くなったとしても年に1-2例くらいは下肢の切断をしなくてはならなくなることがあります。力不足といわれればそれまでですが、命を守るための苦渋の決断となることが多いです。また、下肢温存にこだわるあまりに治癒までの時間がかかってしまい治ったころには寝たきりになってしまったのでは治療の意味がありません。下肢切断も一つの治療の選択肢といえます。基本的には何とか切断を回避し歩いて退院していただけるように診療にあたっています。 しかし、今回は珍しく切断すべきかどうか非常に迷った症例を紹介したいと思います。

 30歳代の男性で、トラックを運転しているときに事故を起こし電柱に衝突したそうです。その際自分の座っていたシートとダッシュボードに足を挟み、膝の下の骨を複雑骨折、さらに動脈も押しつぶされて閉塞してしまいました。救急病院に運ばれ緊急の処置が行われました。足は事故の衝撃で腫れてしまい内部の圧力が上がってしまっていたため減張切開が行われました。また骨折に対してはギブスで固定がなされました。血流が途絶えているため切開した傷やギプスを当てたところが徐々に腐ってきてしまいました。外傷によって血流が途絶えた場合にはバイパス手術が緊急で行われるのが一般的だそうです。

 しかし創部が汚染されていたり、組織のダメージも大きかったりしたためバイパス手術は難しい状況でした。足の傷は処置を施すも治癒の傾向はなく、壊疽はどんどん拡大し、血流再開のためにカテーテル治療も試されましたがそれも失敗に終わってしまい、もう切断以外の打つ手がないという状況で当院を紹介受診されました。 当院に受診したときには事故からすでに1か月経過しており、足はもう感覚も失い、足首を動かすこともできない状態にありました。

 もし治療して傷を閉じることに成功したとしても足が機能を取り戻してすたすた歩くということは難しいと思われました。しかもその治療はかなり時間のかかる難しいものだということが予想されました。切断すれば治療は早いし、最近は義足の性能もいいためしっかりと歩くことができると考えられました。難しい治療を時間もかけて行い、動かない足を残すのか、切断して義足で歩くのか、非常に悩みました。しかし、患者さん本人が何とか残してほしいということでしたので何とか残せるようチャレンジすることにしました。正直、無理なら切断するしかないということを患者さんも理解されていたので一か八かという心境でした。

 まずは血流がなければ治療は進みませんのでカテーテル治療をチャレンジしました。前医ではカテーテルに失敗したということでしたが、今回はかなり慎重に手技を行い何とか血流再開に成功しました。ワイヤーを通過させた後は血管内超音波という機械を使って、ちゃんと血管がつながっていて、血管の中をワイヤーが通過していることを確かめてからバルーンで拡張しました。血流再開後は壊死した物質を手術で除去し、きれいになったら植皮の手術を行いました。

 合計5回の全身麻酔の手術を乗り越えて何とか足の傷は治癒することができました。傷がある程度治ったところでリハビリも行い、なんと足首はちゃんと動くようになりました。感覚も少しずつ戻ってきました。すたすた歩くというのは無理ですが、松葉杖を使えばなんとか自分で歩くことも可能という状況まで回復しました。患者さんは非常に喜んでくれて、あそこであきらめなくてよかったなと思いました。

 骨、皮膚、血管と悪いところが重なっており、循環器内科、形成外科、整形外科がうまいこと連携することによって何とか治療することができた症例でした。

 一般的には切断しかないという状況でしたが、なんとか足を温存することができました。リハビリの先生や技師さんを含めて多職種のコンビネーションがなければ治療できない難しい状況だったと思います。チームのみんなに感謝です。でも一番頑張ったのは本人ですね。

 切るべきか、切らざるべきか。どっちが正解であったかどうかははっきり言ってわかりませんが、患者さんが感謝して喜んでくれたので、一応よかったかなと思っています。

来院時の足の状態

来院時の足の状態

来院時の足の状態

来院時の足の状態

膝窩動脈が閉塞している

膝窩動脈が閉塞している

カテーテル治療後

カテーテル治療後。
血流再開に成功

治癒まで3か月を要した

治癒まで3か月を要した

(2014年12月)

Act Against Amputation
-なくそう、下肢切断-

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Faculty Member/Clinical Reporter
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