糖尿病ネットワーク
「足病変と闘う現場から」
足病変との闘い——。そこには患者さんのパートナーとなる足病変治療や療養指導の達人たちの熱いサポートが欠かせません。彼らはなぜ“救肢”を志したのでしょうか。このコーナーでは、それぞれの専門分野から足に挑んでいるエキスパート達によるコラムを紹介します。
足病変とフットケアの情報ファイル

「足病変と闘う現場から」 ▶

4. 形成外科と足病変

東京西徳州会病院形成外科
木下 幹雄

 近年、糖尿病による足病変が注目を集めるようになってきましたが、本邦においてフットケアの重要性が本格的に指摘されるようになったのはここ10年足らずで、それほど歴史は深くありません。その原因としては、ここ10年間の糖尿病患者数と透析患者数の急増が関係していると思われます。厚生労働省の調べでは、糖尿病が強く疑われる患者数は950万人にのぼり、10年前の740万人から急激に増加しています。同様に透析患者数も22万人から31万人に激増しているのです。このような状況を背景にして足にトラブルを生じる患者さんも急激に増加し、社会問題となってきているのです。

 私は現在、糖尿病や透析を抱える患者さまに発生する「足のキズ」を治療することを専門の診療としています。このような患者さんに発生した「キズ」は非常に治りにくく、苦痛を伴うことがしばしばです。また、治療には難渋することが少なくないのですが、一人でも多くの方が自分の足で歩けることを目指して診療に努力しております。

 今回は、私がこの道を選ぶきっかけとなった思い出深い患者さんとの出会いについてお話ししたいと思います。

 それは、私が研修医2年目で大学病院の研修先の病院に出向していたころ、約12年前の話になります。まだ形成外科医としては駆け出しのころでしたので、十分な知識もなく、診る患者さん、診る患者さんが本当に新鮮で、いろいろなことを教えて頂いているなと感じながら日々を過ごしていました。そんな中、とても強い足の痛みをうったえて来院された患者さんがいました。糖尿病を20年間患っている患者さんで、診ると左母趾の先端に小さなキズがあります。最初は小さなキズでしたので、外来で通院しながらいろいろな軟膏を試して治療してみました。しかし、キズは一向に改善せず、むしろ次第に悪化して壊疽が進行してゆきました。

 「このままではいけない」と感じた私は、治療を入院に切り替えて、毎日集中的にキズの管理を行う方針としました。その当時、形成外科のキズの管理法としては、死んでしまった組織(壊死組織)は可能なかぎり取り除き、毎日よく洗って(洗浄)、肉を盛り上げる軟膏を使用すれば、自然とキズは治癒の方向へ向かうという考え方が主流でした。(この考え方は間違ってはいないのですが、考慮すべき要素が不十分であるところに問題があるのです。)

 この考え方に基づいて、壊疽におちいった母趾を切断し、洗浄することを毎日くり返していました。その度に患者さんは処置による痛みで苦しみ、苦痛から泣いていらしたのを覚えています。このような大変苦しい治療を毎日受けているにも関わらず、翌日にはあらたな壊死組織が発生し、傷口は次第に拡大、痛みはますます強くなっていったのです。この間、2カ月ほど経過していたと思います。

 ここでも「何かが間違っている」と感じた私は患者さんと一緒に何が悪いのかを来る日も来る日も考えました。そして、あることに気づいたのです。壊死組織を切り取る時に「出血があまりにも少ない」。そう、いわゆる「血の気がない」状態なのです。足の血のめぐりが悪くなっている可能性があると感じた私は、いろいろな情報をかき集めました。そして、神奈川県のとある病院に足の血管にカテーテルと呼ばれる細い管を入れ、狭くなった血管を風船で膨らませると言う、血管内治療(PTA)と呼ばれる治療を行っている循環器医がいるという噂をきいたのです。

 その当時は足にカテーテルを入れる循環器医は、ほとんどいなかったように記憶しています。私はさっそく、その医師と連絡を取り、患者さんに血管内治療を行ってくれるように要請しました。その医師は快く了解してくださり、数日後には転院して血管内治療を施してくれました。先方での治療がひと段落して、一週間程度で戻ってきた患者さんは、すでに表情が温和になり、痛みから開放されているのがわかりました。また、足のキズを診ると、あれほど治らなかった壊死組織の隙間から、ちらほらと赤い肉が上がり始めているのが分かりました。この時ばかりは、本当に衝撃を受けたのを覚えています。

 今では当たり前の考えになっていますが、キズが治るためには十分な血流が必要であること、そして、各医療の専門家が力を合わせて立ち向かう医療連携の重要性について痛感した症例でした。この患者さんは、その後、順調に肉が上がり、最後に断端に皮膚の移植をして治癒し、無事に歩行して退院することが出来ました。退院時に患者さんはとても感謝されていましたが、私の方こそ、いろいろなことを学ばせて頂き、感謝しなくてはいけないと感じました。

 現在では足の治療において、血流や感染・壊死組織への対処は体系的に行われるようになってきており、医療機関同士の連携も少しずつ進んでいます。しかし、足病を診察できる施設はまだ十分な数があるとは言えず、一部の限られた専門家が協力しあって治療に当たっている、というのが現状です。患者さんの理解もまだまだ十分ではないため、このようなサイトを活用して、より多くの患者さんと知識の共有をはかって行きたいと考えています。

 糖尿病や透析による足病変は、早期に発見して適切な医療機関へ受診することが出来れば、切断を防ぐことが出来ます。このサイトがみなさまの健康管理に役立ち、自分の足で健やかに歩き続けられることを願ってやみません。

親指を切断した

親指を切断した

壊疽は次第に進行した

壊疽は次第に進行した

血行再建を行って良い肉が上がった

血行再建を行って良い肉が上がった

皮膚の移植を行い治癒した

皮膚の移植を行い治癒した

 

(2014年12月)

Act Against Amputation
-なくそう、下肢切断-

Director Member
Faculty Member/Clinical Reporter
Advisory Member

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