糖尿病ネットワーク
「足病変と闘う現場から」
足病変との闘い——。そこには患者さんのパートナーとなる足病変治療や療養指導の達人たちの熱いサポートが欠かせません。彼らはなぜ“救肢”を志したのでしょうか。このコーナーでは、それぞれの専門分野から足に挑んでいるエキスパート達によるコラムを紹介します。
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「足病変と闘う現場から」 ▶

8.  2015年、AAAとして
今我々が行うべきミッションは何か?

一般社団法人 Act Against Amputation代表理事
大浦紀彦(杏林大学形成外科)

 生活習慣の悪化による糖尿病や動脈硬化などの増加から足に病変を持つ患者さんが増えている。杏林大学形成外科には、年間200名を越える新しい足病患者さんが外来へ訪れる。そのうち10%は下肢を救済できない手遅れの患者さんである。すぐに手術で下肢を切断しなければ、命が危ないという重篤な虚血や感染症を合併しているためである。

 下肢を失うとどういうことが起きるのか、想像をしてほしい。「なーに、今の医療は進歩している。義足だってある。切断くらい大したことないさ」と考えるのは、想像力が乏しいか、現実を知らないからである。70歳以上の糖尿病で手の巧緻性が低下し、網膜症を合併した高齢者が義足をつけて歩行できる可能性は非常に低い。

 杏林大学形成外科で、足を治療する患者さんの6割は透析をしている。そのほとんどが外来の透析クリニックへ通院している。しかし、足を失うとクリニックへ一人で通えなくなる。家族の支援が得られればよいが、一人暮らしの人だったり、家族が働いていて家にいなければ、他の誰かに連れて行ってもらわなければならない。助けてくれる誰かが見つかれば、まだよい。クリニックに通えなければ、長期に入所できる透析施設を探すしかない。透析ができる施設での生活を選択するしかなくなるのである。

 足を失うということは、生活が一変するということである。誰かの手を借りないと生活ができない状況になることである。足があれば自分が好きな時に好きなところへ行くことができるーーこの空気のように普通なことができなくなるということだ。人間としての自由と尊厳が失われてしまうことなのである。このことを想像できる患者さんは少ないだろう。いや、分かっていても想像したくないのかもしれないが・・。

 一方で明るい希望もある。足の外科学会の重鎮でいらっしゃる井口 傑先生がとある学会で、「足を失う主たる原因は、4〜50年前は、悪性腫瘍が、30年前は骨髄炎が、近年は糖尿病・重症下肢虚血というように経時的に変遷がみられ、大切断の主原因は変化している」とお話されていた。言い換えると悪性腫瘍や骨髄炎は、現在では切断の原因とはならず、ある程度下肢を温存できるように治療が進歩したとも言える。

 糖尿病・重症下肢虚血に関してはどうであろうか。重症下肢虚血は、血管外科が主となって牽引してきた領域であるが、患者数の増加と手遅れの症例の増加に対して、血管外科医の数が追い付かない状況であった。今から7〜8年前より循環器内科、形成外科がこの領域に参入し、積極的に治療を行うようになった。カテーテルデバイスやカテーテルの技術の進歩、創傷治療デバイスや治療法の進歩などで救済できる下肢も増加している。切断の主原因である糖尿病・重症下肢虚血も、日本下肢救済足病学会やAAAなどの活動によって、切断をせずに済む患者さんも少しずつ増えてきた。これは、患者さんにとって朗報である。これをさらに積極的に取り組み加速させる必要がある。

 しかし間違った情報を信じ、軟膏だけ塗布して壊疽が進行、手遅れになるケースや、足病変を専門に診る病院が見つからずに、病院を転々とする間に増悪するケースも多い。がん治療と同様に足病においても早期発見、早期治療が大原則なのである。早期発見のためには、どういう疾患なのか、一般の患者さんに知ってもらう必要がある。一般の医療機関で対応ができる仕組みを作る必要がある。

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 いつも講演でお話をするが、がんは現在の医療の中でど真ん中に位置し、厚生労働省は1970年代からがん撲滅を最重要事項として掲げてきた。その結果、まだがんを撲滅することはできていないものの、|羚眷のがん検診などの予防とスクリーニングの確立、⊆蟒僉抗がん剤治療、放射線治療などのエビデンスに基づいたステージごとの治療の充実、がん拠点病院の設置、いん拠点病院と一般病院との連携システムの確立、ゴ墨促吋◆▲拭璽潺淵襯吋△砲茲觸末期医療システムの確立といった、医療システムの構築が2015年現在なされている。それによって、がん治療は、発見から看取りまでが健康保険制度の中で、行うことができるようになった。これは、がん治療に対する長期的な方針をぶれずに行ってきたことが実を結んだからである。

 がんや、生活習慣病、成人病の予防には予算をつけている。予防できれば大きな医療費削減につながるからである。しかし糖尿病・重症下肢虚血に関してはどうであろうか。現在のところ、厚生労働省は積極的なアクションをほとんど起こしていないと言ってもよいだろう。

 現状を挙げてみると、^貳未隆擬圓気鵑涼罎砲蓮⊇転媛嫉莎血を知らないという人が多くいる。リスクのある足の検診・スクリーニングなどはない。⊆N妬法は地域格差があり、日本どこでも同様の治療が行えるわけではない。ある病院で下肢救済が行えるが、ある病院では切断、さらには死亡に至るという格差が歴然と存在する。がんと比較し下肢救済を適切に行える拠点病院は数が少ない。がんセンターのように行政主導でつくられた下肢救済センターはまだひとつもない。さ鯏隻賊,鮖抉腓垢覦貳棉賊,凌瑤眈なく、多く病院では足病変をもった患者さんは断られることが多い。つまり連携も困難な状況である。ヂを失うと生活が変わる。足を失う精神的な影響も大きい。にもかかわらず、この分野で患者さんの精神的なケアに取り組むことはほとんど皆無である。どの病院もそこまで手が回らない。

 これらの事柄を是正するために、我々が取り組むべき課題は山積している。足病変の現状を把握する疫学研究、拠点病院を全国に増やすこと、連携の確立など本来、行政主体でやらなければならないことを、我々がやらなければならない。そのため、この領域の積極的に取り組む病院のスタッフは疲弊している。システム構築がなされていない状態で、手探りの状態で、患者を診察し、連携をつくり、在宅へ戻していくからである。この病院スタッフの疲弊についても取り組まなければならない。スタッフも人間であり、辛い状況が続くと、やがて高く熱いモチベーションも消えてしまうからである。この灯を消してはならない。

 これらの現状について認知を広めていくとともに、何らかの行政主導のシステムを一つずつ構築していくことが望まれる。

 そのために、AAAが行っていくべきミッションは次の5つと考える。

  1. 下肢を救済することの重要性を患者さん自身に考えてもらうこと。
  2. 早期発見・早期治療を、患者さん自身がアクションできるよう啓発すること。
  3. 患者さんも、医療従事者もどの病院で、下肢救済治療が行われているかわからない。下肢救済拠点病院がどこにあるのか、その病院と連携している病院がどこにあるのか、情報を集約し公開していくこと。
  4. 下肢救済のエビデンスに基づく治療方法を、情報を求めている医療従事者に提供していくこと。
  5. 行政、企業、大学、病院が一丸となり、下肢救済のためのデバイスの開発、治療方法の確立、医療システムの充実等、情報共有の場となること。

 国を動かすことができるのは最終的には民意であり、患者さんの声が、下肢救済のシステム構築には是非とも必要なのである。そのために2015年は、「透析患者さんの足を救う」ことを強化テーマとして全腎協との関係も強めていきたいと考えている。

 我々は、この空気のように普通なこと=歩くという人間としての自由と尊厳が失われることがないように、足、下肢を救済するために、全身全霊を尽くして努力し、行動を起こすことを改めてここに宣言する。

(2015年02月)

Act Against Amputation
-なくそう、下肢切断-

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Faculty Member/Clinical Reporter
Advisory Member

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