糖尿病ネットワーク
「足病変と闘う現場から」
足病変との闘い——。そこには患者さんのパートナーとなる足病変治療や療養指導の達人たちの熱いサポートが欠かせません。彼らはなぜ“救肢”を志したのでしょうか。このコーナーでは、それぞれの専門分野から足に挑んでいるエキスパート達によるコラムを紹介します。
足病変とフットケアの情報ファイル

「足病変と闘う現場から」 ▶

12. 日本の足を健康にするために、クリニックができること

足のクリニック 表参道 院長
桑原 靖

「足病変」と聞くと一歩間違えば下肢切断となり得る手前の状態で、専門スタッフが揃った大きな医療機関での治療が必要と考えがちですが、決してそうではありません。足病変を「足に起こる様々なトラブル」と考えると、陥入爪や外反母趾、胼胝などから始まり、スポーツ障害や子供の成長過程で起こり得るさまざまなトラブルまで、とても多くの事象が対象となります。

しかしながら医療機関としては軽症な胼胝や陥入爪から重症な足潰瘍までを全て診るとなると、とても非効率で治療の質が低下してしまいます。患者さんとしても、ちょっとした足のトラブルの場合、病院規模ではどうしても受診の敷居が高くなりがちですが、クリニックであればその敷居は下がります。これらを背景に私たちのクリニックでは、足にトラブルを抱えた患者さんを軽症なときから診ることを目的として、2013年より足の専門診療を行っています。

開院当初から現在に至るまで、受診される患者さんの主訴のほとんどは「足の痛み」でした。痛みが主訴で足のクリニック表参道を受診した患者さん14,100人(男性3,500人、女性10,600人)を対象に調査したところ(平成25年4月〜28年9月)、男性は「足底腱膜炎」が最も多く22%、次いで「胼胝・鶏眼」が12%、「強剛母趾」が10%でした。一方、女性では「外反母趾」が20%、「胼胝・鶏眼」が12%、「足底腱膜炎」が11%でした。

ここで重要なことは、これら全ての疾患が「足の骨格構造の崩れ」に起因しているということです。骨格構造が崩れればそこに歪みが生じ、最も歪みの大きな部位に痛みや変形が発生します。構造が崩れてその底辺が引き伸ばされれば「足底筋膜炎」、母趾のMTP関節に負荷がかかりながら崩れれば「外反母趾」や「強剛母趾」、変形した部位に圧力が集中すれば「胼胝」が生じます。崩れる過程で母趾の先端に負荷や捻れの力が加われば爪が厚くなったり「陥入爪」を発症します。もちろん足の骨格構造がしっかりしている方にそのようなことは起こりません。

足にトラブルがあっても痛みを自覚すれば重症化する前に医療機関を受診し、適切な治療を受けることができます。しかし糖尿病の長期罹患により末梢神経障害を合併すると、重症な方は完全に防御知覚を消失し、痛いはずの足が痛みを感じなくなってしまい治療のタイミングを逃してしまいます。一般的に、糖尿病が直接の原因で重症足病変を発症すると考えがちですが、そうではなく「足に骨格構造の崩れのある患者さんが、糖尿病性神経障害を後から合併する」ことで足病変が重症化します。

重症足病変に至るまで

従って、糖尿病に罹患する前、患者さんが痛みを訴えている時点の重要なサインを見逃してはいけないのですが、クリニックレベルでそれを診る医療機関は非常に少ないのが現状です。一般的な医療市場で例えるなら、癌を診る専門病院は数多く存在するにもかかわらず、風邪や腹痛を診る町医者ほとんど無く、癌の初期症状を全く発見できないということに他なりません。

日本フットケア学会や日本下肢救済・足病学会が発足され、重症足病変を診る病院はとても増えてきました。しかし医療のインフラが成立するには、その何倍もの軽症な足トラブルを診るクリニックが必要で、足のプライマリ・ケアの提供こそが今後の重要課題となってきます。

10人に1人が糖尿病になると考えると、軽症な足トラブルの患者さんの10人に1人が重症足病変を発症するリスクがあります。足の専門クリニックが多く存在すれば、そこを受診する患者さんの10人に1人に発症し得る重症足病変を未然に防ぐことができるのです。

日本の足を健康にするには糖尿病を発症した患者さんの足をスクリーニングすることも非常に重要ではありますが、足にトラブルを抱える患者さんに対して、プライマリ・ケアを行い、後に糖尿病を発症したときのリスクを事前に説明しておくことも大切であろうと言えます。

病院でもクリニックでも、まだまだ少ない足の専門外来ですが、糖尿病をお持ちの方はもちろんのこと、そうでなくとも足に痛みを感じたことがある方は、自身の状態を知っておくために一度受診しておくとよいでしょう。

(2017年08月)

Act Against Amputation
-なくそう、下肢切断-

Director Member
Faculty Member/Clinical Reporter
Advisory Member

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