糖尿病ネットワーク
「足病変と闘う現場から」
足病変との闘い——。そこには患者さんのパートナーとなる足病変治療や療養指導の達人たちの熱いサポートが欠かせません。彼らはなぜ“救肢”を志したのでしょうか。このコーナーでは、それぞれの専門分野から足に挑んでいるエキスパート達によるコラムを紹介します。
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「足病変と闘う現場から」 ▶

13. 「6つの足トラブル」を知って重症足病変を予防する Part 1

足のクリニック 表参道 院長
桑原 靖

前回の「12. 日本の足を健康にするために、クリニックができること」で述べましたように、足のクリニックを受診される患者さんの主訴のほとんどは「足の痛み」でした。その中でも上位6疾患である外反母趾、強剛母趾、陥入爪、胼胝、足底筋膜炎、モートン神経腫は、これらだけで全体の8割以上を占め、足トラブルの代表とも言えます。聞き慣れない病名もあると思いますが、これらを理解しておくことで糖尿病性末梢神経障害を合併した際の「足の診かた」が少しだけ変わってくるかもしれません。つまり上位6疾患の病態とポイントを理解しておくことで、早い時期から足トラブルを発見することができ、仮に末梢神経障害を合併したとしても、その後の対策を事前にアセスメントしておくことが可能となります。

上記6つの疾患は全て別の原因と考えがちですが、必ずしもそうではなく足の構造の崩れから連鎖的に発症し、その最も歪みの大きな部位に変形や痛みのサインがでてきます。ですので疾患を理解するにあたり「足の構造と機能」を考えたうえで「疾患各論」を述べたいと思います。

<足の構造と機能> 足を建造物に例えると建築構造学上、アーチ構造(図1)とトラス構造(図2)を持った「シェル構造」であると例えられ、靭帯や筋肉はこの骨組みを維持する支持組織となります。足のシェル構造は歩行時の衝撃吸収能力と運動効率を上げるため、アーチ構造においてはキーストーンといわれる楔石が中心から少しずれた不安定な設計になっており、この不安定さによって接地時、足の形がほんの少しだけ歪んで衝撃を吸収しながら、人は機能的に歩行することが可能となります。それゆえ仮に靭帯や筋肉などの支持組織がないと構造的に足は簡単に内側に倒れ込みながら崩れてしまい、この支持組織が機能をなくす、もしくはシェル構造の先天的不良に耐えきれなり構造破綻することで、歪みの大きな部位に痛みや変形といった各疾患が現れてくるのです。

図1

図2

足の構造が崩れるときには、それと連動して下腿(脛骨と腓骨)は内側に回転しながら下に崩れていきます(過回内 ; over pronation)。このときの捻じれの力は膝の関節にまで及びますが、1軸方向にしか動かない膝関節は一歩ごとに関節技をかけられているような状態となり、このことが原因で膝が悪くなることもあります。(図3)

図3

また、過回内は通常ですと両足同時に起こり得るのですが、日常診療では片方だけ、もしくは左右で過回内の程度に違いがでている方も多く見られ、これを「機能的脚長差」と呼んでいます。機能的脚長差があると、非荷重時での足の長さは左右同じなのですが、荷重時はどちらかの足が強く回内して崩れているため、結果的に足の長さが変わってしまうことになります。(図4ー1)

図4-1 成人の機能的脚長差 成人の機能的脚長差

それゆえこのような方は足の左右バランスが非常に悪くなってしまい、過回内の強い方の足から痛みを自覚しはじめ、捻じられた下腿により膝の関節痛を引き起こし、骨盤のラインは水平から大きく傾き、体幹全体の歪みへと進展してきます。足は通常、回内の強い方から悪くなっていきますが、次第に痛みから逃れようと無意識のうちに反対側の足に負荷をかけながら代償歩行することで、最終的に両足が悪くなってしまうという経過をたどります。

また、これは成人のみに起こり得ることではなく、成長段階の子供でも見られることがあり、その多くの場合は「足の痛み」で受診されます。しかしながら器質的な異常ではないため、通常のレントゲン撮影では確認できず、他覚的に判断するためには荷重をかけたままでの機能的なレントゲン撮影が必要となります。(図4ー2)

図4-2 学童の機能的脚長差 学童の機能的脚長差

いつからこのような事象が発生するのか? 原因は何なのか? を断定することはできませんが、あくまで個人的な見解としては、生れながらに親から引き継いだ遺伝的な骨格構造の微妙な個体差が、基本となる足の強さと弱さを二分しているのではと考えています。 そのように考えながら記憶をたどってみると、小学生の頃の持久走のとき、特に体育が苦手というわけではないのに長距離を走ることだけが苦手で、他の子より1周も2周も差をつけられてしまうような子がいたことを思い出します。本人も気づいてはいなかったと思いますが、おそらくは怠けたり、苦手だったりしたのではなく、単に足に構造上の弱さがあり、疲労に達する閾値が他の子よりも低かっただけなのでは? と今では考えています。 ときどき親子で同じような足の悩みを主訴に受診される方もいらっしゃいますが、足の骨格構造そのものと、それによる崩れ方がとてもよく似ているのが印象的です。(図5)

図5 親子の足トラブル

痛みの訴えで医療機関を受診しない子供でも、基本構造が弱いと成人になり痛みを自覚することがあります。足に構造上の問題がなくても、生活環境や体重、履いている靴、歩き方の癖、筋力や関節の柔軟性など、様々な環境要因が積み重なることで痛みの閾値を超えると、そこではじめて自覚症状がでてきます。

従って、足のトラブルで受診される患者さんを診るうえでは、その方が痛みの閾値を超える要因の中で「何が一番クリティカルなものなのか?」を見極めることが重要なのです。 (図6ー1)

図6-1 痛みの閾値を超える要因 痛みの閾値を超える要因

中でも忘れてはならないのは、糖尿病性神経障害を合併している方は、痛みの閾値が上がる、もしくは消失してしまうということであり、構造上の崩れが足そのものの破壊へと突き進んでしまいます。

足のアセスメントを行ううえで、まず診るべきポイントは、足が原因で足が悪いのか? もしくは膝や股関節、あるいは体幹などが原因で、二次的に足に影響がでているのか? を考えることです。足が悪くても膝・腰は悪くなりますし、その逆もあります。ですのでここを見誤ると全てのつじつまが合わなくなってしまいます。 次に靴ですが、患者さんの中では「新しい靴に変えてから痛みがでてきた」という方もおられます。もちろん、この場合の原因は靴ですので正しい靴の選び方などの指導が必要となります。特に神経障害を合併している方は、靴を履いている感覚が無いため、小さいものを好んで選びがちなので注意が必要です。 体重が重くなってから足に痛みがでてきたという方もいらっしゃいますし、減量により足の痛みがなくなったという方もおられます。やはり体重のコントロールは重要なのだと思います。

また関節可動域の問題や筋力低下がある方は理学療法士の方と連携をとりながら治療を行なう必要がありますし、それら以外でも足にスペシャリティーのある様々な職種の方々が介入しながら、ベストな治療を提供するチーム医療が大切になってきます。 最終的に、病的な構造の崩れがあれば手術による矯正も可能ですが、手術で構造全てを治すことは難しく、この場合、根本原因の解決となり得るマテリアルのひとつである、義肢装具士から提供される足底装具(靴のインソール)が重要な位置づけとなってきます。(図6ー2、図6ー3)

図6-2 効果的な介入の選択 効果的な介入の選択

図6-3 介入により閾値を超えない 介入により閾値を超えない

足の医療を提供するためには、治療と同時に予防が必要です。全てとは言いませんが、爪が巻く原因の多くは爪ではありませんし、趾が曲がる原因は趾そのものではありません。 ですので、痛みや炎症が強ければもちろん治療が必要ですが、その事象に至っている根本原因に対して、再発・進行抑制を目的に、どれくらいの楔をどこに打つのか? がアセスメントの重要ポイントになってくるでしょう。

次回は、足の構造上の崩れを中心に6つの疾患各論に対しまして述べたいと思います。

(2017年10月)

Act Against Amputation
-なくそう、下肢切断-

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