糖尿病ネットワーク

当コーナーでは、足病治療やフットケアに積極的に取り組む医療従事者からの投稿をご紹介しております。
皆さまの足への想い、忘れられないエピソードなどをご投稿ください!

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リレーコラム「つなごう、足への想い。」 ▶

4. リリーインスリン50年賞を受賞した父が教えてくれた事

総合病院 土浦協同病院 看護師
内田 みさ子

 インスリン治療を50年以上継続している糖尿病患者を表彰する「リリーインスリン50年賞」をご存知でしょうか?この賞は、米国でインスリンメーカーのイーライリリー社が1974年に設立した世界糖尿病デーに合わせて毎年11月に東京で授賞式が開催されています。日本でも2003年〜2016年までに120名が受賞し、2017年度11月に第15回の受賞式が開催予定で、受賞者には名前を刻印した銀製のメダルと世界糖尿病デーのシンボルカラーの「青いバラ」が贈られます。

 父も第10回の受賞式で受賞させて頂きました。50年というと半世紀です。半世紀前のインスリン注射は、注射器はガラス製で煮沸消毒をし、長く太い針を臀部に刺していたそうです。現在では進歩したインスリン治療ですが、当初のコントロールは大変難しく、父もおそらく高血糖と低血糖に悩まされながら半世紀に渡りインスリン治療を行なってきたのだと思います。

 私は、物心がついた頃には、家の冷蔵庫にはインスリンのバイアル製剤が卵の隣に陳列し、食卓には注射器が当たり前のように置いてあった光景が日常でしたので、糖尿病はとても身近なものでした。看護師になってからの私は、この父から、糖尿病にまつわる多くの経験知を授けていただきました。そして、父の足病変も経験しました。 この父の足病変から得た学びは、とても重要なものでした。看護師として父から学んだことは「予防の難しさ」と「継続支援と地域連携の重要性」でした。

予防の難しさ:何十年も何とも無いのだから大丈夫!ではない!

 私は2006年にフットケア外来を開設し、チームも立ち上げ、ドイツ研修まで行き、自己研鑽を積み、専門的な立場であったにも関わらず、同居する父の足病変を予防する事ができませんでした。それなりの靴を履かせていましたが、生活自立者であった父は脱ぎ履きを優先し、正しい履き方が徹底されていなかったことで「キッシングアルサー(隣接する趾骨の圧迫により形成する潰瘍)」を発症したのです。

 正しく履けていないことに気付いていましたが、何十年もなんとも無かったのだから、大丈夫だろうと考えていました。しかし、フットケアに携わり5年目のある日、左第3趾の内側に米粒ほどの潰瘍を形成したのです。元々酷い外反母趾で半世紀に渡る糖尿病歴のある父の検査結果は、予想どおり膝下3本の血管が閉塞していました。父の足を救肢するためには複数の病院を受診する事となり、予測はしていましたが、複数の病院をまたいでの受診と入退院を繰り返す事は本人にとっても家族にとっても、とても大変なことでした。専門的立場でいたからこそ、足病変の先人である医師たちの存在を知っており、そこに頼ることが出来たため、膝下切断にならずに済みましたが、最初に受診した病院や医師によって患者の足の運命は変わると身をもって知ることもできました。血流障害がある足が救肢できることはラッキーなことであり、予防は重要なのだと改めて実感しました。

 専門的立場で指導する自身でさえも、父の足病変を予防することができなかったのだから、生半可な指導で、素人である患者が足病変を予防できるはずがない!本気で、かつ真摯な態度で患者・家族に向き合う事が必要だ!と本気度がアップしました。

継続支援と地域連携の重要性:油断なく!継続した支援が必要!

 足趾1本で済んだ父のADLは低下したものの、きちんと靴を履き、必要なセルフケアもしっかり行いながら、元気にデイサービスに通所し、猫の世話までしていた父でしたが、足指切断から3年目のある日、デイサービスからの伝言で足趾に異常所見を発見しました。原因は、オーダーメイドの革靴にはまり込んだ飴でした。1度の足病変で学習していた父は、玄関のソファに腰掛け、一生懸命、踵をトントンして靴を履いていました。着用する時に上半身が下向きになるため、胸のポケットに入れている飴が靴の中に落ちたようです。デイサービスの親しい人にあげるための飴をいつも胸のポケットに忍ばせていたことが仇になりました。感覚障害がある父は当然、異物に気付きませんでした。履く前には靴を逆さまにして確認もしていたのですが、はまった飴は落ちてくることなく、父は足病変を再発したのです。そんなことがあるなんて・・・・!

 油断しては駄目なんだ!靴の形状も重要だ!生活光景を思い浮かべながら、リスクとなる生活習慣がないかどうかを考え、油断なく継続した支援が必要なのだ!ということを思い知らされました。

 デイサービスで日々観てくれた看護師さんのお陰で早期発見ができましたが、一度造影剤を使用し、足病変を治療している父の腎臓は限界でした。治療するなら透析導入が必要でした。しかし父は、週3回、1回4時間の透析を拒み、自宅からデイサービスに通い、猫の世話をするというこれまでの生活を継続することを強く望みました。父の意志を尊重して治療は断念し、感染予防の創傷ケアと痛みの緩和治療を選択しました。5本指靴下を履けず、痛みにより靴も履けなくなった父の趾の創傷は悪化の一途を辿り、増していく痛みによりADLはさらに低下し麻薬による疼痛緩和の影響で慢性腎症は進行、尿毒症状を来しました。食事も食べられず入院が必要な身体状況でしたが、日頃から自宅で最期の時を迎える事を希望していた父でしたので、元気だった頃の意志を尊重し、自宅で最期の時を迎えました。食事を食べなくてもインスリン注射が必要だった父の血糖管理は私がしていました。亡くなる当日の朝の血糖値は139/dlでした。後から思えば父がサンキューと言っていたのかもしれません。私の方こそ、ありがとう!と心から感謝です。

 父の足病変から学び得たことはとても多く、文章では書ききれませんが、この貴重な経験を無駄にすることなくフットケアナースとしての活動に日々役立てています。

著者プロフィール

氏 名
内田 みさ子
職 業
看護師
所 属
総合病院 土浦協同病院
略 歴
2004年 日本糖尿病療養指導士
2006年 糖尿病看護認定看護師、日本下肢救済・足病学会認定師
2009年 ORAシュパンゲ/VHOシュパンゲの国際ライセンス(ドイツにて取得)
2012年 上級メディカルフースフレ-ゲリンドイツ研修終了
2017年 ORAシュパンゲインストラクター
趣 味
乗馬、ベリーダンス
座右の銘
愛は最高の技術なり

(2017年08月)

Act Against Amputation
-なくそう、下肢切断-

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Faculty Member/Clinical Reporter
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