開催報告

第22回 若い糖尿病患者さんとのグループミーティングのまとめ

東京女子医科大学糖尿病センター 小林浩子

多くの方にご参加いただきました
第22回目のグループミーティング(2013年3月16日)には患者さん46名、ご家族1名、医師7名(うちスタッフ3名)、看護師3名、と本当に数多くの方にご参加いただきました。

新生活をむかえる前の3月だからでしょうか。他の方にきいてみたいテーマとして、一人暮らしの注意点や周囲への1型糖尿病の伝え方、受験生活を送る上での心構え、などが挙がりました。また新開発持効型溶解インスリンの長期処方が可能となり、使い方を知りたいとの声もありました。
 小グループに別れてから、それぞれのテーマについて患者さん、医療スタッフそれぞれの立場から自分の意見や体験談が話し合われました。

人間の心と身体
オープニングではチャプレンから「デカルトの誤り」という本が紹介されました。16〜17世紀に生きたデカルトは人間の心(理性)と身体を別々のものとして考えました。
 ですが本当にそうなのでしょうか?この本はダマシオという高名な脳科学者が執筆したもので、心と身体の緊密な関係性について論じています。
 現代では多くの人が、心は脳にあると考えていますが、胸がときめいた結果、心臓の鼓動が増えます。つまり胸が高まるわけですが、この"心臓の鼓動"などの情動も、心を作るのに影響を与えると分析しています 注1)

"こうしなければ身体に悪い"と頭でいくら理解していても、行動にはなかなか結びつかないものです。印象的だったのは13歳で1型糖尿病と診断されたAさんのコメントでした。
 Aさんは診断されてから数年にわたって、ずっと病気と治療に向き合う気持ちになれずに血糖コントロールが悪い状態が続いていたそうです。その理由は、他の患者さんたちの暗い顔だった、というわけです。その暗い顔をみていると心身ともに萎えてしまい、Aさん自身の描く人生との間の大きなギャップとして感じられ、生きていくためには糖尿病に対して目をつむるしかなかったとのことでした。
   実際、私たちの心は脳だけではコントロールできない、とても不可思議なものです。
    注1) 「脳のふしぎ」:朝日新聞グローブ 世界とつながる日曜版 2014/3/16 131号

心と身体の声に耳をすませ
午後、同じグループとなったBさんは「自分の生活に合わせてインスリンを打てばいい」と、ある集まりで言われた時から、血糖コントロールに対して気持ちが楽になり負担に思わなくなった、とおっしゃっていました。具体的に何がかわったのですか?とお聞きすると、「以前より血糖を測定する回数を増やしたかな?」とおっしゃいました。
 血糖コントロールが負担ではなくなったのに、血糖測定の回数が増えたというと一見矛盾していますね。ですがこれは血糖コントロールの目的が"HbA1cをよくするため、合併症を予防するため"から"自分の生活のため、人生のため"に変わるBさんにとって大きな一言であったのだと気がつきました。
 血糖コントロールは手段となったので、しっかりと自己管理をしていこう、という気持ちになられたのだと思いました。

ウィリアム・ジェームスという心理学者は「20世紀における最大の発見は、我々が心のあり方を変えることができることに気がついたこと、そして、心のあり方を変えることで、行動を変えることができることに気がついたことである」と語っています。

心と身体の声に耳をすませながら、少しでも自然な気持ちで1型糖尿病と付き合っていければと思いました。

追 記
今回、55名の患者さんにお申し込みいただきました。多くの方にこのミーティングを知っていただき世話人のメンバーとして大変うれしく思っております。ただしその一方で医療スタッフの人数も限られており、参加人数が多くなりすぎると、各々の方が十分にお話しいただけない可能性もでてきてしまいます。
 そこで、次回第23回目以降は患者さんの参加を50名までとさせていただくこととしました。よろしくご了解お願い申し上げます。

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