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22.ステロイド糖尿病

1. 奇跡のホルモン剤の発見
 第二次大戦中は海外の文献は入ってこない状態が続いた。終戦後は少しずつ入って来たが、大都市にはアメリカ文化センターができその図書館で医学雑誌も読めた(No.4参照)。さてもっとも劇的だったのは副腎皮質ホルモンの効果であった。昨日まで歩けなかったリウマチの患者がコーチゾン服用で痛みがなくなり歩けるようになったなどのニュースが伝わってきた。その発見にかかわったアメリカのKendallとHenchそしてスイスのReichsteinは1950年度ノーベル賞を受賞した。50年代になるとそれらのステロイドホルモン剤が輸入されて日本でも使用できるようになった。リウマチ以外にも白血病、再生不良性貧血、腎疾患など多くの内科疾患に用いられ著効を奏した。ペニシリンとともに奇跡的な薬であった。それまで使用されていた薬は効用のはっきりしたものはなく気休め薬のようなものであった。しかし繁用されるとともに副作用もまた多く報告された。その1つがステロイド糖尿病であった。米国ではLukens教授のネコのステロイド糖尿病の研究を手伝ったのでステロイド糖尿病は興味を惹くテーマであった(No.13参照)。東北大学第三内科でも血液疾患などでステロイドを使い、糖尿病になったから治療してくれという症例が多くなった。
2. ステロイド糖尿病の調査
 第6回日本糖尿病学会が大阪で開かれそのシンポジウムでステロイド糖尿病を担当することになった。そこでわれわれは教室の症例とともに全国のステロイド糖尿病の状況を知るために、1962年に全国の大学病院の内科・小児科教室に調査表を送りそれを集計することを行った。当時はこのような全国のアンケート調査が各分野で盛んに行われた。そのときの成績は現在とのよい比較になっている。調査時東北大学の内科・小児科でステロイド治療を受けたのは628例で、そのうち治療後にはじめて糖尿病になったのは46例(7.3%)であった。糖尿病発症までに使用したのステロイドの総量をみると、1000mg以内のものでは454例中24例(5.0%)、1000〜2000mgのものでは88例中8例(9.1%)、2000〜5000mgのもの69例では10例(14.4%)、5000mg以上投与例では17例中3例(17.6%)と、投与量が多くなるほど糖尿病の頻度は高くなった。平均1日投与量では5mg以内では46例中4例(8.7%)、5mg以上10mgまで176例では8例(4.4%)、11mg以上20mgまで266例中19例(5.2%)、21mg以上30mgまで100例中10例(1.0%)、31mg以上50mgまで31例中3例(10%)、51mg以上9例中2例(22%)と投与量が増すにつれて出現頻度が増す傾向がみられた。投与日数の明らかな600例のうち糖尿病となった46例の糖尿病発現日数の累積頻度をみると図1のように90日までに65%となり300日までに約85%、540日で100%となっている。全国大学集計では90日までに66%、300日までに92.4%となっている。

図1 ステロイド糖尿病発症累積頻度

 東北大学症例について年齢別発生頻度は表1のように40歳以後に高くなる。

表1 年齢別ステロイド糖尿病発症頻度(東北大学内科・小児科)

  年齢  例数  発症例  %
  〜10   80   3   3.8  
  10代    67   2   3.0
  20代  126   8   6.3
  30代  108   6   5.6
  40代   70   8   11.4
  50代   78   9   11.5
  60代   42   7   19.7
  70代   10   0    0
  80代    1   1  100
   計   582   44   100

3. 糖尿病になりやすい疾患はないか
 ステロイド療法で糖尿病になりやすい疾患はないだろうか、それを知りたいと思い図24のような集計を行った。

図2 ステロイド糖尿病発症例の原疾患の症例数と総例に占める割合(%)
(全国大学内科教室例)

図3 糖尿病が発見されるまでのステロイド投与総量(疾患別)
(全国大学内科教室例)

図4 糖尿病が発見されるまでの日数の疾患別平均値
(全国大学内科教室例)

 これらの図をみると特に発症しやすい疾患はなく、ステロイドの投与量と期間が多く長くなる疾患といえるように思われた。肝障害例では発症しやすいが、これは肝の分解・解毒機能の低下によると思われ、再生不良性貧血では膵にも血鉄症がみられ、線維増殖、腺房細胞の萎縮があり、その間に膵島が点在するのがみられた。ラットについても実験を行ったが糖尿病は現れなかった。
4. 転帰と治療は
 ステロイド療法では食欲もすすむ。食事制限しても差し支えない病気のときは制限する。それでもコントロールできないときはインスリン療法を行う。ステロイドの効いている日中から夕食後にかけて血糖が上昇するので速効性インスリンで対応すればよい。現在なら超速効性インスリンをやればよく、ステロイド減量によって軽快したらインスリン量も減量すればよい。全国集計で転帰の明らかなもの212例では、ステロイド中止後の糖尿病は消失53%、軽快25.5%、不変12.5%、悪化3.8%。死亡3.8%、観察中1%であった。
 ステロイド中止によって糖尿病も消失するものをidiosteroid diabetes、中止後も持続するのはmetasteroid diabetesである。後者は糖尿病の素因のある症例が多い。
 研究の詳細はホルモンと臨床 11巻3号、1963年、糖尿病 6、12-20、1963年参照。第5回IDF(トロント、1964年)でも発表。

(2004年10月03日更新)

  1. 40分かかって血糖値がでた
  2. 診断基準がないのに診断していた
  3. 輸入が途絶えて魚インスリンが製品化
  4. 糖尿病の研究をはじめる
  5. 問題は解けた
  6. 連理草から糖尿病の錠剤ができた
  7. WHOの問合わせで集団検診開始、GTTでインスリン治療予知を研究
  8. インスリン治療で眼底出血が起こった
  9. 日本糖尿病学会が設立
    そこでPGTTを発表
  10. 糖尿病の病態を探る
  11. 経口血糖降下薬時代の幕開け
  12. 分院の任期を終えて米国へ
  13. 米国での研究
  14. 2年目のアメリカ生活
  15. 食品交換表はこうしてできた
  16. 日本糖尿病協会の出発
  17. 糖尿病小児の苦難の道
  18. 子どもは産めないと言われた
  19. 発病する前に異常はないか
  20. 前糖尿病期に現れる異常
  21. 栄養素のベストの割合
  22. ステロイド糖尿病
  23. 網膜脂血症
  24. 腎症と肝性糖尿病
  25. 糖尿病者への糖質輸液
  26. 糖尿病と肥満
  27. 血糖簡易測定器が作られた
  28. 糖尿病外来がふえる
  29. 神経障害に驚く
  30. 低血糖をよく知っておこう
  31. 血糖の日内変動とM値
  32. 血糖不安定指数
  33. 神経障害のビタミン治療
  34. 糖尿病になる動物を作ろう
  35. 糖尿病ラットができた:無から有が出た
  36. 国際会議の開催
  37. IAPで糖尿病はなおらないか
  38. 日本糖尿病学会を弘前で開催
  39. 糖尿病のnatural history
  40. 薬で糖尿病を予防できる
  41. 若い人達の糖尿病
  42. 日本糖尿病協会が20周年を迎える
  43. 糖尿病の増減
  44. 自律神経障害 (1)
  45. 自律神経障害 (2)
  46. 自律神経障害 (3)
  47. 自律神経障害 (4) 排尿障害
  48. 自律神経障害 (5)
  49. 瞳孔反射と血小板機能
  50. 合併症の全国調査
  51. 炭水化物消化阻害薬(α-GT)
  52. アルドース還元酵素阻害薬
  53. 神経障害治療薬の開発
  54. 人間ドックと糖尿病
  55. 糖尿病検診と予防
  56. 中国医学と糖尿病
  57. 日本糖尿病協会の発展
  58. 学会賞
  59. 糖尿病の病期
  60. 食事療法から夢の実現へ
  61. インスリン治療と注射量
  62. インスリン治療と低血糖
  63. 糖尿病の性比
  64. 糖尿病と動脈硬化─高血糖は動脈硬化を促すか?─(1)
  65. 糖尿病と動脈硬化─高血糖は動脈硬化を促すか?─(2)