私の糖尿病50年-糖尿病医療の歩み

31.血糖の日内変動とM値

1. 1日何回測定すればよいか
 糖尿病の治療は治療法に対する血糖のコントロールの良否をみながら治療内容を変えていくので、治療の効果を適正に評価することが必要である。この目的に、入院患治療では血糖の日内変動と尿糖1日排泄量をみることが行われた。血糖は測定回数が多いほど適確に評価されるが患者の苦痛は多くなる。まだ簡易血糖測定器の出現以前の1960年代には、通常は毎食前と就寝時の4回、次は毎食前と食後2時間と就寝時の7回、さらに毎食前と食後1時間と2時間と就寝時(21時)、0時、3時、7時の13回の血糖検査が行われた。しかし1日13回も針を刺されるのは大変なので、我々は注射器による採血は21、0、3、7時のみとし、その他の時刻は医師が耳朶血を採血した。まだ耳飾りをしている人が少ない時代で支障はなかった。
 血糖の日内変動曲線の形は多様であるが、これを朝、昼、夕、夜の4つに分け、時間帯の血糖の動きをパターン化することを考えた。上昇するときは山型でA(alps)、異常に下降するものは谷型でV(valley)、平坦なものはF(flat)とし、動きが小さいときはa、v、fとした。3つの要素が4つ並ぶとしても81の組合せがあり、F、A、a、V、vの5つの要素が4つ並ぶとすると15,625の組合せができることになる。しかし実際には次の6型に大別できることがわかった。
FF型1日中平坦なもの
FA型Fの他にA、aのあるもの、aFFF、AAAF、aaAFなど
FV型Fの他にVあるいはvのあるもの
AA型Fがなく全てA、aだけのもの
VV型Fがなく全てV、vだけのもの
AV型FがなくAとV、vのもの
 この6つのパターン別に早朝空腹時の平均値と日内変動の血糖変動範囲、尿糖1日排泄量(g)を示すと表1のようになった。尿糖排泄量の多いのはAA、FA、AVである。治療法との関係は表2に示した。

表1 糖尿病患者の血糖日内変動のパターン別にみた空腹時血糖値、血糖変動範囲、尿糖量
血糖日内変動型(例数)
FF
(3)
FA
(38)
FV
(29)
AA
(7)
VV
(18)
AV
(22)
空腹時血糖値
平均値
<120mg/dL
121〜150
151〜200
201〜250
>250
83
3
0
0
0
0
153
14
5
9
7
3
182
5
6
9
5
4
141
3
2
1
1
0
240
0
1
5
4
8
196
2
4
6
6
4
血糖変動範囲
平均値(mg/dL)
<80
81〜160
161〜240
241〜320
>320
64
3
0
0
0
0
143
3
21
11
2
1
112
5
22
2
0
0
225
0
2
1
3
1
184
0
8
6
4
0
253
0
1
13
4
4
尿糖排泄量平均値(g)
5
50
10
67
22
45

表2 血糖日内変動型と治療法
治療法
(例数)
血糖日内変動型
FF
FA
FV
AA
AV
食 事
経口剤
R×3
L×1
L×2
L+R
(22)
(16)
(43)
(13)
(12)
(11)
2
0
1
0
0
0
13
10
3
8
1
3
5
3
16
2
1
2
2
2
1
0
2
0
0
0
15
0
2
1
0
1
7
3
6
5
R:レギュラーインスリン、L:レンテ、NPH インスリン
2. 日内変動を数値で表現するM値
 日内変動をパターンで示すのもよいが、もっと簡単に表現する方法はないだろうかと考えていたところ、デンマークのSchlichtkrull, J(1965)らがM値(morbusを意味する)を提唱した。これはもっとも望ましい血糖値(例えば100mg/dL)を0とし、それより高い値や低い値になるほどに高い点数を配点する方式で、その点数は次の式で求められる。
BSは血糖値、ここでは血糖100mg/dLをもっとも望ましい血糖として100としている。原著では120。
表3 の表
血糖値
O
100
200
300
400
500
0
5
10
15
20
25
30
35
40
45
50
55
60
65
70
75
80
85
90
95

2200
1000
560
340
220
140
95
63
42
27
17
10
5
4
2
1
0
0
0
0
0
0
0
0
1
1
2
3
4
5
6
8
10
12
14
16
18
21
24
27
30
33
36
40
43
47
50
55
60
65
65
70
75
80
85
90
95
100
105
110
115
120
125
130
135
140
145
150
155
160
165
170
180
185
190
195
200
210
210
220
220
230
240
240
250
250
260
270
270
280
280
290
300
300
310
320
320
330
330
340
350
350
360
370
370
380
390
390
400
400
410
420
420
430
440
440
450
460
470
血糖値25mg/dLなら220、75なら2、110なら0、140なら3、240なら55、290なら100、350なら160、560なら420が配点される。
 表3は血糖100mg/dLがもっとも望ましい値として計算した血糖値別配点表()である。1日7回の測定値があるとしたら、その各々に点数を与えて平均値を計算する。この平均値をM値とするのである(Schlichtkrullらは血糖の変動幅の1/20を補正値として加えているが、筆者らはこれを省略した)。このM値だけでコントロールを評価できるので簡便である。

 梁盛強博士(当時、平鹿総合病院)は入院糖尿病患者については13回法の血糖日内変動で治療していた。そこで、同博士は44人について測定した245個の日内変動曲線について、13回法の他に7回法、4回法にした場合のM値も計算し、その各々のM値の平均値と標準誤差を求め、次の成績を得た。

13回法M1334.61±2.63(n=245)
7回法M733.78±2.55(n=245)
4回法M425.68±2.24(n=245)
M13とM7とには有意の差はないが、M4とM13、M4とM7との間には有意差(P<0.01)がみられた。
 このことにより、1日13時点で採血してM値を求めても7時点で採血したのとあまり変わらない、したがって特別なことがなければ7回法でよいといえる。これに対し4時点法では食後の高血糖が除かれるのでM値は低くなるわけである。
3. 血糖変動のパターンとM値
 上述のように日内血糖変動曲線をF、A、Vでパタンー化し、日内変動は6つのパターンに分類できることがわかったので、それぞれのパターンに属する日内変動についてM値との関係をみると表4のようになった。パターンの中でM値の平均値がもっとも少ないのはFFで、次がFV、もっとも高いのはAA、次がAVであった。M値32以上を血糖コントロールがPoorとすると、Poorの頻度の高いパターンはAA次いでAVであり、FFにはPoorはゼロであった。
 治療法のパターンの分布は表2に示したが内海信雄博士(当時、水戸協同病院)は入院時の毎食前後計6回採血の日内変動のM値別に、最終的にコントロールに必要とした治療法を検討し、表5のようにM値31以上のものは食事療法だけでは治療できず、また101以上のものはすべてインスリン療法になることを示した。

表4 糖尿病患者の血糖日内変動のパターンとM値によるコントロールの良否との関係
血糖日内変動型
(例数)
FF
(15)
FA
(47)
FV
(48)
AA
(8)
VV
(21)
AV
(31)
M値の平均
7±5.5
33±4.6
22±2.8
68±11.1
30±4.2
47±4.9
コントロール
Good(O―18)
Fair(19―31)
Poor(>32)
Poorの頻度
15
0
0
0
19
13
15
32%
31
6
11
23%
0
1
7
87%
6
6
9
43%
4
6
21
68%

表5 経口剤およびインスリン投与前のM値別にみた必要治療法の分布
M値(例数)
必要とした治療法
食事のみ 経口剤 インスリン
≦10(48)
11― 20(12)
21― 30( 6)
31― 40( 3)
41― 50( 4)
51―100(14)
>101(19)
44
     4
     0
6
6
0
1
3
2
0
3
0
0
2
2
0
5
9
0
0
19
計(106)
51
    23
    32

 血糖の日内変動の評価法は血糖の変動幅を求める方法MAGE(mean amplitude of glycemic excursions, Service 1970)なども提唱されたが、M値を越えるものではなかった。1980年代になるとグリコヘモグロビンが用いられるようになったが、これは日内変動の評価とは別個のものである。

(2005年07月03日更新)

※ヘモグロビンA1c(HbA1c)等の表記は記事の公開時期の値を表示しています。

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