私の糖尿病50年-糖尿病医療の歩み

61.インスリン治療と注射量

1. インスリン治療の必要な高血糖の人
 糖尿病の治療は食事療法が基本である。しかし自分が糖尿病になっていることを知らずにいて、体がだるい、のどが渇く、就寝後に排尿に起きるようになった、などの症状が現れて医療機関を訪れる方もいる。このような人の中には血糖が300mg/dL以上になっている方もいる。

 よく聞いてみると5年も前に健診で「糖が出ている」と注意されたことがあったが、自分としては何の苦痛もなく、仕事が忙しかったのでそのままにしていた、というのである。注意はされなかったのかと尋ねると、健診結果を受け取っただけ、とのこと。

 政府ではこれから健診に力を入れて、結果の悪い人には、十分説明・注意をし、フォローアップするという方針が予告されている。こうすることで成人病といわれた生活習慣病が減少して医療費が少なくて済むようになると予測している。

 しかし医者嫌いの人がいたり、病気がみつかると昇進のハンディになると受診しない人も出てくる。世の中、奴隷の集団でもないので、指示通りに動いてくれるのはどれくらいになるか。

 さて、もとに戻って、しばらく放置して糖尿病と診断される人達の中には上述のように血糖が300mg/dL以上になっている人もいる。このような人には入院していただいて、食事療法をし同時にインスリン療法をすれば血糖値は改善する。しかし仕事が忙しかったり、入院できない事情を抱えている方もいる。

 その場合は、外来でインスリン注射法を教えて、自宅で実行させるよりない。ひと昔前なら入院以外に方法がなかったが、現在は検査法も注射器具も簡単なものが開発されて、それが可能になった。

 使い捨て注射器が開発される以前は、ガラス製注射器を注射針とともにガーゼに包んで、小鍋で煮沸消毒し、それでインスリンの瓶からインスリンを吸い取り注射していた。ディスポーザブル注射器が開発されてから注射器の消毒がなくなり、インスリン療法はより実施しやすくなった。そして1985年にはノボ社がペン型インスリン注射器ノボペンを発売し、インスリン療法の実施がいっそう容易になった。ペン型注射器にはその後改良が加えられ、より実施しやすくなった。

 医師ではない糖尿病の人が自分の体であっても注射することは法律では認められなかった。したがって医療機関に遠い糖尿病小児は長く生きていることはできなかったのである(No.17参照)。インスリン自己注射が公認されたのは1981年6月であり、それまでは先進諸国では考えられないことが行われていたのであり、また日本糖尿病学会でもその問題を避けていた事情がある。

 現在ではインスリン治療が非常にやりやすくなってありがたく思っている。

2. 血糖自己測定
「自己管理ノート」
日本糖尿病協会「自己管理ノート」 (社)日本糖尿病協会 発行

「自己管理ノート」は2007年に改定された。下記写真は改定前の表紙。
日本糖尿病協会「自己管理ノート」
 インスリンの注射量は病状によって異なり、重症なほど多く、軽症なものほど少なくてよいのであるが、インスリンが効きやすい人と効きにくい人とがある。したがってインスリンの注射量は実際にやってみて反応をみなければわからない。

 幸い現在は血糖自己測定(SMBG: self monitoring of blood glucose)が簡単に行えるようになっている。1948年にKeilinとHartreeがブドウ糖酸化酵素を用い消費されるO2量を測定することによりブドウ糖を測定し、1956年にKestonとTellerがこの酵素系にperioxidase反応を組み合わせて比色定量法が考案されTes-Tapeが開発された。

 この比色を光学的測定系に取り入れた簡易測定器Reflectance meterが1970年にAmes社で開発、わが国でも1971年より用いられるようになったが、高価で(当時40万円といわれた)普及しなかった(日本医事新報 2475号 31頁、1972)。

 その後マイルス・三共社ではグルコスター/グルコスティックス系を開発市販、そして京都第一科学でグルテストを開発販売後は各社で次々に製品を発表している。わが国では価格破壊が起こらないようにしているためか、国産品でも米国で求める方が安価である。また1986年9月より血糖自己測定が健保適用となり普及している。

 このような状況にあるので、インスリン治療を在宅で行う人には血糖の自己測定を正確に覚えさせ、目の前でやれることをチェックすることが大切である。これが不正確に行われると治療に誤りが起こるこになり危険である。この血糖自己測定に必要とされる血液の量はきわめて微量なので、消毒用のアルコールが吸い込まれると低い値が現れる。

 実際はアルコールで皮膚を消毒しないで針を刺して血液を出しても化膿することは稀なので、アルコール消毒は測定が済んでから行ってもよいし省略してもよい。血糖の測定はのノートに記入し医師に報告する。ノートは医師から支給される。

3. インスリンの注射量
 インスリンの注射療法の進め方には一定した方式はない。特に近年はインスリン製剤が多様化しているので、その中で手慣れたものを使用することになる。はじめにやりやすい方法を述べる。

 ご承知のように、膵島のβ細胞からは絶えず少量のインスリンが分泌されている。そして食物をとるとその食物に応じた量のインスリンが分泌される。前者の絶えず少量分泌されているのを基礎分泌、食物をとったときに血糖の上昇に対応して分泌されるのを追加分泌と呼んでいた。

 健常者で1日に分泌されるインスリン量は24〜37単位(平均31単位)(Genuth S、1973)で、超肥満の非糖尿病では114単位の例もあったという。このような健常者の成績をもとに、インスリンがほとんど分泌されていないと思われる糖尿病の人には1日体重kg当たり0.5〜0.7単位を注射すると言われている。

 空腹時血糖200mg/dL以上の身長170cm、体重80kgの男性には0.6単位/kgとすれば48単位となる。そこで毎食前15単位ずつ1日3回計45単位の注射から開始する。この量であれば不都合が起こることはない。インスリン製剤も多くの種類があるが、超速効型インスリンにゆるやかな中間型インスリンが混合されたもの、ノボラピッド30ミックス、ヒューマログミックス50などがよいと思われる。

 食事5〜10分前に15単位を皮下注射し、食事をとらせる。次の食事の前に血糖自己測定を行わせ、結果をノートに記入させる。やはり15単位を注射させる。このようにして1日3回注射し、3回食事をとる。

 翌朝も血糖を検査し同様のことを繰り返す。4、5日しても血糖が下がらず、かえって上昇するようなときは医師に連絡をとり指示を待つ。おそらく食事量が多いか、血糖を上げるなんらかの疾患が起こっていたり、血糖を高くするプレドニンなどの薬剤を服用しているときはインスリンの効果が現れにくい。

 4、5日して朝食前の血糖値が200mg/dL以下となり例えば185mg/dLになったとすれば、食後には250mg/dL以上になるであろうから、そのまま15単位1日3回続けていく。もし160mg/dL台になったら、低血糖がなければそのままの量の注射を続ける。120mg/dL台になったり、低血糖の症状が起こった場合には次回からインスリンを10単位に減量させる。もっとも恐いのは低血糖なので、低血糖については詳しく説明する(次回解説)。自動車を運転しているときに低血糖を起こすのがもっとも危ないのでその注意と対処法を具体的に話し理解させることである。

 インスリンの注射手技については実際にやらせて、正しく実践できることを確かめておくこと。実際にインスリンや生食水などで注射させてみること。在宅自己注射の場合には医師と連絡がとれるようにしておくことが前提である。インスリン注射量の減量も医師の指示で行うことである。

4. 効果が現れたときの減量
 低血糖が現れたり食前血糖が120〜140mg/dLまで改善した場合は、毎食前15単位ずつ注射していたのを10単位ずつに減量する。もし10単位に減量しても食前血糖が120〜140mg/dLのときは8単位1日3回にする。減量は急がずゆっくりやった方が治療の成功率がよい。

 インスリン治療のやり方にはいろいろな方法がある。少量から増量する方法や、持効型インスリンを用いる方法などもある。次回から解説する予定である。

(2008年01月30日更新)

※ヘモグロビンA1c(HbA1c)等の表記は記事の公開時期の値を表示しています。

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