1.糖尿病になった裕太君


 祐太ゆうた君は11歳、小学校5年生です。勉強はそれほどとくいじゃないけど、学校でサッカーをするのが大すきな、ごくふつうの男の子です。
 ところが、2、3日前からごきげんななめです。なんだかだるくて、ねむくて、元気が出ません。おしっこに何回もいくし、のどもかわくし、おまけにむかむかして、吐きそうなのです。
 おとうさんとおかあさんは、ぐったりしている祐太君を心配して、病院につれていきました。祐太君は、検査けんさのために血をとられて、それからおしっこの検査をすませてから、佐藤さとう先生の診察しんさつをうけました。
「祐太君は、血液けつえきの中にブドウ糖とうがたくさんたまっているよ。ブドウ糖の濃さを測はかった値あたいを『血糖値けっとうち』というんだけど、この値がとても高いんだ。それにおしっこにも、ブドウ糖とケトン体たいが出ているんだ」
「ケトン体って?」
「それは、脂肪しぼうをエネルギーの材料にして使った残りカスのことだよ。からだは、ふつうブドウ糖をエネルギーの材料にするから、ケトン体をあまりたくさんつくらないんだ。ケトン体がいっぱいつくられると、おしっこに出てくるんだよ」
 診察のあと祐太君は、ベッドの上にねかされて、大きなビンの点滴てんてきをされました。まっ白なへやで、しずくがポタン、ポタンと落ちるのを見ていると、なんだかさびしい気持ちになってきました。
 佐藤先生は、むこうのへやで祐太君の両親と何か長い話をしていましたが、ようやく祐太君のところにやってきました。
「祐太君、君はこれから入院にゅういんしなくてはいけないよ」
「えっ、どうして? ぼく、そんなにわるい病気なの?」
「祐太君は、糖尿病とうにょうびょうになってしまったんだよ」
「糖尿病?」
「そうなんだ、糖尿病は、『インスリン』という、生きてゆくために必要なものが、からだの中で十分つくれないためにおこるんだ」
「インスリンってなあに?」
「インスリンはね、だれでも自分のからだでつくっているものだよ。おへその上に左手をおいてごらん」
「ここらへんかな?」
 祐太君は、おへそのあたりを、左手でそっとおさえてみました。
「そうそこ、その手のずうっと奥おくのところにあるすい臓ぞうが、インスリンをつくるところだよ。食べた食事の量やからだの大きさにあわせて、すい臓ではね、一日じゅうインスリンをつくるんだ」
「一日じゅう?」
「そう、起きているときも、寝ているときも、一生の間、毎日、毎日だよ」


「祐太君のすい臓は、インスリンを十分つくれなくなってしまったんだ。それで、今日から君は、インスリンを毎日注射ちゅうしゃでおぎなってあげないといけないんだよ」
「毎日なの? 日曜日は注射しなくていいんでしょう?」
「学校は休みだけどね、毎日食事をしたり、からだを動かすだろう。だから、インスリンの注射には休みはないんだよ」
「インスリンって、そんなに大事なものなの?」
「人が生きるためのエネルギーをつくるのに、どうしても必要なんだよ」
「生きるエネルギーってなあに? ウルトラマンが怪獣かいじゅうをやっつけるのに使うスペシウム光線のこと?」
「それもエネルギーのひとつだね」


「こうして静かに寝ているときでも、エネルギーを使っているんだ。ふつう体温たいおんは36℃から37℃あるね。体温は、からだがエネルギーを使ってできた熱なんだよ」
「じゃあ。体温があるときは、ずっとエネルギーを使っているときなの?」
「そうだよ、生きている間は、ずっとエネルギーを使いつづけているんだよ」
「そんなにたくさんのエネルギーを何に使うの?」
「たとえば、走ったり、食べたり、けんかしたり、からだを動かすのに使うだろう。それから、ものを考えたり、息をしたり、心臓しんぞうを動かすのにも使うんだよ。子どもから大人のからだに成長するのにも必要だし、ほかにも数かぞえきれないくらい、いろんなことにエネルギーが使われてるんだよ」
「エネルギーは、何からつくられるの?」
「祐太君が毎日食べているものからだよ。食べた物は歯でくだかれて、胃におさまり、それから腸ちょうをとおっていくうちに、小さな小さな栄養素えいようそに分解ぶんかいされて、血液の中に吸収きゅうしゅうされてゆくんだ。その中でも糖質とうしつを含む食品からは、ブドウ糖という栄養素がたくさんできるんだ」
「ブドウ糖?」
「そう、このブドウ糖がエネルギーの直接の材料だよ」

★ 糖質、たんぱく質しつ、脂肪は、三大栄養素とよばれています。


「血液の中に、ブドウ糖がはいっているの?」
「そうだよ」
「血液って、さっき注射でとったでしょう? おなかから手まで血液がつながっているの?」
「そうだよ、手だけじゃないよ。からだには髪かみの毛とつめ以外のすべての部分に血管があってね、その中を血液が流れているんだ。手の血管けっかんは太くて皮膚ひふの上から見えるけど、糸よりも細い血管もあるんだよ」
「ほんとう?」
「ほら、アカンベーしてごらん。まぶたのうらに見える赤くて細いすじも血管なんだよ」
「わあ、すごい。からだじゅうに、こんなにたくさんの血管があるんだ」
「こうして、おなかで吸収されたブドウ糖は血液にのって、からだのすみずみに運ばれていくんだよ」
「そうしてどうなるの?」
「ブドウ糖はね、からだをかたちづくっている細胞さいぼうのひとつ、ひとつにとり込まれて、エネルギーをつくるのに利用されるんだ」
「ブドウ糖は、血液の中から細胞の中にはいっていくんだね?」
「そうそう」
「じゃあ、ぼくは、血管と細胞のより集まりなんだ」
「そういうことになるね」


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