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10高血糖と低血糖
内潟安子  東京女子医科大学 糖尿病センター教授
2006年05月
  「高血糖はインスリン注射をすれば血糖値が下がるが、低血糖を治すのは大変だ」と思っていませんか。「高血糖は長く続くのがだめなので、高血糖状態が短ければ合併症を将来おこすことにはならないのだ」と。

 だから、低血糖のほうが恐い、低血糖のほうが大変だ、と信じているという人が多くいませんか。自分はそうは思わないのだが、家族はどうもそう思っているようで、「低血糖になると家族はとても心配してしまうのです」と。

 では、人間の体というのは高血糖に強いのだろうか、低血糖に強いのだろうか、と考えてみましょう。例えば、インスリン治療中の妊婦さん。血糖を正常域にしておかなければなりません。そうしないと、赤ちゃんの心臓などに奇形が発症したり、巨大児になったりしてしまう確率が高くなります。そのために血糖値をできるだけ正常域になるようにコントロールします。食後に少しでも血糖値が高ければインスリンを追加注射して下げます。なぜなら、血糖値が高いとケトン体などがたちどころに産生され、赤ちゃんの生命に大きく影響するからです。もちろん、インスリンが多く注射しまったら、かえって低血糖になりやすくなります。しかし、赤ちゃんの生命にはなんら影響を与えません。元気なのです(母体は低血糖で意識がなくても)。

 高い山で遭難したニュースがときどき新聞にでますね。大きな地震も最近多いですね。遭難者や地震の被災者の救助に政府や民間団体が精力的に活躍しますが、1週間後に生きている人発見!といううれしいニュースが飛び込んでくると、救助に参加していないわれわれもうれしく心温まります。食べ物がない、水もなくすこしの雨水を飲んでいただけなのに、よく生きていたね、と思われる状況であったことが伝えられます。体のなかで究極の低血糖にならないための装置がしっかり働いていたことが想像されます。我々の体には、血糖を著しく低くならないような装置がいくつものホルモンによって常時遂行されており、これらは生まれもってあります。低くなるような状況ではそれに打ち勝って血糖を上げようという力です(一方、血糖を下げる装置はインスリンというホルモンでしか行われないことはもうご存知ですね)。

 では低血糖で意識を失ってしまうのはどう説明できるのかと。多くの血糖を上げる装置があるのですが、注射したインスリンの作用が急に効いてくると追いつかなくなって、低血糖になってしまいます。汗をかいたり、動悸がしたり、低血糖から回復するとひどい頭痛がするのはすべて、血糖を上げる我々の体にあるホルモンの影響なのです。

 人間の体は高血糖になると、血糖自体が体にとって異物と認識されてしまうようです。高血糖になると酸化物質が産生され、これがいろいろな臓器、たとえば血管などに悪い影響を与えます。最終的には血管を作っている細胞を壊してしまいます。どういうことかというと、高血糖状態では血液中の物質が糖化されて、体にとって異物となってしまいます。それを排除するための機構が体の中にあるのですが、この機構が普通以上に活動すると、それ自体が「炎症」をおこし(肺炎をおこしたときと同じ反応です)、さらに自分の細胞を傷つけていきます。

 もちろん、いつも低血糖状態にしておくのがいい、と言っているのではありません。「高血糖になるかもしれない」と自分で分かるようにしましょうということです。放置しないということです。できるだけ短時間にしましょう。短時間にするつもりがだんだん昨日も今日も明日も高くならないようにしましょう。

 高血糖になるのにも、低血糖になるのにも、原因があります。原因がなければ、高血糖、低血糖になりません。自分自身でその原因の解明ができるかどうか、ここが個人個人で異なるといえましょう。ある人は上手にできるが、自分はできない、といったように。

 上手にできる人は確かにいます。多くいます。そういう人は血糖自己測定をしなくてもできます。かれらは血糖自己測定を再度やりだすと逆に勘が狂ってしまうともいいます。「今日の午前中が高めになるなー、昼に2単位足してみたから多分これでうまくいくだろう」と分かるようです。

 血糖がこれから高くなるなー、いや下がっていくなー、という感覚は、すこしの訓練でできるようになります。ぜひ、血糖測定するまえに、いまの血糖は高め?、低め?と考えてから測定してみましょう。

©2006 内潟安子


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