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43治療的患者教育(TPE)と日本の若者の企画
内潟安子  東京女子医科大学 糖尿病センター教授
2009年01月
 いま、Therapeutic Patient Education 2008(TPE2008)という学会からの帰りの飛行機のなかで、書いています。

第4回DAWNサミットは、2008年11月4日〜6日にハンガリーのブタペストで開催された「TPE2008」のなかで開催されました。

TPE2008のホームページ
http://www.kenes.com/tpe/

ポスターと会場の様子


(写真提供 坂本辰蔵)

左から坂本辰蔵さん、口演した河野広和さん、ISPAD会長トーマス ダーネ教授、 筆者(右端)

(写真提供 河野広和)

詳しくは(社)日本糖尿病協会が発行する雑誌「月刊糖尿病ライフ さかえ」でも紹介されます。

DAWN Youth (ドーン ユース) は、特に心理社会的課題の克服に焦点を当て、糖尿病の子供や若者とその家族の生活を改善するために、患者や家族、周囲の人々が意見を述べること、また糖尿病に関する研究や活動を支援することをねらいとして実施されている国際的な研究です。国際糖尿病連合(IDF)、国際小児思春期糖尿病学会(ISPAD)、ノボ ノルディスクが連携し取り組んでいます。
治療的患者教育(TPE)の誕生
 いかに良い薬が開発されようと、いかに良いインスリン製剤が開発されようと、糖尿病をはじめ多くの慢性疾患のケアを必要とする体の状態を快適に保つには、ご本人の「そのようにするのだ」という意思がなければなりません。良い治療薬がどんなに開発されても、それだけでは良くならないということです。
 このことは、糖尿病診療に長年携わってこられた先生や看護師の方々にはごく普通のこととして知られていたことです。
 たとえば、超速効型インスリン製剤が開発されたとき、これで飛躍的に血糖コントロールが良くなるのだろうと思われました。しかし、超速効型インスリンは、上手に使ってもらえばとても良いのですが、うまく使用しないと良い血糖コントロールにはまったくなりません。もっと極端な例でいえば、過食症の方などに超速効型インスリンを使用していても注射を半分量にしたりスキップしたりする方がみられます。これでは血糖コントロールには結びつきません。スキップ、つまりインスリン注射をしないわけですから、当然血糖は下がりません。
 このように、治療薬の開発、新しい治療戦略が発表されても、それはまず食事療法(量やエレルギーのことだけでなく、その質や食事する時間などの知識も含めて)がまずまずできていて、そして治療薬を飲む、インスリン注射をきちんとするのだというご本人の意思が育っていなければ、少しも治療効果が上がりません。
 よって、患者さんに「糖尿病というものを理解してちゃんとやっていくのだ」という心をもってもらうための教育について「これも治療なのだ、教育のレベルを超えて糖尿病においては治療の一環なのだ」という考えが、広まってきました。
 このTPEという学会は、まさしくこのことを中心課題として討議する学会で、2006年から、世界的に開催されるようになりました。
患者さんに理解してもらうことは治療である
 「自分で自分の糖尿病をマネージメントする」これを「自己管理」と日本では訳しています。自己管理とは、本人の能力、生まれ育った環境、社会性など、患者さんがこれまで身につけていた能力に加え、医療従事者に頼って行うのではないこと、医療従事者にとっては「プロとして」患者さんに自己管理する能力を「養成していく」ことが求められている、ということです。これが治療だ、というわけです。
 よって、医療従事者は、これまでの医学の知識とともに、患者さんの自己管理を養成する能力を学んで、診療にあたらなければならない、ということになります。
これまでの糖尿病診療は?
 そうです、これまでの医学部の勉強や実習のなかには、このような学問はなかったのです。このような知識がなくても、医者やナースの資格試験には合格していたわけです。
 それでは、実際の糖尿病外来診療ではどうしていたのでしょうか。いってみれば見様見真似であったということでしょうか。先輩の先生の外来診療を拝見して体得していったり・・・、もともとそのような能力をもちあわせている先生もおられます。ともかく自学自習で勉強して、患者さんのやる気をおこして一緒に糖尿病に立ち向かうようにしてきたといえるでしょう。
糖尿病患者さんのエンパワーメント
 「エンパワーメント」という言葉があります。これは「当事者が自分で自分の問題解決方法を見出していけるようにする」という意味になりますかしら。それでは、医療従事者はエンパワーメントさせるように、どのように患者さんに向いあえば良いのでしょう。これまで医療従事者には、知識もなく実践もなかったに等しいといえるでしょう。
 もちろん、教育学とか、カウンセラー養成コースなどは、こういったことを専門的にできるように学ぶわけですが、糖尿病領域にはこれまでなかったわけです。たとえ教育学修士を取得しても、糖尿病患者さんのエンパワーメントを図るのは、それだけでは不足でしょう。学びたいという気持ちをもった集団に対して教育を行うのは、ある意味やりやすいが、摂食障害やうつ状態で糖尿病などの疾患をもった集団に対してやる気をおこさせるのは、至難のことです。単に教育学を学んだだけではできないことではないかと思います。
 ここに、「治療的患者教育」という概念が生まれてきたわけです。患者教育がサイエンスの上に成り立ったということでしょう。
世界は患者教育のプロを求める方向に
 これまで、「DAWN Youth (ドーンユース) 調査」について数回ここで掲載しましたが、ドーンユースの目標は、TPEの必要性を認識し、われわれ医療従事者がエンパワーメントのやり方を習得し、若い糖尿病患者さんの生活やとりまく環境とうまくいやっていく力を確立することにあります。そして、患者教育の場を科学的な面から設立して、世界的規模で展開しようとする動きでもあります。
 患者教育を科学的に行う。科学的に行うということは、きちっと評価も科学的に行うということです。10人の患者さんにあることを教育したら、4人はうまくいった。あとの6人の患者さんはなぜうまくいかなかったのだろう、どうすれば良いのか、このようにさらに科学的に考察していくわけですね。
 新規に展開するグループミーティングも、参加する医療従事者には評価をお願いしようと思っています。自分の理解度のチェックではなく、グループミーティング自体のやり方が良いのか、無駄がないのか、科学的な評価というものが必要不可欠なのです。
日本の若者による企画が選出される
 DAWN Youth (ドーンユース) の結果から明らかになった“満たされていないニーズ”をなんとか打開すべく自国でなにができるか、若者たちに5つのアクションテーマにフォーカスしてアイデアを出して欲しいというIDF、ISPADおよびノボ ノルディスクが企画した世界規模のコンペが昨年の夏前にもちあがりました。日本糖尿病協会の了承のもとに、全国から6人の若者に集まってもらって、ブレーンストーミングを繰り返し、4つの企画を抽出し、予算をつけ、スケジュールもつけました。夢のようなことを企画するのではなく実行可能なことかどうかも審査されるわけです。
 審査の結果、上位2ヵ国に選出され、若者の1人が今回のドーンユースアドバイザリーボード会議で発表を行い、またTPE2008の学会に併せて開催された第4回インターナショナルDAWN サミットのユースセッションでも、堂々と約300人の聴衆を前に口演しました。IDF会長シリンク先生、ISPAD会長ダーネ先生、若者の心理研究の大家アンダーソン先生から、異口同音に、過分なおほめの言葉をいただきました。
 これから、この企画の実施に向かいます。どうか、日本糖尿病協会の若者の活動に深いご理解をお願いいたします。内容の詳細は日本糖尿病協会が発行する雑誌「月刊糖尿病ライフ さかえ」に掲載されます。

 「若い糖尿病患者さんとのグループミーティング」は1年に4回東京で開催されています。毎回参加者(1型糖尿病患者さん、医療スタッフ)が募集されます(募集開始は開催日の約2か月前)。
 「若い糖尿病患者さんとのグループミーティング」の活動について、詳しくはホームページをご覧ください。

©2009 内潟安子


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