トップページ - 間食指導、私の場合


 第6回は、関東労災病院の新良啓子さんを訪ねました。糖尿病療養指導士(CDE)や糖尿病看護認定看護師でもある新良さんは、糖尿病療養指導のプロフェッショナル。栄養士さんによる間食指導とは違った、糖尿病療養指導の側面から、間食指導について語っていただきました。

糖尿病療養指導の中での間食指導について

糖尿病患者さんの間食を、どうお考えですか?
新良: 今回、間食という言葉を考えてみると、お菓子はおやつとしてだけでなく、食事の代わりとして摂っている人も多いなあと思います。また、食事の〆の甘い物が習慣になっている方もおられますね。間食を全否定したりはしません。

 間食は、何が何でも血糖を下げたいという目的を持っている患者さんに対しては厳格にします。血糖コントロールの先に目指すものがあれば、おやつをやめるという選択肢が出てきます。どうするかは、患者さんの血糖コントロールや病期によって変わってきますね。今は食べない方がいい、という病期の場合、「期間を決めてやめてみませんか?」と提案します。また、HbA1cが悪くなってる方、肥満が目立つ方についても、どうしても食べたいという場合は相談して、できることを一緒に考えます。間食の場合、単にお腹がすいたというだけでなく、ストレスで食べてることも多いと思います。そんな時は、どういう時にストレスを感じてるか、核になるところを聞き取りの中から見つけて、間食に走らない対策を考えます。

 糖尿病だからと言って食べてはいけないものはないのですが、“お腹すいたからとか時間だからと無意識的に食べる”のではなく、“何を食べているかを意識して”もらいたいですね。間食を食べるのだったら日中で、お付き合いのおやつにしても患者さんが賢く食べるものを選んでいってもらえばと思っています。

 「間食指導の情報ファイル」に入っているアイスクリームのタワーも、今年の夏は患者さんと一緒によく見ています。家族はカロリーの低いガリガリ君なのに、患者さんはチョコモナカを食べているという人が多かったりして(笑)。タワーは高さを見られるのでわかりやすいですね。当院のスタッフも食べたものをタワーに書き込んだりしています。  商品の裏の原材料表示を見ていない人も非常に多くて、男性はとくに見ない人ばかり。そういう人に対しては、病院の売店へ一緒に行って見せながら説明します。「これに含まれている砂糖の量はこれと一緒なんですよ!」とスティックシュガーを見せながら、「これと同じ量を飲んだら相当甘いでしょ?」などと、実践的に表示の見方を教えてあげたりします。

糖尿病療養指導士としての役割について
新良: 糖尿病療養指導の看護師としては、患者さんの治療の状態を見ながら、必要に応じて生活習慣指導などを行います。医師から要請があって指導室でお話を伺うという方ももちろんいらっしゃいますが、カルテを見て気になる方は私の方から声をかけて、待ち時間の中で指導室に呼んでお話することもあります。管理栄養士さんによる食事指導の場合は有料(点数もつく)ですので、医師の指示によってやるかどうかを決めます。あと、血糖コントロールを改善するために、食事に関して専門的なアドバイスや管理が必要な患者さんがいらっしゃった時、“栄養指導を受けたいな”“もっと詳しく聞きたい”と思えるように仕向けることも、大切な役割と考えています。

 ドクターと栄養士さんの間に入ってどんな生活をしているかをよく聞くのですが、「菓子パンを食べている」と仰った時、「どんな菓子パン?」と聞くと“やきそばパン”と言う方もいます。食事パンも菓子パンと思っている人もいるのです。そして、「いつ、どんな時にそれを食べているか」、具体的な部分を聞き出さないと実態がつかめません。あと、最近こだわりの食べ物、マイブームなど、患者さんの嗜好を会話の中で聞き出すことも大切で、そこから会話が盛り上がり、食生活の実態を掴めるだけでなく、関係性も良くなります。

「24時間軸」の例
※クリックするとPDFファイルがダウンロードされます。
「24時間軸」から患者さんの生活を把握する
新良: 私の面談ではいつも、患者さんが24時間をどのように過ごしているかを、平日・休日パターンで聞きとりを行います。時間軸を手描きで書いて、「この時間は、何をしていますか?」と、図を見せて1つ1つ書き込みながら、24時間軸を患者さんと完成させていきます。すると、食事の時間、仕事の状況、家族との過ごし方など、生活パターンが見えてくるので、さらに踏み込んだ話の中から、問題点を引き出すことにつながったりもします。
聞き取りを行う時に、工夫していることはありますか?
新良: 患者さんへ質問する時の言葉遣いには、とても気を遣います。「なぜ?」「なんで?」という言葉で患者さんに詰め寄ると、悪いことをした理由を聞かれているように誤解されることもあるので、「その理由をちょっと教えてくれませんか?」、「ちょっと、立ち入ったことを伺いますが」、「仰りたくなければ仰らなくてもよいですけど」など、枕詞を使ったたり。言葉を置き換えながら、こちらがなぜ聞きたいかを明らかにして質問します。最初あまり何もしゃべらないような方は逆に、懐に入るといろんなことを考えていて、そういう方たちこそ自分で何とかしようと思っていたるすることが多いんです。でも、病気をよくするために来ているという目的がありますし、患者さんも、そのために必要な情報であればと、たいていは答えていただけます。聞き取りについては、やっぱりトレーニングはしましたよ。置き換え言葉を使うと、すう〜っと患者さんから話が出てくるので、聞き方は大切なんだなと実感しています。

<聞き取り例>
  • 「こんな甘い物食べたらだめじゃないですか」→「(一緒に食べ物を書き出し)甘いものが多くて心配です。今回、甘いものをたくさん食べた理由をお聞かせくださいませんか?」
     心配を示し、怒っているのではなく関心を持っていることが伝わるようにする。「今回」と限定したことで、患者さんが自分を振り返る範囲を狭め、振り返りしやすいようにする。

  • 「なんで夜中にスナック菓子を食べちゃったの?」→「食べたあとの感想はどうですか?」「夜中に食べようと思ったのはなぜですか?」
     どちらも患者さんの考えを引き出すように気をつける。無意識にしていることを意識化していただくためです。

  • 「○○しましょうね(上から目線)」→「これから、お菓子たちとどんなふうにつきあっていきましょうか。今、考えていることをお話してください」
     人は、自分で決めたことしか行動しない。「今」をあえて言うのは、今の考えで良いから。訂正はいくらでもできる。方法は無限で自由であることをわかってほしいと思うからです。
指導の中で、間食の話題が出てきたりしますか?
新良: 実は食べているのよ、という話は、SMBGの結果を一緒に見ながらだとよく出てきます。「別に、、」という頑なな態度の方は、過去に医療者からプレッシャーを受けたことのある方だと思うので、そういうことを言いやすい環境を作ってあげることが大切です。“こんなことを言うと怒られる”など、今までいろんな仕打ちを受けてトラウマを持ってる方もいらっしゃるので、言いやすい雰囲気を作ったり、そういう話題に持って行けるよう、こちらから上手に聞き出したりする必要があります。

 また、間食の話を聞いた際には「美味しかったですか?」と聞いたりします。まずは共感。でも必ず患者さんが「血糖値が上がるってわかってるんですけどね」などと続けます。「実はこんなの食べちゃったのよ〜」って気軽に正直に言える関係作りをするのは大切です。“正直に言える患者さん”は、「これを食べたらこうなって、これだとこうだった」とか、反省半分、自己分析をしていたりします。SMBGをしている人は特に。この反省や自己分析の繰り返しは重要だと思っています。

 本当は、先ずはドクターが「間食禁止は無理よね」と認めてくださると、医療スタッフはやりやすいかもしれません。診察時に、「ナースが食べていいとを言ったから食べた」などと、ドクターに言い訳されても困りますからね(笑)。

間食を賢くチョイスするための情報は?
新良: ネットを見られる方は、「間食指導の情報ファイル」を実際本当にお勧めしています。あと、神奈川県のこの辺りでは、平尾先生達が作られた「彩の会」が作った80kcal和菓子を取り扱っている所が多くて、そういうお店がありますよとお勧めしたりします。
指導を行った患者さんの例をご紹介ください。
症例1) 夜は間食、夜中に夕食の生活で・・

新良: 奥さんがインスリン療法中の糖尿病患者さんで、旦那さんはコンビニ経営。下が店舗で上が住居というような環境だそうです。治療歴は20年近く。この頃、インスリン療法を行っていてもHbA1cは9%切る位で、コントロールがずっとよくないのと、待合室でぼんやり考え事をしている姿を見て、ちょっと事情を聞いてみようと思い、指導室でお話を伺いました。コンビニは、ご主人が主に経営していて、手伝いはバイトの学生さん。でも春先で学生さんの入れ替えなどで人手が足りなくなると、奥さんも手伝っているとのことでした。自営業をしていると、GWや夏休みでバイトがいなくなったり、不況のあおりを受けたり、いろいろと悩みがあるんですよね。ですから、彼女にも時期によって負荷が大きかったようです。そんな話が、少しずつぽろぽろと出てきました。でも、まだ表情がすっきりしない。

 次回の受診日にまた面談を行いました。すると、今までに話題がなかったお姑さんの話が出てきたんです。話をしている中でそれが問題の核になっているのではと思いました。3回目の会話でやっと、「実は、姑が・・」という話をするようになって、表情が変わりました。話によると、それまで、ご主人の仕事が終わるまで、夕食を23時過ぎまで待っていたそうです。でも待っているとお腹がすいてしまうので、間食していたんですね。そして夜中にもご主人に付き合って一緒に夕食を食べていた。

   そこまで掘り出さないとわからない。SMBGの記録でも夕食前と書いてあっても、その人によって何時になるかは異なります。この方のように23時過ぎという人もいらっしゃるわけです。子供がいなくて、お姑さんが年をとったので田舎へ帰ってこないかと言われるも、ご主人は頑張ってるからそんなことは言い出せない。もともと保育士さんだったそうで、子供ができなかった負い目もあったのかもしれません。そんな環境だったので病気の治療など、あまり堂々とやりにくかったんですね。

    でも、話をしたらすっきりしたようで、私、やっぱり治療をがんばります、と。そんなきっかけでやる気が出るようになって。どんな状態か食事の状況を栄養士さんにみてもらいましょうか、と誘い栄養相談を受けて頂きました。その後、大きな改善点としては、ご主人に「血糖コントロールの状態が悪い。食事の時間が遅いのはよくないから、先に食べるね」と言えたこと。今まで、頑張ってるご主人に言えなかったんです。今までは、夕食を待って一緒に食べることがご主人へのサポートと思っていた。でも、こういう状態を続けていくことで、いずれ合併症など大きな問題が出てきて、もっとご主人に迷惑がかかるかもしれない、と考えることができるようになった。自分の体をよくして、旦那さんをサポートしていこうという気になったようです。結果的に夕食の時間を変えたことで、1日の栄養摂取量も変わり、半年くらいかけて現在は7%代に安定していきました。間食内容は、お菓子だけでなくコンビニの賞味期限切れのものを毎日食べていたようです。

症例2) 電子レンジを置く場所からアドバイス・・

新良: 循環器科からまわってきた30代後半・肥満のある独身男性患者さん(100kg越え)で、職業はSEをやっておられる方。気の毒な位、生活サイクルがめちゃくちゃで、長時間座って作業しているそうです。おとなしくてあまり人とのコミュニケーションが上手な方ではありませんでした。IGTレベルでしたが、検診でひっかかってきて、HbA1cは6.7%。血圧の薬は飲んでいたようです。

   1カ月だけ朝晩体重はかって、食べたものを書いてメールで送ってくれますか?と依頼しました。パソコンは得意なので、3食の記録をきちんとつけてきてくれました。それを見てみると、その方は1日中食べ続けているような習慣を送っていることがわかりました。食生活を変えなくちゃいけないね、という話に当然なるのですが、独身男性は生活管理は難しいですよね。電子レンジも家にない世界です。ご自身曰く、部屋はゴミ屋敷で、レンジを置く場所がないと仰られて。その時は間取りを書いて、どこに何を置いてるかを聞き、ならこれをこう片付けたら?と、まずはレンジの場所を確保することから始めました。

 そんな経緯の中で、レコーディングダイエットで80kg前半まで落ちたんです。でも、最終的には病院へ来なくなってしまいました。考えてみると、彼は私に言われたからやっただけで、自分からやりたくてやっていたわけではない、ということだったのではないかと思うんです。そして、彼にとっては、やせたことのメリットも感じられなかった。ズボンが緩くなったといっても嬉しそうでもなかったですし。。そんな失敗例だったのですが、今となっては、どんなふうにあのとき考えていたのかなと気持ちを聞いてみたいですね。

 こういう例を経験すると、やはり患者さん自身、その先のことを考えているかどうかが、療養上のコンプライアンスとして重要だと思うんです。改善することのメリットや目標とか。例えば、セカンドライフのために、元気でいたい。とか、その先に目標をもつ。SEの方のように目先のことしか考えられない環境の方もおられるんですよね。あと、年令とかもあるかもしれません。

症例3) 朝食代わりに、血糖降下薬を飲んでいた・・

新良: 実は、針が嫌いな人というのが年に1〜2人位はいらしゃいます。刺した痛みというものや、刺している所を凝視できない、という方などさまざまです。自分で打つことを怖がっている患者さんには、私の腕に打ってデモンストレーションして見せたりもしています。やっぱり、言うだけではなくて自分でやって見せると案外効果あるんです。

 ある時、針が見ることができないから自己注射は無理!という患者さんがいらっしゃって、この患者さんと面談を行いました。すると、私に思っていることを語ってくれたんです。自分がどういう信念や流儀を持って生きてきたか、大事にしていることはこういうことなんだ、と。ゆっくりとこんなに話を聞いてくれたのがとても嬉しかったそうで、「じゃあ、やってみるよ!」とやる気になったんです。

 そうしたら、次回1カ月半後、HbA1c8.5%だったのが6.7%になったんですよ。で、話を聞いてみると、この患者さんに隠されていた問題点は別にあることが判明しました。インスリンは打てないから内服薬だけでの治療にしていたのですが、その方は心臓が悪くて心臓の薬も飲んでいました。朝食は食べない方だったんですが、心臓の薬を飲まなくてはならないので、今までは、朝食を食べずに血糖降下薬をがばっと飲んでいたそうなんです。よく低血糖が起きなかったなと驚きました。

   患者さんが改善した点としては、この薬の飲み方を変えたのだとか。薬はご飯を食べてから飲むようにした。そして、食前のものは食前、食後のものは食後に飲むことにした。心臓の薬は別に飲むようにした。普通のことのようで、それがずっとできてなかったんですね。また、この方は60歳過ぎの独身男性なのですが、食事もカロリーをメニューから見てきちんと選ぶようにして、デザートがついてるものは人にあげるようにするといった努力も始めたのだそうです。

 後で聞いたら、ドクターを驚かせるために、何ができるかを考えたらしいんです。先生に、「よくやったね!」と言わせたくて。薬の説明をよくよく見たら、「この薬、食事の前と書いてあるじゃないか!」と初めて知ったとか。よく生きてましたよね(笑)だから、薬についてもこれからは聞いていかなきゃなと思っています。

私が考える、指導で一番大切なこと

患者さんへの聞き取りは、とても大切なんですね
新良: 患者さんの中には、人生をこう考えているんだと、語り出す方もいらっしゃいます。語りを聞いてくれた御礼にこっちの話も聞いてやるよ、みたいな方も..(笑)改善点を探したり、的確なアドバイスを行うには、医療スタッフ側も、患者さんの人生にある程度踏み込んでいかないと具体的な話が進まないんですよね。ですから、患者さんから指導室でお話を伺うのは本当に大切です。数値だけで判断してレッテル貼ってしまうような形では、糖尿病の改善にはつながりません。
なぜ、糖尿病の療養指導を勉強しようと思ったのですか?
新良: 私は昔、平尾紘一先生(HECサイエンスクリニック理事長)のところで研修を受けて、糖尿病療養の世界に開眼しました。それまでの診察では、ドクターが「どうしてこんなに上がったんですか?」「やる気あるの?」と患者さんを追い詰めるような状況が多くみられたんです。患者さんに聞くと、「どんだけ怒られようが、1カ月に1回、3分間だけ黙って我慢していれば、薬をもらえる」と仰いました。下を向いて耐えている患者さんの姿を見て、そして、そんな患者さんの言葉を聞いて、何かおかしい、どうにかしたいと思ったんです。その頃、糖尿病のことをあまり勉強しておらず、どうしていいのかわからなくて、ある先生に相談しました。そうしたら、「じゃあ、平尾先生のところ行ってみれば?」と紹介され、平尾先生の病院で研修を受けることになりました。

   先生の所では、年に一回、患者さんが参加する宿泊研修を行っており、患者さんの実体験を発表する会を聴講する機会がありました。その時に発表された、大学に入学してから1型糖尿病を発症したという21歳の女性の話には心打たれました。彼女が通院していた病院での診察は、糖尿病発症したての彼女に、インスリン注射打ちなさい、食事はこれはだめ、間食はだめ、等々、“○○しなくてはダメ”という指導のオンパレードだったそうです。何かこちらから相談・要求しても、あれやれこれやればっかりで、まったく話を聞いてもらえない状況。言っても何も聞いてもらえないから、だんだん彼女は何も言わなくなった、と。もうだめだと思うと、患者さんは喋らなくなるんですよね。

 そんな環境で、病院も行きたくなくなり、治療も前向きに取り組めなくなってきたのだけど、「このままじゃ自分がだめになる!」と一念発起。その病院を転院し、自分で医療機関を探す中、たどり着いたのが平尾先生の所だったそうです。平尾先生は初診での開口一番、「何が一番大変なの?困っているの?何がイヤ?」とまず彼女の話を聞いてくれた。自分はインスリン注射が怖いということを正直に言えた。そしたら、先生は注射を持って「あ、これ?」と自分のお腹にぷすっと目の前で刺したそうです。「怖がらなくても、痛くないよ?大丈夫、大丈夫」と。その瞬間、「あ、この人は自分のことをわかってくれる・・」と思ったそうです。ちゃんと治療しようという気持ちになった、と。私も、その話を聞いて、「そう、ほんのその瞬間なんだよな」、患者さんの心を動かせるような指導ができたら素晴らしいなと思いました。そして、患者さんを常に理解しようという姿勢で接することの大切さ、投げかける言葉の力って本当に影響が大きいんだなと感じました。

 患者さんが言うことには、ウソはないと思っています。できるできないは別として。その瞬間だけでも、そう思っていること、やろうと思っていることは事実ですから。だったら、そこを私たちが支えて応援してあげるのが、私たちの役割なんじゃないかと考えています。彼女の発表を聞いていたら、私たち医療スタッフの言動は、患者さんの人生を変えてしまう程の力を持っているんだなと、実感したんです。

何ができるか?を患者さんと一緒に考える
新良: 通勤で毎日、自転車に乗る、という目標を立てた人がいました。今までは、たまにだったけど毎日。「前はなんでたまにだったんですか?」と聞いたら「ウェアーが、、」と仰って、ウェアーを持って帰って洗わなくてはならないのが面倒だったとのこと。「じゃあ、通勤でウェアーを着て、スーツは会社に置いておくことにしましょう」という解決法を提案しました。毎日実行するには、“自転車に乗る”を目標にせず、“毎日スーツを置いておく”ことを目標にすれば、自然と毎日できる環境ができるわけです。目標を成功させるためには何が障壁となっているかを一緒に考え、その問題を解決してみる。遠くを見てばかりで失敗しているのであれば、近くでできることをまず考えてみることも大切だと思うんです。

 やれって言われても人はやりませんよね。やるのは、自分で決めた時。糖尿病患者さんに限らず人間は皆そうだと思う。それは、自分としても信念ですね。だから、自分でやると決められるように仕向けてあげる、そのお手伝いを私たちがやって支えてあげたい。いいんですよ、「三日坊主」でも。三日続いたじゃない、今までやらなかったんだよね、と言ってあげたい。失敗しても再挑戦すればよいだけ。その繰り返しですから。とりあえず“やってみることに意義がある”と思います。

 コーチングの研修で教わったのが、ペットボトルの水を見て、これだけしか水がないと思うか、まだこれだけ水があると思うか。捉え方で大きく違います。データの悪い方、うまくいってない患者さんは、できていない自分を探してしまう傾向がありますので、できた部分を探してほめてあげることも大切です。

 こういうことは全部いろいろ教わってきたことで、やっと自分も還元して、少しずつ教えてあげられるようになってきました。平尾先生もそうですけど、私だってお菓子が好きだし、世の中にはいろんな人がいて、それがたまたま糖尿病をもったんだから、めがねをかけるのと一緒で上手にやって楽しくいこうよという姿勢でポジティブに患者さんと取り組むことを信条にしています。平尾先生みたいにどっしり構えて、「こうやってやってけばいいんじゃない?」と、肩をポンと叩いてくれるような医療者が私の理想です。ずっと、そんな感じでいたいなと思います。そんな、患者さんにやさしい環境がもっともっと広がっていくことを心から願っています。

糖尿病療養指導での間食指導とは
 今回、間食指導というテーマではありましたが、糖尿病療養指導という広い括りの中で、患者さんをどのように導き、やる気を出して療養生活を送っていただけるかを、私の経験を含めてお話しました。間食をどうしたらやめられるか、減らせるか、、というだけのことではなく、患者さんが間食に走る原因は何なのか、それをどう解決していけるかを、医療スタッフは時間をかけて患者さんと一緒に考えていくことが、本当に大事だと考えています。

<今日のまとめ> 間食指導「私の3カ条」

  1. 患者さんが言うことにウソはない
     〜言った瞬間だけでも、そう思ったことは事実ですから。
  2. 三日坊主でも三日続いたなら全然OK!実行することに意義がある。
     〜できなかった部分を探すのではなく、できた部分を探してほめること。
  3. 私たち医療スタッフの言動は、患者さんの人生を変える
     〜患者さんの生活の中で大切にしていることや、状況、環境など、あらゆる方向から考えながら、
      提案や情報提供を行う。

【 Profile 】
新良啓子さん
関東労災病院に長年勤務。
2002年糖尿病療養指導士(CDEJ)
2003年糖尿病看護認定看護師 看護外来開設
2005年脳神経外科・形成外科、皮膚科病棟師長
2007年外来師長

 今回は、“カーボカウント”でも著名な佐野喜子先生を訪ねました。間食(おやつ)は、炭水化物(カーボ)の量で見てみると、目から鱗な事も多いとか。血糖コントロールの極意として、「食べた炭水化物の種類ではなく、食事に含まれている炭水化物の総量に注目していくことが有効」と語ります。
貴院の栄養指導状況について教えて下さい。
佐野:いま、私が担当しているのは1型糖尿病の専門外来で、150名ほどの1型糖尿病患者さんが中心です。通常の外来では、診察をしてから療養指導という流れですが、1型専門外来は逆です。患者さんのSMBGのデータをグラフ化し、それをもとに医療スタッフが問診を行い、患者さんの状態を把握してから、ドクターのいる診察室に一緒に入いります。患者さんにとっては、少し時間がかかりますが、1時間に3名枠なので恵まれている環境だと思います。また、診療間隔は強化インスリン療法の患者さんは1〜2ヵ月、インスリンポンプの患者さんは1ヵ月となっています。
まず、糖尿病患者さんの間食については、どのようにお考えですか?
佐野:基本的には、お酒も間食も大丈夫で、間食は良いけれどアルコールはダメ、またはその逆、といったことはありません。自分で管理できる範囲であるならば、間食はかまわないと思います。よく、肥満がある場合とない場合という分け方をしますが、いま自分自身の体が抱えている課題と突き合わせながら自分で管理することができるならば、「やめなさい」という問題ではないと私は考えています。
では、コントロールが上手くいかない患者さんは?
佐野:「なぜ、コントロールがよくないのか?」というのがポイントですが、「こうやればできますよ」という情報提供よりも、まずはうまくいかない原因を一緒に考えてみないといけないと思います。生活習慣を意識するというのは“受け身”では続かないと思うんです。“説得”ではなくて“納得”してもらうためには、「こういう理由でうまくいかないんだ」と、患者さんにご自分なりに納得できる根拠をみつけてもらうことが大切ではないかと思っています。
初診の患者さんにはどのように指導をスタートしていますか?
佐野: まず、現状を理解するために食事全般について伺います。自分の食事をどう評価しているかということよりも、食べることは自分の生活の中で楽しみなのか、制限されたら嫌なのか、今後どうしていきたいか、ということ。次に、ふだん意識していることやうまくいっていること、自信があることなどを尋ねます。自分が頑張っていることを最初に話す方もいれば、「こうやっているのに、なかなか上手くいかないんですよね」と言い訳的なところから話される方、いろいろです。やはり、第一声で出ることは、日常的に意識していることだと思います。そうでない患者さんもいますが、こちらから的を絞って聞いてしまうと、患者さんはそれ以外の話をしたくてもできないものです。
指導の中では、間食の話はどのあたりから入っていくのでしょうか?
佐野: 例えば、「私は、そんなに食べていません」と、患者さんはよく言いますが、患者さんには「こんなに量を抑えて努力しているのに、何でA1cが高いの?」「指示カロリーを守って食べているのに、どうして?」という疑問があります。それを「少なくても食べてれば太るわよ」と指導者が思ってしまったら、信頼関係は築けません。

 近年、こうした食材はさまざまな変化をしています。病院で出されるビスケットは堅いかもしれませんが、一般的によく食べられているのはパイやクッキー、サブレなど、口の中に入れれば溶けるような、油脂分が多く含まれているものです。昔に比べて食べる量は少なくなっても、摂取するカロリーや脂肪は変化しています。

 「多くの人が、子どもの頃にはコンデンスミルクと一緒に食べていた苺を、いまはそのままのほうがおいしいと言います。大人になったからでしょうか・・・。りんごを“すっぱい”、“固い”とイメージする私のような年代でも、購入時には“甘い? 蜜が入っている?”と聞くようになりました。酸っぱさに口をすぼめるみかんに出会うこともなくなりました。糖度の高い果物に嗜好が動いています。

 患者さんにこんな話をすると、「甘いからたくさん食べると血糖が上がりますよ」と言うより、「食べ過ぎないようにしないといけませんね」との言葉をいただきます。講演会と違い病院での指導は1回限りではないのが強みです。1回の指導で全て話をする必要がないので、患者さんのニーズに合ったタイムリーな話題を提供できます。

貴院で“カーボカウント”を取り入れたのはいつ頃からですか?
佐野: 当院で1型糖尿病外来を立ち上げた約5年前からです。欧米では一般的に活用されているカーボカウントが、日本でも少しずつ活用されてきた頃でしょうか。最初は、私自身が1型糖尿病の指導経験がなかったので、患者さんに質問ばかりしていました(笑)。
学会でもカーボカウントに関する発表が少し出始めた時期でしょうか
佐野: はい、カーボカウントを取り入れた成果の発表も多くなりました。困った事例などは連携を摂りながら情報交換できたら有意義なことだと思っています。カーボカウントを用いた糖尿病食事療法の有効性については、日本糖尿病学会で検討していただきたいと考えます。なお現在,食品交換表編集委員会の作業部会としてカーボカウント小委員会が設置され、カーボカウントについて検討されていると伺っております。

 日本は欧米とは違って米の消費量が多いので、カーボカウントは日本食にはそぐわないとよく言われますが、逆にたくさん食べているからこそ、指示カロリーに合わせてよくみる必要があると思います。食後高血糖に影響を及ぼすのは、炭水化物の過剰摂取です。摂取量の明らかに多い人の炭水化物エネルギー比率を55〜60%に調整することでA1cの是正がみられます。

よく低炭水化物ダイエットと間違えられると言いますよね
佐野: そうですね、肥満を是正するために炭水化物摂取量を減らすと、体重は減ります。しかし、カーボカウントの目的はダイエットではなく、血糖コントロールです。それに炭水化物は必要量を摂取することが大切です。

 例えば、指示エネルギー量1600kcal/炭水化物エネルギー比60%とした場合、960kcalの炭水化物量、グラムに直すと240gを1日に摂取するようにします。この240gを毎食に配分するのですが、この1食分の炭水化物量が多すぎると食後高血糖を招きます。

 キツネうどん(400kcal/炭水化物量63g)といなり寿司2個(260kcal/炭水化物量33g)という食事(660kcal/炭水化物量96g)は、一見ヘルシーといった印象があります。一方で、ステーキ200gとつけ合わせ(800kcal/炭水化物量7g)、パン2個(190kcal/炭水化物量30g)という食事(990kcal/炭水化物量37g)は、カロリーは高いのですが炭水化物量は逆転しています。カロリーを抑えたようにみえても、炭水化物の重ね食いがあると注意が必要なのです。

どのような患者さんにカーボカウントを勧めているのでしょうか。食品交換表を用いることもありますか?
佐野: 食品交換表でコントロールできている人は、そのまま継続してもらっています。うまくいっているのに変えることはないと思いますから。体重管理が良好で、指示カロリーはうまく守れているのに、HbA1cが高いという人には、カーボカウントを勧めます。もちろんその前に、現状の炭水化物の摂取量を精査してから決めます。
初診の患者さんにはどのような事から指導していますか?
佐野: まったく情報のない、初めて糖尿病と言われた患者さんには、カーボカウントから始めます。炭水化物を含むものと含まないものといった意味でシンプルですから。実際に理解は早いですね。また、1型の患者さんですとSMBGで確かめられるという納得材料があるので、導入もスムーズです。実践が結果として現れるので、患者さんも自信につながっていくのだと思います。
カーボカウントは、簡単に言えばどういうものですか?
佐野: “カーボカウント”は、“炭水化物(カーボハイドレイト)を数える(カウント)”の略で、血糖値を最も上昇させる炭水化物の総量を計算することで血糖コントロールする食事療法です。欧米では、すでに広くこの方法が食事療法に取り入れられています。すでにご存知だと思いますが、炭水化物は摂取後、ブドウ糖に100%変換され食後の血糖値の上昇に大きく影響します。その摂取量をコントロールすれば、血糖値もコントロールできるというわけです。

 例えば、朝食におにぎり1個100g(炭水化物量40g)をとって、食後の血糖値を測定してみます。翌朝、同じ量の炭水化物としてパン6枚切1枚+イチゴジャム大さじ1(炭水化物量40g)をとって食後の血糖値を測定してみると、血糖の上昇幅は前日とほとんど同じになることがわかります。

 すなわち、血糖値は、摂取した“炭水化物の量”によって変動することを身をもって実感することができるわけです。カーボカウントでは、さまざまな食品がどのくらいの炭水化物量があることを知ってもらい、患者さんの食生活に合わせて、上手に指示エネルギー量の範囲内でとってもらうことによって、安定した血糖コントロールが維持できるようになります。

 食事・運動療法のみの2型糖尿病の患者さんをはじめ、薬物療法、インスリン療法を行っている2型糖尿病患者さん、そして1型糖尿病患者さんやインスリンポンプ療法を行っている患者さんなどに、広く活用していただけます。

とても理にかなった方法ですね
佐野: 例えば、指示エネルギー量が1800kcalの方の場合、その方の1日の炭水化物量は、1800kcal×0.6(摂取エネルギーの60%)=1080kcal、換算すると約270gになり、炭水化物15g=1カーボで計算しますと18カーボです。それを3食+間食に割り振るわけです。
カーボカウントでは、おやつ(甘い食品)の扱いはどうなのですか?
佐野: 糖尿病といえば、間食は避けるよう長年教えられてきましたが、カーボカウントでは血糖への影響で重視されるのは“食品に含まれる炭水化物の総量”であり、種類ではないのです。ですから、基本的に甘い物は指示エネルギーの範囲内(想定のカーボ内)であれば、とることができます。もちろん、食べる際には他の食事からとる炭水化物量を減らすなど、食事バランスには配慮します。やはり太らないようにすることが基本で、太っていない人もそれを維持することが重要です。

 よく、カーボカウントに対して無制限に交換できると解釈されるのですが、これは間違いです。適正量の範囲内であれば交換が可能だということです。そこは、指導者の提案の仕方にかかってくるのではないかと思っています。

患者さんへは、どのように提案されるのですか?
佐野: 最初に炭水化物はどんな食品に含まれているかを確認します。次に、食事記録を記入してきてもらい、自分が食べている炭水化物量を確認します。患者さんにしてみれば、そうでもないと思っていたりします。「カロリーを控えるためにノンアルコールビールにしている」「野菜をとるために肉ジャガをよく食べる」「間食は甘くないせんべいにしている」「ジュースではなくてスポーツ飲料にしている」と、気をつかっていたところに落とし穴があることに気づきます。

 例えば、患者さんの摂取カロリーが先ほどのように、1800kcalで1日の炭水化物量が18カーボ(約270g÷15g)、朝5、昼6、夕6、間食1と割り振っていたとします。実際の食事をみてみると、朝はけっこう良かった。でも、昼は倍に近い数字で、間食はお煎餅を食べている。夕食もご飯に味噌汁とちゃんとした和食だけど、炭水化物量は多いですね〜等々、患者さんと確認しながら、問題点を探していきます。

 間食において、いままで糖尿病の患者さんにとってポテトチップやシュークリームは、高カロリー・高脂肪ですから、厳禁でした。糖尿病の患者さんのおやつといえば、甘くないおせんべいや、食品交換表にあるバナナなどが、おやつのイメージだったのではないでしょうか。

 カロリーで比較してみるとしてみるとあまり変わらないと思いますけれど、炭水化物量ではこれが逆転します。だから、2型の患者さんでも、エネルギーの調整はうまくいっていても、変わらないという患者さんには、炭水化物を数えてもらうと、落とし穴がみえてくることがあるんです。

 シュークリームと大福餅では、このサンプルではほぼ同じカロリーですが、炭水化物量は大福餅の方がはるかに高いんです。患者さんは「お彼岸などに“おはぎ”を食べると血糖値がものすごく上がるんだけど・・・」という経験のある方がけっこういらっしゃいますので、そのことに薄々気がついていています。なぜだろうと、検証していくと、おはぎは小豆、砂糖、餅米と全部が炭水化物。このような、納得できる材料を探していくことは非常に重要で、表や数を覚えるよりも、“そうなのか”と考え方として納得・理解してもらうことがたいへん重要だと思っています。

 例えば、受験勉強をしている高校生の場合、夜食なども考慮しなければなりません。そういうケースでは、まずは間食指導から入ります。この世代は食事より間食に関心が高いのです。実は、1型の患者さんがカーボの考え方をまだ知らない時に、夜食にシュークリームを食べて低血糖になった事がありました。カロリーが高そうだから、2単位を投与してしまったことが原因でした。「試験勉強のときには、おやつを食べて気持ちを切り替えることも大切。でも低血糖にならないようにこれだけは覚えておいてね」と提案すると、真剣になって耳を傾けていただけました。
他に注意点はありますか?
 α- グルコシダーゼ阻害薬を服用している患者さんは、腸にガスが溜まることがよくあります。良く聞いてみたら、炭水化物の摂取過多が原因の場合があることもわかりました。2型糖尿病患者さんでは、そういうところもチェックする必要があります。
指導に使っている資料などはありますか?
佐野: こういうものを患者さんに渡して、何もかもを覚えてもらわないと始まらないというものではなくて、好きな食べものやよく食べるものリストを患者さん自身に作ってもらいます。指導の時は、その人が好きな食べ物を例にして話をします。「ワッフルなんていままで無理だと思っていたけど、お煎餅にするとたったこれだけで同じ炭水化物量だ!」などと驚かれますよ。患者さんに、自分の食生活のスタイルを知ってもらった上でコントロールしていただければと思っています。

 あとは、カーボカウントのカロリーブックなどが市販されていますので、参考にしてもらったりします。そういうものをみると、ご飯をはじめとする主食の量がどれだけ多いかということが改めて認識できると思います。その上で、自分がふだん食べている量がどれだけオーバーしていることがわかると、だいぶ違うと思います。

こういう資料をみながらだと、血糖値上昇の原因が一目瞭然ですね。上手な間食コントロールに対しても応用できそうです。わかりやすく解説いただき、有難うございました。
<今日のまとめ> 間食指導「私の3ヵ条」

  1. 会話が最も重要。コミュニケーションの中から着実に信頼関係を築いていきたい
  2. 患者さんが必要としている情報を、事例を使ってわかりやすく伝えること
  3. 簡単に患者さんを評価しない、まずは認めることが大切!

【 Profile 】
佐野喜子(さのよしこ)さん
女子栄養大学栄養学部卒。(独)京都医療センター臨床研究センター予防医学研究室研究員、糖尿病センターで栄養指導を行うとともに、(学)古屋学園 二葉栄養専門学校 管理栄養士科教授、帝京大学医学部特別講師、(株)ニュートリート代表取締役、著書執筆多数、講演会講師など、幅広く活動中。2010年4月より順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科 博士後期課程。平成22年度科研費「日本人向けカーボカウントの有用性と指導者養成に関する研究」主任研究員。
 著書「すぐわかる!すぐできる!糖尿病の食事療法 カロリーつきカーボカウントナビ」(エクスナレッジ)、編著「糖尿病医療スタッフのための実践!カーボカウント」(医歯薬出版)、編著「はじめてのカーボカウント」(中外医学社)、共著「エビデンスを活かす糖尿病療養指導」(中外医学社)、編著「質問力でみがく保健指導」(中央法規出版)、共著「ヘルスケアプロフェッショナルのためのメタボリック・シンドロームQ&A」(医歯薬出版)、共著「医師と栄養士と患者のためのカーボカウンティング実践ガイド」(医薬ジャーナル社)ほか多数

 第4回目は、東京医科大学八王子医療センターの福元敦子さんを訪ねました。学会や論文発表も多い福元さんは、科学的な検証を通して、患者さんの食事療法を支えています。「身近になければ、作ってあげよう」と、“おやつ開発”にも取り組んでこられました。

貴院の栄養指導状況について教えて下さい
福元:糖尿病患者さんへの栄養指導は、月に80〜90名、年間1000名位でしょうか。NST(栄養サポートチーム)で活動の幅を広げる目的で、一昨年から栄養士が4人になりましたが、指導は実質2名で行っています。

 当院は2型糖尿病患者さんがほとんどです。インスリン療法を行っている方や高齢の患者さんも多いですね。腎移植、透析なども行っていますので、糖尿病でも腎臓を悪くした患者さんも多いです。

おやつについて指導が必要だなと実感したのは、いつ頃からですか?
福元:栄養指導に携わるようになった最初の頃からです。3度の食事だけで満足できればいいのでしょうが、自分を振り返ってみても、やっぱり食べるのは楽しいことだし、これだけ世の中にはいろいろな情報があって、こんなに多種多様なおやつがあるという中で“我慢をする”のは本当に難しいことです。患者さんにとっても、その思いは強いと思います。

 ですから、私のポリシーとして“食べてはいけない”といったことを絶対に言わないようにしています。とはいえ、「何を食べたらよいか?」と問われたとき、昔はあまりお勧めできるものがありませんでした。

以前は、どのようなものを勧めていたんですか?
福元:間食に関しては、教科書にあるように乳製品や果物を勧めますが、食事は毎日のことですから、バリエーションがないと飽きてしまいますよね。

 もう15年位前になりますが、当院は大学病院で、食物繊維が入ったお茶について臨床試験に携わる機会がありました。結果は、血糖値が少し下がりましたが、さほど大きな効果ではありませんでした。その臨床結果を発表したときに、ちょうど別の先生が和菓子の発表をしておられました。そこで、「ケーキでやってみようかな」と思っていたら、臨床試験の中心になっていた先生が背中を押してくださって、実際にケーキを作ろうということになりました。

 「どうせ作るなら、美味しくて、甘くて、食べ甲斐のあるものにしよう」、だけど「100kcalに収めたい」という目標がありました。当院の近所にあるケーキ屋さんに相談したところ、試行錯誤を繰り返した末に、100kcalのケーキが4種類できました。今から13〜14年位前のことです。

ケーキをどうやって100kcalに抑えたのですか?
福元:全卵やバターを使わず、粉も少なめにして、甘味料を使用して、牛乳をうまく泡立てて・・・と、パティシエさんが知恵を結集し腕を振るってくださいました。食物繊維を入れるとスポンジ本体が硬くなってしまうのですが、その辺も一生懸命考えて解決してくれました。

 完成した際、分析センターに出したら、きちんと100kcalで、1個につき食物繊維が2g以上入っており、ヘルシーで美味しいケーキができあがりました。味は、プレーンなスポンジケーキ、ブルーベリーの入ったケーキ、モンブラン、チーズケーキと4種類です。

 現在も、ケーキ屋さんのホームページ(ファリーヌ)から購入できます。

患者さんの評判はいかがでしたか?
福元:ありがたいことに、大変好評で、たくさんの方に喜ばれました。でも、あるとき「夜、お風呂から上がったときにアイスを食べたい」とおっしゃる患者さんがいて、「そうか、食べたいのはケーキだけじゃないのね」と気がつき、次はアイスを作ってあげたいという気持ちになりました。
それでカロリーコントロールアイスの開発にも着手されたのですね
福元:ケーキを作った後なので、今から10年位前でしょうか。当院の給食用に牛乳を納入しているグリコ乳業の方に、「糖尿病患者さんでも楽しめるアイスクリームができないでしょうか」と相談したら、江崎グリコのアイス担当者に伝えてくれたんです。

 ケーキから学んだことは、“いつでもすぐに購入できないと利用が広がらない”ということだったんです。できれば全国に販路を持っているメーカーさんに作ってもらいたいと考えていました。ケーキのときは、せっかくいいものを作ったのに、地域限定的な販売にとどまっていましたからね。これは、ただのイベントで終わってしまったら仕方がないんです。

 食事は毎日のことですから、いつでも、どこでも皆さんの手に届くところに置いておく必要がある と考えると、グリコさんにお願いできたことは大正解でした。グリコさんとしては、採算がとれるかどうかという意味では、かなり大変だったと思いますが。

“患者さんが安心して食べられるおやつを作ろう!”と情熱を燃やしてくれる先生の患者さんは恵まれていますね
 担当の方にお会いした際、「美味しくて、食べ甲斐があって、見た目も良く、市販の商品に劣らない、でも血糖が上がりにくく、80kcalに抑えたアイスを作れませんか?」と、今から考えると、かなり無理難題を言ったなあと思います。

 ですが、乳脂肪が入らない分をお豆腐で代用したり、甘みや食感を工夫したり、さすが「餅は餅屋」というか、こんな方法があるのかと関心させられました。何度も何度も改良を重ねて、いろいろな試作品を作ってくださいました。

 その後、実際に当院の患者さんに食べてもらい、当院で臨床試験も行いました。ですから、ケーキにしろ、アイスにしろ、臨床試験を行ったというところが、他の商品と違うと思っています。机上の計算上ではなくて、実際に食べてもらって血糖が上がりにくかったということですね。

現在はどのような指導を行っていますか?
福元:間食について、きちんと記録してくる患者さんもおられます。そうでなくとも、今は血糖、HbA1c、グリコアルブミンと、いろいろと検査を行うことができますから、「(おやつを)食べてない」とおっしゃっていても、バレてしまうんですね(笑)。

 私は食べている量よりも、食事や間食の“時間”や“タイミング”をみています。高齢の患者さんの場合、時間を結構自由に使えるので、自由に召し上がる方も多いですが、サラリーマンだと食事の時間をとれなくて、夜中に食べたりなど、食事の時間は十人十色です。

 患者さんの食習慣についてよく聞いて、“血糖値が上がらない食べ方”、“血糖値が上がらない食品を選び方”を中心にお話ししています。

“血糖値を上げない食べ方”のコツを教えてください
福元:最近はCGMで、血糖の日内変動も詳しくわかってきましたが、通常は食べると血糖はすぐに上昇します。

 食後に運動を行うこと。それから、飲み薬は3時(おやつの時間)が考慮されておらず、基本的には3食を目安にでているはずなので、食べるなら血糖が下がってきた所では食べない。3時のお茶の時間が、ちょうどその頃ですね。ただし、これから運動やスポーツに行くという方や、夕方からパートに行くという方など、身体活動を行う方は「その前に食べて」といったお話もしています。

 主婦の方など、ずっと家にいる方は、まずはできることならば、身近にお菓子を置かないということも大事ですね。お菓子があると、やはり食べたくなってしまいますから。でも、お年を召した方々では、買うことが楽しみという場合もあります。食事指導の今後の課題かもしれません。

“食品の選び方”のコツを教えてください
福元:カロリーをコントロールしたケーキやアイスだけでなく、市販のカロリー調整食品や甘味料など、手軽に活用できて、食事管理に役立つものは何でもお勧めします。患者さんはほんとうに多様なので、選択肢は多い方がよいのです。

 食物繊維のたくさん入っているものを選ぶことは、やはり大切だと思っています。食事で食物繊維をとると、すぐには血糖に影響しにくくなります。最近では、1型糖尿病のカーボカウントの考え方から糖質を控えるなど、エネルギー重視から内容重視になってきました。

間食(おやつ)をとる習慣のある患者さんを効果的に指導した症例を教えてください
福元:それでは、3人の方を簡単にご紹介します。

 1人目は、77歳・2型糖尿病の男性の方です。日中は毎食後、運動療法をきちんと行っていて、HbA1c6.3%前後で推移と血糖コントロールは良好でした。ですが、奥さんが仕事から帰ったときに、少しぐらいはとお茶をしているうちに、ときどきが毎日となり、お菓子を食べるようになったそうです。

 HbA1cが6.3%だったのが7.9%まで上昇し、栄養相談に来られました。奥さんの知らないところでアンパンを食べたり、夜になると冷蔵庫を開けてしまうといったこともあったようです。

 まず、間食を半分量にすることを提案。しかし、次の通院日にはHbA1c7.7%とまだ高かかったので、おやつは奥さんと半分に分け1日おきに摂るようにしたら6.4%まで下がりました。現在では回数を週に2回に減らし、適度にお茶を楽しみながらコントロールは安定しているようです。

 2人目は、60代の男性で、毎日食後にきちんと運動を行っている方なのですが、運動したから良いだろうと間食をしてしまうのが問題でした。何度も「食べたら動くんですよ」と指導していても、「運動したら、お腹が減るから」と食べてしまい、HbA1cが9.5%に。運動をやりすぎてという裏返しもあるようで、良くなりたいと思うから運動をやりすぎて、その結果お腹が空いてしまう。「下がらないのは間食をしているからだと思うので、騙されたつもりで今度は我慢してみてください」と実行していただいたら、HbA1c8.3%に、3ヵ月後には6.3%に改善しました。

 近年、よく見られるのが鬱のある方ですね。IT関係の会社にお勤めの39歳の男性がいて、この方の場合は、HbA1cが上がったり下がったり変動が激しかったんです。頑張ってるから、次は6%台になるかなと思っていると、8%台に上がってしまったり。そうかと思うと7%台に下がったりするような。夏前に8.1%から7.9%に下がって夏を迎えたのですが、夏が終わったら8.8%になっており、「僕は夏休みもないくらい一生懸命仕事をして、食べたいものも食べていないのに、HbA1cが上がった! 頑張ったのになぜでしょうか?」と私の前で号泣しておられました。

 良くお話を聞くと、夜中にスナック菓子とかを食べていたようです。その患者さんには、残業で遅くなるときは、駅前で食べ家では食べないようにと指導していました。ですが、駅前で食べた後にコンビニにも行ってしまっていたとか。忙しくてストレスも多いので、ついつい食べ物を買ってしまう。買うことがストレス発散になっているようです。

 食べる行為にはメンタルな部分が大きく関わっています。この方は、生活習慣の乱れから、毎日のようにスナック菓子を食べていた部分は大きいと思います。ですから食べずにいられないのなら、食品を選べるように、選び方の指導をしました。この方は、長い目で見ながら、見守っている状況です。

食事指導では糖尿病治療のメカニズムをよく理解していただくことも大切ですね
福元:栄養相談をするときは、単に栄養の話だけでなく、まずは「糖尿病とはどんな病気か?」「なぜ血糖が高いと良くないのか?」を説明します。例えば、眼底検査の大きなパネルを4枚見せて、正常な人、前増殖期の人、増殖期の人、失明した人の眼底撮影4枚を見比べていただき、「糖尿病は血管に異常が出てくる病気なんですよ」とご説明すると、少しインパクトを与えることができます。

 糖尿病の“成り立ち”を知ることはとても大切で、なぜ食事療法を行い、血糖コントロールを良好に保つ必要があるのかを、患者さんに理解してもらわないと、ただ間食の注意をしただけでは心に響きません。中には「なぜ、もっと早く言ってくれなかったの?」と言う患者さんもおられるわけです。私たちは、それをきちんと伝えながらも、できるだけ豊かな食生活も享受できるよう、1人ひとりの生活に合った指導を今後も心がけたいと思っています。

貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました
<今日のまとめ> 間食指導「私の3ヵ条」

  1. 食事や間食の“時間”や“タイミング”の把握・コントロールは重要
  2. 血糖値が上がらない食べ方・食品の選び方を患者さんとともに考える
  3. 食はメンタルにも深く関わるので、なぜ治療が必要なのかをよく説明し患者さんの“心”にも響かせる。

【 Profile 】
福元敦子(ふくもとあつこ)さん
管理栄養士
日本病態栄養学会認定病態栄養専門師
日本糖尿病療養指導士
1966年神奈川県立栄養短大卒業
1991年より現職

 第3回目は、神奈川県鎌倉市の湘南鎌倉総合病院の菅原美喜子さんに、間食指導のコツについてうかがいました。ドクターや同僚の栄養士さん達と連携をとりながら、新たな試みにも積極的に挑戦しておられます。

貴院の栄養指導状況について教えて下さい。
菅原:当院は、9名の管理栄養士が栄養指導を行っています。年間約9,000件行っている栄養指導のうち、糖尿病の方は3割位。糖尿病の教育入院は常に5名位入っておられます。1型糖尿病患者さんは、糖尿病患者さんのうちの1割満たない位です。30〜50代の糖尿病患者さんは、肥満のある方が多いようです。
糖尿病患者さんの傾向はいかがですか?
菅原:いろいろな患者さんがおられますね。薬がどんどん増えていってしまって、やっぱり食事療法をきちんとやるしかないよね、と初心に戻られる方など、なかなか改善しない患者さんは食生活全体の見直しが必要になってきます。

 間食(おやつ・嗜好品)は、大抵の患者さんが召し上がっておられます。一切食べないという方にはお会いしたことはないぐらい。ただ、自分からは食べないけど、家族や周りの人たちが食べるのに便乗して食べているという方はけっこういますね。やはり、間食を良いものだと思って食べている方はあまりいません。

 定年して時間ができるようになると、運動をよくするようになる方もいますが、手持ち無沙汰で間食をよく摂るようになる方もいます。また、甘い物を食べたいがためにご飯を残したり、ダイエットで3食の食事(ほとんどが主食)を減らしたがために、逆に間食が増えてしまった方もおられます。

 間食の問題は、同時にそれは、3食の食事の摂り方にも問題がある場合が多いと思います。どうしたら良いからわからない、改善のために何から初めていいのかわからない、様々な疑問や不安を持って栄養指導室にいらっしゃいますね。

 そのような中、私たちは患者さんと会話をしていく中からいくつか提案を行い、その中からできそうな事を自分で見つけてもらって、自分自身で計画を立てていく、というプロセスが非常に大切だと考えています。どんな指導をしても、実行するのはご本人ですからね。私たちはそのきっかけ作りと背中を押す役目に徹しようと心がけています。

どのような栄養指導を行っていますか?
菅原:初診時は、食事の記録表を書いてきてもらいたいところですが、実際は患者さんに直接聞き取りを行いながら、私たちが書き出していくことが多いです。3日分の食事内容と量を細かく伺います。間食の発言がない場合、「普段、間食はしないんですか?」などと、間食習慣について、必ず確かめます。

 お菓子などは、指導用サンプルや市販されている食品のカロリー別グラフ資料など、ビジュアルのあるものを見ながら確認すると話が盛り上がりますね。市販の食品は、名前がわかればパソコンでその商品のカロリーなどを調べることもできますので、その場でチェックしたりもします。

 患者さんは大抵、糖尿病と聞くと甘い物は食べてはいけないと思っていることが多いので、「食べてはいけないものはないんですよ」と安心していただきつつ、「でも、量と頻度に注意が必要なんです」と、量や食べ方を指導します。糖尿病は、食べたことで痛いとか苦しいとか、急激な体の変化は起こりませんが、何も考えずに食べていると、血糖コントロールに悪影響を及ぼしますから。

 現代の食生活から甘い物をなくしてしまうのは難しいですし、ダメダメと言われると、反発したくなりますから、決してダメという言葉は使いません。また、ダメと言われるからと、正確な状況を言わなくなってしまう、という悪循環も生み出します。

 「私は、おやつは食べていません」と仰っているのに、数値が下がらないという方もいて、本当に食べていないのかな?と疑問に思ったりすることもあります。そういう場合は、あまり問い詰めすぎても険悪な雰囲気になってしまうので、別の方向から話題を振ってみるなどの工夫をしてみます。

 例えば、「自宅では何をされていますか?」「暇な時、どう過ごされていますか?」「小腹が減った時はどうしてますか?」など、患者さんが隠している場合もありますが、忘れていることもあるので、さまざまなシチュエーションをイメージしていただき、その回答から、患者さんの食傾向を探っていくことも有効です。

指導時の資料画像
どのような指導資料を使っていますか?
菅原:減量が必要な方は、現在食べている間食を1日これだけ減らしていけば、1カ月にどの位体重が減るかを数字で明確化し、モチベーションを高めるお手伝いをします。単に、「間食が多いので減らしてください」では曖昧で実行してもらえません。

 例えば、1日250kcal分の間食を減らしていけば1カ月で1kg減量できるといった話しをすると、それならできそう!と多くの方が乗り気になってくださいます。そういった際には、脂肪サンプルを見せて重さを実感してもらったりも。数字や視覚でのアプローチはとても有効です。

間食を改善した症例はありますか?
菅原:では、お2人紹介いたします。

 1人目は、44歳・女性。25歳の時、2型糖尿病と診断され、食事療法がうまくいかずインスリン療法となりました。5〜6年前より、インスリン療法を自己中断。昨年、久しぶりの受診時にはHbA1c13.3%、空腹時血糖541mg/dLと著明な悪化を認め、今年5月末から1週間、当院で教育入院されました。

 9時から14時まで週3回のパート勤務のため昼食が遅くなり、帰宅後にドカ食いすることが多かったそうです。また、食事は菓子パン(1回で2〜3個)やお菓子が食事代わりとなっていることも多かったのですが、体重は45kg以上に増加することはなかったので、量に歯止めなく食べ続けていたそうです。

 入院中、規則的に3食の食事をしっかり摂る習慣を学んだことで、間食への欲求が激減。甘い物をなくしたことで血糖値が下がり、目に見えて改善したことが自分自身の食習慣を見直すきっかけになったようです。

 退院したら、まずは3食をしっかり摂ることからやってみると決意されました。過去に中断歴があるため、初めから“ダメ”と言わず、継続することを最優先の目標にしました。

 元々甘い物が好きな方なので、食べたくなった時のために、低カロリーのデザートがあることを教えてさしあげました。ただし、許可できる範囲は1〜2単位。砂糖を多く含むものではなく、食物繊維を含む、血糖値が上がりにくい食品をお勧めしました。

 退院後は、市販の菓子類ではなく、勧めたデザートを利用され、上手に間食と向き合っている様子です。もしもの時は、低カロリーのデザートがある、ということが本人の気を楽にしている部分でもあるようです。退院後1カ月ではHbA1c8.4%、9月の診察時には7.3%と、順調に改善。

 もう1人は、53歳・男性です。10年前に、会社の健康診断で高血糖を指摘されたのを放置し、4年前に糖尿病と診断されました。当時の数値はHbA1c7.4%。

 母親と2人暮らしで、仕事はIT系のデスクワーク。仕事上、どうしても夕食が遅くなりがちで、いつも夕方、お腹がすいて菓子パンなどの甘い物を食べていたそうです。仕事中に立ち寄りやすいコンビニで、手軽さから菓子パンを選んでいたとか。そして、帰宅後に家族の作った夕食を食べるのですが、おかずは揚げ物などの油を使った料理が多かったとのこと。

 この方に対しては、まず、夕方の菓子パンをおにぎりやサンドイッチに変えてもらい、帰宅後の夕食の量を減らす、という指導を行いました。具体的には、夕方のおやつを、“軽食(つなぎ食)”として300kcalを目安に、食品を選ぶようにしていただきました。

 すると、翌受診時には、“夕方に軽食を摂る”という習慣が身につき、自分で選んで購入した食品の表示カロリーを記録するようになりました。満腹感があり、腹持ちも良くなったため、帰宅後の夕食は、ある程度カロリーを抑えたものに自然と変わっていったそうです。

 時々、菓子類の摂取もありますが、以前に比べ、甘い物の摂取は格段に少なくなりました。間食の内容を改善することで、目に見えて数値が下がったのを見て、本人の意欲がアップし、継続につながっているものと思います。今年9月の受診時はHbA1c5.9%。ここ数年は、6%前後で推移しています。

間食を“つなぎ食”として利用する方法は有効のようですね。
菅原:先程の2番目の方のように、働き盛り世代で、食事の時間が不規則になってしまう方はとても多く、“軽食”“つなぎ食”という考え方で間食の内容を見直すと、うまくいくケースがあります。

 今夜も残業〜ということになると、やはり夕方、お腹がすいてしまいますよね。コンビニで“おやつ”やレジ横にある揚げ物などでしのいでしまうと、仕事が終わる頃にはお腹がペコペコ状態になりがちです。それが、帰り際の外食や帰宅後のドカ食いにつながってしまいます。

 “つなぎ食”はおやつでなく、あくまで食事。例えば、おにぎりやサンドイッチなど、患者さんに適切なカロリー内で、ある程度お腹に溜まる物を選んでいただきます。

 また、堅い物、噛み応えのある食品もお勧めです。カロリー調整食品などもコンビニでも手軽に手に入るようになりましたので、利用すると良いと思います。

 “つなぎ食”をきちんと摂れば、帰宅後は軽く食べる程度で済むはずです。夜を上手に乗り越えられるよう、“つなぎ食”や昼食などで、食への満足感をコントロールする方法を、患者さんと一緒に考えることはとても有効だと思います。

上手なおやつの選び方はありますか?
菅原:商品を選ぶ際のカロリーチェックはほとんどの方に浸透していますが、本人に指導しても、奥様や家族の方が買い物をしておられる場合は、出された食品のカロリーの把握ができない場合があります。家族の方が、きちんと管理していればいいんですけどね。

 また、和菓子なら大丈夫と思っている患者さんは、なぜか多いですね。脂質が少ないのですが、砂糖をたくさん使っていることが多く、高カロリーなものもあります。

 お煎餅のような甘くないおやつは、砂糖を使っていなければ血糖は上がりにくいですけど、ご存知のようにお煎餅は餅米でできていますし、だいたい1枚だけで終わらないのが怖いですね。ポリポリと2〜3枚・・、結果的に総カロリーがお饅頭と変わらなくなってしまう。

 飲み物の基本は水かお茶。飲み物では、どうしても飲みたければ最近よく見る、カロリー“ゼロ”“オフ”のようなものを利用するだけでも多少は違うかもしれません。食べる時間としては、運動前か、食後すぐ(量も少なく済む)をお勧めしています。

運動の推進も積極的に行っているようですね。
菅原:患者さんの中には、“運動をしているから大丈夫!”“食べた分だけ運動して消費すればいいでしょ”と自信をもって仰られる方がいます。そういう方へは、運動でカロリー消費するのは、時間と労力の上で、そう簡単ではないことを説明します。

 ケーキ1個は5分で食べてしまえるけれど、それを消費するのに散歩を1時間半しなくてはならない、と説明すると患者さんは複雑な心境ながら納得してもらえます。

 だからといって、運動は重要です。食べなければ運動しなくても良いわけではありません。どうせ間食を摂るのなら、『自分で運動消費できる分だけ間食を摂る』という考え方もありかもしれません。

 毎日1時間散歩する時間があるという方には2単位(160kcal)程度に抑える、とか。ただし、運動で食べたカロリーを消費することはできますが、甘いものを食べると血糖値が上がることを忘れてはなりません。単に運動すれば、間食を“なかったこと”にできるわけではないということです。

 当院の土地柄を有効活用する試みも行っています。鎌倉には散歩コースが数多く存在します。鎌倉駅から鶴岡八幡宮まで歩くと、どのくらいの消費カロリーであるかなどの情報提供を行ったりもしています。鎌倉銘菓もたくさんありますので、食べたカロリー分、歩いてみませんか、などと促します。

貴院は、地域に密着した活動も活発に行っていることは有名ですよね。
菅原:今年9月に、病院がリニューアルして、いわゆる病院の売店がコンビニになりました。このコンビニさんと協力して、患者さん向けに配慮したものを販売するなど、新しい提案できないかなと考えています。

 また、毎年11月14日の世界糖尿病デーには、地域の方々に糖尿病をよく知ってもらい、早期発見・早期治療のための啓発活動を行っています。医師、看護師、栄養士、薬剤師、検査技師、理学療法士など、様々な職種が集まって、地域に出向きます。

 今年は、長谷寺観音堂でのブルーライトアップはもちろん、栄養相談や血糖測定を行ったり、低カロリー食品や甘味料などのサンプル配布、糖尿病に関する掲示物を貼ったりします。毎年、糖尿病患者さんがたくさん集まってきます。

 病院嫌いな方でも、私たちが出向くことで、気軽に相談できる場を設け、少しでも健康に対する意識を高めていただけたらと願っています。

ほかに、行っている食事指導の取り組みはありますか?
菅原:当院では、糖尿病の教育入院を行っていますが、1週間の入院中に2〜3kg減量される方がほとんどです。特に、間食が多かった方は、3食を毎日しっかり食べることで、間食を欲さない生活を習慣づけることができます。

 間食は、おやつそのものを“食べたい”というより、目の前にあるから手がのびた、小腹がすいたから口寂しくなった、などが誘因となっていることが多いです。

 規則正しく、バランス良く食事することの大切さは、すべての基本。教育入院は、これまでの食生活を見直すきっか作りに大いに役立っていると感じています。教育入院は、治療も含まれますが、実際に食事を召し上がってもらい、同じ病気の人と一緒に学んだり、お話したり、得るものは多いと思います。

菅原:今回のインタビューをきっかけに、糖尿病患者さんの食事療法についていろいろ考えてみましたが、症例も際限なく出てきて、間食指導って本当に欠かせないんだなと実感しています。

 私たちがやっているのは、栄養指導のみではなく、本当にいろんなことをお話しますので“生活相談”“人生相談”という感じもありますね。そんな想いを感じつつ、今後も患者さんのために頑張りたいと想います。

現場のお話は大変参考になると思います。有難うございました。
<今日のまとめ> 間食指導「私の3カ条」

  1. 食べてはいけないものはないけれど、量と頻度に注意!
  2. 摂取カロリー・消費カロリーを数字で明確にする
  3. 改善プランは、患者さん自身でできる事を見つけ、実行してもらう

【 Profile 】
菅原美喜子(すがわらみきこ)さん
管理栄養士
藤女子大学人間生活学部食物栄養学科卒業
医療法人沖縄徳州会 湘南鎌倉総合病院栄養管理室 勤務

 第2回目は、神戸の病院で糖尿病患者さんの食事指導に従事している西村登喜子さんに、間食の指導法についてうかがいました。病院勤務の管理栄養士として30年以上の経験で培われたコツをご伝授いただきます。

先生の患者さんでは、おやつを食べている方はどのくらいいらっしゃいますか?
西村:私が担当している糖尿病患者さんではほとんどの方ですね。100% と言うと語弊があるかもしれませんが、ほとんどの方が、日常的に間食を召し上がっています。男性では、午後3時頃、女性は家事が一段落してからの10時と午後の3時頃が多い傾向が見られます。男性は量が多く、早食いしがちなので、その辺を注意して見ています。
糖尿病患者さんの間食(おやつ・嗜好品)について、どうお考えですか?
西村:奪いたいけど、奪えない・・そんな微妙な心境ですね。患者さんは、「甘い物が好き」という方が多いんです。おやつを“やめなさい”と言っても全部やめられるわけないので、まずは、“減らしなさい”と言います。血糖変動のグラフを書きながら、血糖のピークから、下がりかけてきた時に食べると、こうやって上がってしまうんですよ、というのを、書きながら説明もいたします。療養生活は長いですから、すべてを取り上げるわけにはいきません。上手に摂る方法を一緒に考えて、実行していただくことが管理栄養士の腕の見せどころだと思います。
そんな間食を、患者さんにはどのように説明して納得してもらいますか?
西村:まずは、食事療法をきちっと守って行っていることが基本中の基本。私は、信号機をイメージしていただき、食事バランスの説明を行います。「赤」が肉や魚などのたんぱく質、「黄色」が主食のご飯、パン、「青」が野菜。この赤黄青をバランスよく食べているかを患者さんと一緒にチェックをします。アンバランスな方が多いので、食事療法の基本をきちんと説明して理解してもらうことが大切だと思っています。

 そして、間食、おやつは、この信号機には入っていません。あくまで“おまけ”です。何を食べてもいいし、おやつを食べてはいけないわけではないけれど、食べる時間や量を加減するようにと申し上げます。本来は、指示エネルギー量の範囲内に、間食も納めるべきということになっていますが、なかなかできない方が多い。ですから、患者さんには“おまけ”なので、食べ過ぎたらダメなんですよ、という危機感を持ちながら摂ってもらう。そうですね、指示エネルギー量の1割以内位なら許せる範囲でしょうか。食べるなとは言わないけど、それ以上は摂らないように、としています。そして、おやつにはいろいろな種類、内容があるので、選び方、調理のしかた、味付けのしかたなど、工夫できることはやってみましょう、という提案や、おやつのカロリーについて、資料を使い、なるべく具体的に情報提供して、患者さん自身でチェックしながら食べていただくようにします。

どのようにして、患者さんの間食状況を把握していますか?
西村:まず、初回の栄養指導時に、食事調査のカルテを作るために、体重の増減、生活習慣、生活のリズムなどを“ねほりはほり”、うかがいます。どのようなものを食べて生活しているか、傾向が掴めるまで聞くことが大事と思っています。初回の時は、主治医の先生に、食べてはだめだよと言われることが多いようで、最初は、おやつを“食べている”と私に言えない方もいらっしゃいますが、しつこく聞きとりをするので、だいたい正直にお話してくれます。ときには誘導尋問をしたりしてね(笑)

 職場の人たちが食べているのに、自分だけ食べないわけにはいかない方、性格的に堂々と食べていると言いづらい方など、いろんな方がいらっしゃいます。“亀の甲より年の功”と言いますが、栄養士も、経験を重ねて、手を替え品を替え、さまざまな角度から推測したり、話術や資料を使ったりしながら、1人1人手厚く接していくよう心がけています。

間食指導では、どのようなことをポイントに指導されていますか?
西村:おやつに限らずなのですが、食事指導の中では、「変える」「増やす」「減らす」「やめる」の4つのキーワードから、ご自身でできることについて一緒に“目標”を考えます。この4つ全部から1つずつではなく、できそうなことを1つでも2つでもよい。また、1つ達成できたら違うことを1つ考えるでもよい。患者さんによって課題や問題点は違いますし、モチベーションも実行力も変わってきますので。

例えば、以下のような提案が可能です。

    「変える」
  • お茶にお菓子は必需品という考え方を変える
  • 袋ごと食べるのではなく、お皿に出す
  • お菓子を入れる缶を小さくする
  • 清涼飲料水を無糖のコーヒーやお茶に変える
    「増やす」
  • 食事をしっかり摂る
  • 体重計に乗る回数を増やす
  • ダイエット仲間を増やす
  • 昼食に野菜1品増やす
    「減らす」
  • おやつを1日2回から1回に減らす
  • 1回に食べる量(2個→1個)を減らす
  • 毎日、買わない
  • 1回に買う量を減らす
    「やめる」
  • 甘い缶コーヒーをやめる
  • 毎食後の果物をやめる
  • 夜8時以降に食べることはやめる
  • 職場で自分からお菓子を配ることをやめる

 以前、『甘い誘惑』というテーマで講演を行った際に、会場の皆さんに、この4つのキーワードから、できそうな目標を挙げてもらいましたら、各100種類程、目標が集まりました。ご参考までに、一部をご紹介します。

“4つのキーワードから、目標を考える”の例

  • 「変える」
    ・お菓子を果物に・コーラをお茶へ・パンにジャム・マーガリンを塗るのをハム・チーズに変える・お菓子を果物に変える・ジュースを水に変える・袋入りの果物を単品で買う・手作りケーキをパン作りに変える・おやつを低カロリーなものに変える・菓子パンを食パンに変える・砂糖をダイエットシュガーに変える・市販のお菓子を手作りに変える・食事中は甘いジュースでなく水や炭酸水に変える・コーヒー+お菓子をカフェオレに変える・ノンフライに変える・洋菓子から和菓子へ変える・お腹が減っている時に、お菓子売り場へ行かない・小さいケーキに変える・低カロリー低脂肪タイプに変える・果物は朝食のみに変える・微糖からブラックコーヒーに変える・大袋サイズから小袋サイズのお菓子に変える・口寂しい時にはノンシュガーのガムやお茶・水を飲む
  • 「増やす」
    ・噛む回数を増やす・豆腐類、海草、きのこ類を増やす・自転車での通勤を増やす・お茶を増やす・汁物を具沢山に増やす・体重計に乗る回数を増やす・運動を増やす・和食を増やす・歯ごたえのあるものを増やす
  • 「減らす」
    ・ストレスを減らす・座る時間を減らす・車移動の回数を減らす・食後のデザートを減らす・アルコールの回数を減らす・飴3個で80kcalになるものがあると驚いたので減らす・アイスやチョコレートを減らす・柿の食べ過ぎを減らす・焼き芋を減らす・バター、油の量を減らす・夕食を作っている時のつまみ食いを減らす・洋菓子を食べる回数を減らす
  • 「やめる」
    ・コーヒーに砂糖をやめる・ながら食いをやめる・ケーキや菓子パンを買わない・テーブルの上にお菓子を置いておかない・夕食後の甘い物をやめる・食事のかわりの菓子パンをやめる・おやつのチョコレートをやめる・帰宅時の買い物で甘い物を買わない・カタカナメニューをやめる・ドリンクバーで元を取るのはやめる・冷たい飲み物のガムシロップをやめる・満腹感があるのにお菓子を食べ続けるのをやめる・ストレスを食べ物に変えない・寝酒をやめる・手の届く所にお菓子を置かない・テレビを観ながらの食べるのはやめる・運転、仕事をしながら食べるのはやめる・油で揚げた菓子パンをやめる
すごいですね、いろいろな目標がありますね。
西村:この4つのキーワードを、きちんと考えることは重要です。私はいつも、「この中から、どういうことができますか?」と問いかけて、患者さん自身に考えてもらい、個別指導の中で、一緒に探し出してあげます。面白いですよ、こういう考え方があるんだなと患者さんに教えられることも。この中では、“やめる”“増やす”をチョイスするのは難しい傾向はありますね。実行の可能性が高いのは“変える”“減らす”かもしれません。
さらに、具体的には、どのような指導を行いますか?
西村:写真入りの指導用資料を30種類くらい作成してパウチして、自由に閲覧できるよう、病院の各フロアの待合室に置いてあります。家庭での料理編や外食編、おやつ編、おつまみ、アルコール編など、その患者さんに合った資料をお見せしながら指導に使ったり、コピーしてお渡ししたりします。

 おやつで言えば、間食のジャンルごとにカロリーを示し、「選び方、食べ方、飲み方」のコツを明記しています。軽食、菓子パン、甘味・和菓子、喫茶メニュー・ケーキ、焼き菓子、デザート菓子、アイスクリーム、クッキー・チョコ、スナック、せんべい、おつまみ、カフェ、居酒屋、清涼飲料、アルコールなど、必要だと思うジャンルがあるたびに増やしています。ジャンルごとに、様々な種類(商品)があって、実物を写真とカロリー付きで“見せる”と、理解も早く、納得して指導に耳を貸してもらえるように感じます。また、これらのカロリーを、消費するためにはどれぐらいのウオーキングが必要かも提示すると、さらに実感していただけます。

 例えば、飴1粒でもカロリーがあるんですよと説明すると、驚く方が多いですね。高いものでは、1粒20〜27kcalあって、4〜5粒食べると100kcalになります。病院でもらうトローチも、1粒5kcalあるので、6粒の1シートで30kcalに。逆に、カロリー調整した飴やおやつもありますので、そういうものが活用できるという代替策も考えていきます。

 500kcalの目で見えるレシピ集も、非常に人気があって、患者さんが欲しがります。この500kcalの料理レシピカードは、菓子パンのカードと並べて、こんなにカロリーがあるんですよ、という風に。
 ○例えば、昼食で、500kcalのアップルパイの菓子パン+市販の610kcalのピーナッツロール(菓子パン)+喉が
  つまるのでジュース(100kcal)を飲むと、全部で1200kcal。
前述の500kcalレシピ2食と上記のような菓子パン2個のカロリーはは同じだけど、2食を1回で食べられますか?という風に問いかけると、大抵驚きます。

 あと、「間食を食事としない」という話は重々申し上げています。地方の高齢者では、仏壇のお下がりのお饅頭や果物を食事にしたり、という方も結構いらっしゃるんです。また、地方では、その土地独特の“おやつ”がありますので、必ず、そういったものも、指導に取り入れ、聞き取りを行います。

地方独特の“おやつ”には、どのようなものがあるのですか?
西村:私は、神戸を拠点に、山梨や埼玉などで指導を行っていますが、山梨の辺りでは、ぶどうがよく採れるので、地元の方は、手に入りやすいのもあってよく食べているんです。果物屋さんへ行くと、ぶどうでも最近ではいろいろな品種があって、種なしだったり甘みが豊富なものだったり。美味しくて食べやすいと、ついつい1房食べてしまうこともあると思うんですね。ですから、この辺の患者さん用にと、ぶどうのカロリー表を作って、季節が来ると指導に使っています。例えば、小粒のデラウェアでは小さい1房と1/3房で80kcal分ですが、地元のピオーネだと12粒、藤稔という品種では8粒。

 あと、その土地の“お饅頭”も要注意ですね。例えば、うちの病院がある兵庫県の三木地方では、赤福に似た「豊助まんじゅう」というのが名産で、1個135kcalあるのですが、口当たりがよくて2〜3個ぺろりと食べてしまえるんです。埼玉の浦和の方では、「十万石饅頭」というのがあって、これも1個120kcal。こういうものが、お茶の時間に普通に食べられていたりするので、きちんと調べてカロリーチェックすることが必要になるんです。その土地柄の傾向が、患者さんの食生活の問題に絡んでいることもありますから、季節によって採れる果物や地元特産の料理、おやつなどを知っておくことは大切です。

指導した方での改善例がありましたら、ご紹介ください。
59歳・男性で2型糖尿病の患者さんをご紹介します。
仕事はデスクワークの会社員、奥様と2人暮らし。
2003年〜2007年までは、会社の健診で肝障害・糖尿病が疑われ、要精密検査との指示があったのですが放置。2007年暮れから、急に痩せた(98kg→91kg)ので、気になり受診したところ、糖尿病と診断されたという患者さんです。
 初診時のHbAc1は10.2%でした。初回の栄養指導でわかった、この方の食習慣として、会社から車での帰宅途中、運転しながら菓子パン2個とジュース1本を摂り、帰宅して夕食、夕食後におやつのケーキなどを夜の9時頃に食べる、という毎日を送っていたそうです。
 この状況に対して、HbAc1が6.5%になるまで二人三脚で一緒に頑張りませんか?との提案に同意され、まずは間食をやめていただきました。すると3カ月後に6.6%まで下がりましたので、次のステップへ。間食を食べる時には、どう対処するか、について一緒に考え、目標を立てながら食生活の改善に励みました。初回から2年半程経ち、HbAc1は5.5〜5.8%をキープしています。この方は、几帳面に生活記録用紙を付けていただけたことが上手く効果に表れたのかなと思います。

■どのように指導したか

  • 1日の摂取エネルギーのうち間食が1400kcal。
  • HbAc1が6.5%になるまで、二人三脚で一緒に食生活を改善しましょうとの提案に同意。
  • 問題となっていた間食のエネルギー量を自分の目で確認するよう指導。
  • 食べるタイミングと量を考えるように指導。
■患者さん自身の工夫
  • 食べ物のカロリーをチェックする習慣を身につける。
  • スーパー等で買い物する時も、袋を裏返して確認するよう習慣づけた。
  • おやつは夕食後、すぐに食べる。それ以降は食べない。食後はすぐに歯を磨く。
■患者さんの感想
  • まずは、HbAc1が6.5%になるまで、間食を完全にやめることにした。約3ヶ月間で目標値まで下がり、そこからは、身につけた習慣を継続していくようにした。
  • 生活記録表を付けることで、毎日宿題をしている感じ。
  • 食べ過ぎると体重がすぐに増えるので、反省するようになった。
  • 最近、血糖コントロールがよくなり、つい甘い物に手が出るようになってしまい反省している。
最後に、付け加えることはありますか?
西村:TV番組などで、何を食べると血糖値が下がりやすいとか、何が糖尿病に効く、など巷に流れる噂話を信じている患者さんがいらっしゃるので、そういったものに惑わされないよう、正確な情報を提供してあげること。患者さんの生活に合った食事療法を考え、資料をアレンジしながら、指導を行うこと。また、私は健康運動指導士でもありますので、栄養指導とともに、運動指導も大変重要と考えています。食べたら消費する、という大原則も、忘れてはいけませんね。
豊富な資料は、たいへん参考になります。有難うございました!

<今日のまとめ> 間食指導「私の3カ条」

  1. 患者さんと二人三脚で打開策を考え、改善を見守っていく。
  2. 何を食べてもよいが、食事のバランス、食べる時間・量に気をつけて。
  3. 間食はあくまで“おまけ”。なるべく低エネルギー食品で工夫しましょう!

【 Profile 】
西村登喜子(にしむらときこ)さん
三木山陽病院栄養科所属
30年間の病院栄養士として勤務の後、現在、フリーで三木山陽病院、春日野会病院で糖尿病教室・個別栄養指導を行っている。
糖尿病で「合併症になら連」阿波踊りの会会長。

管理栄養士
日本健康運動指導士

■毎月第3火曜日に、三木山陽病院で一般向けの「糖尿病教室」を無料開催中!



 糖尿病患者さんの間食(ここでは嗜好品・おやつ)指導をどのように行っているか、毎月1人ずつ管理栄養士さんに現場の状況や指導のコツなどを語っていただきます。
 第1回目は、東京女子医科大学病院栄養管理部の柴崎千絵里さんにお話をうかがいました。
貴院は、どのような患者さんがいらっしゃいますか?
柴崎:大学病院ということもあり、多岐の疾病に渡っています。なかでも、血糖コントロールがうまくいっていない患者さんが、栄養指導に来てくださることが多いです。生活習慣や食事の是正が必要な方たちで、個々にいろいろと問題を持っていることが多いので、管理栄養士は、治療法やご本人の生活環境や性格など、多くの情報を総合的に検討しながらケースバイケースで患者さんにアドバイスする必要があります。
食事指導を行う上で、間食の問題が出てくることはありますか?
柴崎:もちろんです。担当する糖尿病患者さん(月に約 180名)の8割位は間食(おやつ)を食べているのが現実ですから、間食やおやつの指導・対策は欠かせません。初回栄養指導で間食対策をきちんと行えば、約半数は血糖コントロール改善につなげることができると実感しています。
おやつについて、基本的にはどうお考えですか?
柴崎:まず、ここで言う“間食”とは、甘いものを中心とするいわゆる“嗜好品”、“おやつ”と定義します。糖尿病患者さんにとって、おやつは基本的には食べないほうがよいのですが、一生避けていくわけにはいかないでしょうし、食べたいと思うものをすべて奪ってしまうのは、QOLとしても良くありません。指導者側がやめたほうが良いと思っても、最初から完全否定すると食事療法全体、さらに信頼関係を築く上でも、上手くいかなくなることがあります。

 私の相談の基本は、よく話をすることです。短い時間ではありますが、会話のキャッチボールから、上手に話を聞き取ることが栄養士の腕の見せどころだと考えています。話をしやすい雰囲気を作り、思っていること、悩み、不安など、正直に現状を語っていただける信頼関係を徐々に作ってゆくことは非常に重要です。私の所に来る患者さんは、食事の話だけでなく、生活全体、人生相談にまで、話が及ぶことも。おやつについても、‘今月はこんなに食べちゃった!’と、きちんと報告してくれますよ(笑)。となると1度の相談では食事療法のすべては改善できませんので定期的に数回おこなったり血糖コントロールが改善されても年に1−2回程度におやつも含めた食事内容の食事記録を拝見したり、おしゃべりしながらチェックすることもあります。

どのような指導方針で、間食指導を行っていますか?
柴崎:統一したものはありません。患者さんによって内容は皆違います。どんなことも、否定から入らず、患者さんが“こうしたい”という意志があれば、“ならどうしようか”、を一緒に考えるのが私のポリシーですね。おやつも、“禁止ありき”ではなく、“もし食べるなら、どうしても食べたいなら、こうする”という解決法を伝授することにしています。難しくて、面倒で、(欲望や喜びを否定するような)“できない条件”は掲げず、簡単で、憶えやすくて、すぐに取り組める「実行可能な約束ごと」を提案して、患者さんと一緒に取り組んでいきます。

 約束ごとは、たくさんあると守れなくなるので、まずはできそうなことを、期間を決めて1つ実行してもらいます。無期限だとゴールが見えないので、例えば、“次回来院日までの2ヵ月”など期間を決めれば、“頑張れるかも”と思っていただけます。そして、1つでも守れれば、体重減少など、何らかの実感を覚えますから、患者さんは食事療法に取り組む“自信”を持ってくる。そして、次のハードルをまた一緒に考えます。必要に応じて、軌道修正しながら、課題→実行→結果を、時間をかけて、それこそ一生、患者さんと助走していく気持ちで取り組んでいきます。

具体的には、どのように指導を行っていますか?
柴崎:治療方法によって、どのように摂るか、という基本があります。例えば、インスリン療法で1日朝夕2回法の場合は、食べるなら午前中に食べて、とか、強化療法なら、食べるならインスリンを追加打ちして、とか(回数や使っているインスリンの種類などによって、アドバイスは異なる)。経口糖尿病薬を服用中の患者さんは、薬が効いているうちに食べる(薬の種類や服用時間などによって異なる)、食事療法のみの方は、食べる内容(低カロリーなもの等)で調節する、など。こういったことは医師の指導の下で、検討が行われます。ただし、HbA1cが8%以上の方は、改善傾向が見えるまで1〜3ヵ月間は、おやつ禁止ときっぱり言わせてもらいますよ(苦笑)。
食べるタイミングが重要のようですね。
柴崎:もちろん、食べる種類や量も考慮する必要がありますが、タイミングを工夫して、さらにその負荷を和らげるよう努力したほうが良いと思います。私が指導する際にポイントにしているのは、“もし食べるなら、活動や運動の前に食べて”という工夫です。ただし、食べた分のエネルギーを、すべて運動で消費するのは難しいのですが、せめて、少しでも、そういう意識を持ってもらいたいと思うのです。

おやつを食べるタイミングの例
  • 食事とは別の時間に間食として食べるおやつ

    1. 1型糖尿病の場合:
    食べるおやつに合わせてインスリンを追加する。但し肥満を伴う場合にはカロリーコントロールは行うべき。

    2. 薬物療法、食事療法の場合:

    • おやつを食べた後に、買い物にでかけるなど運動を行う。→出かけた後ではなく、出かける前に食べる習慣
    • 朝食から昼食に比べて、昼食から夕食の時間は長いもの。夕食時間前ともなると、朝食時もしくは昼食時に服薬した経口糖尿病薬の作用も薄れてきているので、夕食直前の間食は避けたい。結果的におやつを食べてしまうのであれば、ギリギリまで我慢して夕食前に食べるよりも、午後の運動前、夕食の準備前、仕事が終わり会社を出る時など、食後に少しでも動けるようなタイミングで食べる。
    • 夜のおやつはカロリー消費がされにくいので、できれば午前中のおやつの方が日常の動きでもカロリー消費が期待できるため、おやつは午後より午前中が理想。

  • 食後に食べるおやつ
    肥満を伴うインスリン療法、薬物療法、食事慮法の場合:
    食品交換表で言う表1・3・5の、おやつ分相当の表1・5に多く含まれる炭水化物・脂質)の摂取量の単位(カロリー)は減らしておく。 できれば野菜、きのこ、海藻などをしっかりと食べ、少しでも食後高血糖にならないような努力を。
  • 好きな時間帯に好きなだけ食べたい
    “ストレス解消に!”こんな思いにかられるときもあると思います。血糖コントロールが比較的良好な場合には、月に1回ぐらいであれば、息抜きのおやつタイムがあっても良いのでは。但し、せめてものフォローとして食後にカロリーのない水、お茶などはいつもより多めに摂るようにする。
いろいろな考え方があるんですね。
柴崎:空腹時に分食の代わりに食べるよりも、食後のほうが高血糖になりにくい場合もあります。食べる量によっては主食を減らして野菜を増やすなどの工夫を行ってもらいます。専業主婦、就業リタイア後の方、仕事を持つ方なら休日などの日中に時間ができた場合、なんとなく際限なく食べてしまうこともありますよね。昼食の代わりにおやつを食べている方は、けっこう多いんです。一人分の昼食を毎日料理するのが億劫になってしまう気持ちもわかります。その患者さんの、生活スタイルや家族構成、性格など、様々なものが影響して食生活に表れます。だから、“聞き取り”が大変重要なのです。
いろいろな患者さんがいらっしゃるんでしょうね。
柴崎:本当に、十人十色です。性差や年齢、性格、育ってきた環境など千差万別ですから、一概にこんな傾向が多いと言えません。一例を下記に示しますが、おやつをどうするか?ひとつで、食事療法全体、ひいては、生活全体の見直しにまで及んできます。逆に、おやつ対策を見逃すと、全体が上手くいかなくなる。上手くいけば、血糖コントロールも改善し、ストレスも少し解消して、生活がより楽しくなってくると思うのです。

さまざまな患者さんの傾向(一部)
  • 一定期間は頑張れるけれど、その後、反動で食べてしまう。
  • 家族やまわりの環境のせいにして(言い訳が多く)、実行に結びつかない。
  • 食事記録などのデータ分析は熱心だけど、実を結ばない。(分析して満足する)
  • 管理栄養士の話は熱心に聞くが、実行、努力は苦手。
  • ほめられると頑張れる。
  • 細かいことを守るより、すべて禁止にしたほうが、うまくいく。
  • 食べることが、なによりの生き甲斐。
よい症例はありますか?
柴崎:間食対策を行って血糖コントロールが改善された患者さんの例をひとつ、ご紹介します。おやつの内容を変えるなどしてダイエットを始めた患者さんです。
42歳・女性。2002年、近所の開業医で HbA1c7.2%で糖尿病と診断され治療。
 出産などのストレスから間食が増え、2005年より女子医大に転院した時は、身長 150cm、体重99.5kg、BMI44.2で、高度肥満の状態でした。
 まずは減量が必要なので、食事を減らさない代わりにおやつを減らしましょうと説得。でも、食事以外に間食をしてはいけないのは辛いと仰るので、甘い菓子類は、HbA1cが6%台になるまではやめて、その代わりに分食として食品交換表の表1(炭水化物)の食品を紹介。芋類、おにぎりのみで飽きがこないように、たまには、お煎餅も食べても良いこととしました。
 また、それまでは1日に2千歩程度しかなかった歩数を、なるべく歩くよう(とくに食後)促し、現在は1日6〜8千歩になりました。
 2年間かけて10kg減量に成功。その後さらに2年間で9kg減量、現在 HbA1c5.7%、体重80kgで、ゆっくりではありますがリバウンドをすることなくダイエットを継続中です。

 ポイントは、おやつを甘いお菓子から、ふかし芋、おにぎり、お煎餅に変えたこと。最近でも甘いお菓子を食べることはあっても週に1回程度で、お菓子をだらだらと食べ続けることはなくなりました。

おやつの内容も重要なのですね。おやつを選ぶ時のポイントはありますか?
柴崎:そうですね。まず、砂糖たっぷりの清涼飲料水はやめていただきます。また、アイスクリームなどの氷菓は焼き菓子に比べて大量の砂糖が入っていることが多いので、選ぶ際にはカロリーチェックをしてください。また、おやつは、洋菓子よりも和菓子の方がよいというイメージもあると思いますが、一概にそうでもないので注意が必要です。

 どんなおやつでも、可能であれば、カロリーをチェックすること。最近では、カロリーゼロの飲み物や、食物繊維などを多く含んだもの、低カロリーに調整したおやつも多いですから、そういうものを活用することも一考だと思います。そして味も見た目の量も同じようなものであれば少しでもカロリーの低いものを選ぶ。小袋のものにする。個別包装のものにして一度に食べ過ぎてしまうのを防止する。以上は月一度程度のお楽しみで食べるおやつとはちがい、日常的にちょっとだけ食べたいおやつのときの選び方のコツになります。
非常に実践的なお話を伺うことができました。有難うございました!

<今日のまとめ> 間食指導「私の3カ条」

  1. 患者さんは十人十色。1人として同じ食事療法はない。
  2. 食べながらでも、やせるような打開策(妥協策)を一緒に考える。
  3. 糖尿病は付き合っていく病気。患者さんとは一生のお付き合いをするつもりで。

【 Profile 】
柴崎千絵里(しばさき ちえり)さん
平成3年:佐伯栄養専門学校卒業
平成7年:女子栄養大学卒業
平成8年:東京女子医科大学大学院看護学研究科
      食看護学専攻 博士前期課程修了
平成13年:東京女子医科大学病院 栄養課(現栄養管理部)
平成15年:同・総合外来センター医療サービス相談室、
       栄養食事指導担当
平成17年:東京女子医科大学附属女性生涯健康センター、
       栄養食事指導兼務

管理栄養士
日本病態栄養学会認定病態栄養専門師
日本糖尿病療養指導士

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