トップページ - 間食指導、私の場合 - 第2回患者さんと二人三脚

 第2回目は、神戸の病院で糖尿病患者さんの食事指導に従事している西村登喜子さんに、間食の指導法についてうかがいました。病院勤務の管理栄養士として30年以上の経験で培われたコツをご伝授いただきます。

先生の患者さんでは、おやつを食べている方はどのくらいいらっしゃいますか?
西村:私が担当している糖尿病患者さんではほとんどの方ですね。100% と言うと語弊があるかもしれませんが、ほとんどの方が、日常的に間食を召し上がっています。男性では、午後3時頃、女性は家事が一段落してからの10時と午後の3時頃が多い傾向が見られます。男性は量が多く、早食いしがちなので、その辺を注意して見ています。
糖尿病患者さんの間食(おやつ・嗜好品)について、どうお考えですか?
西村:奪いたいけど、奪えない・・そんな微妙な心境ですね。患者さんは、「甘い物が好き」という方が多いんです。おやつを“やめなさい”と言っても全部やめられるわけないので、まずは、“減らしなさい”と言います。血糖変動のグラフを書きながら、血糖のピークから、下がりかけてきた時に食べると、こうやって上がってしまうんですよ、というのを、書きながら説明もいたします。療養生活は長いですから、すべてを取り上げるわけにはいきません。上手に摂る方法を一緒に考えて、実行していただくことが管理栄養士の腕の見せどころだと思います。
そんな間食を、患者さんにはどのように説明して納得してもらいますか?
西村:まずは、食事療法をきちっと守って行っていることが基本中の基本。私は、信号機をイメージしていただき、食事バランスの説明を行います。「赤」が肉や魚などのたんぱく質、「黄色」が主食のご飯、パン、「青」が野菜。この赤黄青をバランスよく食べているかを患者さんと一緒にチェックをします。アンバランスな方が多いので、食事療法の基本をきちんと説明して理解してもらうことが大切だと思っています。

 そして、間食、おやつは、この信号機には入っていません。あくまで“おまけ”です。何を食べてもいいし、おやつを食べてはいけないわけではないけれど、食べる時間や量を加減するようにと申し上げます。本来は、指示エネルギー量の範囲内に、間食も納めるべきということになっていますが、なかなかできない方が多い。ですから、患者さんには“おまけ”なので、食べ過ぎたらダメなんですよ、という危機感を持ちながら摂ってもらう。そうですね、指示エネルギー量の1割以内位なら許せる範囲でしょうか。食べるなとは言わないけど、それ以上は摂らないように、としています。そして、おやつにはいろいろな種類、内容があるので、選び方、調理のしかた、味付けのしかたなど、工夫できることはやってみましょう、という提案や、おやつのカロリーについて、資料を使い、なるべく具体的に情報提供して、患者さん自身でチェックしながら食べていただくようにします。

どのようにして、患者さんの間食状況を把握していますか?
西村:まず、初回の栄養指導時に、食事調査のカルテを作るために、体重の増減、生活習慣、生活のリズムなどを“ねほりはほり”、うかがいます。どのようなものを食べて生活しているか、傾向が掴めるまで聞くことが大事と思っています。初回の時は、主治医の先生に、食べてはだめだよと言われることが多いようで、最初は、おやつを“食べている”と私に言えない方もいらっしゃいますが、しつこく聞きとりをするので、だいたい正直にお話してくれます。ときには誘導尋問をしたりしてね(笑)

 職場の人たちが食べているのに、自分だけ食べないわけにはいかない方、性格的に堂々と食べていると言いづらい方など、いろんな方がいらっしゃいます。“亀の甲より年の功”と言いますが、栄養士も、経験を重ねて、手を替え品を替え、さまざまな角度から推測したり、話術や資料を使ったりしながら、1人1人手厚く接していくよう心がけています。

間食指導では、どのようなことをポイントに指導されていますか?
西村:おやつに限らずなのですが、食事指導の中では、「変える」「増やす」「減らす」「やめる」の4つのキーワードから、ご自身でできることについて一緒に“目標”を考えます。この4つ全部から1つずつではなく、できそうなことを1つでも2つでもよい。また、1つ達成できたら違うことを1つ考えるでもよい。患者さんによって課題や問題点は違いますし、モチベーションも実行力も変わってきますので。

例えば、以下のような提案が可能です。

    「変える」
  • お茶にお菓子は必需品という考え方を変える
  • 袋ごと食べるのではなく、お皿に出す
  • お菓子を入れる缶を小さくする
  • 清涼飲料水を無糖のコーヒーやお茶に変える
    「増やす」
  • 食事をしっかり摂る
  • 体重計に乗る回数を増やす
  • ダイエット仲間を増やす
  • 昼食に野菜1品増やす
    「減らす」
  • おやつを1日2回から1回に減らす
  • 1回に食べる量(2個→1個)を減らす
  • 毎日、買わない
  • 1回に買う量を減らす
    「やめる」
  • 甘い缶コーヒーをやめる
  • 毎食後の果物をやめる
  • 夜8時以降に食べることはやめる
  • 職場で自分からお菓子を配ることをやめる

 以前、『甘い誘惑』というテーマで講演を行った際に、会場の皆さんに、この4つのキーワードから、できそうな目標を挙げてもらいましたら、各100種類程、目標が集まりました。ご参考までに、一部をご紹介します。

“4つのキーワードから、目標を考える”の例

  • 「変える」
    ・お菓子を果物に・コーラをお茶へ・パンにジャム・マーガリンを塗るのをハム・チーズに変える・お菓子を果物に変える・ジュースを水に変える・袋入りの果物を単品で買う・手作りケーキをパン作りに変える・おやつを低カロリーなものに変える・菓子パンを食パンに変える・砂糖をダイエットシュガーに変える・市販のお菓子を手作りに変える・食事中は甘いジュースでなく水や炭酸水に変える・コーヒー+お菓子をカフェオレに変える・ノンフライに変える・洋菓子から和菓子へ変える・お腹が減っている時に、お菓子売り場へ行かない・小さいケーキに変える・低カロリー低脂肪タイプに変える・果物は朝食のみに変える・微糖からブラックコーヒーに変える・大袋サイズから小袋サイズのお菓子に変える・口寂しい時にはノンシュガーのガムやお茶・水を飲む
  • 「増やす」
    ・噛む回数を増やす・豆腐類、海草、きのこ類を増やす・自転車での通勤を増やす・お茶を増やす・汁物を具沢山に増やす・体重計に乗る回数を増やす・運動を増やす・和食を増やす・歯ごたえのあるものを増やす
  • 「減らす」
    ・ストレスを減らす・座る時間を減らす・車移動の回数を減らす・食後のデザートを減らす・アルコールの回数を減らす・飴3個で80kcalになるものがあると驚いたので減らす・アイスやチョコレートを減らす・柿の食べ過ぎを減らす・焼き芋を減らす・バター、油の量を減らす・夕食を作っている時のつまみ食いを減らす・洋菓子を食べる回数を減らす
  • 「やめる」
    ・コーヒーに砂糖をやめる・ながら食いをやめる・ケーキや菓子パンを買わない・テーブルの上にお菓子を置いておかない・夕食後の甘い物をやめる・食事のかわりの菓子パンをやめる・おやつのチョコレートをやめる・帰宅時の買い物で甘い物を買わない・カタカナメニューをやめる・ドリンクバーで元を取るのはやめる・冷たい飲み物のガムシロップをやめる・満腹感があるのにお菓子を食べ続けるのをやめる・ストレスを食べ物に変えない・寝酒をやめる・手の届く所にお菓子を置かない・テレビを観ながらの食べるのはやめる・運転、仕事をしながら食べるのはやめる・油で揚げた菓子パンをやめる
すごいですね、いろいろな目標がありますね。
西村:この4つのキーワードを、きちんと考えることは重要です。私はいつも、「この中から、どういうことができますか?」と問いかけて、患者さん自身に考えてもらい、個別指導の中で、一緒に探し出してあげます。面白いですよ、こういう考え方があるんだなと患者さんに教えられることも。この中では、“やめる”“増やす”をチョイスするのは難しい傾向はありますね。実行の可能性が高いのは“変える”“減らす”かもしれません。
さらに、具体的には、どのような指導を行いますか?
西村:写真入りの指導用資料を30種類くらい作成してパウチして、自由に閲覧できるよう、病院の各フロアの待合室に置いてあります。家庭での料理編や外食編、おやつ編、おつまみ、アルコール編など、その患者さんに合った資料をお見せしながら指導に使ったり、コピーしてお渡ししたりします。

 おやつで言えば、間食のジャンルごとにカロリーを示し、「選び方、食べ方、飲み方」のコツを明記しています。軽食、菓子パン、甘味・和菓子、喫茶メニュー・ケーキ、焼き菓子、デザート菓子、アイスクリーム、クッキー・チョコ、スナック、せんべい、おつまみ、カフェ、居酒屋、清涼飲料、アルコールなど、必要だと思うジャンルがあるたびに増やしています。ジャンルごとに、様々な種類(商品)があって、実物を写真とカロリー付きで“見せる”と、理解も早く、納得して指導に耳を貸してもらえるように感じます。また、これらのカロリーを、消費するためにはどれぐらいのウオーキングが必要かも提示すると、さらに実感していただけます。

 例えば、飴1粒でもカロリーがあるんですよと説明すると、驚く方が多いですね。高いものでは、1粒20〜27kcalあって、4〜5粒食べると100kcalになります。病院でもらうトローチも、1粒5kcalあるので、6粒の1シートで30kcalに。逆に、カロリー調整した飴やおやつもありますので、そういうものが活用できるという代替策も考えていきます。

 500kcalの目で見えるレシピ集も、非常に人気があって、患者さんが欲しがります。この500kcalの料理レシピカードは、菓子パンのカードと並べて、こんなにカロリーがあるんですよ、という風に。
 ○例えば、昼食で、500kcalのアップルパイの菓子パン+市販の610kcalのピーナッツロール(菓子パン)+喉が
  つまるのでジュース(100kcal)を飲むと、全部で1200kcal。
前述の500kcalレシピ2食と上記のような菓子パン2個のカロリーはは同じだけど、2食を1回で食べられますか?という風に問いかけると、大抵驚きます。

 あと、「間食を食事としない」という話は重々申し上げています。地方の高齢者では、仏壇のお下がりのお饅頭や果物を食事にしたり、という方も結構いらっしゃるんです。また、地方では、その土地独特の“おやつ”がありますので、必ず、そういったものも、指導に取り入れ、聞き取りを行います。

地方独特の“おやつ”には、どのようなものがあるのですか?
西村:私は、神戸を拠点に、山梨や埼玉などで指導を行っていますが、山梨の辺りでは、ぶどうがよく採れるので、地元の方は、手に入りやすいのもあってよく食べているんです。果物屋さんへ行くと、ぶどうでも最近ではいろいろな品種があって、種なしだったり甘みが豊富なものだったり。美味しくて食べやすいと、ついつい1房食べてしまうこともあると思うんですね。ですから、この辺の患者さん用にと、ぶどうのカロリー表を作って、季節が来ると指導に使っています。例えば、小粒のデラウェアでは小さい1房と1/3房で80kcal分ですが、地元のピオーネだと12粒、藤稔という品種では8粒。

 あと、その土地の“お饅頭”も要注意ですね。例えば、うちの病院がある兵庫県の三木地方では、赤福に似た「豊助まんじゅう」というのが名産で、1個135kcalあるのですが、口当たりがよくて2〜3個ぺろりと食べてしまえるんです。埼玉の浦和の方では、「十万石饅頭」というのがあって、これも1個120kcal。こういうものが、お茶の時間に普通に食べられていたりするので、きちんと調べてカロリーチェックすることが必要になるんです。その土地柄の傾向が、患者さんの食生活の問題に絡んでいることもありますから、季節によって採れる果物や地元特産の料理、おやつなどを知っておくことは大切です。

指導した方での改善例がありましたら、ご紹介ください。
59歳・男性で2型糖尿病の患者さんをご紹介します。
仕事はデスクワークの会社員、奥様と2人暮らし。
2003年〜2007年までは、会社の健診で肝障害・糖尿病が疑われ、要精密検査との指示があったのですが放置。2007年暮れから、急に痩せた(98kg→91kg)ので、気になり受診したところ、糖尿病と診断されたという患者さんです。
 初診時のHbAc1は10.2%でした。初回の栄養指導でわかった、この方の食習慣として、会社から車での帰宅途中、運転しながら菓子パン2個とジュース1本を摂り、帰宅して夕食、夕食後におやつのケーキなどを夜の9時頃に食べる、という毎日を送っていたそうです。
 この状況に対して、HbAc1が6.5%になるまで二人三脚で一緒に頑張りませんか?との提案に同意され、まずは間食をやめていただきました。すると3カ月後に6.6%まで下がりましたので、次のステップへ。間食を食べる時には、どう対処するか、について一緒に考え、目標を立てながら食生活の改善に励みました。初回から2年半程経ち、HbAc1は5.5〜5.8%をキープしています。この方は、几帳面に生活記録用紙を付けていただけたことが上手く効果に表れたのかなと思います。

■どのように指導したか

  • 1日の摂取エネルギーのうち間食が1400kcal。
  • HbAc1が6.5%になるまで、二人三脚で一緒に食生活を改善しましょうとの提案に同意。
  • 問題となっていた間食のエネルギー量を自分の目で確認するよう指導。
  • 食べるタイミングと量を考えるように指導。
■患者さん自身の工夫
  • 食べ物のカロリーをチェックする習慣を身につける。
  • スーパー等で買い物する時も、袋を裏返して確認するよう習慣づけた。
  • おやつは夕食後、すぐに食べる。それ以降は食べない。食後はすぐに歯を磨く。
■患者さんの感想
  • まずは、HbAc1が6.5%になるまで、間食を完全にやめることにした。約3ヶ月間で目標値まで下がり、そこからは、身につけた習慣を継続していくようにした。
  • 生活記録表を付けることで、毎日宿題をしている感じ。
  • 食べ過ぎると体重がすぐに増えるので、反省するようになった。
  • 最近、血糖コントロールがよくなり、つい甘い物に手が出るようになってしまい反省している。
最後に、付け加えることはありますか?
西村:TV番組などで、何を食べると血糖値が下がりやすいとか、何が糖尿病に効く、など巷に流れる噂話を信じている患者さんがいらっしゃるので、そういったものに惑わされないよう、正確な情報を提供してあげること。患者さんの生活に合った食事療法を考え、資料をアレンジしながら、指導を行うこと。また、私は健康運動指導士でもありますので、栄養指導とともに、運動指導も大変重要と考えています。食べたら消費する、という大原則も、忘れてはいけませんね。
豊富な資料は、たいへん参考になります。有難うございました!

<今日のまとめ> 間食指導「私の3カ条」

  1. 患者さんと二人三脚で打開策を考え、改善を見守っていく。
  2. 何を食べてもよいが、食事のバランス、食べる時間・量に気をつけて。
  3. 間食はあくまで“おまけ”。なるべく低エネルギー食品で工夫しましょう!

【 Profile 】
西村登喜子(にしむらときこ)さん
三木山陽病院栄養科所属
30年間の病院栄養士として勤務の後、現在、フリーで三木山陽病院、春日野会病院で糖尿病教室・個別栄養指導を行っている。
糖尿病で「合併症になら連」阿波踊りの会会長。

管理栄養士
日本健康運動指導士

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