目と健康シリーズ

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糖尿病3分間ラーニング
目と健康シリーズ No.4

Eye & Health

特集:高血圧網膜症 

編集
青森県立中央病院眼科部長
桜庭 知己 先生

も く じ

ニイハオ!
今度のテーマは「高血圧網膜症」だよ。高血圧ってほんとよく聞く病気だよね。
そういえば、アイの叔父さんも高血圧だって言ってたっけ。でも叔父さん、別に目のことなんか全然気にしてなかったけど…。大丈夫かなぁー。

高血圧は日本の国民病

 患者数およそ4,000万ともいわれる高血圧、この病気ほど日本人に身近な病気はありません。それでいて、なぜ血圧が高いことがいけないのか、正しく理解している人は、意外に少ないのではないでしょうか。

 自覚症状がほとんどないまま、徐々に血管をむしばんでいく高血圧。ついには脳卒中や心臓病などの、寿命を左右するような恐ろしい病気を引き起こしたりします。そして、「高血圧網膜症」という眼の病気も起きてくるのです。

眼底検査でわかること

 高血圧の検査のひとつに、眼底検査があります。眼底検査は、ふたつの目的から行われます。

 ひとつは高血圧網膜症の早期発見。高血圧網膜症は、全くといってよいほど自覚症状を伴わずに進行し、いったん視力障害が起きると回復はかなり困難です。眼底検査で早いうちに異常を発見できれば、視力障害の発生を未然に防げます。

 もうひとつの目的は、網膜症以外の高血圧合併症の危険の予測です。眼底は、人体で唯一、血管の状態を直接肉眼で観察できるポイントです。眼底の血管に異常が起きていれば、眼底以外の血管も同じように高血圧の影響が現れている可能性が高いと考えられます。網膜血管の変化のレベルと脳梗塞や心筋梗塞の発作の発生率には、深い関連があり、その予防に役立ちます。

血圧と網膜の基礎知識

血圧とは
 血液が流れる際に血管壁の内側にかかる抵抗(圧力)のことを血圧といいます。血管が細くなったり、流れる血液の量が多過ぎたりして、血管の壁に過剰な圧力がかかる状態が高血圧です。収縮期血圧(心臓が収縮して血液を送り出したときの血圧)が140mmHg以上、または拡張期血圧(心臓が拡張したときの血圧)が90mmHg以上のとき、高血圧と診断されます。

高血圧の原因
 患者さんの9割以上は「本態性高血圧」というタイプの高血圧で、原因を特定することはできません。食塩の摂り過ぎや運動不足、肥満、ストレスといった生活習慣に関わる要因が大きく、遺伝的体質、加齢なども関係しています。このタイプ以外に、血圧を上げる明らかな病気があって、それが原因で高血圧になる「二次性高血圧」もあります(詳しくは、腎性高血圧、内分泌性高血圧、血管性高血圧、神経性高血圧に分かれます)。

高血圧の合併症
 高血圧で肩凝りや頭痛などが起きたりもしますが、ほとんどの場合は自覚症状はありません。異常を感じないからといって治療せずにいると、心臓病や腎臓病、網膜症など、さまざまな合併症が発症してしまいます。

高血圧と動脈硬化
 高血圧状態では、血管の壁に大きな負担がかかります。血管壁はその負担に対応するために硬く変化し、動脈硬化を起こします。動脈硬化が進行すると、血管内径が狭くなって、ますます血圧が上がります。さらに進行すると血流が途絶え、そこから先の細胞の機能が停止します。これが脳で起こるのが脳梗塞、心臓で起こるのが心筋梗塞です。

網膜とは
 網膜は眼球の内側に張り巡らされている薄い膜状の組織で、瞳から入った光が焦点を結ぶ所です。視覚を写真撮影にたとえた場合、網膜はフィルムに相当します。網膜で受けとった光の強さや色の情報を、視神経を通して脳へ送ることで、視覚が成立しています。

網膜症とは
 網膜がなんらかの影響で機能しなくなることを網膜症といいます。主な原因は、網膜内に張り巡らされている細い血管の障害です。血管障害を起こす病気に、高血圧や糖尿病があります。

網膜を見ると高血圧がわかる

図1 高血圧網膜症の進行と治療
 高血圧は、動脈硬化と密接に関連しながら「高血圧網膜症」を起こします(図1)。眼底検査では、高血圧の網膜血管への影響、動脈硬化の程度、網膜実質(網膜そのもの)の異常を確認します。

高血圧の影響(H所見)

 網膜血管に最初に現れる高血圧の影響は、動脈が細くなる狭細化〈きょうさいか〉という現象です。動脈がどのくらい細くなっているかを、平行している静脈の太さを基準に測定し、正常(0)〜高度(III)の4段階に分類します(図2)。

 動脈の狭細化のほかに、1本の動脈に太い部分と細い部分ができる、口径不同〈こうけいふどう〉という現象も現れます。この現象は、動脈硬化へ移行する段階で多く見られます。

 これらの現象は、高血圧による一時的な影響であり、血圧をコントロールすることで元に戻ります。

動脈硬化の程度(S所見)

 高血圧状態が続くと、血管壁が硬く変性する動脈硬化が起きてきます。動脈硬化の程度は、動脈の血柱反射〈けっちゅうはんしゃ〉の亢進〈こうしん〉や動静脈交叉現象〈どうじょうみゃくこうさげんしょう〉から判定します。

 動脈硬化による血管の変化は、高血圧による直接的な影響と異なり、器質的な変化のため、一度起きてしまうと元には戻りません。

・血柱反射の亢進

 血柱反射とは、眼底検査で血管を観察したときに、血管内の血液に照明が反射して血管の中央が輝いて見える現象のことです。動脈硬化で血管壁が厚くなると、反射の屈折率が変化して、通常より反射部分の幅が太くなります。つまり、血柱反射の幅を測定すれば、動脈硬化の程度がわかるということです(図3)。

 さらに動脈硬化が進行すると、銅線動脈(血柱反射が血管の幅と同じ太さまで亢進し、血柱の色も濁るため、血管があたかも銅線のように見える)、銀線動脈(血管壁が濁って不透明になり血柱が隠れ、血管が白く見える)などが観察されます。

・動静脈交叉現象

 網膜は大変薄い組織であるため、網膜内の動脈と静脈が交叉している所では、血管の外膜(一番外側の層)を共有しています。このため交叉部分の動脈硬化は、静脈にも影響を与えます。動脈の血管壁が静脈の血柱を隠してしまい、静脈が細く見えたり、動脈が静脈の血流をせき止め、静脈がうっ血する場合もあります。

 交叉部分の静脈の太さを交叉していない所の静脈の太さを基準に比較して、動脈硬化の程度を確認します(図4)。

 このように、網膜内の血管に高血圧による変化が起きている眼底を高血圧眼底といいます。高血圧眼底は、高血圧の影響(H所見)と動脈硬化の程度(S所見)を併記して、HIIISIIのように判定されます。

図2 動脈狭細の判定

A:動脈の太さ
V:静脈の太さ
程 度A / V
正 常(0)3/4〜2/3
軽 度(I)2/3〜1/2
中等度(II)1/2〜1/3
高 度(III)1/3以下
図3 反射亢進の判定

R:血柱反射の幅
C:動脈の太さ

※銅線、銀線状など反射の色調の変化
程 度R / C比
正 常(0)40〜50%
軽 度(I)45〜55%
中等度(II)60%以下
高 度(III)60%以上
図4 交叉現象の判定

V1:交叉部以外の静脈の太さ
V2:交叉部の静脈の太さ
程 度V2 / V1比
正 常(0)
軽 度(I)0.5以上
中等度(II)0.5未満
高 度(III)

網膜実質の異常「高血圧網膜症」

高血圧網膜症
出血斑や滲出斑が
できています
 高血圧眼底の所見に加えて、網膜そのものにも異常が起きている場合は、「高血圧網膜症」と診断されます。網膜の異常とは、血管の壁から血液や血液成分が染み出してできる出血斑・滲出斑〈しんしゅつはん〉、血流が不足している所にできる軟性白斑、血管から漏れ出た血液成分が網膜内に溜まって起きる網膜浮腫などのことです。

 高血圧網膜症は、黄斑(網膜の中心。視力の最も鋭敏なところ)に浮腫がある場合を除いて自覚症状を伴いません。しかし、治療せずに放置していると、網膜内に血流が途絶えた部分(虚血部位)ができ、そこになんとかして酸素や栄養を届けようとして、新たな血管が伸びてきます(新生血管)。この血管は大変もろくて破れやすく、出血が硝子体内に広がる硝子体出血や、出血から網膜剥離に至ることがあり、そうなると高度の視力障害が残ってしまう可能性が高くなります。

 この進行過程は、糖尿病における増殖網膜症以降の経過とほぼ同じです。高血圧網膜症も増殖網膜症となってしまうと、血圧のコントロールとはあまり関係なく、網膜の病気として単独に進行します。

高血圧が視覚障害を起こすとき

増殖網膜症から
硝子体出血が起
きてしまった例
悪性高血圧から
視神経乳頭に浮
腫が生じた例
 降圧薬による高血圧治療が進歩した現在では、高血圧網膜症が増殖網膜症に進行して失明に至る頻度はまれになってきました。しかし、これとは別に注意が必要なケースがあります。

 悪性高血圧(多くは腎臓の病気から突発的に発生し拡張期血圧が130mmHg以上にもなる)や、網膜動脈閉塞症、網膜静脈閉塞症、血管新生緑内障といった他の合併症が出現した場合です。いずれも視力に大きなダメージを残してしまいますので、早急に対処しなければいけません。

血圧が高いといわれた人へ

高血圧の治療

 血圧が高いと指摘されたら、まずは自分の生活を見直してみましょう。減塩、肥満解消、運動、禁煙など生活習慣の改善で、血圧が正常レベルまで下がることが少なくありません。効果が十分でない場合には、降圧薬を服用して治療します。一番いけないことは、「別に異常はないし、まだ大丈夫だろう」といって、放置してしまうことです。

高血圧網膜症の治療

 網膜血管に動脈硬化がなければ、血圧を下げることで血管の状態は元に戻りますし、出血斑や滲出斑も消失します。薬物療法では、アンジオテンシンII受容体拮抗薬やカルシウム拮抗薬など、血管の収縮を抑える薬が主に用いられるようになってきました。また、動脈硬化がある場合には、交感神経抑制薬(心臓の収縮機能を抑える薬)で、血管の負担を軽減します。

 高血圧網膜症が進行し、網膜に虚血部位や新生血管が生じた増殖網膜症には、新生血管発生の抑制、硝子体出血の予防を目的に、レーザー光凝固術を施します。黄斑に浮腫が起きて視力が低下した場合には、浮腫改善効果のある薬物(抗VEGF薬)を直接眼内に注射することもあります。ただ、薬剤の種類によってはもともとある高血圧自体に悪影響を及ぼす恐れもありますので、その選択は慎重に行う必要があります。さらに、硝子体出血や網膜剥離が起きてしまった場合には、硝子体手術により硝子体の透明化、網膜の剥離部分の復位を行い、視力の回復をめざします。

 サイレントキラー=静かなる殺人者。これは、高血圧という病気の特徴を端的に表現した呼び方です。高血圧を放っておくと、ある時突然、重大な病名を突き付けられることになりかねません。そうなる前に、適切な治療を進めていきましょう。

 そして、高血圧から眼を守るために、半年に1回ぐらいは眼底検査を受けることも忘れないようにしてください。

ふっ、難しかった…。
高血圧って思ったより奥が深い病気みたい。それに眼の検査で脳や心臓の病気の危険までわかるなんて驚き!
今度叔父さんに会ったら、ちゃんと検査を受けないとダメだよって教えてあげなくちゃ。

シリーズ監修:堀 貞夫 先生 (西葛西・井上眼科病院院長、東京女子医科大学名誉教授)
企画・制作:(株)創新社 後援:(株)三和化学研究所
2012年2月改訂
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