糖尿病と妊娠
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糖尿病3分間ラーニング

3. 母子を糖尿病から守る予防キャンペーン

大森 安恵(海老名総合病院・糖尿病センター長、東京女子医大名誉教授)
2010年11月

糖尿病があっても子どもは産める

 糖尿病と妊娠に関する知識を広めるために医師のみならず看護師さん、患者さんの会合でお話をする機会がよくあります。私は糖尿病を治療しながら妊娠した患者さんの出産をお手伝いし、長いこと診ていた患者さんが、それぞれ2人のお子さんを育て上げインスリン50年賞をいただいた嬉しい思いを共感した経験が3度もあります。

 ところが、「インスリンを打ち続けて50年経った方に授与される“リリーインスリン50年賞”をご存知ですか」と聞くと、どの会合でも知っている方は沢山の聴衆の中に僅か2〜3名しかいません。

母子を糖尿病から守る

 「母子を糖尿病から守る予防キャンペーン」の1つとして、日赤の献血時に糖尿病の検査をして下さるのをご存知でしょうか」と問いかけると、知っていて挙手される方はもっと少なく、1人か2人です。

 我が国の糖尿病はたとえ子供やティーンエイジャーであっても2型糖尿病が多く、2型糖尿病は発病から10年以上も症状が出ません。したがって検査を受けない限り自分が糖尿病または糖尿病になりかかっていることはわからないのです。

 そのため、妊娠をしてはじめて糖尿病があることを診断され、既に増殖網膜症をもっていて、妊娠によってどんどん悪化していく患者さんや先天異常のお子さんを出産される方が多いのが現状です。

献血時糖尿病チェックへの道

 そこで、私は「若者が成人式を迎えたら糖尿病のチェックを受けよう」というキャンペーンを数年前から始めました。

 日本糖尿病財団の金沢康徳理事長、日本糖尿病・妊娠学会の中林正雄理事長のご協力を得て、このキャンペーンを推進し努力してきましたが、机上の空論になってなかなかうまく活動が展開されませんでした。

 厚労省に後援をお願いにいったとき、ふとした会話の弾みから日赤の献血の話になり、糖尿病があると献血ができないのに献血時に糖尿病のチェックがなされていないことに気づき、今から日赤に講義に行くという中林先生に検診チェックの交渉をお願いしました。

 先生は日赤血液事業審議会委員の肩書きをもっているため、日赤本社との交渉・連携はすべて先生を通してスムースに行われ、献血時の糖尿病検診は2009年3月から日本全国で実施されるようになりました。

妊娠可能年齢女性の0.7%に糖尿病

 日赤の献血は年間500万人が施行しています。16歳から40歳までの妊娠可能な年齢125万人の内0.7%に糖尿病または疑い糖尿病をもっている方がいることがわかっております。

 糖尿病が発症するという事は、血糖値が高くなることです。血糖値は通常食前でも食後でも約80〜100mg/dLの値を一定に保たれているのですが、糖尿病ではインスリンという血糖値を調節するホルモンが少ないため、食事をとらなくても容易に200mg/dL以上になります。

 血糖値200mg/dL以上が5年続くと体中の神経がおかされることになり、10年以上では網膜症が、15年以上続くと腎臓が悪くなります。コントロールの悪い方はたちまち尿毒症になって人工透析が必要になることすらあるのです。

未治療で糖尿病合併症が進んでいると

 この糖尿病の治療を行っていない合併症をもった患者さんの妊娠を、私はとても危険視しています。前にも述べた通り、網膜症があると妊娠によって急速に出血が増え、治療が十分でないと失明することすらありえます。

 腎症をもつ人の妊娠も、赤ちゃんは子宮の中で発育不全がおき、お母さんは子癇(しかん)といって昏睡に陥ることすらあります。また、奇形のある赤ちゃんが生まれることもあるのです。奇形の率は報告者によって違いはありますが10%から20%にもおよびます。

 糖尿病のない健常妊婦さんから生まれた子供にみられる奇形は約1〜2%であり、糖尿病があってHbA1cを7%以下にコントロールできていないまま妊娠した方から生まれるお子さんの奇形率は4%前後です。妊娠してはじめて糖尿病がみつかった方から生まれるお子さんの奇形率が最も高率なわけです。

 したがって、妊娠してはじめて糖尿病が発見された場合、糖尿病にとっても、妊娠の面からもどれほど不利益かお解りになると思います。本来、お子さんに恵まれ人生の幸せを享受すべきときに、痛々しい経験をなめなければなりません。そのため「糖尿病を早くみつけよう、母子を糖尿病から守る」キャンペーンが必要となるわけです。

献血で糖尿病をチェックしましょう

 妊娠糖尿病といって、まだ糖尿病にはなっていないが妊娠によって助長された軽い糖代謝異常があります。この病態については次のコラムで詳しく述べさせていただきますが、まだ糖尿病になっていなくても巨大児が生まれます。この糖代謝異常も献血時の健診でチェックしてもらうことができます。

 皆様、困った方のお力になれる献血をし、糖尿病のチェックを受け、万一糖尿病または糖代謝異常と診断されたら、医療機関できちんと治療を受けられ、合併症のない人生をおくれるよう、また良い妊娠結果が得られるよう努力しようではありませんか。

©2010 大森 安恵

2012年4月からヘモグロビンA1c(HbA1c)は以前の「JDS値」に0.4を足した
「NGSP値」で表わされるようになりました。過去の記事はこの変更に未対応の部分があります。

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