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第18回 IDF(国際糖尿病連合)世界会議に参加 4

2003年08月
ラテンアメリカ諸国 〜 AYUDA のマットさんとの会話
 今回、オーストラリアの IFL とブースを共有している AYUDA(American Youth Understanding Diabetes Abroad, INC)とは、米国の非営利団体で、南北アメリカ大陸で主にキャンプを通じて、糖尿病に関する教育や啓蒙活動をしている団体である。活動は、ボランティアによって支えられている。

 米国では AYUDA をはじめとして、ボランティア活動は盛んに行われている。アメリカ大陸は、言葉が英語とスペイン語でほとんどカバーできてしまうが、もし日本で全アジア諸国を視野に入れた活動を行おうとしても、まず言葉が多様すぎて大変だという話になった。

 マットさんは専任のボランティアスタッフで、スペイン語が堪能で、ラテンアメリカ諸国で活動しており、昨年はエクアドルとコロンビアでキャンプを主催したそうである。大学を卒業し、今はボランティア活動をしているが、将来的には法律の勉強をして弁護士になりたいとの思いはあるものの、ともすれば、儲け主義に陥る今の弁護士たちを見て、馬鹿げていると思うこともしばしばあるそうである。

 話では、ラテンアメリカ諸国でもインスリンの価格に格差があり、それを悪用している人々がおり、私服を肥やしているそうである。

 マットさんが滞在したエクアドルの状況として、高級公務員の平均月収 US$500、中流家庭の平均月収 US$200、最低保証賃金 US$115(1カ月)、外国人労働者 US$70(1カ月)、糖尿病治療費用は、1日3回血糖測定・インスリン2回打ちで年間 US$2000、ヒューマンインスリン1瓶(100U、10ml)US$22〜30で、中流家庭の収入の15%を占める状態とのことである。

 コロンビアでは、インスリンの価格がエクアドルより30%〜40%も安く入手できるとのことで、これを利用し、エクアドルだけではなく、ペルーやボリビアで不当に利益を得ている不届きな輩がいると怒っていた。

 ちなみに米国では、平均年収 US$1万5000〜2万9000、ヒューマンインスリン1瓶 US$15、民間の私的な平均的な保険料 US$150程度とのことであった。
インド 〜 ペンデセイ先生との会話
 ペンデセイ先生とブース脇のフリードリンク&スナックコーナーで、ダイエットコークを啜りながら、インドの糖尿病の状況を訊いた。

 インドというと、IT 産業の隆盛により、優秀な技術者や新たな市場として世界が注目している反面、私が調べた限り、人口の約40%は1日1ドル以下の収入の絶対貧困者、約45%は1日2ドル以下の貧困者、合わせて人口の約85%は世界的なレベルでみる貧困者とされているとの話から始まった。

 インドでも都市部を中心にマクドナルド、コカコーラに代表されるジャンクフードが急速に広がり、開発が進み子供たちの遊び場がどんどんなくなっていく状態で、また勉強にも忙しくなり運動不足が原因で、2型糖尿病が急速に増えているとのことである。インドでも糖尿病患者の90%以上は、2型とのことであった。

 ペンデセイ先生の活動拠点であるナグプール(人口250万、インド中央部に位置)のような地方都市もチョコレートや飴など昔はなかった菓子がどんどん流入し、テレビで派手に宣伝していることで消費意欲を煽っており、伝統的な食文化は破壊される傾向にあり、子供たちの栄養バランスがどんどん悪化しているということである。

 インドといえば、ヒンズー教徒が多く、菜食主義者が多いのではないのかと尋ねたところ、牛肉以外の肉は、家庭で調理することは禁じられていても外食することは禁じられていないという、少々理解に苦しむコメントであった。ナグプールでは、いまだにカースト制度が根強く残っているということで、昔の日本にもあった思想だが“獣肉によって生計を立てる卑しい身分の者と見なされる人たち”が存在するのかもしれないと思った。もし、そうならその人たちのお陰で恩恵を被っている人たちが存在するのは、何とも理不尽なことである。

 ペンデセイ先生が主催するドリームトラストの会員の子供たちは、ほとんどが貧困層で、男の子は8歳、女の子は6歳になると働き手として親から期待されるそうである。義務教育制度はなく、親たちは教育という将来の投資よりも今を生きるための即戦力としての働き手を欲しがる傾向があるとのことである。

 ペンデセイ先生から聞いたインドの糖尿病治療費用として、インスリン400Uが US$3〜4(100Uの1シリンジあたり US$1で月平均1人10シリンジ使用するとのこと)、診療報酬 US$2〜3、血糖降下剤10錠=1日分= US1$、検査費用 US$1、血糖測定費 US$5〜6、グルコメーター US$100、テストストリップ10枚 US$5ということで、私が治療を受けている水準(血糖測定回数など)で推定すると月 US$78〜81となり、一家の月収が US$200 程度の月収の3分の1以上を占める計算になる。

 そのような状況下で、学童期の子供が1型糖尿病を発症すると、たとえ学校へ行っていても、中退し、自ら治療費用を稼がなければならなくなってしまうとのことであった。また、インドでは、伝統的に女性の社会的地位が低く、親も男の子を優先して育てる傾向があり、女の子が発症すると治療を放棄してしまい、結果、死に至るケースが少なくないということである。

 インドでは公的医療機関は無料だが、数が十分あるわけではなく、恩恵を被れる人数は限られてしまうということであった。
バングラデシュ糖尿病協会のスタッフたちとの会話
 バングラデシュへは、私も約8年前に旅行しており、バングラデシュ訪問経験のある珍しい日本人として話が盛り上がった。

 バングラデシュの糖尿病治療について同国協会スタッフたちとアーメッド医師から聞いた話では、ダッカ(首都)を中心とした都市部と農村部との格差が相当あるとのことである。同国の平均的な一家の年収は US$275、糖尿病治療費用については、診療報酬1回 US$1〜5、インスリン(ヒューマリン)1バイアル100U=1カ月分= US$8、血糖検査費用 US$1、その他の検査(尿、眼底など) US$5ということであった。インスリンだけで一家の年収の3分の1を超えてしまう計算である。

 しかしながら、アーメッド医師の話では、全国レベルで貧困者のために無料で治療提供体制を敷いており、血糖測定も全国各地の糖尿病協会下の診療施設では無料で受けられる。同国の糖尿病患者は十分に恩恵を被っており、このシステムは日本でも取り入れるべきあるとのこと。国家予算の3分の2近くを外国援助に頼っているといわれる同国でたいそうなことをのたまうではないか! 確かに青年海外協力隊で看護師として同国へ滞在経験ある人から、無料の医療施設がある話は聞いたが、そこへ行くバス代が払えず治療を受けられず命を落とす人が多数いるという話も同時に聞いている。

 IDF の機関誌でも、同国の都市部と農村部の治療格差(協会スタッフも認めてはいるものの、急ピッチで改善されているという話である)、同国において女性の地位が低いことから引き起こされる糖尿病治療における問題についての記事を読んだが、糖尿病患者の治療環境が良好なものとは思えないものであった。

 やはり、富裕層である医師をはじめとする医療従事者と貧困層との認識の違いなのか。確かに提供者と受益者の認識の違いは日本にもまだまだ存在する問題であることは確かなのだが・・・・・・。
スリランカ糖尿病協会スタッフとの会話

 スリランカといえば、5年ほど前に旅行を計画し、政府軍と北部を支配するタミルタイガーとの内戦状態が続いるということで、旅行会社に事故が起きても補償を求めないという承諾書を書かされた上で、申込みをしていたのだが、結局、ゲリラの活動が活発化し、旅行会社からも旅行取りやめ通知が届き中止になってしまったことがある。

 旅行前に読んだガイドブックでは、熱心な仏教徒が多く、生き物の命が尊重されることから、人家の近くでも野生動物が沢山見られると書かれていたにもかかわらずである。

 それでも、ある友人の話では、海の透明度が世界一高くビーチリゾートとして有名なモルジブの海岸にスリランカの兵士の遺体が流れ着くという話を聞き、これが現実の姿なのかもしれないとも思っていた。

 同国のブースでは、同協会の責任者であるウィジェスリヤ医師と話した。

 同国の人口は1900万人で、多民族国家である。急速な都市化、内戦によるストレス、栄養失調や出生時の低体重が原因で糖尿病患者が増加しているとのことである。同国の糖尿病協会は NGO として1984年に糖尿病と合併症の予防を目的に設立され、国立糖尿病センターが1995年に設立されたとのことである。1型糖尿病患者は、全糖尿病患者の1〜2%。2型糖尿病の有病率は、1990年の農村部で2.0%、都市部で5.0%、IGT 5.2%から、2000年には、都市部で7.7%、農村部で12.0%、IGT 12.9%と、まさに10年間で急増しているのが伺える。

 国レベルで、遺伝的視点、低体重を防ぐための妊娠中からの指導、生活習慣、ストレスマネジメントに取り組み、国民全員には教育と啓蒙、危険性の高い人たちには検査や管理をすることに取り組んでいるとのことである。

 同国では、平均的な労働者世帯の1カ月の平均収入は、US$23〜35で、US$35あれば、ヒューマンインスリン1カ月分を提供できるということであった。インスリン代だけで、労働者の平均賃金を相当分上回る状態である。

 同国では、インスリン入手が困難な子供たちのために無料でインスリンを提供しているインスリンバンクという団体があるとのこと。ブースでは、インスリンバンクへの募金箱が置かれ、募金の額に応じて栞、バッジなどが記念に貰えるようになっていた。私も、30フラン(US$35相当分)を寄付させていただき、栞を頂戴した。インスリンバンクでは、未来を託す未成年の子供を優先してインスリンを提供しているということで、成人したらどうなるのかと尋ねたところ、価格の安いアニマルインスリンを使わざるをえないとであった。多民族国家ということで、民族によって恩恵を被れないことも生じるのではないかと、あえて尋ねてみたが、「民族によって差別も区別もしていない」という回答が返ってきたため、ホッとした。もし、その回答が真実なら、今は内戦が続いていても、「仏教徒が多く慈悲深い国」「民族や宗教が違っても平和を望んでいる」というのが人々の真の姿なのだと信じる根拠になるからだ。

 ひとつの国家とされながらも、民族によって異なる糖尿病協会を有する国もあり、今回の IDF 会議で少なくとも私が認識できたのは、ベルギー、ウズベキスタンである。
カンボジア糖尿病協会スタッフとの話

 カンボジアといえば、アンコールワットの遺跡群が有名で、国旗にもデザインされている。ポルポト独裁政権に始まり10数年前まで内戦状態が続き、今でも地雷の被害を受ける人が後を絶たない状態である。

 そんな状態を反映してか、私が6年ほど前、同国を訪れた時は、アンコールワットの遺跡群、プノンペン市の博物館や市場など観光地を中心に回ったのだが、とにかくどこへ行っても物乞いに囲まれた。しかもその多くは、身体に障害ある人たちであった。

 同国ブースでは、同国の糖尿病協会の副理事のセナ博士とケウキー医師と話した。

 同国の糖尿病協会は1999年に設立され、2003年に IDF に加盟したとのこと。NGO 団体であり、フランスの大手製薬会社のサポートのもと活動しているということである。

 同国の糖尿病有病率は8%と日本よりも高い。“糖尿病は贅沢病である”というイメージがいかに間違った認識であるかが良くわかる。1型と2型の比率は不明ということであった。平均的な月収は、US$200程度。糖尿病治療費は、診療報酬は US$2、血糖検査費 US$1、ヒューマンインスリン1バイアル(100U)US$15とのことであった。

 自動車の普及、食生活の変化によって、有病率はさらに上昇するという懸念から、ウォークラリーと伝統的な食生活を維持するキャンペーンを都市部だけでなく農村部でも大々的に行っているということであった。

 ここでも、同国を訪れたことのある珍しい日本人しかも糖尿病という国際舞台にデビューしたばかりのカンボジアという国に関心を持ってくれたということで、記念に銀製のブローチを頂戴してしまい、また、頂戴する瞬間を歴史的な出来事としてビデオにまで撮影されてしまった。
香港糖尿病協会のスタッフとの会話
 中華人民共和国に返還された後もなお、“香港”としてブースを出している。我々日本人から見ると1国2制度という何とも不可解な体制である。

 香港のブースでは、曾看護師と葉経理部長と話した。

 香港は、中華人民共和国へ返還された後も、英国統治時代の NHS(ナショナルヘルスサービス)が残っており、医療費は全額公費負担ということである。人口400万人に対し、2500人の GP(基礎的な医療を施す医師)がおり、糖尿病治療も GP が行っているとのことである。これは、オーストラリアやデンマーク、スェーデン、フィンランド、英国などヨーロッパ諸国も同じような制度である。

 糖尿病患者数は、60万人にも上るという推計もあり、年間総医療費300億 HK$、1人当たりの年間糖尿病医療費は、5000 HK$ということであった。
タンザニア糖尿病協会スタッフたちとの会話
 タンザニアといえば、マラソンのイカンガー選手を思い出す人も多いだろう。中世のころから、インド洋に浮かぶザンジバルを中心にイスラム商人による貿易で栄えた国で、日本人にはあまり馴染みがない国かもしれないが、海沿いの町は美しいビーチリゾート、キリマンジャロ山麓は野生動物の宝庫として、ヨーロッパでは観光地として人気がある。

 動物好きの人ならご存知かもしれないが、チンパンジーの研究家として有名なジェーン・グドール女史が本当の意味でのチンパンジーに関するフィールドワークを始めた地でもあり、日本のチンパンジー研究の拠点ともなっている、京都大学の霊長類研究所もある。

 他民族・他部族、多言語からなる社会にありながら、部族抗争などの問題も少なく、他のアフリカ諸国と比べ、比較的平静を保っているのだが、経済的な指標で見る限り、決して豊かな国ではない。タンザニア人は、共通語として英語とスワヒリ語、自分の出身部族の言葉とほぼ全国民がトライリンガルという日本人から見るとすごい特技の持ち主たちである。とはいえ、私が同国へ訪れた時に話をした人たちの英語は、文法的に間違いも多く、語彙も豊富とはいえない状態であった。それでも、「自分は英語が分る」といって、英米人と堂々と話しているのである。日本の中学2年生のレベルの英語が使いこなせれば、十分彼らと同レベルで英語を話すことは可能と思われる。日本人の多くは、文法や語彙に関しては十分彼らを上回っているのだから、日本人よ! もっと自信を持って英語を話そう!

 と、話が横道に逸れてしまったが、今回、タンザニアのスタッフとして来ていたのは、同国の糖尿病協会で役員をしているラマドヘムさんとその弟であるウィッドメルさんで、ラマドヘムさんは、日本でいえば厚生労働省の職員で、首都のダルエスサラームを中心に活動しており、ウィッドメルさんはキリスト教の牧師さんでモシという内陸の山間部を中心に活動しているということである。ラマドヘムさんは、「かんぽ」(郵便局の簡易保険)の研修のため日本に来たことがあるということであった。

 同国の平均的な日当は、US$1で、一世帯平均して5〜8人子供がおり、学費については5%〜7%は政府の負担ということである。もともと、社会主義国として独立した経緯もあり、国公立病院での診療は無料だが薬代は自己負担しなければならないとのことである。タンザニア国内に広域地区自治体の運営による公立病院が17、地区自治体の運営による公立病院が6あるということである。(ちなみにインスリンメーカー NOVO 社が、年間6000人診療可能な無料の糖尿病専門病院をダルエスサラームにて運営している。)

 1999年から、都市部を中心に公・私的な保険制度が導入されたとのことである。ここでも「かんぽ」の研修が役立っているようである。

 糖尿病治療事情は、インスリンはレンテ(アニマルインスリン)が主流で、価格は1バイアル(100U)で約 US$10.8、経口血糖降下剤1カ月分約 US$60ということであった。アニマルインスリンの価格が現在どこまで値が下がってるか不明だが、インスリン治療の方が薬物治療より安上がりということになるのか? 注射器などのことを考慮すれば、インスリン療法は高いものと推定されるのだが・・・・・・。いずれにしても、日当1ドルの人たちにとっては、とても大きな負担であることには変わりない。

 エイズやマラリアが深刻である同国にとって、糖尿病は優先順位が低く、アニマルインスリンといえども、不足しているということで、日本も戦時中から終戦直後インスリンが不足し、魚からインスリンを作った話をしたところ、「タンザニアには、海、タンガニーカ湖があり、魚は沢山いるので、製法を教えてもらえれば何とか自給できるかもしれない」と言っていた。製薬について、私は素人ゆえ、詳しくはわからないが、もし、魚の種類など詳しくご存知の方がおられれば、保険の面だけでなく、製薬の面での技術協力ができれば、理想なのだが。


IDF の George Alberti 会長(右)
 話をしているうちに、何と IDF の George Alberti 会長がやってきて、声をかけてくれた。ミーハーな私は、千載一遇のチャンスと思い、「一緒に写真を撮っても良いか」と尋ねたところ、大変気さくな方で、「もちろんOK」とのことで、一緒に写真をとってもらった。
南アフリカのスタッフとの会話
 南アフリカといえば、現在は撤廃されているものの、アパルトヘイト(人種隔離政策)がまず頭に浮かんでくる。白人でさえも大きく分けて、イギリス系とオランダ系に分かれており、公用語もアフリカーンス(オランダ語)と英語である。法的に撤廃されたとしても人々の感情として、残っているのではないかという思い込み(一種の偏見ともいえるが)を持ちながら、同国糖尿病協会のスタッフであるマリアンさんと話をした。マリアンさんは、名前からしてもオランダ系の白人女性であるが、マリアンさん自身も、また協会としても民族、人種に関係なく糖尿病の治療・予防に関する教育活動を行っているという話である。同協会は、政府の援助は一切なく、自主運営ということである。

 それでも、白人系に子供の1型糖尿病患者の有病率が高い、ズールー族(黒人)とインド系に2型糖尿病の有病率が高いといった人種・民族間の疫学的な有病率の違いがあることが分っているということである。少しでも金銭的に余裕ができて、子供に小遣いを与えると、甘いものばかり買ってしまい、それが糖尿病有病率を押し上げる結果となっているということである。

 国民の80%は無保険者で、公的病院では無料ではないものの安価で治療は受けられるということである。インスリンについては、政府の補助があるもののグルコメーターは自己負担ということである。失業問題が非常に深刻化しており、1カ月の失業手当が US$5〜10で、グルコメーターのテストチップ代が同じ価格ということである。インスリンは、政府の補助で何とかなっても、血糖値を測ることが困難で、良好なコントロールが難しい現状が推測できる。インスリンそのものは、ヒューマンインスリンが十分に行きわたっていることもあり、インスリン不足が深刻な隣国ジンバブエに送っているそうである。

 貧困層においては、医療費の負担も重く、また伝統的な医療(民間療法)への信仰が根強いこともあり、糖尿病治療の妨げとなるケースも少なくないということである。

 また他民族国家である同国では、英語とアフリカーンスのみならず主要言語だけでも11言語もあり、それぞれの言語によるテキストを作成し、各民族、言語使用者が平等に恩恵を被ることができるように同協会も取り組んでいるということである。しかしながら、糖尿病患者、特に2型糖尿病患者は高齢者が多く、またその多くは字の読み書きができないことから、イラストや図を多用した小さな子供でも理解できる内容の絵本のようなテキストを作成しているということである。

 アパルトヘイト撤廃直後に私が同国に訪れた時は、有色人種(日本人は“名誉白人”として、入国審査書類にも白人の欄にチェックすることにされていたらしいが)であるにもかかわらず、嫌な思いは全くしなかったことを話しながら、図々しくも、アパルトヘイトのことについても尋ねてみた。

 マリアンさんの話では、同国の問題は、人種間の問題ではなく文化間の摩擦なのだということである。同じ黒人の部族であっても(例えばズールー族とコーサ族)、彼らは互いに敵対し合い、同じ言葉を話そうとせず、他部族のもの同士が結婚することもないということである。就職にしても、出身部族による“派閥”が影響するとのことである。

 日本で得られる同国に関する情報が限られているとはいえ、どうも、変な思い込みをしていたようである。自分の無知さを改めて恥じる結果となってしまった。
ジンバブエ糖尿病協会スタッフとの会話
 旧南ローデシアといった方がピンとくる方も多いかもしれない。国名は同国のグレートジンバブエからのもので、煙草が有名。自然保護に力を入れており、同国の重要な観光資源であるビクトリア滝の回りも半径2キロ以内の開発は一切禁じられている。私がビクトリア滝を訪れた時も、本当に手付かずの自然が残されており、金儲け優先ではなく、本当の意味で観光資源の保護を徹底している姿勢に感動してしまった。

 そんな同国も、ここ2〜3年の農場白人地主層と同国独立時に活躍した黒人兵士層に対する政府の対応の相違への不満が発端となり、各地で白人地主の農園が襲撃される事件が相次ぎ、政情不安となり、それが原因でインスリン不足が深刻化している状態ということである。

 同国糖尿病協会のスタッフであるダニエルさんがあちこちのブースを訪ねては、窮状を訴え、支援を求めていた。

 IFL にももちろん窮状を訴えていた。先日、IFL のニールさんから、「ジンバブエに送ったインスリンが2週間も税関で足止めをくったものの、無事に到着した。窮状を救ってくれた IFL と神様に本当に感謝する。」という内容のメールが転送されてきた。
エリトリアでただ1人の糖尿病専門医との会話
 エリトリアといえば、数年前に独立を果たし、憲法制定のために日本から司法試験最年少合格者の女性が派遣された時のテレビ番組を見た以外は、正直なところ、何も知識がない。

 エリトリアでたった1人の糖尿病専門医であるゲラントゥ先生と話をした。

 エリトリアでは、教育・医療は全て無料で、住居・衣服も支給され、人々が自己負担するものは日々の食料だけ、という程度はどれ程のものか疑問であるが、非常に“羨ましい”お国である。

 ゲラントゥ先生も糖尿病専門医とはいえ、糖尿病に関しては、たった6日間デンマークで研修を受けただけだそうである。できれば、アメリカで最新の治療技術を学びたいと思っており、各国政府にそのための資金援助を打診しているそうだが、良い返事は貰えてないそうである。

 伝統的な生活から資本主義の影響を受けた近代的な生活へ移行するなかで、人々は大変なストレスを抱えており、そのストレスが原因で、1型・2型とも糖尿病患者は急増しているそうである。

 そんな状態の中で、糖尿病事情については、お世辞にも良いとはいえず、栄養士も糖尿病に関する教育や指導のできる人もおらず、まして、地域の部族の言葉の話せる糖尿病スタッフなぞ存在しないそうである。インスリンもアニマルインスリンしか手に入らないそうである。ゲラントゥ先生の知る限り、生存5年以上の1型糖尿病患者はいないそうである。癌のような病気でよく5生率(術後5年生存率)という言葉を聞くが、同国では、1型糖尿病も“5生率”なるものに当てはまってしまう病気なのかと思うと、病歴20年以上の私自身を含め、糖尿病で5年以上生きることが当たり前となっている日本の医療事情に感謝しなければならないと改めて思った。

 衣食足りて・・・といわれるが、それだけでは生けて行けない我々糖尿病患者は、やはり、贅沢な存在なのであろう。しかし、その我々が生けていける社会を実現することが、人間が他の生き物と大きく異なって進化した存在として地球上に存在することを許された所以と解釈し、我々の存在は人類全体の発展に寄与できる役割を果たすべきものとの解釈をしたい。
モザンビークでただ1人の糖尿病専門医との会話
 モザンビークといえば、何年か前、日本の PKO 派遣問題で話題になったように、内戦状態が続き、世界最貧国のひとつとされている。イギリス人の英会話の先生が以前3年ほどボランティア活動をしていたということで、聞いた話では、公用語がポルトガル語であるため、観光による外貨収入に力を入れている近隣のケニア・タンザニア・南アフリカ・ジンバブエといった英語圏の国々と比べ、外国人観光客を呼び込むことが難しく、なかなか産業らしい産業を発展させるのが難しいということである。

 モザンビークでたった1人の糖尿病専門医であるシルバ先生と話をした。シルバ先生は、女医さんである。シルバ先生の話では、公的な保険も私的な保険も都市部でしかなく、地方では医療保険は行き渡っていないとのことであったが、話をしていて、医療従事者であるシルバ先生でさえも、保険といってもピンと来ないものがある様子が伺えたことから、もしかしたら、「保険」というものに対する認識が異なるのかもしれない。アニマルインスリンしか手に入らず、1バイアル US$22.5で、慢性病の治療に対する政府の援助が多少はあるものの、十分ではないとのことである。人々の平均月収は、何と US$20足らずだそうで、アニマルインスリン1バイアルが人々の平均月収を上回ってしまうことになるのである。

 インスリン1バイアル(1カ月分として)の値段だけで、月収を上回ってしまう世界最貧国の水準では、とても1型糖尿病の人間が生存することは、不可能と認識せざるをえなかった。
ナイジェリアの医師との会話
 ナイジェリアといえば、豊富な石油資源があるにもかかわらず、各国の思惑に翻弄され、また、政情不安が続き、末端の人々がその豊富な石油資源の恩恵を被ることができない現状がある。

 ナイジェリアのブースでは、ラゴス大学医学部の教授であるオーウォボリオレ先生と話をした。私的機関として1982年に設立された糖尿病協会があり、全国で20の糖尿病治療医院があり、糖尿病治療は GP(かかりつけ医)によって行われており、民間療法も数多く行われているそうである。糖尿病専門医は、全国で50人ほどおり、小児糖尿病の専門医は全国で5人ほどいるそうである。

 糖尿病有病率は、1〜2%で、そのうち1割が1型糖尿病ということであるが、都市部では患者数が増えているということである。患者は、貧困層に多いとのことで、意外な答えであった。

 1カ月のインスリン代は、アニマルインスリン・ヒューマンインスリンとも値段は変わらず US$200で、人々の平均月収とほぼ同額ということである。インスリンを無料で提供できることが理想でも、政府にとてもそんな余裕はないということであった。

 糖尿病患者が増えているにもかかわらず、治療設備、治療スタッフ、医療従事者・人々への糖尿病教育と全て不十分な状態であるということであった。
その他の国々
 アイスランド、フィンランド、スウェーデン、オーストラリアの国々は、基本的に医療費は公費負担で、自己負担はほとんどないものの、政府としては高騰する医療費支出に頭を悩ませている様子が伺えた。

 スウェーデンでは、医療費が全額無料となる公的保険を入手するための費用が高額で、使うか使わないか分らない保険に高額を払うよりも、結局、治療を受ける都度自己負担を覚悟する道を選ぶ人が増えていること、1型糖尿病有病が全糖尿病患者の約40%を占めるフィンランドでは、医療費の支出を抑制するために2型糖尿病の予防と1型2型とも合併症を出さないようにコントロールを徹底することを指導する方向で取り組んでいるということであった。

 この他にも、多くの国々のブースがあったが、北・西アフリカの国々、中東の国々はフランス語しか通じず、IDF 会議であるにもかかわらず、観光案内が中心で糖尿病事情が聞けない国々も多かった。

 日本から一番近い外国であり、言葉も文化も似ている韓国の糖尿病事情にも非常に興味深かったのだが、次回2006年の IDF 会議開催国であるにもかかわらず、ブースがなく、情報を仕入れることができなかったことは、残念であった。
©2003 森田繰織
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