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海外の糖尿病事情 11 [ ブラジル ]

2006年12月
DITN 2006年11月5日発行号掲載:「海外糖尿病事情」掲載
医療スタッフ向けの情報紙『DITN(DIABETES IN THE NEWS)』(発行所:メディカル・ジャーナル社)に連載された「海外糖尿病事情」よりご紹介します。
人口1億8,352万人(2005年)
GDP7,963億ドル(2005年)
1人当たりGDP4,323米ドル(2005年)
外務省資料より
 ブラジルといえば、サッカー、サンバ、ボサノバなどを思い浮かべる方が多いと思いますが、新興経済発展国(ブラジル・ロシア・インド・中国。いわゆるBRIC's)の1つとして、経済的に急成長をしています。

 IDF(国際糖尿病連合)発表の資料によれば、2003年の糖尿病有病率は5.2%(構成比では都市部90.4%、郡部9.6%。男女比では、男性43.9%、女性56.1%。年齢構成比では、20〜39歳12.9%、40〜59歳48.1%、60〜79歳39.0%)、14歳以下の1型に関しての年間発病率は10万人あたり8人となっています。経済的な急成長を反映してのライフスタイルの差異か原因は特定できないものの、圧倒的に都市部に患者が集中しているのが特徴と思われます。

 今回は、医師2人(1人は内分泌医、もう1人は糖尿病専門医)と2型歴15年で5年前よりインスリン注射を始めた患者1人から聞いた話を元に報告させて頂きます。

 1型糖尿病の場合、医師の診断を受け、3次医療対応の扱いとなると、指定された公的な病院施設で対応することになります。さらに日本で言う簡易訴訟を州の裁判所に起こし、認定を受けるとNPHかヒトインスリンと注射器は無料で給付を受けることができるそうです。しかしながら、在庫が不足する事態が生じ、行政施設間で責任の擦り合が起きることも稀ではないそうです。ペン型インスリン・注射器、血糖測定器・テストストリップについては、無料給付対象とはなりません。医師たちは、ノボラピッドR30ミックス注が給付対象となるよう求めているとのことですが、まだ実現していないとのことです。

 2型糖尿病の場合、1次医療で対応するケースがほとんどですが、インスリンが必要となると1型糖尿病同様、指定された公的病院施設で対応し、裁判所に訴訟を起こし、インスリンの給付を受けることになります。ちなみに腎臓透析についても、訴訟を起こし認定を受け、一部公費負担で透析をすることができるそうです。

 ブラジルでは公的な医療保険制度(INSS=社会保険庁所轄の保険)があり、いわゆる皆保険ですが、総体的に病院、医師、設備が非常に不足しているため、その恩恵にあずかれない人々が多く存在します。ある程度の規模の企業への勤務者は、日本と同じように企業の健康保険に加入することができますが、それ以外はINSSに頼らなければならない状況です。富裕層は民間の保険会社と契約を結び、通常、設備が整い、治療の質も高いと言われる民間の医療機関でケアを受けます。しかしながら、糖尿病の場合、診療報酬・検査料は通常10%程度の払い戻ししか受けることができません。検査については別の検査機関へ患者自らが検査を依頼し、結果を主治医の下へ持参しなければならないケースも多々あります。

 公的な医療施設は医薬分業ではありませんが、民間の医療施設は医薬分業で薬剤費は保険の対象とならないため、全て自己負担となります。

 検診の内容については、通常、3カ月ごとに定期健診を行い、民間医療施設においては、血液検査のほかにアルブミンも含めた尿検査、6カ月〜1年に1度眼底検査、必要に応じ、栄養指導・運動指導を行うのが一般的ですが、公的な医療施設においては、血液検査・尿糖検査ができれば良いほうで、アルブミンの検査はコストが掛かりすぎということで行われません。待遇への不満から医師やスタッフ達がストライキを起こし閉鎖されてしまうことも珍しいことではないそうです。糖尿病療養指導士やエデュケーターなどの制度は無く、貧困層は、医師の検診を受けることができず、看護師の指導を3カ月に1度受けることができれば良いほうとされています。

 気になる治療コストについては、
●診療報酬(人件費等医療機関側から見たコスト)
●公的医療機関 US$200〜US$250(患者自己負担は無)
●民間医療機関 US$300〜US$400
(民間保険会社と契約していれば本人自己負担無)
●インスリン代(自己負担料金)
 超速効型インスリンアナログ製剤
 プレフィルド・キット5本…US$80
●血糖測定器…US$100(自己負担料金)
●テストストリップ 一枚につき…US$1(自己負担料金)
となります。

 ちなみに同国の収入状況は、法律で定められている最低賃金はUS$ 170/月で、中流家庭のメイドでUS$ 220/月、一般事務職(いわゆるOL)の初任給US$350/月という状態です。もちろん、同国の収入格差が大きいことは“収入格差も世界一”と言われるほどなので、一概に言えないことも確かです。

 しかしながら、これらの数字から見れば、一部の富裕層を除けば、条件が良いとは言えない公的医療機関で治療を受け、国から支給されるインスリンを注射し、血糖自己測定は不可能という状態に甘んじなければならない状況が伺えます。今後、ブラジルが経済成長を遂げることにより、所得格差問題が解決されることを祈る次第です。
©2006 森田繰織
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