眼科医からみた失明しないためのアドバイス
あきらめることはない!糖尿病から目を守る方法はいくらでもある
成人の失明原因の中で一番多いのが、糖尿病網膜症だ。毎年なんと約3,000人が、この病気で視力を失っている。なぜ糖尿病で失明する人がこんなに多いのだろうか。糖尿病網膜症とはどんな病気なのだろうか。失明しないためには、何に気をつければいいのか。今回は、眼科医の日比野久美子先生(真清クリニック)のお話をもとに、大事な目を糖尿病から守るとっておきの方法をご紹介する。
※眼の仕組みや網膜症については 15. 糖尿病による失明、網膜症 のページで詳しく解説していますので、ご参照ください。
糖尿病網膜症とはどんな病気? なぜ失明者がこんなに多いのか なんと失明していた目が回復 ロービジョンケアとは?
糖尿病網膜症とはどんな病気?
本題に入るまえに、糖尿病網膜症の特徴や治療法を、まず簡単につかんでおこう。網膜はこんな働きをしている(網膜の役目)
網膜は、よくカメラの中のフィルムにたとえられる。眼球の一番内側にあるうすい膜で、瞳孔から光となって入ってきた外界のさまざまな物体のかたちや色は、この網膜の黄斑部とよばれる場所の上で像を結ぶ。できた像は視神経を通り、脳へと送られ、外界の情報として認知されていく。
糖尿病網膜症には段階がある(網膜症の種類)
糖尿病があると、網膜に栄養や酸素を供給している無数の毛細血管が、高血糖のために変化して、網膜の組織が障害されていく。その障害の進行程度によって、次の三つの段階に分けて考えるのが一般的だ。■単純網膜症
病変が、まだ網膜組織の内部の範囲にとどまっている段階の網膜症をいう。この段階では、病気の進行はゆるやかで、自覚症状もないのが特徴。ただ、中には単純型であっても、黄斑部が障害され視力低下する黄斑症という症状もあるので、油断はできない。写真は単純網膜症。点状出血、硬性白斑が現れている。
■前増殖網膜症
病変が、網膜の表面にまで進行してきた段階の網膜症。まだ自覚症状はない。■増殖網膜症
つまって用をなさなくなった毛細血管のかわりに、新しい血管(新生血管)を次々に増殖するようになった段階の網膜症。だが、新生血管はもろく、ちょっとした衝撃ですぐ出血し、硝子体出血や牽引性網膜剥離をおこして、視力障害や失明の原因をつくる。増殖型になっても、初期の頃は自覚症状はほとんどないが、増殖が活発化するにつれて、視力が落ちたり眼底出血などの自覚症状が出て、発見される。進行速度は早い。
写真は硝子体出血が起きている。この状態でもまだ視力がある。
こんな方法で治療する(治療方法)
A. 血糖コントロール
失明を避けるためには不可欠で有効な治療法。食事療法によるマイルドなコントロールがベスト。薬物療法へ治療法を変更するなど、短期間に血糖が大きく変動した時は、網膜に悪影響を与えることがあるので、注意が必要だ。B. レーザー光凝固(レーザーと略)
新生血管や新生血管ができそうな場所を、特殊なレーザーで焼き取り、その発生や進行を食い止める。また視力を回復させる目的でも行う。C. 硝子体手術
硝子体出血がひかない状態が長びくと、硝子体がにごって視力障害が起きたり、出血跡が膜になって網膜をひっぱり剥離させ、失明の可能性を高める。そうした原因物質を取り除き、元の状態にもどすなぜ失明者がこんなに多いのか
最大の理由は、発見が遅れること
千葉市内で開業するかたわら、東京の済生会中央病院眼科でも、たくさんの糖尿病の患者さんを診ておられる日比野久美子先生は、糖尿病網膜症による失明者が多い理由を、こう分析する。「やはり発見が遅れるということが、最大の原因ですね。糖尿病網膜症は慢性疾患ですから、交通事故とちがって、一晩で失明するなんてことはありえない。失明に行き着くあいだには、眼科的には打つ手はいっぱいあるんですが、それがほとんど使えない段階になって、初めて眼科に来られる患者さんが未だに絶えません」。自覚症状が出にくいことも大きい
発見が遅れる背景のひとつは、自覚症状がないことだ。糖尿病網膜症はかなり悪化するまで、視力低下などの自覚症状がない。「患者さんは、目が充血したり痛くならないと、なかなか眼科には来てくれないもの。この病気が発症して、小さな眼底出血が何年間も繰り返されていたとしても、何の自覚症状もないので、本人はまったくわかりません。出血が、黄斑部にまで及べば、視力が低下するので気がつきますが、そうなってからでは、治療しても完全な視力の回復はむずかしい場合が多いですね」。つまり、網膜症の発症や進行を防ぐには、眼科医に目を検査してもらうしか方法はないのである。
糖尿病と診断されたら眼科にも行こう
ふたつめは、医療者側の意識の問題だ。血糖はしっかり管理するが、目まで配慮する内科医はまだ少ない。「糖尿病網膜症は、糖尿病の発症後7、8年から出やすくなりますが、NIDDM(インスリン非依存型糖尿病)の患者さんの場合、糖尿病の発症時期を特定しにくいので、糖尿病と診断されたその時から、眼科も定期的に受診する習慣をもってください。それには、内科医の先生もぜひ一言、糖尿病と診断された患者さんに、眼科にも行くように言っていただきたい。
また、血糖が大きく変動した時(たとえば治療法を薬物療法に変えた時、妊娠、下痢、心労など)は、網膜症が発症したり進行することがあるので、そんな時も眼科のチェックが必要です」。内科と眼科が連携し、ひとりの患者さんを治療するというかたちが、目を守る最良の方法と先生は考えている。
糖尿病に強い眼科医にかかろう
また、同じ眼科医でも、糖尿病が得意な場合とそうでない場合では、その後の病状に差が生じる。「とくにレーザーはうまく使うと、とても効果の高い方法で、網膜症の進行予防や視力の回復には欠かせませんが、時期の見極めが非常に大事。する時期、打ち方、回数などが適切でなければなりません」。眼科医の先生も、糖尿病の治療の経験が豊富な先生にかかることが、網膜症や失明から目を守ることになる。
意識の高い患者になること
最後は、患者さん自身の意識の問題だ。多くの患者さんを診てきた日比野先生が痛感することは、血糖コントロールの大切さ。「やはり、血糖コントロールがうまくいっている人といってない人では、その後に明暗の差がはっきりと出ます。糖尿病になると、失明が避けられないように思う方が少なくないですが、これはまちがいです。網膜症や失明を防ぐ方法はいくらでもあり、要はそれを実行できるかどうかなんですよ。患者さん自身が、まず、基本の血糖コントロールに努めること。そして、糖尿病や網膜症の知識も深めてください。加えて、糖尿病の経験豊富な先生に診てもらうこと。病院には定期的に通院すること。これらを実行すれば、失明したりひどい視力障害に泣くことは、まずなくなります」。日比野先生はこう断言した。
なんと失明していた目が回復
網膜症の進行に気がつかずに
今年で糖尿病歴25年になる御代弘次さん(58歳)が、日比野先生のクリニックを訪れたのは去年のことだ。他院で白内障の手術を受けた左目が、手術後もかすんだ状態が続き、困り果てていた。御代さんは、NIDDMの患者さんで、糖尿病網膜症(増殖型)と腎症を合併していた。糖尿病の治療は、食事療法のみ(一時期経口剤も使用)だが、11年前からは人工透析も受けている。糖尿病網膜症は44歳のとき眼底出血がきっかけで発見されたが、すでに手遅れで、右目は失明、左目は視力0.3 と宣告された。
その後、わずかに残った左目の視力をもう少し改善できないものかと、いくつかの病院や医院を回り、何回かのレーザー治療を受け、1年前には白内障の手術も受けた。そうした積み重ねで左目の視力は0.8まで改善したが、今度は白いかすみが出てきたというのが、御代さんの経緯だ。
0.6の視力がよみがえった
そこで日比野先生は、まず左目にレーザーをし、めがねをあたらしくつくり変える。その結果、視力は1.0にアップし、白いかすみもすっきりと晴れた。喜ぶ御代さんに、日比野先生は、さらに驚くべき提案をする。失明している右目も、白内障の手術をしようというのだ。御代さんはだめでもともとと、手術を受けることにした。ひと月後、期待と不安の交錯する中で、右目の手術が行われた。そして、信じられないような話だが、何と13年ぶりに、失明していた右目に0.6の視力がよみがえったのだ。血糖の安定で手術が可能に
なぜ増殖網膜症で失明した目が、白内障の手術で視力を回復させることができたのだろうか。日比野先生の考えはこうだ。「13年前の御代さんの右目は、新生血管の増殖活動が盛んで、硝子体出血を起こし、失明同然になったと思われます。でもその後、人工透析をしたり、食事療法に気をつける生活に変わったために、まず血糖コントロールが安定し、以前受けたレーザーの効果も加わって、現在の右目の網膜は、損傷はあるものの、網膜症の増殖活動は終息していました」。
白内障の手術の効果にかけた
「ただ白内障があったので、失明の原因が100%網膜症によるものではない可能性も考えられ、その割合を、かりに網膜症7割、白内障3割とすると、網膜の部分は無理でも、白内障の手術をすれば、3割程度の視力は回復できるとみたわけです」。そして、その可能性は現実のものとなったのだ。
では、もう一方の左目は、どんな治療をしたのだろう。「白内障の手術後には、後発白内障というのがよく起きます。御代さんを悩ませた左目の白いもやは、まさにそれで、ヤグレーザーという特殊なレーザーを使って消滅できました。このレーザーは、網膜症の治療に使われるレーザーとはちがう種類で、後発白内障を瞬間的に治せるものです。あとは、レーザー後に変化した度に合わせて、あたらしいメガネをつくったというわけです」。
血糖コントロールのみごとな効果
御代さんは、糖尿病治療の優等生ではなかった。治療を放置した時期も長く、お酒もたくさん飲んできた。だから、糖尿病網膜症にもなり、視力も大きくダウンした。ただ、透析になってからは、外食をやめ、お酒もやめ、決まった時間に食事をとるようになった。そうした努力と透析の効果が、血糖コントロールを安定させ、手術という機会を得て、ここまでの回復を可能にしたのだ。13年間の失明状態に耐えて、御代さんの右目の細胞たちは奇跡の復活をとげた。その回復力のたくましさ、生命力の強じんさは、やはり感動的ですらある。
日比野先生は言う。「やっぱりあきらめないことですね。治療が成功するかしないかは、個人差もあるし、やってみないとわからない部分がたくさんあるんですよ。みなさんも、希望をもって治療に努めてください」。
もう交通事故とはさよならだ
両眼が見えるようになった御代さんにとって、なにが一番よくなったのだろうか。「やっぱり視野が広がったことだね。自転車に乗ってもまわりがよく見えるし、交通事故にあう心配がなくなったことですよ」。御代さんは何度も交通事故にあっている。死ななかったのが不思議なくらいだ。右から来る車が直前に来るまで、まったく見えないからである。右目が失明するということは、そういうことなのだ。でも、これからは、そうした心配はもうしなくてよくなった。ロービジョンケアとは?
ロービジョン(低視力)とは、糖尿病網膜症などの病気で、ほとんど視力や視野が損失してしまった状態をいうが、完全な失明とはちがう。特別につくられた拡大鏡や拡大読書器、遮光レンズなどの視覚補助具の中から、その人の視力に合ったものを選び、わずかに残る視力や視野を生かせば、あきらめていた本や新聞が読めたり、散歩もできるようになる。そうしたことをできるようにする訓練を、ロービジョンケアという。その訓練をしてくれる医療施設は日本ではまだ少ないが、少しでも能力の残る人にとってはうれしい存在といえよう。不幸にして中途失明になった方も、こうした補助具を上手に使って、あたらしい人生を歩みだしていただきたいものだ。日比野久美子先生も米国でこの分野の勉強をし、外来も開いてい
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