糖尿病の合併症、いつ、どこに、どう出る、どう防ぐ

『生活エンジョイ物語 Vol.6-No.2(平成7年1月31日発行)』より

(財)保健同人事業体付属診療所所長 鈴木吉彦

はじめに

 糖尿病の合併症には、神経障害、網膜症、腎症の三大合併症があります。その他、血管障害を背景にした心疾患、脳血管疾患なども、糖尿病になると発生頻度が高まります。
 こうした合併症は、糖尿病になるとただちに起こるわけではありません。糖尿病になって、高血糖を放置していると、数年という年月をかけて徐々に起こってくるのが一般的です。図に示すように、糖尿病が長期になるにつれ起こってきますが、一般的には、神経障害が先にきて、次に網膜症、もっと障害が進むと腎症が起こってくると考えられます。


糖尿病性神経障害

 最初は、手足のしびれや、痛みが起こってくるのがふつうです。次第に進行するにつれ、自律神経系の障害も併発し、インポテンツ、たちくらみ、便秘、発汗障害、膀胱障害などを起こしてきます。さらに重症化するると、足の壊疽を起こしてきます。こうした障害は、多彩でさまざまな種類がありますから、多くの患者さんたちが、こうした合併症を経験します。このため、糖尿病性神経障害は、糖尿病の合併症の中で、最も高頻度で多岐にわたる合併症であると考えられています。

糖尿病性網膜症

 糖尿病性網膜症は、合併症の中でも最も深刻なものです。欧米では以前から失明原因の第一位は糖尿病性網膜症です。日本でも調査方法によって差がありますが、患者の約半数がなんらかの網膜異常を有しているといわれることすらあります。失明した患者さんが全国で推定3〜4万人ぐらいいるといわれています。網膜というのは図にあるように、目の奥にあり、カメラに例えればフィルムにあたります。網膜は光を感じてこれを信号とし、脳に伝える重要な役割を果たしています。
 この網膜には毛細血管がたくさん分布しています。高血糖を放置していると、こうした血管が破綻し、はじめは小さな出血点のようなものがあらわれます。進行すると大きな出血や斑点があらわれます。このような変化は眼底検査でわかり、眼底写真で記録されます。しかし糖尿病になったからといって直ちに網膜症が起きてくるわけではなく、平均約10年くらいかかると考えてよいでしょう。もちろん血糖コントロールが不良の場合はより早くあらわれ、血糖コントロールがよい場合では、何年たっても死ぬまであらわれません。
 眼底検査で単純性網膜症と呼ばれている時期は、毛細血管に瘤のようなものができたり、網膜内に限局した出血や白斑などがみられます。この段階での出血や白斑は、視力に影響を及ぼすことは少ないため、ほとんど自覚できません。この時期に血糖コントロールをしっかり行えば、網膜症が軽快したり、回復することもあります。
 次に進行すると、前増殖性網膜症という段階になります。網膜の表面にある血管が閉塞して白斑が多発するようになり、血流が届いていない領域ができ、異常な形や走行をする血管がみられます。
 こうした状態で、高血糖を放置すると、すぐに次のもっと重症な増殖性網膜症に移行します。この段階になると、衝撃や血圧の急激な上昇をきっかけに血管が破れて大出血し、網膜前出血や硝子体出血の直接の原因となります。治療は非常に困難になるので、こうなる前に光凝固といった治療法で予防しなくてはいけません。
 光凝固というのは、レーザー光線を網膜の血管にあて、その熱で細かな血管から血液成分が漏出している部分を熱で固めてしまう方法です光凝固の後、視界が多少暗く感じてしまうこともありますが、進行が多少なりとも抑制されるというのが、この治療の原理です。アメリカでは1975年に、この光凝固療法がほんとうに有効がどうかという大がかりな研究が行われました。その結果は、治療3年後の失明率は、光凝固を行った目では、行わない目の半分以下の率で低くなっていたとのことです。
 このように有効なことがわかったので、最近では新生血管があらわれる増殖網膜症の早期はもちろんのこと、前増殖性網膜症にある場合でも、光凝固療法を受けたほうがよいと考えられています。

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